第83話 九十五日目

 昨日、東風達とダンジョンを出ると、飲みに行きませんとジェスチャーするので、俺は両手を上げて苦笑すると、OK!と親指を立ててグッドサインを出した。


 女性陣は呆れた表情だが、なんだかんだ言いながらも一緒に付いて来てくれる。

 因みに、このパーティの中で一番お酒に強いのは瑠璃だ。

 正にザルである。

 逆に下戸なのがはじめだ。とりあえず生で顔が真っ赤になって、あとはソフトドリンクになる。


 まあ、大酒飲みだからといって良いことなんてないのだが。


 話題になったのは、もっぱらハーレムパーティの事だった。

 上手く行くと良いのだが、解散してしまったら飲みにでも誘ってやろうと思う。酒は飲めないだろうが、気晴らしにはなるだろう。

 それ以上にメンタルがやられてたら、大人の店にでも連れて行こう。そうしよう。一人じゃダメでも二人なら行けるかもしれない。


 ぼちぼち飲んでいると、日野の思い人ってどんな子だ?と聞かれたので、巨乳な可愛い子と答えておいた。

 すると、何処からか殺気が飛んで来たが、きっと気のせいだろう。


 性格?

 面倒見が良くてしっかりした子だよ。

 どうやって知り合ったのかって?

 えーと、なんだっけ。ああ、あれだ。トラップに引っ掛かってピンチになってたのを助けたんだ。

 そうそう、最初にあの子が倒れててさ、いきなり抱き付かれたんで驚い……どうしたんだよお前ら。


 急に黙った面々を見ると、なんだか気まずそうにしている。

 やがて東風が口を開き、この話はやめときましょうと提案する。

 俺は、そんなにこの話つまらなかったのかと落胆する。もしかしたら、俺の話の仕方が悪かったのかもしれない。

 せっかく俺が人を助けた武勇伝だったのに、俺の力量不足でダメになってしまった。

 

 そのあとは、なんでオークと並んで座っていたのかとかどうでもいい話に移り、この日は早めに解散となった。

 



 で、なんでまたいるんだ?


 今日もダンジョンで体を動かすために、最寄りの駅に降り立ったのだが、改札を出たところに千里がいた。

 これで三日連続である。


 あんたこそと言われると返しようがないのだが、これから何をするんだと尋ねると、この前の美桜達とダンジョンに潜るらしい。


 そうか頑張れよと言ってこの場を去ろうとするが、暇だから美桜達が来るまで付き合えと、強引に引き止められた。

 まあ良いかと隣に座り、懐に手を突っ込んで収納空間から缶ジュースを二本取り出す。

 一本を千里に渡して、一本をプシュッと開けて飲む。

 キンキンに冷えているからとても美味い。

 千里は缶ジュースを見て少し考えたあと、普通に飲み出した。


 なあ、保育士の学校ってどこにあるんだ?

 いいじゃん、教えてよ。

 ここから二駅先か、案外近いんだな。

 ん?いつまで探索者続けるんだって?

 飽きるまでか、次の仕事が決まって、時間が取れなくなったら辞めるかな。

 なんだよ、ずっと続けると思ったって?

 流石に体が保たないだろ、趣味程度で続けるんなら良いかもしれないけどな。

 昨日の話?なんの話だ?

 高校生って恋愛の対象になるのかだって?

 ちょ、おま、それは犯罪だろうが。

 せめて卒業まで待てよ。今の時代、女性でも未成年に手を出せば逮捕されるらしいからな。

 え、違う?

