第77話 八十一日目〜八十九日目

 今日からまた泊まりがけで、ダンジョン探索に挑もうと思う。

 前回の探索は思っていた以上に時間が掛かったのもあり、用意していた食料が底を突いてしまった。

 一応、日程は決めているつもりだが、思い掛けないトラブルに遭遇すれば予定は簡単に狂う。

 前回は多くのモンスターに追われたせいで、二日間ほど延びてしまった。それに、帰りの計算が甘かったのも原因の一つだろう。


 行きと同じ日数、帰りにも掛かると想定して準備した方が良さそうだ。

 行きは宝箱がないか確認しながら進むので、歩みは若干遅めだが、帰りはモンスター以外に注意を払わずに進んでいる。

 進む道が違えば、それもまた変わるのだが、帰り道でわざわざ別の道は選んだりしない。


 とりあえず今回は、十日分の食料を準備して行こうと考えている。ポーションやマジックポーションは昨日のうちに購入しているので、午前中はひたすらに料理して、午後からダンジョンに潜るとしよう。



 ダンジョン23階


 ダンジョン近くに到着すると、収納空間からポッタクルーを取り出しポータルに向かう。

 ポッタクルーの中にはテントや毛布、着替え、野営用の道具などを入れており重量としてはそこまでない。食料や水、薬品類は腐ったり割れても困るので収納空間に入れている。


 ポッタクルーを連れていると、相変わらずスマホを向けられるのだが、そんなに邪魔だろうか。それなりに広い道を進んでいるつもりなのだが、まだ配慮が足りないようだ。


 この探索が終わったら愛さんに連絡して、ポッタクルーを小型化した方がいいと伝えておこう。

 もし小型化に成功すれば、荷物が乗せられなくなって、ポッタクルーの存在意義が失われてしまうかもしれないがな。



 前回キャンプした場所に到着すると、ポッタクルーに停止を命じる。

 待機状態となったポッタクルーの中からテントを取り出すと、早速組み立てて行く。

 テントは手入れしたばかりなので、カビ臭さとかは無い。


 テントを組み立て終わると、いつも通り生まれた姿に戻り川に向かって飛び込んだ。

 今回は着地点にグリーンスライムはおらず、何も気にする必要はない。そして川に潜り汗と埃を落とそうとすると、川底に夥しい数のグリーンスライムが蠢いているのが見えた。


 ぞっとした俺は急いで上がって、川から距離を取る。

 上から見ると、川底が緑色に染まっていた。


 襲って来る気配は無い。

 敵意のようなものも感じない。

 その数に恐怖を抱いて、嫌な予感がした。

 そう、それだけだった。



 ダンジョン25階


 あの後、グリーンスライムは襲って来たりはしなかったが、朝起きるとあの数のグリーンスライムの姿は無くなっており、いつも通り日向ぼっこしている個体がいるくらいになっていた。


