第14話 国境



 ヒイロ一行は農村を出発し数日後、ドワーフ国との国境沿いの貴族領にたどり着いた。


「では、手はず通りに」


 そう御者をしているセツナが皆に言うと、ドモンとレインとヒイロの三人は毛布に包まり荷台に移る。そして義手と義足を外し魔法袋へとしまった。入れ違いで御者台にはガロードが出て、セツナは義眼の眼帯を外し懐にしまう。


「次」


 検問の順番が回ってきて、馬車で壁門へと進むと、セツナが祈りのポーズを取って門兵へ挨拶をする。


「失礼いたしました。神官様でしたか」


「はい、お勤めご苦労様です」


 あからさまに態度が変わる門兵。丁寧な口調でセツナに問う。


「恐れ入りますが、当領都へはどんな御用で?」


「はい、ドワーフ国へと向かう途中です。身体が不自由な者を、家族と一緒に故郷へ送り届けるために参りました。荷台におります」


「なるほど」


 セツナの言葉を聞き荷台を見て確認する門兵。納得したようだが、次に御者台のガロードへと視線を運ぶ。門兵が問いかける前に答えるセツナ。


「彼は友人の冒険者で護衛です」


「そうですか……わかりました。どうぞお通りください」


「ありがとうございます」


 壁門を無事通過し領都に入り、しばらく進んで外壁から離れるとドモンが義足をつけながら不満の声を上げる。


「フン、そんなに耄碌もうろくしとらんわ」


 すると義手をつけながらフォローに入るレインと、許可を取っていたのに文句を言うドモンを足らうセツナ。


「嘘も方便よ、ドモン」


「いえいえ、何も嘘は言ってませんよ。レイン」


「確かに先生は嘘は言ってないですね」


 ヒイロはセツナについたらしい。そして、


「いじけるなよ、ドモン兄」


「うるさいガロード、いじけとらんわ!」


「ドモン、突然そんな大声出さないで」


「レイン、すまん…… 」


 ガロードの一言がドモンのプライドを傷つけたようだ。怒鳴るドモンを諌める?レイン。

 セツナは話を変え、今後の予定を話し始めた。


「せっかくの領都なので宿もいいですが、用心して教会に泊まらせてもらいましょう」


「そうじゃのう、しかし酒が切そうだから買い足したいぞ」


「食材は余裕があるけど、調味料は欲しいわね」


「レインさん、一緒に行きますね」


「だめですよ、ヒイロは私とお留守番です」


「ですよね…… 」


「落ち着いたらまた来ましょう。その時はみんなで観光すればいいわ」


「はい!やったぁ〜♪」


「ドモン兄、俺達は冒険者ギルドへ行って、この前狩ったオークを換金してから酒屋に向かおうぜ」


「おっ、そうだった。忘れとったぞ」


「二人はバレないように気を付けて行ってきてくださいね」


「わかっとる。ちゃんとマントで隠しておくわい」


「私も革手袋グローブを着けておくわ」


「師匠、俺は?」


「ガロードは何もないでしょう?」



 教会に到着し空いてる広場に馬車を停め、挨拶のためセツナを先頭に皆で聖堂へ入る。すると祭壇で祈りを捧げる男性がいた。

 扉を開ける音で振り向く男にセツナが声をかける。


「お久しぶりですね、ロック」


「ひさしぶりだな、セツナ」


 セツナとは違い、大柄な体格太い首、丸太のような腕に分厚い胸板、どうにか身体が服の中に収まってる感じの戦士のような風貌の神官がセツナに挨拶を返す。


「連絡は?」


「国王と教主様が密談をしたそうだ。あとティエリア様が大司教になることが内定したらしい」


「そうですか」


「驚かないのか?」


「遅かれ早かれ大司教になるのはわかってましたから。それに今なるという事に意味があるのでしょうし」


「詳しくは聞かんよ」


「あなたのそういう所好きですよ。出来れば一晩こちらにお世話になりたいんですがいいですか?」


「わかった。いくらでも泊まっていって構わんよ。その代わり食事は自分達で頼む。小麦と薪は使ってくれて構わない」


「ありがとうございます。ヒイロ、ここにもモツの処理を教えてもいいですかね?」


「はい、もちろんです。もっとモツ料理が広まれば僕も嬉しいです」


「この子が………… 」


 久しぶりの挨拶を交わしていく中、紹介されたヒイロにロックは驚いていた。ここ数十年認定されなかった聖人がよもや、こんな弱そうな少年だったとは想像していなかったのだ。


「はじめまして、ヒイロっていいます」


「え、ええ…… ようこそ…… 」


 ヒイロに挨拶されるも戸惑い躊躇いながらの挨拶。聖人とは教会の名の下に保護された者であり、階級も司教と同等に扱われる立場である。一応ロックの上司なのだ。


「ロック、そう畏まらないでください。いつも通りでお願いします」


「あ、ああ…… よろしくなヒイロ君」


 セツナの言葉に冷静さを取り戻し挨拶をすると、それからは自己紹介が続いた。


「はい、よろしくお願いします」


「それとヒイロの両親でドモンとレインの夫妻です」


「世話になる」


「お世話になります」


「ああ、こちらこそよろしく」


「ガロードとは面識がありましたよね」


「お久しぶりです、ロックさん」


 昔、セツナはガロードが十代のころ、二人で修行と称して短い期間旅をした。その時にロックにも世話になっていた。このロックという男は元聖騎士であり引退してから、ここの教会の管理運営を任された人物だ。当時ガロードは剣術をロックに教わった仲であり、面識があった。


「おお! 以前セツナが連れていた鼻垂れ小僧がこんなにデカくなったのか」

 

「いつの話だよ!鼻垂れてねぇし」


「垂れてたのう」


「垂れてたわね」


「垂れてましたね」


「ガロードさん、垂れてたんですか?」


「みんなヒデェよ」


「「「ははははは」」」


 ガロードは弄られキャラらしい。笑いで皆が和んだようだ。


「早速泊まる部屋とキッチンへ案内しよう」


 部屋へ案内し終わると、三人は外へと出かけていった。

 ヒイロは留守番兼食事当番になったのでキッチンで料理を作り始め、その隣ではセツナがロックにモツの処理方法を教え始めた。

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