第2話 恩返し
ヒイロは、数年前の誕生日に貰った魔法袋から、レッグギア 、ガントレッド、眼帯、を取り出し作業台に置いた。三人の視線は各々に合わせたアイテムに釘付けになる。
「これはドモンさんとレインさん、そして先生へのプレゼントです。実は冒険者のガロードさんに協力してもらって材料を集めて僕が作りました」
「「「これをヒイロがガロードと!」」」
ガロード
元ドモン達のパーティーメンバーで、一人だけ今だ冒険者を続けている壮年の戦士。余りドレン工房に顔を出さないが、高ランク冒険者ともなれば忙しいのだろうと、三人は気にしていなかったのだが、まさかヒイロに協力して、こんなアイテムを作っていたとは思いも依らなかったらしい。
「それぞれ手に取ってください」
男性二人が戸惑う中、薦められるままに何の躊躇いもなく手を伸ばすレイン。
続けて、ドモン、セツナと手に取り、あちこち舐め回すように見ている。
「レインさんには、左義手のガントレットです 。身体強化の応用で、体内の魔力操作により動かせます。力加減は、訓練が必要ですけど……」
「あ、ありがとう。凄く嬉しいわ」
「ドモンさんには、右義足のレッグギアです。これもレインさんのと同様で、魔力操作すると普通に歩けるようになると思います。走るには訓練が必要ですけど……」
「おっ、おう」
「 先生には、この眼帯型義眼です。これは魔力操作と魔法の組合せで、様々な見え方が出来るはずです。魔力可視化や、光魔法で普通の視界、横に付いてるダイヤルで、近くや遠くを見たり、火と水の混合魔法で温度を可視化したり、様々なことが出来るはずです。訓練は二人より大変かもしれませんが、先生なら大丈夫なはずです」
「ま、任せてください。使いこなしてみせます」
説明が終わると、ヒイロは想いを伝え始めた。
「 僕はドモンさんとレインさんに拾って育ててもらって、先生に色々な知識や魔法を教えてもらって、本当にお世話になりっぱなしで……」
「何を今更……」
「そうよ、ヒイロが気にするとじゃないわ」
「二人共、先ずはヒイロの話を聞きましょう。さあ、ヒイロ」
二人を宥めるセツナ。
「はい、三人に少しでも恩返しが出来ればと思って、作ったんです。良かったら、その、受け取ってください」
恥ずかしさを我慢しながら、しどろもどろに説明するヒイロ。
その言葉に、男性二人は涙を堪えて微笑み、レインは口を両手で多いながら声を殺して大泣きした。
少し経ち、気持ちが落ち着いた所で、ヒイロが手伝い、それぞれが欠損部位へアイテムを装備し始める。
「私のサイズにピッタリだわ」
「見た目より軽いのう。うむ、良い仕事だ」
「ふむふむ、これは便利そうで良いですね」
装備し姿鏡を交代で見る三人。その顔は満面の笑みに溢れている。
「ヒイロ、大変だったろう?」
ドモンが労いの言葉をかけると、ヒイロは魔法袋から一つの義手を取り出した。レインに渡された義手とは違い、かなり大きい木製で、繋ぎ目には所々金属で止められたり補強されてある義手だ。
「簡単じゃなかったけど…… これが試作一号です」
そういって内側部分についている蓋を、パカッと開けると、空洞で中に削り出された滑らかな棒が二本と、少し太い糸五本が並んで見える。関節は、球体がつなぎ目に挟まる形で収まり、滑らかに動かせるようになっていた。
「ガロードさんにお願いして、皮を引剝ぎ取った後のゴブリンを譲り受け、冒険者ギルドの解体場で職員の方に教わりながら身体の仕組みを調べて作りました」
「「「………………」」」
その精巧さに言葉を失う三人。
ヒイロが出した試作品の義手の精巧さは、
この世界でも、様々な理由で身体に欠損がある人々が暮らしている。生まれついてによる者や戦闘で失った者、不幸にも事件や事故に巻き込まれた被害者達。
運良く生き残れた人々だ。命が安いこの世界。そんな状態では生き続けることは厳しいだろう。
絶望し自暴自棄になる者もいれば、諦める者もいる。そして必死に足掻こうとする者も。
そんな世界でも必死で前を向いて生き続ける諦めない人々。
生きるためには金がいる。しかしまともに稼ぐ手段が無い。
少し余裕があるものでも、木材を削り出し装備しているぐらいだ。ドモンもレインも、普通の木材を足や腕につけているだけ。
三人と身近に生活をしていたヒイロはどうにかしたかった。なんとかしたかった。前世の知識とレアスキルの鑑定を使って。
「こりゃ凄いのう! 」
「これは…… ふむふむ…… 」
「今にも動き出しそうだね……なんか気味が悪いわ…… 」
「動きますよ」
「「「えっ!」」」
三人は、それぞれ率直な感想を口にする。最後にレインが言った言葉に答えるヒイロ。
そして、義手の中に並ぶ紐を一本優しくつまむと、ゆっくり引っ張った。すると義手の親指が、その動きに合わせて掌に握り込まれた。
「この紐が親指と繋がっています。五本の糸それぞれが別の指に繋がっている仕掛けです」
「「「おお~!」」」
「この木の骨の裏に、もう一本紐があって手首と繋がってます。ほら」
「「「おお~~!!」」」
ヒイロは紐を操り、ジャンケンを見せたり冒険者のハンドサインを見せたりと、器用に操ってみせた。
試作一号と名付けられた義手は、生きている腕のように滑らかに動きはじめる。
説明がなければ、まだ動く魔物の腕にしか見えない。
三人は試作一号の動きに驚き、目を輝かせて面白そうに見て声をあげる。
ヒイロは再び魔法袋に手を入れ、次に取り出されたのが、
「これが試作一号を改良改善して出来た試作二号です。魔力操作で動くアイテムになります。これは魔道具になります。サイズを人間用に小さくしたものです」
「「「えっ!まさかのもう一本?」」」
まさかの二本目の義手に驚く再び驚く三人。
試作一号より一回り小さいサイズで、滑らかな金属製の義手だった。
彫刻の腕のように曲線が美しく、内部の紐は魔物の素材に変わっており、光沢があり艷やかな糸と、黒紫色に変わった木骨。
一番の違いは、外郭についている金属の内側に、魔力回路が掘られている点だった。
「ほう! 外郭は魔鉄を薄く伸ばしたものか。これはデススパイダーの糸だな?木の骨は
物作りを得意とし職人堅気のドワーフ。今では名工と噂に高いドモンから及第点が出た。
さすがドワーフ。一目見て、肌触りを確認すると素材を全て言い当てる。
「流石ドモンさん、全部その通りです」
「まぁ~のう~」
得意げに髭を撫でながらドヤ顔のドモン。
「これはもう職業病ね…… 」
「本当に…… 」
そんな二人のやり取りを見て呆れるレインとセツナだったが、二人だけの世界に悔しい気持ちが湧き上がり二人も感想を述べ始める。
「これは前のと比べて、とても綺麗ね」
「かなり魔道具に近いですね。あっ!ここです。この魔力回路は、私が教えたものなんですよ」
造形美を褒めるレインと、自分の教えが生かされている事に喜ぶセツナ。
「それじゃ、見ててください」
ヒイロが試作二号の腕の付根に魔力を通すと、魔力回路が反応し淡く光り、指が動き手首が回る。
「「「なるほど」」」
最初は感心することしか出来なかったが、早速身体強化の応用で体内の魔力を循環すると、装備した義手や義足の指先が動き出し義眼が光が宿った。
「おお!」
「すごいわね!」
「見える!しかしまだぼやけますね。もう少し魔力の強さと属性のバランスを変えれば……おお!はっきりと見えます。凄い、凄いですね!なるほどなるほど……おお、これがヒイロが言っていた温度を可視化した世界ですか!面白い、実に面白い♪」
眼帯の扱い方を色々と試しながら、饒舌に話すセツナ。今まで見たことのない興奮した姿に、ヒイロはとても驚いた。
「せ、先生?」
「これはお恥ずかしい。失礼しました」
「「「ははははは」」」
ヒイロが恐る恐る声をかける。我に返ったセツナが反省の言葉を口にした直後、皆で大笑いしたのだった。
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