第88話 幕間12 (調千里)その2

「仲間に入れてほしい? どうして?」


 蒸し暑い夏の日に、美桜から困った事になったと連絡があった。どうしたのかと心配になり会ったのだが、開口一番に仲間は募集してないかと聞かれたのだ。


「実は、先日探索者協会で登録してきたんですけど、その時に得たスキルに問題がありまして……」


 美桜の話によると、昨今の時流に乗り、大学にある探索者サークルに入ったらしく、早速ダンジョンでスキルを得たそうだ。

 探索者サークルにはある種の伝統があり、それはサークル員の前で自分の得たスキルを発表するというものだった。

 今回は法の改正に伴い、多くの人が探索者サークルに加入した事で当日の発表とはならなかったが、後日発表した際に騒ぎになったそうだ。


「……治癒魔法のスキルを持っちゃったの?」


「……うん」


 千里も以前は欲しいと思っていたスキルだ。

 だが、そのスキル所持者の扱いを知ると、その考えも変わった。

 治癒魔法スキル持ちは大企業の会社経営者、政治家や社会的地位のある所謂上級国民から、暴力団や半グレなどの反社会勢力にまで狙われる恐れのあるスキルだ。

 体の不調を治すというのは誰もが求めるものであり、それは地位が高い者ほど強い傾向にある。

 そして、その力は金になると反社会勢力に狙われる原因にもなっていた。


 自分で身を守れるなら問題ない。

 いくら暴力を生業にしている者でも、ダンジョン30階を突破するような、プロの探索者を相手にしたくないと敬遠するだろう。

 だが、美桜はそうではない。

 まだ登録したばかりの一般人だ。

 力尽くでどうにでもする事ができる。


 ならば、希望する企業と契約すれば良いのではないかと言われるが、残念ながらそうはならない。

 身の安全は守られても、その契約した企業でひたすらに治癒魔法を使い続けるという仕事が待っている。酷い時には、契約した企業の社長宅に住まわされ、付きっきりで魔法の使用を求められる事もあるそうだ。


 まだ自由を謳歌したい美桜にとって、それは拒否したいものだった。


 だからこそ、治癒魔法スキルを得た人物はパーティメンバー以外には口外しない。

 美桜も知っていれば、無難なスキルを言ってお茶を濁しただろうが、その知識がなかったせいで大勢の前で公表してしまったのだ。


 千里もまさか友人が治癒魔法スキルを得るとは思っていなかったので、注意はしていなかった。

 それほどに、一万人に一人と言われている治癒魔法スキルは貴重なのだ。


 そんな貴重なスキルを持った美桜が、身を守る方法は三つ。

 一つは先に述べたように、自身が強くなる事。

 二つ目は、30階を超えたプロの探索者パーティに所属する事。

 三つ目が、自分の要望に合う契約先を見つけて保護してもらう事だ。


 このなかで美桜が選択したのは、二つ目のプロの探索者パーティに所属する事だった。

 自身が強くなるには時間が足りず、契約先を見つけようにもそういう伝手が無い。なので、もう直ぐ30階に挑戦すると言っていた千里を頼ったのだ。


「分かった。皆に相談してみる」


 友人を助けるために千里は行動する。





「話は分かったけど、正直今のままだと厳しいだろうね」


 メンバーが揃う前にリーダーの東風と兄の元に話したのだが、回答はあまり良くなかった。


「どうしてです? 治癒魔法なら、レベルは低くても戦力にはなるんじゃないですか?」


「問題はその、えっと……」


「美桜です」


「そう、その美桜ちゃんじゃなくて、俺達にあるんだ。いずれ30階を突破するにしても、今はしてないわけじゃない。そんな俺達と一緒にいても防波堤にはなれないよ。せめて30階を突破した後じゃないと、きっと意味はない」


 それに、足手まといを連れて30階のボスには挑戦できない。これは言わなかったが、幾ら治癒魔法があっても実力がなければ、美桜だけでなく他のメンバーも危険にさらしてしまう。それはリーダーとして看過できない。


