第80話 九十二日目
昨日、ダンジョンから出ると、いつか見た男子高校生と女子高校生がいた。
こんな所に突っ立ってどうしたんだろうなと素通りすると、男子高校生が俺に向かって無視すんなと怒って迫って来た。
いや、誰だよお前、名前も知らん奴なんて無視以外に何をしたらいいんだよ?
そう伝えると、しらばっくれる気かと激昂して来る。
本当に知らないと、逆に俺が何をやったんだと尋ねると、今度は口籠った。
その様子を見ていた女子高生が「カズヤ、気のせいじゃないの?」と心配そうにしている。
どうやら男子高校生の名前はカズヤと言うらしい。
そのカズヤはというと「間違いない、魔力の匂いがコイツのものだ」と人の体臭を指摘するような内容を呟いている。
え!?俺臭いの!?毎日シャワー浴びてるよ。
マジかよ、自分の匂いは自分では分からないって言うからな……。
柔軟剤も良いやつ使ってるんだけどな、体臭は誤魔化せないのか。
ちょっと匂ってみてくんね?
そう言って女子高生に近付くと、カズヤが間に割り込んで来る。
何だよ、お前が確かめてくれるのかよ。
一歩迫ると、カズヤも一歩下がって女子高生を守ろうとする。
更にカズヤに近付くと、顔を顰めて一言。
「臭い」
俺は心に傷を負った。
嘘でも良い匂いって言ってほしかった。
男に言われても嬉しくはないが、まだ救われたから。
落ち込んだ俺を見て困惑しているカズヤ。
カズヤはフォローのつもりか、ダンジョンから出て来たんだろ、汗かいてたらそりゃ少しは臭うってと励ましてくれた。
あのなカズヤよ、俺、汗かいてないんだ。
だって魔法の練習しかしてないからな。
女子高生は優しく香水を渡してくれた。
これ残り少ないけどと言って、そっと差し出してくれた。
俺は、ありがとうとお礼を言って香水を受け取る。
講座を邪魔する迷惑な奴だと思っていたが、案外良い奴らなのかもしれない。
俺はカズヤに石を飛ばして悪かったなと謝って、その場を後にしようとした。
しようとしたのだが、いきなりカズヤがやっぱりお前じゃねーか!と激昂して胸ぐらを掴んできた。
どうやら、魔法の講座でやれやれを邪魔された上に、恥をかかされた事が気に食わなかったようで、俺を追っていたらしい。
だからすまんって謝ってんじゃん。
ふざけんなって言われても、あの時はマジで邪魔だったからな。
考えてもみろよ、金出して貴重な時間を割いて、価値のある話を聞きに来たってのに、どっかのバカが遮ったらどう思うよ?
そうだろ、そんなの関係ないって思うよな。
……ん?
すまん、なんだって?
「俺のアピールを邪魔しやがって!これで仲間が集まらなかったらお前のせいだからな!!」
ちょちょ、すまん。マジで意味が分からん。落ち着いて説明を求む。出来たらそっちの女の子から。
熱くなっているカズヤからは、話が聞けそうもないので女子高生にお願いする。
なんでも、探索者を始めるに当たり仲間を募集しているそうなのだが、カズヤが求める人材が集まらないらしい。
ギルドに仲間を紹介してもらった事もあるが、カズヤの基準に達していなかったせいで、喧嘩になり別れてしまったそうな。
そのカズヤの判断基準なのだが、魔法スキルを持っているか否か。
数の少ない魔法スキル持ちでパーティを固めるのは難しそうだが、どうしてそんなに拘るのか尋ねると、ダンジョンは魔法スキルがないと攻略は不可能なのだそうだ。
そりゃどこ情報だと聞くと、それは秘密だと上から目線で言われたのでイラッとした。
じゃあ、何処だったら魔法スキルを持った人が集まるのか考える。その結果、魔法講座ならば魔法を学ぶ場なので、魔法を使う人も集まるだろうと結論を出した。
そして、カズヤが行おうとしたパフォーマンスは、講師を圧倒する実力を見せつければ、自然と人は集まるだろうと狙って行ったそうだ。
因みに女子高生は、普通に声かけをすると思っていたらしく、カズヤの奇行に困惑していたらしい。
ここまで聞いて俺はカズヤの肩に手を置く。そして…
「お前、バカだろ」
心の底からそう思った。
カズヤは行動力のあるバカだ。
ハマれば果てしなく成功しそうなバカだが、周囲が見えないバカは成功しない。
少なくとも今は、カリスマ性があるようには見えないしな。
俺も自分が賢いとは思わないが、カズヤの方法が間違っているくらい分かる。
せめて仲間の女子高生に相談するべきだったのに、それもしていないようだ。
それについて確認すると、
「あの、私、カズヤの仲間じゃないですよ」
……ん?
