第65話 六十六日目

 前回の探索は帰りにも一泊したので、四日間ダンジョンの探索をした事になる。

 今回の収入はそれなりだったが、大剣の破損やマジックポーションの使用、テントの消失もあり収支はトントンといったところだ。


 四日間潜った割にはパッとしない結果だ。


 宝箱から出たアイテムを売ればプラスなのだが、いざという時使えそうなので保留にしている。下手に使用すると犯罪だと買取所の受付に口酸っぱく言われているので、とりあえずは収納空間に封印だ。

 だったら買取所に買い取ってもらえという話だが、買取価格は五十万円と宝箱から出た物としては微妙な値段なので、それなら自分で使用しようと思っている。

 使わないに越した事はないが、念のためである。


 パッとしない結果に終わった理由はまだある。

 武器を失った事で、帰りのモンスターとの戦いは魔法がメインとなり、それほどモンスターと戦えなかった。というか、極力避けていた。

 魔法だけだと、トレントを倒すのに時間が掛かるし、サイレントコンドルに至っては捕まえるのにそれなりの魔力を消費してしまう。

 そんな戦い方で連戦できるわけもなく、戦いは避けたかったのだ。


 まあトントンとは言っても、宝箱からアイテムを手に入れたし、マイナスになっていないので問題無いのだが。



 そういえば、昨日の夜に帰り着いてテントについてネットで調べたところ、制作会社は模倣を警戒して、魔法陣の配列にちょっとした仕掛けを施しているらしく、真似たとしても効果を発揮する事はなく、下手したらモンスターを引き寄せる効果に変わるらしい。だから模倣は絶対止めろと、ネットに書かれていた。


 そして……。


 魔法陣が大量に載せられたページを発見した。


 モニターを破壊しそうになった。




 そして俺は今、ギルドに来ている。

 これはどういう事だと、ネットに載っているような内容を百万円で売り付けるのかと、ちょっとアコギ過ぎやしませんかと、それはもう懇切丁寧に苦情を入れた。

 受付のお姉さんが困った顔をしているが、そんなの関係ないと返金を要求する。


 魔法陣の本は確かに少し曲がっているが、確かに少しシミが付いているが、確かに何度か鍋置きに使ったがまだ大丈夫さ、きっと。


 受付のお姉さんは俺の苦情を聞いて、この本はギルドが取り扱っている物ではないので対応できないと、この本を売り付けた講師と直接話をしてくれと言って来た。


 いやいや、それはないでしょ。

 ギルドの講習に参加して、その中で購入したんだからギルドも噛んでるよねと疑いの目で見てやると、受付は講習のチラシを一枚差し出した。

 そして、下の欄にこう記されていた。


『講習内での売買を禁止する。講習後の売買について発生したトラブルは、探索者協会は一切関与しない』


 俺はぐぬぬぬっと引き下がるしかなかった。

 たとえ見難い場所に書かれていたとしても、しっかりと書かれているのならば、それは確認してない方が悪い。

 それに、このチラシはギルドのそこかしこに貼られていて幾らでも確認するタイミングはあった。つまりは俺の落ち度なのだ。


 俺はチクショーと泣きながらダンジョンに向かった。




 ダンジョン21階


 なあ、聞いてくれよ。

 俺さ、詐欺に遭っちゃったんだ。

 うん、百万円。馬鹿みたいだろ?必死に働いて貯めた金を、何の価値もない本に使っちまったんだぜ。

 笑えよ。笑ってくれよ。

 そしたら俺の気も晴れるからさ。


 横に座ったオークに語りかける。

 彼は、或いは彼女は俺の肩をポンと叩く。まるで元気出せよと言ってくれてるみたいだ。


 そして彼、或いは彼女は口を大きく開けて襲い掛かって来た。


 なにすんじゃボケーーッ!!


 土の杭がオークを貫き、俺のお金へと姿を変えた。


 きっとオークと人間の間には、友情は成り立たないのかもしれないな。

 俺の中には寂しい気持ちと温かくなった懐だけが残り、ダンジョンを後にした。




 ダンジョンの帰りに武器屋に寄って、不屈の大剣と暴君の戦斧を受け取りショッピングモールから出ようとすると、東風達と出会った。


 これからどこ行くのかと尋ねると、サウナに行って飲みに行くそうだ。


 田中さんもどうですかと誘われたので、行こうじゃないかと二つ返事で了承した。



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 18

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環

《装備》 

俊敏の腕輪 神鳥の靴 守護の首飾り 魔鏡の鎧

《状態》 

デブ(各能力増強)


ーーー

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