 昨日のアレはなんだったんだろうと、少しだけ悩む。

 だが以前にも、オークに子供が産まれるといった生命の神秘を見せられたのだ。グリーンスライムも集まる事くらいあるさと、無理矢理結論付けて考えるのをやめた。



 トレントとインプが姿を現す。

 この二種のモンスターはコンビで現れる事が多く、接近戦のトレント、遠距離からのインプの魔法。そのどちらも厄介なものである。


 トレントの枝を切り落としていると、インプから石矢の魔法が放たれる。

 それを伏せてやり過ごすと、今度はこちらの番と魔力を練り上げて魔法陣を展開する。


 この魔法陣は火を発生させる効果を持ち、魔力の消費量に応じて火力を上げる。

 俺はバスケットボール大まで火を大きくすると、そのままトレントに向かって放った。


 これが着弾すれば、トレントは燃え上がるはずである。

 しかし、着弾する前にインプの水の魔法によって相殺されてしまう。燃えたらどうなるのか知りたかったが、今回は諦めよう。


 不屈の大剣が唸り、身体強化で動きを向上させると、一撃でトレントを葬り、逃げるインプを追い越してその首を刎ねた。


 可能ならば、属性違いの魔法陣を使った魔法で倒して見たかったが、魔力の減りが凄まじく、連発は無理だ。

 しかも、威力はインプの魔法で簡単に消されてしまう威力である。スキルの有るのと無いのとでは、その威力に雲泥の差がある。

 スキルの無い魔法を使うよりは、スキルに合った魔法陣を選択して使った方が良さそうだ。


 魔力循環を意識して、魔力回復に努める。

 動きながらなので効率は悪いが、25階でのモンスターとのエンカウント率ならば、次の戦いまでに回復は完了するはずだ。


 と思っていたら、横からグリーンスライムが飛んで来た。



 また今日の寝床にしようと洞窟を目指していたのだが、洞窟が見当たらない。

 この前まであったはずの場所から、洞窟は無くなっており、代わりに何も無い広場があった。


 最初は道を間違えたのかとも思ったが、俺の勘がここだと告げている。空間把握で感じていた物が、洞窟を除いてピッタリと一致しているのだ。

 だからこそ、場所はここで間違いないはずだ。


 ダンジョンだからって、ホイホイ地形を変えるのやめてくれないかな、なんて思いながら今晩食べる物を温めていく。

 テントはポッタクルーから取り出して設置済みだ。


 晩御飯を食べ終わると、ポッタクルーのケーブルを持って魔力を補給する。座って落ち着いた状況ならば、魔力循環しながら補給も可能だが、やはりダンジョンだとモンスターが来ないか警戒してしまい、上手くいかない。


 幾らスキル並列思考があっても、俺ではやれる事に限界がある。まだ十分に使いこなせていないので、練習する時間を取った方がいいかもしれない。


 まあ、そこら辺は追々考えようと、俺はテントの中に入る。


 夜中に二度ほど襲われたが、問題なかった。



 ダンジョン27階


 26階はとにかくモンスターと出会わないように、駆け抜ける。

 ポッタクルーはこのままだと置き去りにしそうなので、収納空間に入れておく。


 それでもモンスターからは襲われて、トレントのランダム果実だけをもぎ取って他は無視した。


 こうして到着した27階だが、この前の探索で28階に続く階段の位置は分かっている。あとはひたすらに向かうだけだ。


 探索者から貰った地図を頼りに進んで行く、道標となる印を進み、ウッドゴーレムを破壊して歩いて行く。


 そして、行き止まりにたどり着いた。



 これは……迷ったな。




 それから二日間彷徨い続けて、ようやく次の階にたどり着いた。

 迷った原因は至極簡単だった。

 地図を反対に向けていたからだ。


 いやー失敗失敗!


 ……はぁ。




 ダンジョン28階


 本当なら今日で引き返すつもりだったのだが、これだけ迷って成果も無しに帰りたくない。

 せめて、29階に行くための階段の場所くらい知っておきたい。


 俺は小型犬くらいの大きさの蜂、キラービーの毒針を避けると、リーチのある暴君の戦斧で斬り落とす。

 続けて二匹三匹と始末していくが、次から次に現れるのでキリがない。


 キラービー自体はそれほど強くない。

 致死性の猛毒を含んだ針による攻撃と捨て身の体当たり、そして噛み付きの攻撃手段しかなく、毒にさえ気を付けていれば、他はそれほどダメージを負わない。

 ましてや、俺は毒耐性を持っているので、キラービーの猛毒も効かないはずだ。多分。絶対試さないけど。


 実験して失敗すれば、それは死に直結するので絶対に試さない。


 キラービーの恐ろしいのは、その数だ。

 一度に出現する数が異様に多く、少なくとも十匹、多ければ百匹を超える事もある。

 数にものを言わせた攻撃は厄介で、これに連携まで加わると、とてつもなく面倒だ。

 いくら一撃で倒せるモンスターでも、百匹いれば百回振らなければならず、武器だけでは手数が足りない。なので、魔法も使って撃退しているのだが、魔力の消費が激しく連戦は厳しい。魔法陣を使っていないのにだ。


 これに頑丈なウッドゴーレムまで加わると、逃げ出したくなる。


 何か対策を考えなければ。



 という訳で、右手に不屈の大剣、左手に暴君の戦斧を装備した。

 普段両手で使っている武器だけあって、ずっしりと重量が手に掛かって来る。だが、身体強化を使えば軽々と持ち上げる事ができる。


 試しにブンブンと振ってみると、悪くない感触だ。

 使い慣れているのもあり、両方の間合いも正確に把握している。

 これならいけそうだと、確かな感覚を得た。



 キラービー二十匹以上が向かって飛んで来る。

 明らかに俺を餌として狙っている。このわがままボディが余程魅力的らしい。


 俺はキラービーを殺さんと暴君の戦斧を横薙ぎに払う。

 戦斧を横薙ぎにしたせいで体勢が流れるが、勢いを落とす事なく、不屈の大剣を逆手に持ち替えてキラービーを倒すために振り払う。

 更に独楽のように回転してキラービー達を退けると、一匹に狙いを定めて、斬り、突き、横薙ぎにし勢いを落とさず、怒涛の勢いで攻め立てる。


 そして俺が動きを止めると、そこには、一匹も減ってないキラービーの姿があった。



 うん、付け焼き刃の二刀流で倒せるわけない。



 二十匹を超えるキラービーに群がられ、チクチクと針で刺されてしまう。


 痛い!痛い!痛い!!


