第8話 守護


 ヒイロが魔猪を一体、セツナに手伝って貰いながら解体し手本を見せて、残りを孤児達が処理していく。


「うわ~くさっ~」


「ベトベト~」


「なんだこれ~」


 なんともスプラッターな景色だが、楽しそうなのは良い事なのだろう。

 数人の年長の孤児は、皮剥や肉の解体がヒイロより手慣れていた。経験者らしい。


 セツナが桶と水を出し洗浄も終わり、ここで一度ヒイロが作業止めて孤児達に言う。


「新鮮で洗浄しても、この後魔法で浄化しないと絶対に食べちゃ駄目だよ。下手すれば死んじゃうからね。痛いし苦しいのがずっと続くんだよ。だから絶対駄目だからね」


「「「はい…………」」」


 少し浮かれ気分だった孤児達に釘を刺すヒイロ。本当に食中毒は怖いのだ。


「皆、わかりましたか?それでは浄化ピュフィリケーション


「「「おお~~~これで食べれる~~~」」」


「まだだよ、これからタレを作るから」


「「「早く作ろうよ」」」


「ははははは」


 簡単に安価で材料が手に入る塩ダレを教えることにした。東方からの輸入品である醤油や味噌は少し高いし扱ってる店も少ない。それに砂糖も高価だ。流石に教会で作るとなると負担が多く、モツでの儲けがなくなってしまう。


 直ぐに塩タレまで作り終わり、工程は全て終了した。


「それじゃまたね、よく火を通して食べてね」


「「「は~い、ヒイロ先生ありがとう」」」


「ヒイロ、少し話があります。お時間いいですか?」


「はい、大丈夫です」

(なんだろう?今日のモツを分けてくれるのかな?まだまだあるからいらないんだけど……)



 孤児達は力を合わせて孤児院のキッチンに魔猪を運び込み、皆で調理を始める。

 一方ヒイロはセツナに案内され、教会の一室に入ると既に司教が座って待っていてた。


「えっ、司教様?」


「はい、今後、兄にも協力してもらうので呼びました」


 驚くヒイロにセツナが理由を話す。


「ヒイロ、今日はご苦労様でした」


「いえ、僕も貴重な経験でした」


「それでは、早速本題に入りましょう。どうぞ座ってください」


 ヒイロと司教の簡単な挨拶が終わると、セツナは真剣な顔で話し始めた。


「先ずは私の話を最後まで聞いてください。質問は最後にお願いします」


「はい……」

(なんか先生が怖い……)


「ヒイロが作った私達の義手、義足、義眼は恐ろしいほどの影響をこの世界に及ぼします。それはありとあらゆる事にです」


「えっ!」


「先ずは労働力。腕や足がない人々が、しばらく訓練すれば自由に動かせるようになる。これはとても素晴らしいことです。すると労働力が高まり様々な人々が仕事ができるようになり生産力が高まります」


「はい」


「次に経済です。この技術はとても素晴らしいものです。これだけで産業として成り立つと思います。それに伴って経済も世界規模で変動するでしょう。欠損部位を戻すほどの超高位回復魔法や伝説級のアイテムより、かなりの安価で元の生活を取り戻せる。その需要は計り知れません。それに、王国には無いですが奴隷制度を有する国では、奴隷価格が変動するでしょう。商人や貴族、おそらく王族までも喉から手が出るほどほしい技術だと思います」


「そんな……」


「となると、ヒイロ、貴方はこのままでは狙われてしまいます。今でも貴方の周りを嗅ぎ回る者達が既にいますが、これから直接ちょっかいをかけに来るでしょう。最初はお金で、次に脅迫、そして最後には実力行使に出て、貴方が攫われてしまうかもしれない」


「…………」


「なので、その技術と権利を教会に預けませんか?一応、他のギルドも考えてはみましたが、やはり教会が一番あなたを守ってくれると、私の結論は達しました」


 ずいぶんとスケールがデカい話になってしまってヒイロは呆けてしまった。途中まではなんとか理解しようと努力したが、ここまで規模が大きいと何も実感がわかない。ただ恩返しのために、感謝の気持ちを込めて作った魔道具が、こんなことになるとは夢にも思っていなかったのだから。


「そこで私は出番というわけだ」


 セツナの話が終わり、司教が口を開く。


「この魔道具の知識と技術の管理運営を、ヒイロから教会が委託されるという形をとる。もちろんヒイロ個人は好きに依頼を受けて作っても構わん。しかし、この魔道具を望む者は圧倒的に多すぎる。どんなに頑張っても一人では捌ききれないだろう。それにこの技術を悪用すれば、性根の悪い者達も再び犯罪を起こすかもしれん。なので教会が認可をした鍛冶師に知識と技術を提供し、使用者は教会が認めた者しか、この魔道具を下賜しないとすれば、問題はかなり減らせるだろう。誓約魔法で縛りさえすれば問題を起こすこともない」


「…………」

(こんなに司教様が喋るの初めて見た)


「何より君を守る後ろ盾になる組織は、大きければ大きいほど安全だ。正直、一国でもその力は弱いが、教会ならばどの国が君に害をなそうとしても、直ぐに抑止力として動ける」


「わかりました。先生と司教様がそうお考えなら僕はそれに従います」


「いいんですか?もっと時間をかけてよく考えてもいいんですよ?」


「セツナ、お前が何を言い出す?」


「う~ん、正直僕の頭では、そこまで色んなことを考えられません。でも先生が考えて司教様が協力してくれる。ならそれが一番だと思います。僕はお二人を信用してますから」


「ヒイロ……あなたって子は……」


「なるほど……セツナ、お前が可愛がるわけだ」


「正直、お二人に丸投げな感じですけど、ははは……」

 

 今日の話は纏まり、後日ドモンとレインも交えて五人で深く話し合うこととなった。



「ヒイロ、これを」


「これはなんですか?」


 帰り際、司教がペンダントをヒイロに渡した。


「教会が守護した者の証だ。首にかけなさい。そしていつも肌身離さずように」


「わかりました。ありがとうございます司教様」


「さぁ、ヒイロ帰りましょう。送っていきます」


「はい、先生」


 二人を見送る司教はいつも見慣れた景色の物陰を蔑んだ目で数か所視線を移し思った。


(ふむ、もうこんなに虫が湧いていたとは!少し急ぐか…… )


 司教が見送りをやめ中へと戻り、教会の扉は強く閉められた。

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