第1話 完成
そんな出来事から十年後の、とある大きな城下町の裏通り。
朝と言うには早い時間に、鍛冶屋の二階にある窓から少年の大声が通りに響く。
「やったぁ~完成したぞ~~~」
椅子から立ち上がり両手を上げて一人、部屋で歓喜する少年。
すると、その大声反応し一階から階段を駆け上がる音がし、直ぐに少年の部屋のドアが開いた。
「ヒイロ、何時だと思ってるのよ、静かにして! 」
まるで母親が我が子をキツめに叱るような言い方に、少年ヒイロは机で作業をしていたモノを隠すように庇い立ち、謝罪の言葉を口にする。
「レインさん!ごめんなさい……」
「ふう~ また遅くまで作業していたの?さっさと寝なさい」
「はい、もう寝ます……」
深い溜め息の後、レインは一言言って部屋を後にした。しかし、念願の物を完成させたヒイロは、ベッドに入るも、嬉しさと興奮のあまり中々寝付けなかった。
◆
その日の朝、鍛冶屋の一階にあるキッチンでは、レインが片腕で器用に料理をしている。左手の肘から先は無いが、義手で器用に野菜を押え、右手に持つ包丁でスライスしている。その慣れた手つきは、包丁とまな板で刻む音のリズムで良く解るだろう。
その音で起こされたのか、奥の部屋からは顔全てが毛に覆われた小柄な男が寝ぼけ眼をこすり、欠伸をしながら足を引きずり出てきた。右足は膝から下がなく、左足との高さを合わせる太い木の棒がついている。
「おはよう、ドモン」
「ああ、レイン……おはよう……」
挨拶を交わすと、そのまま裏庭の井戸へと行き、服を脱いで頭から水をかぶるドモン。すると覆っていた毛が頭髪とヒゲに別れ、顔が露わになる。髪は結び、頭の上に団子状にまとめ、ヒゲは束ね三つ編みし撫で下ろす。そして再び服を着ると、キッチンへと戻っきた。
「ああ~目が冷めた。まだ外は冷えるわい」
「春だからね。朝晩はまだ寒いよ。ドモン、二階に行ってヒイロを起こしてきて」
「なんだ?ヒイロは、まだ降りてこんのか?」
「朝方まで何やら作業していみたい。うるさくて一度注意したんだけど、その後もしばらく起きていたようね」
「全く……誰に似たのやら……」
「あなたに決まってるでしょ。もう朝食が出来上がるから、さっさと呼んできてよ」
「お、おう! 」
会話でわかる、この家でのパワーバランス。
手すりを掴みながらゆっくりと階段を登り、部屋のドアを開けるとヒイロはまだ夢の中だった。
「おい、ヒイロ。いい加減に起きんか! 」
ドモンの怒鳴り声が部屋に響くと、ヒイロは驚き飛び起きた。また寝てしまいそうな眠気を我慢し挨拶をする。
「ドモンさん、おはよう……」
「余りレインに心配かけるんじゃないぞ」
「うん……」
「ほら、お前も井戸に行って顔を洗ってこい」
「…………」
再び夢の中に行きそうなヒイロに声をかけるドモン。
「おい、ヒイロ!」
「はい、直ぐに行きます!」
「本当に世話の焼ける……」
慌てて手ぬぐいを持って部屋を出るヒイロ。その背中を優しい眼差しで見ながらドモンは呟いた。
しかし、最後の言葉を飲み込み、開けっ放しをドアを締め、手すりを握りゆっくりと階段を降りた。
◆
「「「いただきます」」」
リビングで三人で揃って挨拶をし、朝食を食べ始める。
温めたパンに焼いた川魚、肉と野菜を煮込んだスープ。この世界の朝食では少し裕福な品数と種類。
朝食を食べながら、今日の予定を話し合うのが、この家族の日課だった。
「今日までの仕事はある程度終わっとる。レイン、次の依頼は?」
「特に納期の問題ないわ。ちょっとキッチン用品の在庫が少なくなってきたから、そっちを作って」
「わかった。ヒイロ、材料を工房に運んでいてくれ」