 あっ来たみたいだな。


 まさか、千里の恋愛対象が高校生だとは思わなかったので驚いたが、一応釘は刺しておいたので大丈夫だろう。

 一線超えて逮捕されたら、それはその時だ。

 その時は、笑ってバカにしてやろう。


 美桜達が改札から出て来たので、俺は離れてダンジョンに向かった。




 今、ダンジョン前に来ているのだが、ダンジョンの横で入ろうかどうか迷っている二人の学生を発見した。

 発見したというか、ダンジョンに入って行く他の人達も気付いているのだが、誰も止めようとはしない。


 ダンジョンは自己責任。

 一応の法は定められているが、それを守るかどうかはその人次第である。

 生きるも死ぬもその人次第。

 人助けする人もいれば、見捨ててアイテムだけ回収する人もいる。人のモラルが試される。そんな場所だ。

 ギルドに入れば、それなりに手厚いサポートをしてもらえるそうだが、それを受けるかもその人次第なのだ。


 今ダンジョンに入ろうとしている学生は、明らかにサポートを受けていない。そして、俺が初めて入った時よりも、圧倒的に貧弱だ。


 本来なら、見捨てるのが普通なんだろうが、ハーレムパーティの顔がチラついて見過ごせなかった。


 おいおい、待て待て待てーぃ!

 何やってんだ?

 ダンジョンに行こうとしている?

 そんなん見りゃ分かるわ!何で潜ろうとしてるかって聞いてんだ。お前らギルドに登録してないだろう?

 金が無い?親に出してもらえよ。

 親が倒れてお金がない?

 明日食べる飯もない?

 まだ幼い弟と妹がいる……。


 ……話をしようか。



 俺は二人を引き連れて、ギルドにあるカフェテラスに向かった。

 二人は学生服で潜ろうとしており、学校帰りに来たそうだ。装備も鉄パイプを一本だけと、完全にダンジョンを舐めた格好をしている。


 見た目は、身長が高く幸薄そうな少年と小太りの坊主頭の少年と言ったところだ。

 二人は友人同士で、幸薄そうなのが美野アキヒロ、小太りの方が大岩サトルと自己紹介した。


 俺も田中ハルトですと名乗り、事情を改めて聞くと、なかなかに大変なようである。


 問題があるのはアキヒロのようで、サトルはその付き添いだ。

 そしてその問題だが、アキヒロの家庭は母子家庭で昔に父親を亡くしているらしい。

 父親は探索者をしていたようで、亡くなった時の蓄えは殆ど無く、保険金も雀の涙だったという。

 これはアキヒロが小学生の頃の話で、弟は保育園に上がったばかりで、妹はまだ赤子の年齢だった。


 父親を亡くしてからは、母親が必死に働いて家計を支えていたが、それでは足りなくて周囲に借金をした。

 だからか、更に必死に働いていたのだが、遂に限界が来てしまう。仕事の途中で倒れてしまい、働けない状態になってしまったのだ。


 高校生になったアキヒロもアルバイトはしていたが、とても家計を支えられるほどの収入はなく、もうどうにもならないと探索者になろうとしたそうだ。


 だがギルドへの登録にはお金が掛かり、アキヒロにとって五万円というのは、とても出せる金額ではなかった。

 だから、何もない状態でダンジョンに潜ろうとしていたそうだ。


 俺はそこまで聞いて、そうかと頷く。

 そして、それでと呟いた。


 それで、お前はどうなんだ?

 アキヒロじゃない、サトルの方だ。

 お前はどうして探索者になろうとしたんだ?

 友達のため?そんな綺麗事はいらないんだよ!お前は何で探索者になりたいんだ!本当のことを言え!


 サトルは口ごもり、そして意を結したように吠えた。


「俺……俺!モテたいんです!探索者になればモテるって聞きました!俺、俺、こんなんだから今まで好きになった人にフラれてばかりで、悔しくて、悔しくて……ごめんアキヒロ!俺、お前を言い訳にしてた!ごめん!」


 本音を曝け出したサトルは、アキヒロに頭を下げて、自身の下世話な欲望のために利用しようとした事を謝罪する。

 俺はうんうんと頷きながら満足すると、サトルに話しかける。


 おい、親から探索者になる許可は取ってるのか?



