第85話 九十七日目
昨日はパーティ結成したあとに、採掘の方法を教えて地上に戻った。
地属性魔法で採掘するのには驚かれたが、経験を積めばサトルも出来るようになるさと伝えておいた。
近くのファミリーレストランで、俺の奢りだとパーティ結成のお祝いをしてあげた。
途中でアキヒロが弟達にも食べさせたいなとか言い出したので、テイクアウトとスーパーでお菓子を大量に買って持って帰らせる。
幼い子供が絡むと、甥と姪を思い出して弱くなってしまう。こればかりはどうにもならんなと、自分の性分だと諦めるしかない。
今日は東風達がダンジョンに潜ると言っていた。
順調に行けば、今回の探索で30階ボスに挑戦できるらしいので、是非とも頑張ってほしいところだ。
俺も明日から泊まり掛けでダンジョンに潜るつもりなので、今日は、明日からの準備をする予定だ。
薬品関係やモンスター除けなどのアイテムも残り少なくなっているので、多めに購入するつもりでいる。
他にも食料を多めに買い増しておこうと思う。
前回の探索では、準備していた食料のほとんどを使っていた。十日分とかなり多めに作ったのだが、それでも厳しかった。収納空間に入れておけば、腐る心配もないので、更に多く作るつもりだ。
朝からショッピングモールに来ている。
食料の買い出しもそうだが、武器屋に不屈の大剣を取りに来たのだ。
武器屋に到着すると、今日はいつもより人が多い気がする。いつもなら五人もいれば良い方なのだが、店内には倍以上の人が入っている。更に店前にも人が集まっており、良くよく見るとその中心には、鎧を着たマネキンが大剣を持ちポーズを取っていた。
あれは間違いなく不屈の大剣ですね。
……あのジジイ、またやりやがったな。
俺は武器屋に入るなり、店主のジジイを呼びつけて文句を言う。店主はすまんすまんと謝り、展示されている鎧に合う武器が不屈の大剣しかなかったので、一緒に展示させてもらったと説明する。
だからって勝手に展示すんなよな。
せめて俺に許可取れよ、連絡先書いてるんだから。
大体、盗まれたらどうするんだよ。
なに、その心配はない?
それはどういう……。
店主と会話していると、鎧を展示している所から痛みに苦しむ叫び声が上がった。
何があったんだと見に行くと、大男が展示品の前で倒れており、時折痙攣するように震えている。
これはどういう事かと店主に聞くと、展示品に手を出そうとすると、電気ショックが流れるように細工しているそうだ。
そうか、それなら取られる心配はないな。
って、そうじゃねーよ!
そんなの危な過ぎるだろ!知らない人が近寄ったらどうすんだよ!?
死なないから大丈夫?触るだけなら発動しない?細工してるのは大剣だけだから問題ない?
……いや、それが一番の問題だわ。
持ち主である俺も触れないのかと思ったが、俺に渡す時にその細工は外してくれるそうだ。
そうじゃなかったら、マジギレ必至である。
不屈の大剣を受け取ると、ギルドの売店に直行する。
ポーションとマジックポーションを購入して収納空間に放り込むと、時間に余裕があるので、店内を見て回る。
何か新商品が出ていないかなと見て行く。
有益な商品があれば購入するつもりなのだが、これといった商品が無い。
調理用道具や携帯食、バックパックにお菓子なんかも置いているのだが、俺の琴線に触れる物はない。
棚を一通り見て行くと一列だけ陳列棚が空いており、そこには『動きソゲール君 完売 次回入荷をお待ち下さい』と書いてあった。
どうやら動きソゲール君は大人気のようだ。
まさか商品名を変えずに販売するとは思わなかった。
もしかしたら、その商品名のインパクト具合で購入して行く探索者が多いのかもしれない。
商品棚には値段と一緒に注意事項も書いており、一つ一万円とお高めで、購入する際には身分証の提示が求められる。悪用すれば、誰が購入したのか直ぐに特定できるようになっていると表示されている。
ふーんと感心して売店を出る。
そしてギルドのエントランスに向かっていると、東風パーティとバッタリと出会した。
よう、これから探索か?
そうか、頑張れよ。
俺も明日から探索するつもりだから、戻ったら話聞かせてくれよ。
ああ、ありがとな、楽しみにしてる。
じゃあな、無事に戻って来いよ!良い探索を!
……は、何だそれって?良い探索をだよ、良い探索を!探索者達でやってる挨拶じゃないのか?
え?これやってるの一部だけなの?
マジかよ。気に入ってずっと使ってたわ。
ああ、じゃあな、また今度な、良い探索を!
結局、良い探索をは使っていこうと思う。
酔っ払いに教えられた言葉だが、相手の無事を願うと考えれば悪くないと思うのだ。
こうして東風パーティの探索を見送った。
ダンジョン21階
そこでバッタリと東風達と出会した。
別に一緒に来たわけではない、偶々、同じタイミングでポータルに乗って、偶々同じ21階に降り立っただけだ。
東風パーティは大きな台車を引いている。
この台車には軽量化と動力アシストが付いており、荷物を一杯乗せても片手で引いていけるそうだ。
荷物の運搬は
元が除かれているのは、元がパーティの斥候であり、パーティの先頭を行き危険がないか、モンスターがいないか調べるためである。
パーティの中でも最も重要な役割であり、パーティの命運を握っていると言っても過言ではない。
うん?なに?
どこまで付いて来るのかって?
どこまでもなにも、向かっている方向が偶々一緒なだけだよ。
この台車なにって、ポッタクルーだよ。ホント株式会社に頼まれて使ってるんだ。階段も自動で付いて来てくれるから便利だぞ。
会社と契約してるのかだって?
してないよ、面倒そうだし、縛りがありそうだしな。
誘われた事あるのかだって?
……二回くらいあるな。
何故か、ホント株式会社は優良企業なのに勿体ないだとか、こんな機会はそうあるもんじゃないだとか、バカじゃないのとか非難されたが、そんな事は分かっとるわい。
それでも、自由がなくなる気がして断ったのだ。
愛さんと会長は信用出来るが、それ以外の役員が同じ考えとは限らない。
気に入らなければ辞めればいいと思うかもしれないが、その報復なんてあれば、面倒な事この上ない。
なにより、ホント株式会社の社員に良い思い出がないのだ。罵倒されるわ、警備員よばれるわの散々な対応には、思い出すだけで腹が立つ。
あー思い出しただけでムカついて来た。
なあ、お前もそう思うだろ?
そう言って隣を歩くオークの腹をドンと殴る。
すると怒ったオークが棍棒を振り回してきたので、暴君の戦斧で倒しておいた。
22階に続く階段に到着したので、ここで東風達と別れる。
頑張れよと言って別れた。
オークの接近で元が自信を失いそうになっていたが、お前なら大丈夫と言って別れた。
瑠璃に武との子供の名前は俺に任せろと冗談を言って別れた。
東風に戻って来たらまた飲みに行こうと笑いながら言って別れた。
千里には、夢があるんだから絶対帰って来いよと言って別れた。
生意気言うなと返されたが、笑って良い探索をと言って別れたので良しとしよう。
俺は、こいつらと一緒に探索するのを夢見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます