第7話 初授業

 

 翌朝からは通常運転のドレン工房。ドモンが鍛冶をし、レインが帳簿と接客。ヒイロは二人の手伝いと変わらぬ日々を過ごしていた。そしていよいよセツナの助手としてヒイロが私塾の手伝いに行く日がやって来る。


「緊張するなぁ~」


「最初だけよ。頑張りなさい」


「やれることをやればいいんじゃよ」


「はい、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「気を付けてな」


 見送る二人。ヒイロが見えなくなると優しかった表情が一変する。


「見張られとるのう」


「ヒイロもつけられてるわね」


「どうするかのう?」


「セツナには、まだ手出ししないように言われてるでしょ」


「うむ……しかし……」


「そうね、私達は大丈夫だけど、ヒイロは心配よね……」


「ああ……」


「でも人が多い昼間に、道端で襲われることもないでしょう。それにいざとなったら、この前渡した防御結界の魔道具が発動するわよ」


「うむ……でもな……」


「もう、ドモンは心配性ね」


「いや、ヒイロは戦闘が、からっきしじゃからのう」 


「そうね……でも考えだしたら切りが無いわ。とりあえず中に入ってお茶にでもしましょう」


「ああ、そうじゃの」



「フーン♪フフフフフンフーン♪フフーン♪フーン♪」 

(今日から先生の助手かぁ。緊張するし不安だけど楽しみだなぁ)


 何故か毎回、前世の怪獣映画のテーマをチョイスして鼻歌を歌いながらご機嫌で歩くヒイロ。


(このブレスレット。凄い魔道具をお礼もらっちゃったなぁ。結界魔法かぁ。後で先生に仕組みを教えてもらおうっと)


「あら、ヒイロお出かけ?」


「あっ、女将さんこんにちは。教会まで」


「行ってらっしゃい、セツナ様によろしくね」


「おう、ヒイロじゃねぇか。どこ行くんだ?」


「親父さんお世話になってます。先生の手伝いで教会に」


「そうか、頑張れよ」


 道すがら、いつも買い物をする馴染の八百屋の女将や、肉屋の店主と挨拶を交わしながら教会へと歩くヒイロ。しかし物陰から彼を品定めするような視線には気づかなかった。



 ヒイロが教会の中に入ると、祭壇の前では、この教会の責任者が祈りを捧げていた。ドアを開けた音に気づきふり返るとヒイロと目が合う。


「司教様お久しぶりです」


 司教の前まで近づき、両膝で膝まづいて頭を下げて挨拶をするヒイロ。 


「顔をお上げ。久しぶりだねヒイロ。セツナから色々と聞いている。弟を救ってくれて本当にありがとう」


 微笑みながら優しく語りかける司教。彼はセツナの兄である。


「いえ、僕なんかろ……」

(司教様って無表情で苦手なんだよなぁ……)


「私の顔になにかついてるかね?」


「いえ、何でもありません。先生はどちらに?」

(なんかいつも心を見透かされてる感じがして怖いし……)


「もう外で授業の準備をしているはずだ」


「なら、僕も手伝ってきます」


「よろしく頼むよ」


「はい、失礼します」


 直ぐにその場を離れるヒイロ。


(私、そんなに無表情ですかね~)


 ヒイロが去った後、自分の顔をさすりながら一人思う司教だった。



「先生、こんにちは。何から手伝えばいいですか?」


「ヒイロ、よく来てくれました。大丈夫ですよ。準備は終わりましたから」


 教会の広場に出て、セツナを見つけ挨拶し手伝いを申し出るも、準備は終わっていた。


「先生、僕は何を手伝えばいいんですか?」


「小さい子へお金の価値や簡単な買い物の仕方。主に足し算と引き算をお願いします」


「わかりました。わかりやすく、わかりやすく……」


「ははは、そう気負わなくていいですよ。リラックスしていつも通りに。後、話し方も固くなく友達のように接して上げてください」


「ふう~~~わかりました。頑張ります」


 ヒイロとセツナが話していると、教会裏にある孤児院から子供達がワラワラと出てきた。また教会からも孤児達よりも小綺麗な子供達が少しオドオドしながら出てくる。


 このセツナの開いている私塾は、孤児から平民の子供まで分け隔てなく門を開いている。基本無料だが、余裕のある者からの寄付を貰い賄っていた。


「さぁ、始めましょうか」


「「「はい、セツナ先生」」」


「今日は皆さんの先輩、私の教え子が助手として授業をしますので、よろしくお願いしますね。自己紹介を」


「はい、ヒイロです。よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」


「それでは、先ず歴史のお話から始めましょうか」


 授業はスムーズに進んだ。歴史を物語風に語り終わり、そこから単語を取り出し読み書きに入る。もちろん筆記用具などはなく、地面に指で書き取りを行う生徒たち。

 ヒイロの授業も問題なく、通貨の単位や利用方法を、買い物を模してわかりやすく教えた。


「今日はこれで終わりです。寄り道せずに帰るんですよ」


「「「先生ありがとうございました」」」


 授業が終わり、教会から出てきた子達は帰っていく。孤児達は片付けを手伝いながら、何故かソワソワしていた。ヒイロもセツナと片付けをしながら授業の感想を話始める。


「ヒイロもお疲れ様でした。初授業はどうでしたか?」


「はい、最初は緊張しましたけど……どうにか……」


「初の授業としては及第点です。改善点としては、もう少しゆっくり話すといいと思いますよ」


「わかりました」


「さて、それではモツの処理をヒイロに習ってみんなでやりましょうか」


「「「イェ~~~イ」」」


 孤児達がソワソワしていた理由はこれだった。

 セツナにお土産に持たせたモツは、孤児達に大人気だった。勿論少数だが食感などが苦手な子もいたが、自分達でも役立つ仕事がある。お金が稼げる。という別視点での期待値が高かった。


「それでは始めましょうか」

――――ドスン、ドスン、ドスン、ドスン


「「「ヒュゥ~~~」」」


 セツナが魔法袋から四体の魔猪ボアを取り出した。首と胸に傷があり、既に血抜きがされている。


「先生、これって?凄い!綺麗に血抜きもされている。それに全部眉間に小さな穴が……」


「この前ちょっと一人で狩りにいってきました。群れに出くわしたので楽でしたよ」


「そうですか…………」


 先日よりもずいぶんと小ぶりな魔物だ。それでも大人一人分の重さはある。


(これを纏めて一人で討伐するなんて…… でも先生なら余裕なんだろうなぁ。僕も一人で一匹位は倒せるようにならないと……)



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