「千里、その美桜って子には待つように伝えてくれ。今加入するのは、その子のためにもならない」


 東風の意を汲んだ元は、千里に諭すように言うが、どうにも納得していないような表情だ。


「仮で加入するのは駄目なんですか? 私も今年一杯で辞めますし、戦力の獲得は今のうちから始めていた方が良いと思いますけど」


「そうだけど、誰が面倒見るの? 千里ちゃんや騎士の場合は身内の元や武が見たけど、30階を目指す手前、そっちに割く人員はいないよ」


「私が行きます」


「無茶だ! お前のレベルとスキルじゃまだ早い!」


「元、落ち着け。 千里ちゃんもムキにならない。 何も美桜ちゃんが入るのを反対してるわけじゃない、治癒魔法使いなんて喉から手が出るほど欲しいからね。だから、少しだけ待ってほしいんだ。彼女に見合うパーティになるように、30階突破するからさ」


 ね、と落ち着いた声で言う東風の説得に、千里は渋々頷いた。




 この内容を美桜に話たところ、待つという返事をもらえた。

 サークル内で一応の口止めはしてくれているようで、まだ広まってはいないらしい。それも時間の問題ではあるようだが。



 千里は悶々とした気持ちを抱えて、ショッピングモールを歩いていた。


 友人の力になれないのが悔しかった。

 スキルが戦闘向きでないのが悔しかった。

 まだ30階まで届かないのが悔しかった。


 今の所、探索は順調に進んでいる。

 29階まで進み、30階へ続く階段を探していた。


 探索者が30階までクリアする年月は、平均五年と言われている。

 東風達が探索者を始めて四年、千里が加入して二年目となるが、その期間で30階まで進むのは優秀な探索者である証拠でもあるのだ。


 それは千里も分かっている。

 それでも、装備を強化すれば、まだやれるはずだと考えてしまうのだ。



「……これ、良いかも」


 そんな時だ、武器屋もののふのうつわやで白い鎧と出会ったのは。


「あの、この鎧の値段付いてないんですけど、御幾らですか?」


 武器屋の店主である初老の男性に尋ねる。

 店主は新聞から顔を上げて、何を言っているのか分からないといった表情をしている。


「お店の前に置いてある鎧です。あのロングソードを構えたやつ」


「ああ、あれか、残念だがあれは売り物じゃない、展示しているだけだ。剣の方なら売ってやれるんだが、どうだ買っていかないか?」


「いえ、剣はいらないんですけど、あの鎧が欲しいんです。売り物じゃないなら、また遺品とかですか?」


「いんや、ちゃんと生きてるぜ。鎧が欲しいなら直接交渉してみるといい」


 店主の言葉に頷くと、その持ち主が現れるまで待つことになった。

 今のうちにパーティの残高を確認しておく。通帳には一千万円入っていたが、これはカモフラージュだと気付いている。元が千里を警戒して口座を二つに分けたのは知っているのだ。

 本命の口座を確認すると二千万円入っていた。

 これで足りるかは分からないが、交渉するだけの価値はあの鎧にはあった。


 そして鎧の持ち主が現れる。

 その持ち主は、とても探索者を生業としているような体型ではなく、とても若く太った人物だった。


 人違いじゃない?

 本当にこの人が、この鎧を使うの?

 金持ちの道楽で使われているだけじゃないの?


