第6話 それぞれの思い


「こいつは美味い!酒に合う」


「しかし、こんなに内臓が美味いとは……」


 モツの美味さに驚くドモンとアルゴ。


「それでヒイロがね、恩返しにって作ってくれたの」


「これをヒイロ君が!良かったですねレイン」


「もう嬉しくて嬉しくて。それよりアルゴとはどうなの?」


 久しぶりに会ったレインとターシャは、お互いの近況を語り合っていた。


「しかし、このタレは素晴らしいですね」


 焼かれたモツを二種類のタレに交互に漬け、口へ運ぶセツナ。


「先生、肉もモツは沢山あるので半分持って帰ってください。でも孤児院のみんなは食べないかなぁ?」


 大量に食べきれないほどある肉とモツを、欠食児童の巣窟への土産として提案するヒイロ。


「ありがとうございます。恐らく直ぐに無くなると思いますよ。みんな美味しい物への嗅覚は鋭いですからね」


 内臓を食べる習慣が無いことを心配するも、セツナは杞憂だと言った。


「新鮮で、ちゃんと洗浄して、浄化魔法があれば安全なんですけどね」


「ふむ……ヒイロ、これって教会の副収入になりませんかね?」


「あっ!なると思います。先生、後で処理の仕方を書いて渡しますね。そうしたらみんなも沢山食べれるし、お金も稼げますね」


「本当ですか!ありがとうございます。なら報酬は品質チェックも兼ねて、いつでも処理済みのモツをヒイロが貰えるってことでいいですか?」


「やったぁ!作業大変だから凄く嬉しいです。次は煮込みもしてみたいなぁ」


 教会では光魔法や回復魔法を使える者が多い。モツを食べる為には浄化は絶対だ。それを利用し仕事にしてしまうことを思いついたセツナと、協力を申し出るヒイロだった。



 バーベキューも終わり皆で片付けをした後、中庭ではドモンとアルゴが二人で飲み直している。


「ドモン、また復帰するとは思わなかったぞ」


「訓練していたら楽しくなってしまってな。別に低級からでも良かったんじゃが」


「いいんだよ。ギルドが上級と判断したんだ。しかし、ヒイロは凄いな!三人の為にここまでするなんて」


「そうじゃのう。本当に自慢の……」


「拾ってずいぶんと経つだろう。もう養子に迎えればいいじゃないか」


「うむ……しかしのう……」


「ヒイロは喜ぶと思うぞ」


「………………怖いんじゃ……」


「何が?」


「ヒイロに断られるのが怖いんじゃよ…………」


「そうか……」


 それからは会話も無く黙って酒を酌み交わして、夜は更けていった。



 リビングではタルトを食べながら食後のティータイムを楽しむレインとターシャがいる。


「ターシャ、それで結局どうなったのよ?」


「アルゴは家の前まで送ってくれたけど帰っちゃって……」


「誘ったの?」


「言えなかった……」


「なら、今夜が勝負ね!必ず誘うのよ。最悪具合が悪くなったフリをすれば肩を貸してくれるだろうし、抱えて運んでくれるはずよ」


「そうね、今夜が勝負よね。頑張る!レインはどうなの?その、子供とか?」


「そうね……子供ね……」


「もし、そうなったら賑やかになるわね♪」


「でも他種族との子供は授かりにくいし、それにヒイロは人間だから彼が巣立ってからでもいいかな……」


「そうね……人間種の寿命は短いから……」


「でもターシャは覚悟の上でしょ?」


「もちろんよ!アルゴを見送る事になるけれど、今を一緒に精一杯楽しもうって言われたわ」


「そっかぁ……」


 こちらはこちらで深い話をしていたが、アルゴは何も知らない。結果は後日わかるだろう。



 二階の部屋では、セツナがモツの処理を書いてくれるヒイロに質問をしていた。


「ヒイロ、依頼があったら私達のような魔道具?は作るんですか?」


「そうですね……受けるか受けないかは依頼人によると思います」


「しかし、もう私達三人のことは噂になってるはずです。近い内に依頼が来るかと……」


「そっかぁ~ならこの技術を公開して、みんなが作れるようにすればいいですね」


「いいんですか?恐らくもの凄く稼げますよ」


「う~ん、別に儲けるため作った訳じゃないです。それに不幸な人が沢山救われるなら良いことだと思いますし……」


「そうですか……」

(本当にあなたって人は……)


「書き終わりました。先生どうぞ」


「ありがとうございますヒイロ。是非今度、教会にモツの処理の仕方を教えに来てください」


「はい、わかりました」


 何気ない会話をしている間、セツナは特殊スキルの並行思考を使い、頭をフル回転して今後ヒイロをどう守るかを考えていた。


 自分の義眼の魔道具はかなりの繊細で特殊な物だが、ドモンやレインのような義手義足の需要は計り知れない。

 戦争や事件事故の被害者達、先天性的に欠損のある人々。

 人それぞれ早さは違うとも、魔力操作と筋力の訓練でほぼ確実に使えるようになるだろう。

 諦めてしまった生活、いや人生に、光を灯す発明。 

 絶対にこれを知った、がめつい貴族達や商人達は金の卵と思うはずだ。

 しかし、それではヒイロの考えや思いに背くことになる。ならばどうやって実現し、魔の手からヒイロを守るのか。何気ない会話をしながら、セツナは一人考えを巡らる。


 二次会も解散となり、アルゴはターシャを送っていくと二人で帰っていき、セツナは一人、夜の風に当たりながら今後の段取りを考えながら教会へと帰っていった。


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