「はい、わかりました。それで…… あの…… 」
「ヒイロ、どうしたの? 」
「今晩、先生も含めて三人に話があるんですけど…… 」
「なんだ?改まって」
「あら、セツナも呼ぶのね?」
「はい、先生も」
「わかった。レイン、夕食は一人分多めに頼む」
「わかったわ。魚と野菜を多めに用意しなきゃ。ドモン、ヒイロの話が終わるまでお酒は駄目よ」
「うむ…………」
「駄目だ・か・ら・ね」
「わかっとる」
「ふふふ、どうだか?」
朝食をお取り終わり、片付けをヒイロがしている間に、ドモンは工房に行き炉に火を入れ、レインは店のカウンターへ行き、帳簿を確認し始めた。
「フーン♪フフフフフフーン♪フフーン♪」
鼻歌を歌いながら食器を洗うヒイロ。かなりご機嫌らしい。夜が待ち遠しくて仕方がないようだ。
(楽しみだなぁ~喜んでくれるかなぁ~)
◆
それなりに繁盛しているドレン工房。
ドモンとレインの両者の名前を取り、命名されたこの工房は、調理器具から冒険者の武器防具。値段によってはフルオーダーメイドまで受注する、一般人から冒険者までが幅広く利用していた。
午前中は主婦や料理人の利用が多く、夕方からは依頼から返ってきた冒険者達で賑わっていた。
仕事が終わり、外に掲げている看板をしまうヒイロ。丁度そこに三人がよく知る人物が訪ねてきた。
「久しぶりですね。ヒイロ」
「先生、お久しぶりです」
一目でエルフだとわかるが、種族特有の美貌は、左半分が長い髪に隠れ半減し、そちら側の目には光がない。
ドモンとレインの冒険者時代の元パーティーメンバーの一人で、現在はヒイロの魔法の師匠であるエルフの青年。
彼も冒険者を引退し、今では兄の手伝いで教会で働きながらも、子供達のため私塾を開いている。
「ドモンさん、レインさん、先生が来たよ」
「久しぶりだな、セツナ」
「久しぶりですね、ドモン、それにレインも」
「お久しぶり、今日は夕食も一緒に食べていって。好物も用意したから」
「ありがとうございます、レイン」
「ほら、先生、早く入ってください」
「そんな、押さないでくださいヒイロ。お邪魔します」
◆
先ずは食事だと、四人で食卓を囲むことにした。仕事が終わり腹になにか入れなければ、頭が働かないらしい。
「セツナ、私塾は順調か?」
「ええ、ドモン。生徒も増えてきて、手が足りなくなってきましたよ」
「それは良かったわね」
「レイン、良ければヒイロにも手伝ってほしいと思ってますがどうですか?」
「僕がですか?」
思わぬ提案に驚くヒイロ。
「ふむ、ヒイロはどうしたい?」
あご髭を撫でながらドモンが言う。
「先生の手助けになるならやってみたいけど、お店の手伝いもあるから……」
先ずは店の手伝いを優先しなければと遠慮すると、少し考えレインが言う。
「なら週に二日位ならどう?暇な日もあるから、その日は二人でも大丈夫よ」
レインがそう提案すると、
「えっ!レインさん、いいんですか?」
驚くも嬉しそうに返事をするヒイロ。
「ああ、行って来いヒイロ」
「いってらっしゃい」
二人も仲間が困っているのならばと、協力したかったのだろう。ヒイロ本人が嫌でないのなら問題ないらしい。
「助かります。あっ、給金はちゃんと出しますよ」
「が、がんばります」
「そう、気負わないでやれる事を一生懸命やっておいで。セツナ、ヒイロをよろしくね」
その後もお互いの近況の会話をしながら四人は食事を楽しんだ。
食事も終わり皆で手早く片付けも終わらせると、ヒイロが声を上げた。
「実は三人に見てほしいものがあるんです。工房に来てください」
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