第9話 襲撃


 夜道を光魔法で照らしながら、ドレン工房に向う二人。


「こんなに大変なことになるなんて……」


「ヒイロが気にすることでは無いですよ、と言っても気にするでしょうね。ははは」


「先生、笑い事じゃ無いですよ~」


 今日の話を振り返り、落ち込むヒイロをセツナは慰めながら歩いていたが、急に立ち止まりヒイロを庇うように一歩前に出る。


「先生、どうしたんですか?」


「ふむ、早速行動に移しましたか」


「え、どういう、うわ! 」


 突如、路地の暗闇から火球が数発放たれ、二人を襲うが見えない魔法障壁に当たり掻き消える。


「二流ですね。これが本当の火球ファイアーボールですよ」


「えっ!なんで!狙われ……」


 そう言ってセツナが放った魔法は、攻撃された火球よりとても小さいが、速度は倍以上で路地へと向かっていく。ヒイロは慌てふためいていた。


「ぐぁぁぁぁぁぁ」


「も、燃えてる。なんで!あっと、えっと……」


 命中した証拠に火柱が上がり叫び声が聞こえる。そしてセツナは動揺しているヒイロに活を入れた。


「ヒイロ、しっかりしなさい!」


 突如襲われパニックになるヒイロに、大声で名前を呼ぶセツナ。


「は、はい、先生!」


「ヒイロは後ろの警戒をお願いします。このまま走って急いでドレン工房に向かいますよ」


「わ、わかりました」


「行きますよ」


 ヒイロに指示を出し二人で走り出す。すると他の路地裏や木の陰や屋根の上から、数々の魔法が二人を襲った。


「ヒイロは、ずいぶんとモテモテですね、くっ」


「そ、そんな!トラブルにはモテたくありません」


 魔法障壁で防御するセツナ。手数が多すぎて攻撃する隙がない。それでも軽口を言ってヒイロの恐怖心が薄れるよう気を配るも、恐怖で歩みが遅くなっている。相手から狙いやすくなってしまうが致し方ないと、全力で魔法障壁に魔力を注ぐセツナ。


(このままでは不味いですね……)


「ぐはっ」「ぐふっ」「ぎゃっ」


(ふぅ~来てくれましたか)


 叫び声が聞こえる度に、二人を襲う攻撃魔法が減っていく。しばらくして魔法が止むと、黒尽くめの暗殺者のような人物が二人の前に現れた。仮面をつけ顔もわからないが、シルエットから獣人の女性だとわかる。


「助かりました。迎えに来てくれたんですね」


「遅かったからね。ヒイロ、大丈夫?」


「えっ、レインさん!」


 セツナが礼を言うと仮面を外す暗殺者。その顔はヒイロもよく知る人物だった。


「その姿を見るのも久々ですね」


「本当よ。まさか、また装備して戦うなんて思ってもみなかったわ」


「レインさんって忍者なんですか?」


「「ニンジャ?」」


「あっ、いえ、何でもありません。でも凄く格好いいです。それに目茶苦茶強かったんですね」


「ま、まぁね」


「レイン、照れてないでさっさとこの場を離れましょう」


「そうね。帰りましょうヒイロ」


「はい」


 ◆


 ヒイロが教会でセツナと司教と話し合っていた頃、閉店と掲げられている看板を無視して三人の冒険者風の男達がドレン工房の中に無言で入ってきた。


「気配を消して黙って入ってくるとは客では無いじゃろ?」


 工房から短斧を両手に持ち現れて話しかけるドモン。その目は鋭く彼らを睨んでいる。

 

「少年はどこだ?」


「ふむ、ヒイロの友達には見えんがのう。何の用じゃ?」


「とある御方が彼を屋敷に招きたいそうだ」


「ほう、ずいぶんと物騒なお誘いみたいじゃのう?」


「いいから居場所を教えろ」


「嫌じゃ」


「なに!ならば力尽くで聞き出すまで」


 ドモンが断ると、剣を抜き構える男達。その剣は冒険者が扱う物より綺麗で上質な素材が使われているのがわかる。そして柄には家紋らしき装飾が施されていた。それを鍛冶師のドモンが見過ごすはずも無い。


「何処のお抱えの騎士かは知らんが、こういう仕事で、その剣を使うのは頭が足りんのう」


「くそっ、ならばその口を封じるまで」


「お主らに、出来るかのう?」


 そして、戦闘が始まった。一人目がドモンに斬りかかるが、右の短斧で受けられ左の短斧で足を切り裂かれる。


「ぐぁ~~~」


 二人目が魔法を発動しようと手をかざすが、ドモンは、その前に右手の短斧を投げ腕を切りさき刺さった。


「ぎゃ~~~」


 三人目は外へ逃げようとドアを開けるが、そこにはレインが立っており、義手の左手で首筋に素早く手刀を打ち込み意識を刈り取る。


「がっ」


「こ奴らはわしが見張っておく。レイン、装備を整えてからヒイロを迎えに行ってくれ」


「わかったわ」


 三人の暴漢を工房にあった鎖で縛り上げるドモン。


「色々と聞かせてもらうぞ。話せばポーションで回復してやるわい。早く治療しないと血が足りなくなって死ぬかもしれんがのう」  



「ドモンさん、ただいま……」


「おう、おかえりヒイロ」


「えっと……何をやって……」


 見慣れぬ光景に驚くヒイロ。店には見知らぬ冒険者達が鎖で縛られ、顔色が青く意識を失いぐったりとしていた。そいつ等を椅子に座って酒を飲みながら見下ろしているドモン。普通に挨拶が返ってくる事に戸惑いながらも問いかけると、


「強盗じゃよ。返り討ちにしたから締め上げて話を聞いておる。もう、終わったがな。レイン、すまんが衛兵を呼んできてくれ」


「わかったわ」


 いつの間にか、いつもの服に着替え終えたレインにドモンが頼むと、直ぐに工房から出ていく。


「強盗!」


「それとヒイロ、お主を訪ねてきた奴らでもある」


「そ、そうなんですか?」


「そうじゃよ。衛兵に突き出したら飯にするぞい」

 

「なら、僕が作りますね。でもお肉を焼くだけですけど……」


「良いのう。肉を食べると元気が出るからのう」


「ドモン、私もお呼ばれしても?お話もありますし」


「もちろんじゃ、セツナ。レインが帰ってきたら皆で情報の擦り合せをするぞい」


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