 そんな疑問が浮かぶが、持ち主であるのは間違いないようである。

 店主の計らいで紹介してもらえたが、どうにも訝しんでいる様子だ。


「あの、表にある鎧の持ち主で間違いないですか?」


「ええそうですけど、何か?」


「是非、あの鎧を譲ってほしいのですが、いかがでしょう?」


「ほう、あの鎧の価値が分かりますか。……それで、幾らまで出せます?」


「二千万円までなら出せます」


「話になりませんな、お引き取り下さい」


「待って!三千万、三千万円までなら出せます!」


「あれは一億はする代物ですよ。最低でも一億は出してもらわないと、お譲りする事は出来ませんな」


「一億! そんなに……」


 まさかそんなに高額な物だとは思っていなかった。

 高い魔法防御力に反射の特殊効果付きではあるが、一億もするとは思わなかったのだ。


 ではと言って去って行く男の顔は、こちらを貧乏人と馬鹿にしているような目をしており、カチンときた。

 完全に被害妄想だが、歳下に馬鹿にされたと思い、何かやり返してやりたくなったのだ。


 これは、悶々とした思いも合わさった八つ当たりのようなものだが、それでも止める事は出来なかった。


 鎧の持ち主が試着しているのを見て、言ってやった。


「似合ってないわね、豚に真珠ってやつね」


 男は驚いた表情をしていたが、何か言ってくるような事はなかった。

 千里の事を相手にする価値がない判断した……というわけではなく、単に千里以外からも似合っていないとの声が飛び交っていたからだ。

 言い返そうにも人数が多くて、何もできない状態になっていたのだ。


 その様子を見て、千里は悪い事したなと反省する。

 いくらなんでも初対面の人に、しかもこちらから関わったのに悪口を言ってしまった。

 人として最悪な事をしてしまった。

 次に会ったら謝ろう。



 そう思ったのだが、そんな気も失せてしまった。


「やあ、豚に真珠な俺です」


 30階を目指して探索を開始し、初日のキャンプをしようと23階の川沿いに到着したのだが、そこには昨日の男が全裸で戦斧を構えていた。


 最初は誰なのか分からなかったが、鎧を身に着けたのを見て思い出した。

 そこで声を出したのがいけなかった。

 男は千里に気付くと、ニタニタと面白いものを見つけた子供のように寄って来たのだ。


「どちら様でしょうか、初対面のはずですけど」


 視線を合わせずに知らんふりをするが、男は千里の顔を覗き込んで笑みを更に深める。


「え?覚えてないの? この鎧三千万円で買い取ろうとしたじゃん」


「ちょっと!いい加減なこと言わないで!」


「え?何焦ってんの?もしかしてやましい事でもあるのかなぁ?」


 焦って否定したが、その態度が逆に信憑性を高めてしまった。そのせいで、周囲からの突き刺さるような視線が集まり、兄である元がいい笑顔で肩を叩いた。


「あっちで話をしようか」


「あんたが余計なこと言うから!!」


 まさかの不意打ちでバラされるとは思わなかった。

 兄の目が笑ってなくて恐ろしく、メンバーも額に血管が浮いている。


 この後、長い説教が待っていた。



 食事の匂いにつられて説教が終わり、涙目の千里は罰として一人で食事の準備をする事になった。


 男が用意している料理は、ダンジョンで食べるような物ではなく、手の込んだ物を鍋で煮込んでいる。しかもその量は多く、とても一人で食べれるようなものではない。

 もしかしたら、あの体重を維持するのに必要な量の可能性もあるが。


 と思っていたら違ったようだ。


 料理を持った男がこちらに近付いてきて、見せびらかすように食べ始めたのだ。

 彼方は良い匂いをさせたシチューとお肉、片やスープとパンとプロテインバー。

 匂いを嗅いだだけでお腹が鳴る。のだが、


「うまっうまっうまっ!うまーい!!」


 何か絶叫しながら掻き込んでいく男の姿は醜く、逆に食欲が失せてしまった。


 何か瑠璃に話しかけており、東風がフォローに入ると、何故か食事をもらっていた。

 その料理がどうやら美味しかったらしく、男はその反応に満足したのか、パーティに料理を振る舞ってくれた。


「私も良いの?」


「皆が食べてるのに、一人だけ食べないってのはダメだろ」


 そう言ってよそってくれたシチューは確かに美味しかった。



 同じ釜の飯を食うのとは少し違うかもしれないが、この食事で男との、田中ハルトとの交流が生まれる。




 今回の探索はどうにも進みが悪かった。

 薬草などの植物を採取しながら進んでいるのだが、今回は過去最高の採取量を更新している。


「ねえ、まだ取るの? 台車の半分は埋まってるわよ」


 台車を見ると、採取した物を袋詰めしたものが積荷の半分を占めていた。


「まだ25階なんだがな、大きな群生地を発見すればこうもなるか」


 武がしみじみと頷いて答える。

 25階で追加で滞在して採取に勤しんでいるが、その終わりが見えない。

 本来の予定なら、すでに26階を突破して27階でキャンプ地を探していた頃なのだ。25階を探索中に薬草だけでなく、マジックポーションや解毒剤の材料になる野草が、大量に群生しているのを発見してしまった。


