第4話 再登録


 桶と手袋と鼻まで隠せる布を出して、早速作業に取り掛かるヒイロ。部位を水できれい優しく洗った後、勢いよく振り向きセツナを見る。


「先生、浄化魔法をお願いします」


「わかりました。浄化ピュリフィケーション


「ありがとうございます」


 浄化を済ました部位を魔法袋にしまうヒイロ。

 内臓が美味いなど今だ半信半疑だが、楽しそうに作業をするヒイロを見れて満足気な表情の三人。


「こっちは臭いがキツいなぁ~ ウォーター


 次に巨大な胃をナイフで切り、内容物を取り出してから桶に入れて魔法で水を張る。


「ほうほう、色々と食っとるのう」


 ドモンは内容物を観察しているが、


「なにか手伝うことはない?」


「なら、腸を出して伸ばしてもらえますか?」


「わかったわ。ほら、ドモンもセツナも手伝ってちょうだい。じゃないと調理しても食べさせないわよ!」


「「わかりました!」」


「じゃ、みんなこれを付けてください」


 レインの一声で動き出す二人。ヒイロが手袋と匂いを和らげるための布を渡すと、皆、装備して作業を手伝い始める。


「先生。これにも浄化魔法を」


「はいはい、浄化ピュリフィケーション


 胃の処理が終わり、続いて小腸、大腸の洗浄も終わっって、再度セツナに浄化魔法を頼むと一通りの処理が完了した。


「よし、これで完了です。みなさんありがとうございました。遅いので調理は明日にします」


「そうね。ちょうど店も休みだし。今日はもう遅いし疲れたから明日にしましょう」


 笑顔のヒイロと少し疲れた表情のレイン。その会話のやり取りを聞いていた男性二人が驚きの声を上げた。 


「食えんのか?」


「食べられないんですか?」


 美味いか不味いかはわからないが、未知の味には興味津々だった二人。とても残念そうに肩を落とす。


「こんな夜更けに戦闘し解体作業後、ヒイロと私にこれから料理しろってこと?」


 口調は穏やかだが、その鋭い視線で直ぐに察するドモンとセツナ。


「ま、まさか、そんなはずはなかろう」


「そ、そうですよ。明日が楽しみですねー」


 ドモンとセツナは直ぐに回避行動を取り、事なきを得た。



 次の日のお昼、ヒイロは一人裏庭で昨日処理したモツの下ごしらえをしていた。


「わし達は冒険者ギルドへ行ってくる。昨日仕留めた獲物を売ってくるから留守番を頼むぞ」


「わかりました。それじゃ、僕は料理の下ごしらえして待ってますね。今夜はバーベキューです」


「あら、楽でいいわね。帰りに野菜を買ってくるわ」


「レインさん、それじゃこのメモに書いてある調味料と香辛料もお願いできますか?」


「わかったわ」


 そんなやり取りをした後、二人は冒険者ギルドに行ってしまった。


「僕もランク上げしないとなぁ。いつまでも初級じゃ格好つかないし……でも戦闘は苦手なんだよなぁ~」


 そう言いながら、ひたすら巨大な部位をテーブルの上で、食べやすい大きさに切り分けるヒイロだった。



 ドモンとレインが並んで歩き、冒険者ギルド前に到着すると、入口にはセツナが待っていた。


「遅いですよ、二人共」


「お主が早すぎるだけだ」


「最初の一言がそんなんじゃモテないよ。わかってないわね、セツナ」


 軽口を叩き合いながら、笑顔で挨拶を交わし三人揃って中へと入る。久しぶりに来たギルドホールは、何も変わりがなく、懐かしく思いながらも受付へと向かう三人。


「おい、あれ」

「ああ、まさか?」

「なんだあの義手?」

「いや、義足も凄いぞ」

「あの眼帯、魔道具か?」


 混んでいる時間帯ではないが、併設している酒場で待機昼間から飲んでるしている冒険者達から注目を浴びる三人。その会話は聞こえるが無視しギルドホールを突っ切る三人。


「本日はどのようなご要件で?」


「再登録をお願い」


 受付嬢からの問いに、代表してレインが答えると、今度は職員達も交えてギルドホールは大騒ぎとなった。


「うるさい!何を騒いでる?」


 すると二階の部屋から、制服がはちきれんばかりのガチムチマッチョの熊族の獣人が出てきて、大声で注意すると静まり返る冒険者ギルド。


「よっ!久しぶりだな、アルゴ」


「おお、ドモンか。久しぶりだな」


 気にせず、片手を上げて気軽に挨拶をするドモン。ひさしぶりに戦友の顔が見れて嬉しそうなアルゴが二階から階段を降りようとすると、


「儂らがそっちにいく。部屋で話がしたい」


「お、おう。しかし……」


「大丈夫じゃ。ほれ」


 気を使うアルゴに義足を指差しアピールするドモン。


「何だそれは?凄いな!」


 驚くアルゴの下へ、軽快に階段を登っていく三人。もちろん一階にいる皆からの視線も三人に釘付けだ。そして三人が部屋へと入ると、


「しばらく誰も通すな」


「「「はい!アルゴギルドマスター」」」


 大声で一階の職員達に指示を出して、ギルマスであるアルゴも部屋へと入り扉が閉められた。



 中ではメガネをかけたエルフの女性がソファに座った三人にお茶を出す。


「俺のは?」


「お茶はお客様用です」


「はい、わかりました……」


 ギルマスからのお茶の催促をキッパリと断るエルフの美女。


「久しぶりね、ターシャ。それとも副ギルドマスターと呼べばいいかしら?」


「やめて、レイン。今まで通りターシャでお願い」


「「ふふふふふ♪」」


「それで話ってなんだ?」


 女性二人が話に花を咲かせると、本題までの道のりが遠くなると思い、アルゴがドモンに問いかけた。


「再登録を頼みたい」


「なんだと?」


 すると今まで黙っていたセツナが口を開く。


「戦闘は問題ありません。勿論、以前の階級に戻せというつもりは無いですよ、アルゴ」


「セツナ……お前、それって見えるのか?」


「はい、勿論。昔よりいろんな物が見えすぎて困ってしまいます」


 アルゴの質問に、困ってしまうと嬉しそうに言うセツナに、驚きと少しの恐怖を感じた部屋の中の一同。


「とりあえず、昨晩訓練がてら狩った魔物で判断してくれ」


「………… わかった。とりあえず解体場にいくぞ」


 部屋にある別の扉から、職員用の通路を通り地下の解体場に向かった一同。そこには部下に指示を出しながら多くの魔物を手早く解体する熟練の解体師がいた。


「ここなら大丈夫だな。おい、親方も立ち会ってくれ」


 アルゴが場所を指示しその解体師へ声を掛ける。


「おう、これは懐かしい顔が揃い踏みだな」


「ひさしいな親方」


「お久しぶり」


「親方、いつもお世話になってます」


 ドモンとレインは懐かしさに喜ぶが、セツナはお礼の挨拶をする。セツナの挨拶にアルゴは不思議に思ってたずねた。


「よく会っているのか?」


「はい、親方はここで出た屑肉を、いつも纏めて孤児院に寄付してくれるんですよ」


「「「ほう~~~」」」


「お、俺のことはいい。それよりここに来たってことはさっさと獲物をだせ」

(((照れてる)))


「そうじゃのう。よっこらせ!」

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