 ダンジョン1階〜10階


 二人を連れて、ダンジョン1階から10階を目指して探索している。

 アキヒロもサトルも武器を持っていなかったので、使わなくなったロングソードを渡している。


 大丈夫、新品同様だから。

 少ししか血は吸ってないから(俺の)。

 金は気にすんな、どうせ使わないからやるよ。


 二人は慣れない武器を振り回して、モンスターを倒して行く。素人同然の動きだが、よく狙って突けば倒せるモンスターも多いので何とか倒せている。



 今回、二人の指導をしようと思ったのは、アキヒロの存在……ではなく、サトルの存在が大きい。


 アキヒロの家庭は大変そうだが、だからなんだと言った話だ。

 そもそも貧困ならば行政に掛け合って、生活保護を受給すれば良い。

 その為の制度なのだから、活用しない手はない。

 不正に受給する人がいて、マイナスなイメージが付いているかもしれないが、本来はアキヒロのように食うに困るほどの人に支給されるべきものだ。

 対処法は既に国から出されている。

 わざわざ、子供のアキヒロが頑張る必要はない。


 だから、今日帰ったら母親に相談しろとアキヒロには伝えている。

 これで受けないなら、どうしようもない。

 アキヒロに頑張ってくれと、言葉を送るくらいしかしてやれない。



 代わってサトルだが、こいつはシンプルで分かりやすい。

 モテたいから、自分を変えたいから探索者になると宣言している。

 これは、アキヒロのように仕方なくではなく、積極的に行動しなければ出来ない事だ。

 アキヒロをダシに使いはしたが、それでも行動したのだ。

 計画無しのアホだが、個人的には好感が持てる。


 支援はないらしいが、親からの許可も貰っており、あとはギルドに登録する費用をバイトで稼ぐだけだった。

 そこにアキヒロの話があり、ここにいるそうだ。


 カミツキガメが痺れ蛾の鱗粉にやられて動きを止める。

 そこに素早く突きを入れて、痺れ蛾とカミツキガメを倒して行く。


 俺はカミツキガメと痺れ蛾を解体して、ポッタクルーに乗せて行く。

 解体を経験させてやりたいが、それでは日が暮れてしまうので、先を急ぐ。


 探索は順調で、雑談をしながら進んでいる。


 サトルは今、好きな子っているのか?

 おお、いるのかよ。どんな子だ?

 高校の先輩。背が小さくて彼氏持ち?

 ああ、彼氏じゃない。その子も探索者をしてるのか?

 ハーレムの一員!?

 スゲーな、高校生でハーレムかよ、世の中って広いな。

 えっ俺?

 俺はそうだなぁ、最近行けてないけどアズキちゃんとか良かったな、カナミちゃんも可愛かったし、イサミちゃんは胸大きかったし……なんの話だって?

 お前らにはまだ早い店の話だよ。

 なに、同級生だろって?

 バッカ!毛が生えて間もない奴らと一緒にすんな、これでもチ◯毛とは十年来の付き合いだ!

 ん?なんだアキヒロ?

 保育園?妹を迎えに行かないといけない?

 おまっ!そういうのは早く言え!急ぐぞ!


 急ぐとは言っても、モンスターとの戦いは二人に任せている。短い時間に経験を積ませる必要があるので、危ない時しか手は貸さない。

 それ以外では、治癒魔法でこっそりと体力を回復してやってるくらいだ。


 こうしてダンジョン10階のボス部屋にたどり着き、重傷を負いながらも何とか勝利した二人は、スキル玉を手に取り「これが俺の力」とか厨二くさいセリフを吐いていた。



 ダンジョンを出た後に武器屋に行ってスキルチェックをしたかったが、それは明日にしよう。

 10階クリアしたから終わりでは、余りにも無責任なので、せめて明日までは付き合ってやろうと思う。



ーーー


美野アキヒロ(15)

レベル 2

《スキル》

雷属性魔法


ーーー


大岩サトル(16)

レベル 2

《スキル》

地属性魔法


ーーー

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