第66話 六十七日目
昨日は東風達とサウナで整って、居酒屋のアルコールで乱れさせた。
ダンジョンが人の手によって作られたなどの東風のダンジョン談義が止まらないが、中々に面白い話だと思う。
やれ、ダンジョンは未来からの警告だの、やれ平行世界からのアプローチだの、やれ種の保存の為だのいろいろな妄想を垂れ流していた。
一緒にいた千里の兄である
そういえばと他のメンバーはいないのか尋ねると、浅野武と婚約者の瑠璃はどこかに出かけており、千里は友達と遊びに行っているらしい。
ふーんとサウナを出ると、かけ湯で汗を流して水風呂に入る。
かけ湯を行って水風呂に入るのがマナーだが、一度でいいから直接入ってみたいものだ。きっと気持ちいいと思う。
整った体で居酒屋に直行して、火照った身体にキンキンのビールを流し込む。
く〜美味い!!
五臓六腑に染み渡るアルコールは、女王蟻の蜜とまた違った美味しさがある。
焼き鳥や枝豆、鉄板焼きなどを摘みどんどんと酒が進んで行く。酔いも程々に回った頃、仲間に入れてもらえないか聞くのを思い出したので、俺もお前らのパーティ入れてくれよ〜とお願いしたら。
「いいっすよ!いいっすよ!こっちはバッチオッケー!」
と了承されたのだが、東風は元と騎士にビンタされて正気を少しだけ取り戻した。
「あー、すいません田中さん。仲間になるの少し待ってもらって良いですか? ああ、田中さんがダメとかじゃないですよ。30階までは今の面子で行きたいってのもあるんです。 それに、他にも加入希望者がいまして、その子にも待ってもらっている状態なんですよ」
申し訳なさそうに説明してくれた。
そうか、それじゃあ仕方ないなと、30階クリアしたらまたお願いするよと伝えて飲みに戻った。
それで今日だが、これからテントを一張り購入しようと思っている。
もう、どの魔法陣が正解か分からん。
テントにどの魔法陣を縫えば良いのかさっぱりである。
これ以上、普通のテントを購入しても資源の無駄に終わってしまう。ならば少々高くても、一張り持っていた方が良いだろう。
もうちょっとサービス出来ませんか?
これまでに二張りも購入してるんですよ〜。
この短期間にですよ、もう常連じゃないですか〜。
えっサービスしてくれるの!?
軍手と靴下?
他にはないの?
これ以上無理。
……また来ます。
テントを速攻で諦めて向かった先は、ダンジョンと同じ頻度で通っているギルドだ。
前回はチラシを出されて撤退してしまったが、肝心の講師の連絡先を聞くのを忘れていた。
俺が建物の中に入ると、受付と目が合った。
もの凄く嫌な顔をしている。
失礼だなと思いつつも、敢えてその受付に向かって行こうと思う。別に嫌がらせではない。ちょっとした悪戯心だ。
あっどうも昨日ぶ……ん?なに?
受付に声を掛けようとすると、女子高生が二人、スマホを持って話し掛けて来た。
二人はなんでも動画で俺の事を見てファンになったらしく、わざわざギルドで待っていたそうだ。
最初、動画と聞いて首を傾げたが、一つだけ心当たりがあった。
10階ボスとの戦闘の動画だ。
愛さんに見せてもらうまで気付かなかったが、凄い反響を呼んでいるらしい。
俺は納得する。
正直あの映像の俺はカッコ良かった。アレならファンが出来てもおかしくない。はずだ。きっと。
二人に握手して下さいとお願いされて、フッと髪をかき上げて右手を差し出す。女子二人も感激してくれてるようで何よりだ。
そうして二人と握手してると、一人がこんな事を言い出した。
「モンスターと仲良くする方法って何ですか?」
……ん?
なにを言ってるんだい?
突然の意味不明な問いに困惑する。
俺が戸惑っていると、女子二人もよく分かっていない様子でスマホの画面を見せて来た。
そこには、ダンジョン21階で、オークとコミュニケーションを取っている大柄な探索者の姿があった。
あー、この子達はもしかして、この探索者と俺を間違えたのかな?
違うよ、違う。これ俺じゃないね。まったくの別人だよ。人違いだな。うん、人違い人違い。
えっ顔が一緒?
よく見て、もっとよく見て。
この画面に映ってるのは本当に俺かい? 大丈夫、怯えなくて良いんだよ。よく見てよく見てよーく見て〜。
そうだろ、違うだろ、分かってくれればいいんだよ。
この動画だって偽物だよー。だってモンスターと人が通じ合えるわけ無いじゃないか。
大丈夫かい?そんなに震えちゃって、何か怖い思いでもしたのかな? 大丈夫だよ。ここには俺がいるからね。
あっちょっと!?
女子二人は、ギルドから走り去ってしまった。
せっかく安心させようと思ったのだが、残念である。
さあ本題だと受付の方に振り返ると、引き攣った表情で引いているような気もするが、だからどうしたという話である。
俺は講師の連絡先を聞かなければならないのだ。
俺は再び受付に向かおうとすると、がっしりとした手に肩を掴まれた。
振り返るとそこには、強者の雰囲気を醸し出した男性探索者がいた。
……あの、何でしょ?
俺、何かやったかなと不安になる。
何もやってないよな、いや、やってるな、流石に自覚はあるわ。
受付への圧とか、女子高生への圧とか、絡んで来た探索者への捌き倒しとか、いろいろと思い当たる節はある。
何か言われるのかと身構えていたが、肩を掴んだ探索者からは困惑した表情をしている。
そして、やっと口を開いたかと思うと「動画の…」とか言い出した。
だから「違います〜!!!」と言って走ってダンジョンに逃げ込んだ。
動画動画うっさいんじゃ!!
ダンジョン21階
なあ聞いてくれよ、俺に似た奴が動画サイトで話題になってるんだ。
フゴ。
フゴじゃないんだよ。いやさ、少し前に俺が活躍した動画が伸びてたんだよ。だから、てっきり俺のファンが出来たもんだとばかり思ってたんだよ。
フゴ。
だからフゴじゃないんだって。真面目に聞いてんのか?俺は本気で悩んでるんだぞ。 ああ、いいよ分かってもらえれば。
フゴ。
お前は優しいな。世界中、お前みたいな奴で溢れてたら平和なのにな。 じゃあ行くよ、またな。
フ…。
鳴り響く銃声。
大きな体の持ち主である隣人は、頭を失ってぐらりと倒れた。
……嘘だろ、おい!おい、起きろよ!またなって言ってただろ!次会う為のまたななんだよ!あの世での再会じゃないんだよー!
倒れた隣人を揺すって起こそうとするが、起き上がる気配はない。当然だ。オークは頭を失っても、生きていける生物ではないのだ。
俺は暴君の戦斧で試し切りせんと立ち上がる。
メンテナンス明けで血を欲している戦斧には、丁度良い相手かもしれない。
そう思い振り返ると、
「なにやってんの?」
魔銃を持った千里が立っていた。
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