第5話 復帰祝
ドモンの魔法袋から出た魔物達を見て、驚く冒険者ギルドの面々。
「それでは再登録の手続きをしますので先程の部屋へ」
獲物を出し終わると、ターシャが先程の部屋に三人を誘導して手続きをしてくれる事になった。
「高く買い取ってくれて助かるぞい。帰りに酒を買い足せる」
「そうですね。こんなに稼げたなら魚も買って戻りましょうか」
「ヒイロに頼まれていた調味料や香辛料も野菜と一緒に買わなくちゃ」
通路を歩く三人は相場より高めの査定をしてもらえたことで御機嫌だ。
予算が増え、それぞれ帰り道での買い物を楽しみにしているらしい。
◆
解体場に残ったアルゴと親方は悩んでいた。
「こいつら中級への依頼対象なんだよなぁ」
出された魔物達を見ながら呟くアルゴ。
「ああ、久しぶりに
高級毛皮の素材となり、中級の中でも討伐難易度が高い
「
陥没した頭部を見ながらアルゴが言う。
「オーガも一撃で首跳ねてるぜ。見ろよこの切り口。流石元上級だ。腕は鈍ってないらしい」
その腕前に感心する親方。
各魔物をそれぞれ見分していくが、仕留め方がどれも見事なものだった。
「それぞれ、ソロで討伐したって言ってたんだが……」
この魔物達は、それぞれ一対一で対峙し仕留めたと聞いている。
基本中級への依頼と言っても、それはパーティーで受ける依頼である。ソロで狩れる実力のある冒険者は少ない。
「流石に中級に戻したって、直ぐに上級に上がっちまうだろうさ」
どうせ二度手間だという親方。
「そうだな……もう上級でいいよな?」
今後の面倒な手続きを想像して、考えをやめたアルゴ。
「ああ、この成果を伝えれば皆納得するだろうよ。文句があるなら同じ事をやってみせろって言ってやれ」
その通りである。同じことが出来る実力者は上級以上なのだから。どうせ中級で燻っている者達が妬み嫉みで文句を言うだろう。なら実力で示せと言えばいい。冒険者は実力が全てなのだから。
ギルマスと親方が討伐された魔物を見て、三人の復帰ランクを考えていたが、答えが出たらしい。
話し合いが終わり、部屋へ戻るギルマスの足取りは軽やかだ。
(ずいぶんと嬉しそうだな。無理もないか。しかし凄い物作ったなヒイロ……)
「さて、やるか」
アルゴの後ろ姿を見てそう親方は思いながら、解体作業の準備を始めた。
◆
「必要事項の記入は以上です。御三方お疲れ様でした」
「「「ふう~~~」」」
ターシャから貰った書類に記入が終わったところで、ギルマスが戻ってきた。そして一言ターシャに告げる。
「上級だ」
「でしょうね。わかりました。早速手続きしてきます」
当然だとわかっていたかのように返事をし、三人の書類を取り部屋から出ていくターシャ。
「中級でいいんだか?」
「そうよ。上級になったって店はやめないわよ」
「私だって私塾が忙しいので依頼はほぼ受けれませんが?」
「うるさ~い。いいんだよ。依頼なんて受ける受けないは自由だからな。それよりお前達が中級だと、今の中級や上級から文句が出る。その対応が何より面倒なんだよ!」
「「「…………」」」
「だから黙って上級に戻れ。いいな、これはギルマスとしての指示だ」
「わかった」
「わかったわよ」
「わかりました」
「よし、これで無事終わったな。あ~疲れた。帰りに受付で上級ランクの証明タグを忘れずに貰って帰れよ
」
「よし、早速酒屋じゃ」
「急いで魚屋に行けばまだ残っているでしょうか?」
「先ずは香辛料から買って次に八百屋ね」
「お前ら、なんか楽しそうだな?なにかあるのか?」
「「「バーベキュー」」」
「なんだそれは?」
「アルゴ、仕事が終わったら酒持って家にこい」
「お、おう」
「ターシャも誘ってきてね」
「わかった」
三人が部屋を出て一階に降りるとターシャが待機していた。
「皆様、こちらをどうぞ」
そう言われ、各自手渡出された物は、新品の金色に輝く、懐かしい思い出の品だった。
◆
三人は冒険者ギルドを出て、それぞれが希望する店が違うので一旦別行動で買い出しに行き、ドラン工房へと戻る頃には、日も沈みかけていた。
「おかえりなさい。モツの準備は終わりましたよ」
山盛りに切り出された部位の数々。鉄板の下の炭には火が入りパチパチと音がする。
「それじゃセツナの魚を捌いちゃうわね」
「わしも野菜位なら切れるぞ」
「それじゃ魔法で氷を出してお酒を冷やしておきます」
「なら、僕はタレを作ります」
なんともスムーズなチームプレーの分担作業。買い足し持ち寄った物を、それぞれ手に取り作業する。
セツナが買ってきた魚をレインが捌く。
ドモンの酒をセツナが氷魔法で冷やす。
レインが買ってきた野菜をドモンが切り串にさす。
ヒイロは香辛料と調味料を合わせタレ作りを始めた。
しばらくして、アルゴとターシャが扉をノックし訪ねてくる頃には、全ての準備が整っていた。
「邪魔するぜ。俺のとっておきの酒を持ってきた」
そう言って装飾が施された瓶を持ってきたアルゴ。
「お邪魔します。これよかったら後で食べて」
ターシャは果物がふんだんに乗ったタルトを持参してくれた。
「いらっしゃいターシャ」
「間に合ったな、さぁ入れ入れ」
「これは名店のフルーツタルトではありませんか?流石同族。わかってますね」
(なんか凄いバーベキューになっちゃったな。久しぶりにモツを食べたかっただけなのに……)
それぞれにグラスやジョッキが行き渡ると、アルゴが勝手に音頭を取り始める。
「それでは、三人の上級冒険者復帰を祝って乾杯」
「「「乾杯」」」
「上級冒険者!」
何も知らないヒイロだけが驚きの声を上げた。
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