 近くを通過すると、それに気付いた千里は東風に報告したのだが、横で聞いていた元が「全部取って行こうぜ!」と良い笑顔で親指を立てた。


 パーティの資産を管理している元からすれば、確実に金になるチャンスを逃すわけにはいかなかった。


 千里は失敗したと後悔していた。

 本当ならこの探索で30階に行けたはずなのに、群生地を発見してしまったせいで、足踏みするはめになってしまった。


 そう千里が後悔していると、採取していた騎士が驚きの声を上げる。


「おっ?お?おーっ!?宝箱だーーー!?!?」


 何の草かも分かっていない騎士が薬草を引っこ抜いていると、草に埋もれている宝箱を発見したのだ。

 宝箱と聞いてメンバーも驚いて、急いで集まった。


 東風達が宝箱を発見するのは、これで五度目になるが、千里達が加入してからは三度目だ。

 これまでに出たのはアクセサリーの装備品が二個、ポーション類が二つと余り運には恵まれていないのだが、それでも宝箱を見ると期待せずにはいられない。


 皆が見守るなか、発見した騎士が息を呑んで宝箱を開ける。


 そこには、一本の杖が入っていた。

 杖は木製の杖で、植物の蔦が巻き付いていた。その蔦は杖と一体化しており、ただ巻き付いているのではなく、杖の一部として機能するようだ。


「千里ちゃん、頼む」


 鑑定してくれと手渡された杖は、思いのほか重かった。


ーーー


樹精霊ドライアドの杖


木属性魔法スキル所持者専用の杖。

木属性魔法の効果を強化する能力を有する。周りの蔦は、魔力を流すと操れる鞭となり、攻撃に使用する事ができる。


ーーー


 千里は鑑定結果を話すと、周囲の反応は微妙なものだった。

 杖ならば瑠璃が使えれば良かったのだが、木属性魔法の使い手しか使えないのであれば、これは使い道がなく買取価格もそんなに高くはなさそうだからだ。


「これは売却だな、持っていても使い道がないからな。異論はあるか?」


 東風の決定に誰も反対しない。

 この杖では戦力のアップも期待できないので、千里としても資金にした方がいいと思っていた。


 宝箱の中身は何とも言えない結果だったが、臨時収入があると思えば悪くはない。むしろ良い方だろう。


 この日は、ひたすらに採取をして終える事になる。


「お、お宝だーー!!」


 そして次の日、この探索で二つ目の宝箱を発見した。




ーーー


魔刃の回転式魔銃リボルバー


六発の魔弾を込める事のできる回転式拳銃。

魔力を込めると魔力の刃が発生する。刃の長さは調節可能で、最大長剣の長さまで伸ばすことができる。

魔刃使用中は魔弾を撃つ事は出来ない。


ーーー




 千里はベッドの上で魔刃の回転式魔銃を扱いながら、手に慣らしていく。

 回転式魔銃という名称がついているが、SF映画に出てきそうな見た目をしており、銃口から撃鉄までの間が無骨なカバーが施されている。黒を基調に銃身に黄色の線が走っており、グリップが握りやすいのはありがたい。