 痛てーなこんちくしょう!!


 俺は不屈の大剣を手放し、暴君の戦斧を振り回してキラービーを追い払う。

 いつもより動きが鈍く感じるのは、体に毒が回っているからなのかもしれない。だとしたら、今生きているのは毒耐性のおかげだろう。


 治癒魔法を使い体を治療しながら、地属性魔法で砂埃を舞い上る。砂埃を操ってキラービーを捕らえると、動きを阻害して地面に落とす。

 そこに土の杭で串刺しにして一気に全滅させた。



 対策なんて即席で出来るものではない。

 命のやり取りをしているのだ。一戦一戦全力でやるべきだ。

 26階でモンスターの氾濫を相手した時と同じように、魔力の消費なんて考えずにガンガン使っていこう。

 余裕ぶっこいてたら、簡単に死ぬ。実際、毒耐性が効いていなかったら死んでいた。

 モンスターも殺しに来ているんだ。こっちもそれ相応の覚悟を以て応じなければならない。


 再度、命のやり取りをしているのだと覚悟して立ち上がると、俺は探索を再開した。



 探索を再開して数時間、この間に四度モンスターと遭遇したが、覚悟を決めてからのモンスターとの戦いは危なげなく終わる。


 そして到着した先には、三階建の建物くらいの大きさの丸いキラービーの巣があった。


 最初はこれが何か分からなかったので、不用意に近付いてしまったが、キラービーの巣だと分かると腰が怯んだ。

 しかし、この巣からは生物の気配を感じない。

 恐る恐る近付き、巣の表面に触れてトレースすると、中は殆ど空になっており、一部だけに何かが溜まっているのが分かった。


 そこにあるのは何だろうなと気になったので、不屈の大剣で巣を破壊しながら中に侵入した。

 巣には丸い空洞があったが、俺サイズのビッグな男になると、とてもではないが入れない。だから破壊するのも仕方ないのだ。


 何かが溜まっている場所に近付くにつれて、甘い香りが漂い始める。

 到着した先ではキラービーの蜂蜜が残されていた。

 俺は少しだけ期待する。

 これは女王蟻の蜜と同様か、それに類似した物ではないかと。


 俺は期待を胸に、蜜を指に付けて舐めてみる。


 甘い! だが、女王蟻の蜜には程遠い。


 残念ながら、ただの凄く美味しい蜂蜜のようだ。

 かなりの量あるが、出来るだけ回収しようと空の容器に次々と入れて行く。

 結局、全てを回収する事は出来なかったが、それでも50ℓは持って帰れそうなので良しとしよう。


 回収した蜂蜜を収納空間に入れると、今日はここに泊まろうと空間を広げてテントを張る。ポッタクルーで開けた穴を埋めると、安心して眠る事が出来そうだ。



 今回の探索では、29階に続く階段は発見できなかったが、そろそろ帰らないと食料も水も心許なくなっている。

 まだ探索六日目ではあるのだが、帰りに三日は使うと考えると、ここらが潮時だろう。

 食料も十日分しか用意していないからな。


 テントを回収してポッタクルーを起動しようとすると、何故かポッタクルーは動かなかった。


 まさか壊れたのか!と焦ったが、ただ魔力を補給してないだけだった。


 魔力の補給も終わりキラービーの巣から出ると、そこには他の探索者の姿があった。


 あ、えっと、おはようございます。

 えーと、どうなさいました?

 ああ、この大きいのですか? 

 これ、自動ポーターっていう自動で後に付いて来てくれる台車みたいなもんです。

 売ってるのかって?

 さあ、ホント株式会社から使ってみてくれって頼まれただけなんで、欲しかったら問い合わせてみて下さい。

 重量? えっと、2トン位はいけたはずです。

 もういいですかね?

 ん?中の蜂蜜? あれなら、まだ結構残ってましたよ。

 はい、良い探索を。


 いきなりの探索者との遭遇に焦ったが、無用な争いにならなくて良かった。

 どうやら彼らの目的は蜂蜜のようだ。

 まだ半分は残っていたから、量は問題ないはずだ。


 彼らは巣の中に入って行くのを見届けると、俺は足早にこの場を去った。

 お前の持ってる蜂蜜寄越せと言われないためだ。

 被害妄想が過ぎるって?

