第10話 出発


 レインが衛兵を連れてきて、暴漢達を引き渡した後、皆で食事を済まし四人で話し合いが始まった。


「なるほどのう。司教様が…… 」


「はい、兄が教会に掛け合ってくれます。ただ少し時間がかかるかと…… 」


 教会で話した内容をドモンとレインに伝えるセツナ。


「どれぐらいだ? 」


「最低でも一ヶ月は…… 」


「なら、しばらく身を隠すのはどう?素材採取も兼ねて遠出するとか」


 そうレインが提案すると、


「いいですね。二人の身体も自由に動くようになりましたし、ヒイロの訓練も兼ねて」


「えっ、僕の訓練?」


「まだ夜営もしたことがないから丁度いいわ」


「そうじゃのう。それにもう少し戦闘が出来ないと今後が心配じゃ。対人戦闘も教えておきたいのう」


「魔法の発動速度の訓練もしたいですね」


「そんな~~~」


 身を隠すより、ヒイロの訓練が目的になりつつあるが、今後彼の命を守るには必要なことである。


「レイン、いつから工房を休める?」


「今後の依頼を受けなければ、早くて三日後からね」


「わかりました。私の私塾のほうも代理をお願いしています。それと教会へ頼めばヒイロに聖騎士の護衛がつきますがどうします?」


「いや、いい。彼らは融通がきかん……」


「そうね……でも後一人ぐらいは欲しいわね」


「なら、ガロードさんはどうですか?」


「「「おお、ガロードか! 」」」


「なら明日、私がアルゴに依頼を出しにいきますよ。三人は工房から出ないでください」


「でもそれじゃ先生が危ないんじゃ…… 」


「「はははははは」」


「二人共なんで笑って?」


「大丈夫よ。セツナは手加減しなければ一番強いんだから」


「そうじゃぞ。その代わり戦闘した場所は地形が変わるがのう」


「もう、そこまでの魔法を街中で放つつもりはありませんよ。いったい、いつの話をしてるんですか! 」


「地形が変わる……」


「ドモン、そんな昔の話をしないでください」


「事実じゃろう? 」


「はいはい、二人共この話は終わりよ。だからヒイロ、心配しなくても大丈夫よ」


「そ、そうなんだ、ははは…… 」


「ヒイロ、遠出したら道中でドモンとレインの話をしてあげますからね」


「セツナ、やめろ! 」


「やめてよ、なんで私まで! 」


「先生、聞きたいです。冒険者時代の話は全然聞いたことがないから楽しみだなぁ」


「「………… 」」



 そして三日後の夜、四人は冒険者ギルドの以前通されたギルドマスターの執務室に来ていた。


「ドモン、何処まで行く予定なんだ? 」


「北のドワーフ国に行こうと思っとる。久々の里帰りじゃ。希少鉱石がほしい。それにレインの紹介も親戚達にしておきたいからのう」


 最後はそっぽを向いて頬を掻きながら恥ずかしそうに言うドモン。


「もう、ドモンったら。私は気にしないのに」


「ついでじゃ、ついで」


「二人は、ずっと仲がいいですね」


 ドモンの姿に嬉しそうなレイン。話しかけるも照れ隠しでぶっきらぼうな答え。そんな二人を微笑ましく思いターシャが言うと、


「そういうアルゴはどうなんじゃ? 」


「その…… ターシャと付き合うことになった」


「おお、ようやくか!」


「ターシャおめでとう。頑張ったわね」


「ありがとうレイン。アドバイスのおかげよ」


 自分に話を振られたが、突然の報告に喜ぶ二人。アルゴの隣で立っていたターシャに抱きつくレイン。

 どうやらバーベキューの帰りに作戦は成功したようだ。  


「旅なんて久しぶりですね」


「僕も街から出たことないから楽しみです」


「私達はヒイロを鍛え上げるのが楽しみです」


「………… 」


「頑張りなさい。身を守る技術は大切よ」


「はい、レインさん。頑張ります…… 」


 セツナの言葉に今後を考え落ち込むヒイロ。励ますレインの言葉に答えるも笑顔は引きつっていた。


「そう言えばあの日以降、虫がわかなくなったけどセツナ、なにかしたでしょ? 」


「もちろんしましたけど、私より兄が珍しく激怒していまして。必死に止めたのですが…… 」


「「「………… 」」」


 当然の如くセツナが言うも、司教である兄が動いたと伝えると、ヒイロ以外の皆が息を飲んだ。思い当たることがあるアルゴが、恐る恐るセツナに尋ねる。


「セツナ、それって最近お取り潰しになった男爵家と、代替わりしたあの大商会と関係あるよな? 」


「私からは何も言えません。詳しく知りたかったらアルゴが直接兄に聞いてください」


「わかった…… 自ら望んで闇を覗く気はない…… 」


「懸命な判断です。ターシャに心配かけてはいけませんよ」


「もう、セツナさんたら」


 そんな会話をしていると、ドアがノックされ返事待たずに壮年の大男が入ってくる。革鎧をベースとし、急所を守るようにプレートで補強された鎧に身を包み、背中には大剣と大盾を担いでいる。そして右手を上げて軽い感じで挨拶をしてきた。


「よっ、三人共ひさしぶり」


「「「ガロード! 」」」


「ガロードさん、見てください。完成しましたよ」


「おお、これか!ヒイロ頑張ったな」


「えへへ」


 三人が装備するアイテムを見て、報告するヒイロの頭をくしゃくしゃと撫でるガロード。本人は加減しているが、頭は大きく揺れていた。


「すまんな、ガロード。面倒事に巻き込んで」


 そう申し訳無さそうにドモンが話しかけると、


「ドモン兄、俺以外の奴に依頼を出してたら落ち込んでたぞ。仲間外れはやめてくれ」


「言うようになったのう」


 そんなやり取りの後握手を交わす二人。


「ガロード、随分と強くなったみたいね」


「レイン姐、久しぶり。そりゃ俺だって頑張ってるよ」


 ガロードの成長を褒めるレインに照れくさそうに答えるガロード。


「さて、私達に内緒でヒイロに協力していたそうじゃないですか。色々と聞かせて頂いても?」


「師匠、そ、そこは道中追々話しますよ」


 魔法の師であるセツナに問い詰められ、ガロードは未来の自分に丸投げした。


 ドモンとレインを兄や姐と慕い、セツナを師と仰ぐガロード。久しぶりの再会で話も弾む。しばらくして日の出の時間が迫るとドモンが皆に言った。


「もうそろそろ出発の時間かのう」


「ギルドの裏に馬車を一台用意しであります。それではアルゴ、教会との連絡は頼みますよ」


「おう」


「ターシャ、アルゴをお願いね。彼抜けてるところがあるから」


「任せて。そこも可愛いけど、仕事は厳しく管理するわ」


「ターシャ、そこは優しく頼む」


「「「ははははは」」」


「では出発するかのう」

ーーコクリ


 ヒイロ達一行は住み慣れた城下町を後にした。

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