第74話 七十八日目

 朝からオエッと二日酔いの頭を抱えてトイレに向かう。


 昨日、居酒屋で飲んでいると時間も遅くなり、帰りの電車が無くなってしまったのだ。

 近くのカラオケ店で時間を潰すか、ホテルにでも行こうとなり、何故かラ◯ホに行くことになった。


 正直、ラ◯ホに入るのは初めてだったので緊張したが、慣れた手つきの東風と浅野兄弟が部屋を決めてくれた。


 コイツらスゲーなと、経験の差を感じさせる一幕を見た気がした。と思ったのだが、調千里が顔を真っ赤にしており、二条瑠璃もオドオドとして、調 元は半分寝ていた。


 千里によく来るのか聞くと、初めて来たわよ!と無茶苦茶キレられた。


 一応、東風達に本当にここで良いのか聞くと、外観はラ◯ホだが、内装は一般のホテルに改装しているらしく、最上階は大人数で遊べる作りになっているそうだ。

 外観や入店システムを変えていないので、そういう目的で使う人は未だに多いそうだが。


 へーそうなんだと納得したが、女性もいるのに外観がラ○ホをチョイスするのはどうなんだと尋ねると、俺がダンジョンでヤッてる奴等の話をしたので、ここを思い出したそうだ。

 それ以前に、このホテルの話をしたとき、女性陣も行きたいと言っていたらしい。


 俺は女性陣方を向くと、二人からそっぽ向かれた。

 なんだよ、お前らも興味深々じゃん。

 まあ、俺もだけどな。


 そして最上階の部屋に到着すると、酒が一式揃っており、ダーツやカラオケも設置されている。果ては三角木馬や拘束器具まで置いてあった。


 何に使うんだ?

 明らかな異物があるのに、何でもないように振る舞う東風達を見て、本当にここで大丈夫なのか心配になる。


 改めて東風に尋ねる。


「大丈夫ですよ田中さん。俺たち何回もここに来てますから。あー勘違いしないで下さいね、男連中だけですよ。瑠璃と千里は今日初めて来ましたんで、変な事はないです。あくまで男だけです……今、そっちの方がヤバいって思いました? 俺もですよ!たっははははー!」


 完全に酔いが回っているのか、東風は上機嫌だ。かなりうざい。


 立地がそんなに良くないので、最上階からの眺めといえど、景色は良くない。

 それでも酒を飲み雑談して、ダーツで遊ぶと、それだけで時間は経つ。

 最後は全員酔い潰れてしまい、いつの間にかベッドを使わずに雑魚寝していた。




 トイレから戻ると、未だ全員寝ており、頭が痛いのかウンウンとうなされている。


 俺は自分のこともあり、全体に治癒魔法を掛けると、頭の痛みは消え体調は回復していた。寝てダウンしている奴らも、表情は軽くなっており安らかに眠っている。

 そのあと全員が起きたのは、サラリーマンの通勤時間が終わる頃だった。


 別れを告げて先にホテルを出ると、朝から銭湯に行って酒の臭いを流していく。流石にこの臭いはきつい、朝からして良い臭いではない。

 ホテルでシャワーを浴びても良かったのだが、順番待ちになったので先にホテルを出たのだ。


 湯に浸かって昨日の会話を思い出す。

 東風達の探索は順調らしく、30階に繋がる階段を発見したそうだ。30階に挑戦したところモンスターは数が多く厄介だが、何とか進めれているらしい。

 上手くいけば、次の探索でボス部屋を発見出来そうだと話していた。


 次の探索は20日後と言っていたので、早ければ来月には仲間に加われるかもしれない。


 そう考えるとやる気が出て来た。

 これから帰って寝直そうかと考えていたが、ちょっくらダンジョンで汗を流すとしよう。



 ダンジョン22階


 サイレントコンドルが二羽並んで空から襲って来る。


 俺は魔法陣を展開して石の槍を作り出す。

 展開する魔法陣の効果は『速度上昇』であり、今回はこれだけしか使わない。


 狙いを定めて土の槍を発射すると、甲高い音が一瞬鳴り、同時にサイレントコンドルが羽を散らせて落ちて来るのが見えた。

 サイレントコンドルは二羽とも片翼を失っており、何も出来ずに墜落している。


 よし、上手くいった。

 想像以上の結果に魔法陣の強さを実感する。


 ただしその引き換えに、魔力の消費量がもの凄く多い。

 魔法陣を使用した魔法を連発可能になれば、ダンジョンの攻略は簡単なのだろうが、今使った魔法でも十発放てば魔力不足に陥るだろう。魔力循環を使ったとしても、二、三発増えるのが精々だ。

 ならば、魔法陣の魔法は大技や必殺技のように使った方が良さそうだ。


 そう結論付けると、仕留めたサイレントコンドルを回収するために落下地点に向かう。


 するとそこでは、オークがサイレントコンドルの亡骸を持って帰ろうとしていた。


 ちょっとちょっと!それ俺んだから!

 何持って帰ろうとしてんだよ!?

 泥棒してんじゃねーよ!

 なんだよ、やろうってーのか!!

 ……なに?妊娠中の奥さんが帰りを待っている?

 ……仕方ねーな!

 餞別だ!持って行きな!!


 オークは何度も振り返ってお辞儀をして去って行く。

 生命の神秘は、人もモンスターも変わらないんだなって思った。

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