 馬鹿野郎、念には念を入れるんだよ。盗賊だっているんだ、警戒はしないとな。



 何事もなければそれで良し、何かあれば蹴散らすだけ。


 そんな事考えてたら、先ほどの探索者達が追いかけて来た。


 ほら、やっぱりこうなった。

 この探索者達は盗賊で、俺から巻き上げようとしてるに違いない。そう残念に思いながら武器を手に取ると、走って来る探索者達は手を振って早く逃げろと言って来る。


 何なんだと訝しげに見ていると、探索者達の背後から大量のキラービーが迫って来ていた。



 こりゃあかん!?


 俺は探索者達を置いて、誰よりも早く逃げ出した。




 ダンジョン23階


 二日前にキラービーから誰よりも早く逃げ出した俺は、27階で休憩していると、キラービーに追われていた探索者達が合流して来た。


 文句の一つでも言われるのかと思ったが、逃げ足速いなと笑顔で感心された。

 もしかしたら皮肉だったのかもしれないが、疲れた表情の彼らに何かを言う気にはならなかった。


 落ち着いた彼らは、どうしてキラービーに追いかけられたのか教えてくれた。


 何でも蜂蜜を全て回収したら、底に生きている蛹がいたらしく、エイリアンよろしく悲鳴のような鳴き声を上げられたそうな。すると周囲からキラービーの大群が集まって来たらしい。


 そりゃ怖いな、全部回収しなくてよかった。

 そうじゃなかったら、一人であの数のキラービーを相手にしなくちゃいけなかった。


 俺はしみじみとそう思い、助かって良かったですねと言っておいた。


 彼らはキラービーに追われたせいで、予定の半分も持ち帰れなかったそうだ。この量じゃ百万円にもならないなと、10ℓの容器を眺めて言っていた。


 ……それだけで百万円?


 聞き捨てならないワードを聞いて、食い気味に尋ねると、キラービーの蜂蜜はマジックポーションの材料にもなっており、富裕層にも愛好家がいる代物なのだそうだ。


 今回の探索は勝利を確信した瞬間だった。



 そして今日は23階の川辺で一泊する予定だ。

 既に日も落ち始めており、直ぐにでもキャンプの準備を始めた方が良さそうだ。


 川を覗いてみると、来る時に見たグリーンスライムの姿はなく、いつもの綺麗な川に戻っていた。

 これでいつも通り水浴び出来るなと装備を外そうとすると、世界が切り替わった。


 この前は夜になったが、今回は昼間の明るさだ。

 俺はため息を吐くと不屈の大剣を持って、兜のフェイスガードを下ろした。


 川の方から圧倒的な存在感が現れる。

 見上げるほどに巨大な緑色のマリモが、川の中から這い出て来た。


 マリモから一本のうねうねとした触手が生えると、鞭をしならせヒュッと音と共に襲って来る。

 俺は高くジャンプして避けると、その鞭はポッタクルーに直撃して離れた場所まで弾き飛ばされてしまった。


 おぅ、ポッタクルーの存在を完全に忘れていた。

 これで壊れたりしたら、弁償とか言わないよな?


 言わなきゃ分からないよな、そうだ、黙ってよう。


 俺は続く触手を避け、更に来る触手を不屈の大剣で斬り落とす。すると、切り離された触手はグリーンスライムへと姿を変えて、そそくさと巨大なマリモに合流した。


 まあ、分かってはいたが、この巨大なマリモはグリーンスライムらしい。


 巨大なグリーンスライムの中央には、核と思われるバスケットボール大の球体があり、以前戦ったスライムとは違い、移動している気配はない。


 無数の触手がグリーンスライムから生える。

 ああ、これは嫌だなと思い急いで移動を始めると、一斉に触手が放たれた。


 空間把握を最大限まで広げ、身体強化を施し、見切りで触手の動きを見極める。

 そして、熊谷さんの動き、足捌きを意識して無数の触手を避けていく。

 避けて避けて、避け切れないものは不屈の大剣で刈り取る。触手が集まり、頭上から面で攻撃してくるが、頑強の魔法陣を展開して、地属性魔法でシェルターのように石の殻に篭る。


 巨大な衝撃は石の殻にヒビを作り、二度、三度と叩き付けて破壊する。

 しかし、そこに俺はいない。

 地属性魔法で急いで穴を掘って、別の場所に移動したのだ。まるでモグラになったようで、貴重な体験だったと思う。


 そして、その移動した先は巨大なグリーンスライムの近く。

 姿を現すと同時に、勢い良く巨大な体に刃を突き立てた。


 ー-くっそ硬い!?