待ってくれ、情報量が多すぎる。俺の頭じゃ理解できない。
じゃあ、どうしてカズヤといるんだ?
てか、カズヤも驚いてるぞ。
俺に肩を掴まれたカズヤは、口をあんぐりとさせて驚いている。
そうだろうな、一緒にいるんなら仲間だって思うよな。
女子高生曰く、最近様子がおかしくなったカズヤを心配して、カズヤの両親が幼馴染の女子高生に様子を見てくれないかとお願いしたらしい。
人の良い女子高生は、昔からお世話になっているカズヤの両親のお願いを断りきれずに引き受けたらしく、ここまで付いて来たそうだ。
探索者になったのも、カズヤの両親がお金を出してくれたからだそうで、そうでなければ探索者なんてやってないらしい。
ついでに、そろそろ部活に集中したいので、探索者を辞めるそうだ。
俺はカズヤの方を見れなかった。
何故なら肩に置いてる手から震えるのを感じたから。
肩からそっと手を離した。
仲間を探すつもりが、仲間を失うハメになるとは。
そもそも仲間ではなかったのだが、仲間と思い込んでいた今のカズヤの心情は想像も出来ない。
仲間を失うどころか、最初から一人だったのだ。
辛いだろうな……ん?
俺もじゃね?
いやいや、来月には俺もパーティに加わる予定だから。違うから、カズヤとは違うから、一人じゃないから大丈夫だって。
なんだが心がざわつくが、動かなくなってしまったカズヤを残して、そっとその場を後にした。
ダンジョン21階
そして今日だが、ポッタクルーの掃除をしている。
試しに、腐らないような物を入れて運搬しているが、使っている以上、少なからず汚れるし埃も溜まる。
なかを箒で掃いて、雑巾で拭き上げる。
外側も雑巾で拭き上げピカピカにしていく。
ホント株式会社の社名とロゴマークが大きく表示されており、このポッタクルーがホント株式会社製の物だと一目で分かる仕様になっている。
一月経過すれば返却しないといけないので、預かり物である以上、少しは綺麗にしておかないといけないだろう。
近くを探索者達が通り過ぎて行くが、決まってこれなんですかと問われる。
一応、全てに対応しているが、いい加減面倒になってきた。同じ言葉を繰り返し喋るのは辛いものがある。
なので立て看板を設置して《商品名 ポッタクルー(自動ポーター) 問い合わせ先 ホント株式会社 電話番号0120−×××−××××》と記載しておく。
なんだか、自動車の展示会みたいになってしまったが、まあ問題はあるまい。
通り過ぎる探索者も看板をスマホで撮っているので、俺が対応する必要もなくなった。
ふうと掃除を終えると、ゴンゴンとポッタクルーが衝撃で震える。
なんだなんだと反対側に回ってみると、一体のオークがポッタクルーを叩いていた。
おいおい何やってんだよ!
綺麗にしたばかりなんだぞ!!
え、通行の邪魔?
えっと……はい、すいません。
ポッタクルーはどうやら通行の妨げになっていたようだ。
他の人達からは何も言われなかったので気付かなかったが、体の大きなオークでは、道が狭過ぎたのだろう。
周囲に目を向けてないのは俺も同じだったようだ。
これじゃ、カズヤに偉そうなこと言えないなと反省する。
俺はオークに謝って、急いでポッタクルーを移動させた。
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