 そんな魔銃を回転させて握り構えると、鏡に映る自分に銃口を向けた。


「似合ってないわよ千里」


 銃を構えた自分を見てそう呟く。

 これじゃ人のこと言えないなと自嘲する。

 その様子を見ている人がいるのを気付かずに。


「何やってんだお前」


「キャー!?お兄ちゃん!勝手に入らないでよ!」


 一連の行動を見られていたのかと思うと、恥ずかしくて顔が熱くなる。

 元は食事が出来たと呼び掛けても返事がなかったので、様子を見に来たのだ。


 もう!と怒ってスリッパを投げるが、扉を閉められて床に転がる。



 昨日ダンジョンから戻り、打ち上げを行った。

 店に行く途中で田中を見つけたので、半ば強引に連れて行ったのだが、リーダーの東風と気が合うらしく陰謀論のような怪しげな話で盛り上がっていた。


 最後は東風に抱きつかれて悲惨な状態になっていたが、怒ってはいなかったので、当初のイメージと印象は良い方向に変わってきていた。


 そんな昨日の事を思い出していると、美桜からメッセージが入る。内容は、今日会えないかというもので、あちらは麻由里や咲も一緒のようだ。


 いいよと返信すると、昼から会おうという返事がきた。




 朝食を終えると、なんだか散歩がしたくなって早めに家を出る。美桜達との待ち合わせ場所はダンジョン近くの駅なので、のんびり行こうと家を出た。


 昨日までの探索で得た収益は、過去最高のものになった。

 大量に採取した薬草類とトレントのランダム果実、そして宝箱から出た樹精霊の杖、その全てを合わせるとパーティ資産が倍近くにまで膨れ上がった。

 その代わり探索は進まなかったので、千里としては不満を抱いたが、最後に千里自身の専用武器と呼べる魔銃を手にできたので良しとしよう。


 これがあれば、戦いで足手まといにならない。

 自身の戦力アップにグッと力が入る。

 パーティメンバーの装備品を見つけては購入していたが、自分の魔銃だけは見つける事は出来なかった。

 使い手が少なく需要がないのもあるが、威力の高いスナイパーライフル型の魔銃は警察や自衛隊のみに使用が許可されているので、市場に出回らないのだ。

 仮にスナイパーライフル型を手にしても没収されるか、最悪逮捕されるので持ちたくもないが。



「……ハルト君」


「おう昨日ぶりだな、どうしたんだこんな朝から?」


 駅を降りて近くの公園を散策していると、ベンチに座り、遊んでいる子供達をじっと見つめてブツブツ呟いている不審者、田中ハルトを発見した。


 子供達を見つめる目がマジだったので、思わず声を掛けてしまった。犯罪に走るような人物ではないと思いたいが、あの目は何か良からぬ事を考えている目だ。


「何してたの?」


 念のために鞄に入っているスマホに手を伸ばす。


「何って、考え事してたんだよ。俺にだって悩みはあるんだぜ」


 田中はふんと鼻を鳴らしてアイスコーヒーを啜る。

 危険はなさそうだなと判断して、スマホから手を離すと、田中が周りからどう見られているか教えて上げる。


 早く教えてあげないと、子供のお母さん方が警察に連絡しそうなのだ。


「……マジかよ。そんな不審者がいるのか?」


「違うわよ、あなたの事よ!子供見ながらぶつぶつ言ってたら、ただの不審者よ!」


「俺!? あっ……ごめん」


 周囲の目に気付いたのか、素直に謝っていた。

 だが、もうここにはいられないだろうと、田中を連れてカフェに移動するのだった。




「ダンジョンに潜る目的ね」


「そうだ。東風はダンジョンを知りたいって理由だし、元は起業するための資金稼ぎだろ、武は強くなるため、瑠璃は何か欲しいスキルがあるようだし、騎士はカッコいいからとかフワッとしてるが、皆何かしらの目的や目標があるんだよ。 じゃあ俺はって考えたら何もないんだよ、生活費のためなら21階で稼げばいいしな」


 それを聞いて何故か溜息が出た。

 人に感化されて考えるのは良いだろうが、目的を人の意見で左右されるのは違うのではないかと思ったのだ。


「そんなの私に聞いても意味ないんじゃない? 他人の意見に左右されるよりも、ダンジョンに潜りながらでも考えた方が良いわよ。 どうせ潜るの辞めないんでしょ? なら潜りながら、ハルト君なりの目的を探しなさいよ」


「俺なりの目的か……そうか、そうだな。 ありがとう、助かった! ちょっくらダンジョン行って来るわ!」


 注文したフラペチーノを一気飲みすると、立ち上がって出て行こうとする。

 急な行動に驚いて、静止しようと手を掴んだ。

 その時、はずみで鑑定を使用してしまった。


ーーー


田中 ××ト(24)

レベル 17

《スキル》

地ーー魔法 トーーー 治×魔法 ×××握 頑ー ××操作 身体ーーー 毒耐性 ×××× 見切り ーーー 裁縫 ×××× 解体


《状態》 

×××××の恩恵


ーーー


 これはなに?


 田中のステータスなのは分かるのだが、全てを読み取る事が出来ない。

 力差があると読み取れない場合があると聞いた事はあるが、実際に目にするのは初めてだった。

 そして驚くのは、そのスキルの数だ。

 通常、10階毎に存在するボスモンスターを倒せばスキルを得られる。他にもイレギュラーエンカウントで大量のモンスターを倒すか、強力なユニークモンスターを倒す事で得られるが、それに遭遇するのは稀なのだ。


 ほとんど読み取れなかったが、数にして14ものスキルを所持している。


 この人は何者なんだろう?


 そう疑問に浮かぶが、美桜からの着信で我に返り、田中から手を離してしまう。


 千里はスマホを手に取り、田中の後ろ姿を見送るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る