 異常なまでに硬いグリーンスライムの体表に、刃が半分も通らない。

 触手で伸びた箇所はそうでもないが、体の奥、核に近ければ近いほど硬くなっているのかもしれない。


 だとしたら厄介この上ない。

 地道に触手を切り離して体積を減らそうにも、一個体のグリーンスライムに戻り、巨大なグリーンスライムに合流する。しかも、個体のグリーンスライムには核が見当たらなかった。

 どういう仕組みになっているのか分からないが、とにかく核を破壊しなければ終わりそうもない。


 悪態を吐きそうになるのを押さえて、俺は大剣を握り直した。





 なんでこうも死にかけているのだろう。

 バッキバキに折れた骨を治癒魔法で治療しつつ、砕けた核と消えていく緑の体を見て、終わったのだと安堵する。


 巨大なグリーンスライムの倒し方を考えながら、触手を捌いていたら、切った触手を一定時間切り離していると、自然に消滅する事が分かった。更に細かく切り取っても消滅するのが判明する。


 これで勝てると、時間は掛かるが倒せると確信を持って触手を斬りまくり、土の壁で隔離して消滅させる。

 それをひたすら繰り返しているのだが、巨大なグリーンスライムが小さくなっている気配はなかった。


 まだまだ時間が掛かりそうだなと気合を入れ直すと、見てしまったのだ。


 向こう岸で待機している大量のグリーンスライムを。


 消費した側から巨大なグリーンスライムに飛び込んで、その一部となっているのを見てしまった。



 それ反則じゃない……。


 これまでの行動が無駄と知り、心が折れそうになる。そして、ふざけんなよと怒りが湧いて来た。


 グリーンスライムの追撃を避けて距離を取ると、魔法陣を二つ展開する。

 展開する魔法陣は『爆破』と『分裂』以前26階で大爆発を起こした魔法である。

 石の槍を作り出し、グリーンスライムの核目掛けて破壊の魔法を放った。


 空気を切り裂く音が一瞬鳴ると、幾つもの石槍がグリーンスライムに突き刺さり、そして大爆発が起こる。


 俺はマジックポーションを飲み干すと、巨大なグリーンスライムに向かって走り出す。


 グリーンスライムは高い魔法耐性を持っている。

 無傷ではないだろうが、あの魔法でも倒せるとも思えない。

 そして案の定、巨大なグリーンスライムはそこに存在していた。ただし、その体は大きく削られており、核と僅かばかりの体が残されているだけだった。


 速度上昇の魔法陣を展開する。

 そこから放たれるのは魔法ではなく、俺。


「リミットブレイク」


 身体強化を強く施し、魔法陣をカタパルトにしてグリーンスライム目掛けて飛んだ。


 必ず破壊する。

 そう心に決めて不屈の大剣を振るう。


 不屈の大剣がグリーンスライムの残った体を斬り裂き、核と衝突する。

 衝突した衝撃で、体が軋み凄まじい痛みが走るが、歯を食いしばって耐えて力を更に込める。

 込めて込めて、歯から血が出るほど食いしばって力の限り振り抜いた。


 確かな手応えがあり、グリーンスライムを超えて向こう岸に体を打ち付ける。

 受け身もろくに取れずに無様に転がり、今に至るのだ。



 上手くいってよかった。

 スキル頑丈を信じての特攻だったので、もし持っていなかったら俺の体は今頃バラバラになっていたかもしれない。


 魔力循環で魔力を回復しながら、治癒魔法で治療していると、一匹のグリーンスライムがヒョコヒョコと近寄って来る。

 そのグリーンスライムの上にはスキル玉が乗っており、そのスキル玉を俺の手に乗せると、そのままどこかに行ってしまった。


 何だったんだろうなと、スキル玉が手の中に消えていくのを見届ける。

 そして世界が切り替わり、さっきまで明るかったのが、すっかり暗くなっていた。


 あー疲れた。


 満天の星を眺めながら、俺は眠りについた。




ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 20

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力)

《装備》 

俊敏の腕輪 神鳥の靴 不屈の大剣 暴君の戦斧 守護の首飾り 魔鏡の鎧

《状態》 

デブ(各能力増強)


ーーー

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