第72話 七十七日目

 一日かけて大量のモンスターを狩り、二日かけてダンジョンから脱出した。

 昨日までの探索は、これまでの探索で最長の一週間潜っていた。

 食料や水は余裕を持って準備していたが、全てを使い切ってしまった。ポーションなんかも途中で出会った探索者に譲ってしまったので、また購入しなくてはならない。


 大量のモンスターから素材を回収したおかげで、今回の収入はかなりのものになったので、余裕を持って購入できる。あと、川で砂金取りをして集めた金属だが、残念ながら金ではなかった。金に似た魔法金属で、錬金術師が魔道具を作るときに使う材料なのだそうだ。


 あれだけ頑張って集めた金属も、買取価格は五千円だった。ダンジョン14階でも採れる金属らしく、これなら普通に探索してモンスターを狩った方がお金になった。チクショウ。



 まずはショッピングモールにある武器屋に向かうと、装備品にメンテナンスは必要か確認してもらう。不屈の大剣と魔鏡の鎧は整備が必要らしく、それなりの金額を出して整備をお願いした。

 このとき店主から、百万で鎧に付属品取り付けれるがどうする?と聞かれたので、余計なことすんな馬鹿ヤロウと返しておいた。

 このジジイ、俺をいい金蔓か趣味の出資者くらいに見てないか。



 武器屋を出てギルドに向かっていると、東風のパーティメンバーである浅野武あさのたけし二条瑠璃にじょうるりが台車に装備を乗せて歩いていた。


 久しぶりと片手を上げて挨拶すると、あちらも気持ちよく挨拶してくれた。

 この二人はもう直ぐ入籍するらしく、婚約指輪が二人の左手薬指に収まっている。


 東風率いるパーティも昨日ダンジョンから帰還したらしく、今日は道具の整備と夜は打ち上げをするそうだ。

 パーティを組んでいると、こういうのが楽しそうだなと思う。皆でわいわい、ソロの俺では誘われない限り出来ない体験だ。

 無職になってから友達とはめっきり会わなくなった。

 仕事を辞めたと誰にも伝えてないので、連絡し難い。

 どちらにしろ、年末には地元の友達と会う予定もあるので、そろそろ腹を括らなければならない。せめて痩せてからがよかったが、動いているのに痩せる兆候が一切無いので半ば諦めている。



 えっ?俺も行って良いのか?

 前にも言ったけど、そういうのはパーティだけでやるもんじゃないのか?

 同じ面子ばかりじゃ飽きるから来てくれ?

 パーティに入る予定なら問題ないって?

 ……じゃあ、お言葉に甘えて。



 武がいい笑顔で誘ってくれ、瑠璃の方も優しく頷いている。まだ加入すると決まったわけではないが、仲間として扱ってくれてるようで、少しだけ嬉しかった。


 打ち上げ場所と時間を教えてもらい、二人を見送る。


 夫婦か……幸せそうだな。

 嫉妬とかではなく、あの二人を見ると純粋にそう思える。



 ギルドに到着すると、売店でポーションとマジックポーション、その他諸々を購入して行く。

 昨日までの探索は思っていた以上に物資を使ったので、今回は多めに購入する。次回の探索では、更に多く使用すると思われるので、備えておいた方が良いだろう。


 売店での購入を終えてギルドから出ようとすると、麻布先生とばったり出会した。


 麻布先生はどうしてか挙動不審にビクビクしていたが、俺が頭を下げてお礼を言うと驚いた顔をしていた。

 どうかしました?と尋ねると、この前と印象が違ってびっくりしただけのようだった。


 え、この前ですか?

 俺、何かやっちゃいました?

 覚えてないな〜。拳に魔力を込めたくらいですよ、ハハハッ。

 どうしました?そんなに怯えて?


 俺がジッと麻布先生を見ていると、何故か先生は足速に去って行った。



 ダンジョン11階


 探索者が増えているせいか、11階でも採掘する探索者が多くなっている。ほとんどの人が採掘に精を出しているが、一部が他のセイを出していたりする。

 一部を除いた探索者は真面目にやっているのだが、その一部が色んなところで隠れてヤッているせいで、俺が魔法の練習を出来そうな場所が見当たらない。


 いく先々で、影に隠れた人がいるので、下手に魔法を使うと巻き添えにしてしまう可能性がある。


 何かやってますよ的な目印でも立ててくれたら、お構いなく魔法をぶっ放……じゃなくて離れられるのだが、誰もいないと思って見かけると気まずくて仕方ない。



 夜は打ち上げに参加するので、時間は余りかけれない。

 良い場所が見当たらず、今日は諦めて帰ろうかなと思ったとき、どこからか悲鳴が響き渡った。


 なんだろうと、特に興味も無く、一応ゆっくりと悲鳴がした方に向かうと、半裸の男女六人がゴブリンとビックアントに襲われていた。


 あーねと、どうしようもない気分になって見ていると、女が俺の存在に気付いたのか助けを求めて来る。


 面倒だなーと周囲を見回すが、他には誰もおらず、俺以外に助けれる人はいないようだ。


 ゆっくりと近付いて全身血だらけになり、重傷を負っている男から助けて行く。助けてと喚いている女の方は、まだ叫ぶ元気があるから大丈夫だ。

 それから危なそうな奴から順に助けて行き、どうにか全員を生きたまま助ける事が出来た。


 俺は満足してその場から去ろうとすると、また助けてと呼び止められる。

 もう助けただろうと言うが、怪我を負った奴が命の危険らしくポーションを分けて欲しいそうだ。


 なんだか前にも同じ事あったなと思い出していると、連中の内の一人があっと声を出して驚いていた。


 割かし軽傷の女がこちらを指差しており、なに人を指差してんだとイラッとする。

 さっさとその場を去ろうと踵を返すが、待ってポーションの人と言われて立ち止まる。


 なんだよポーションの人って?


 呼び止めた女を見ると、以前助けてもらったと、モンスターを倒してくれたと捲し立てるように言われた。

 そして思い出した。


 コイツ、以前もヤッてるときに襲われた奴だと。


 そして重傷を負っている人物も、この女の彼氏で間違いなかった。


 コイツら前にも襲われたのに学習能力無いのか?それとも大人数なら襲われないとでも思ったのか?


 連中の格好もはだけているのを除いても、まともに探索者をする格好ではない。横に落ちている武器も一人は剣を持っているようだが、他の三本が鉄パイプだ。

 やる気あんのかコイツら?

 いや、ヤル気はあるんだろうが、それじゃ駄目だろう。

 武器も人数分無いし、何しに来たんだ?


 まだ動ける奴らにポーションはどうしたと聞くと、金が勿体無くて買っていないそうだ。


 そうか……じゃあな。


 そう言って去ろうとすると足にしがみ付かれた。

 いやいや、お前らでどうにかしろ。ダンジョンでヤッてるのが悪い。ここはやり部屋じゃないんだよと言ってやると、反省してるから助けてと泣きつかれてしまう。


 腕を切り離してやろうかとも思ったが、このフロアの入り口付近で他の探索者がこちらを見ているので自重する。


 もう埒が明かんとやけになってポーションを人数分渡すと、俺はその場から走り去った。


 こんな風にはなりたくないなぁと心底思い、心が荒んだ気がした。



 この日の打ち上げは、ダンジョンはやり部屋じゃねーと叫んでた気がする。

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