第64話 六十二日目〜六十五日目

 ダンジョンの攻略をするために朝から準備をする。

 今回の探索期間は前回と同じように三日間を予定しているが、手応えが無いようだったらもう一日くらい延ばすつもりだ。


 前回の荷物ぶち撒けの反省を込めて、荷物をバックパックに詰めて収納空間に入れる。料理も多めに作ったので、今回の探索で無くなることはないだろう。


 準備を終えると電車に乗って武器屋に向かう。

 昨日購入した武器に不満があったので、交換出来ないか交渉しようと思うのだ。

 大剣は問題なかったのだが、双剣が扱いにくい、というかリーチが足りない。オークとの戦いで分かったが、双剣の間合いが短く、大剣や戦斧に慣れた俺ではどうにも距離を誤ってしまうのだ。

 メイン武器ではないので、そんなに気にする必要はないのだが、双剣を扱えるのなら扱ってみたいのだ。


 何故かって?

 だってカッコいいから。


 俺も高速で連撃を繰り出して、オレツエーがしたい。

 切られた自覚もないまま、あの世に送って上げたい。


 だから、リーチ長めの双剣があれば是非とも欲しいのだ。



 こうして到着した武器屋には、千里とそのパーティメンバーである二条瑠璃にじょうるりがいた。


 おう、この前ぶり。どうしたんだよ、お前らも探索か?

 違うのか?準備?千里が無駄に買わないか監視してる?あ〜、無駄遣いするって言ってたな。

 なんだよ、睨むなって、俺?俺はこの武器の交換できないか確認に来たんだ。

 戦斧じゃないのかって?

 はぁ、分かってないな。今の時代は双剣なんだぜ。

 ほら、見てみろ。

 どう、カッコよくない?


 腰にある双剣をシャシャッと引き抜いて構えてみせる。

 我ながら上手くいったと自画自賛するが、二人の反応は微妙なものだった。

 どうやら、二人にはこの良さが分からないようだ。


 二人に東風達は来ていないのかと尋ねると、四人は別に用事があるようで、今回は二人で武器防具のメンテナンスに来ているらしい。

 いつもは、他のメンバーが対応しているそうだが、今回は手の空いている二人が請け負ったようである。


 大変だなと感心していると、このあと食事でも行かないかと誘われる。

 これから探索なので断ろうかと思ったが、時間を確認すると昼食の時間になろうかとしていた。

 まあ、探索前に食事も良いかなと思い、お誘いに乗ることにした。


 なあ、場違いじゃないか?

 俺、こんな高そうなところ初めて来たんだけど。

 大丈夫?ドレスコードとかない?


 やって来たのは、ショッピングモールの近くにあるホテルの最上階。

 夜は夜景を楽しめる高級レストランで、昼は割とリーズナブルに食事が出来るそうだ。

 それでも、高級感溢れる場所に防具服を着た男が来るのは場違い感がある。たとえ、女性二人を連れ添っているとしても、ソワソワしてしまうのは仕方ないだろう。


 二人にも落ち着けと言われるが、追い出されないか心配でキョロキョロと周囲を見てしまう。


 そんな俺を見かねたのか、いろいろと話してくれた。


 ふむふむ。

 ふーん、保育士目指して学校行くのか。

 ん、結婚するの?おめでとう!来年式上げるのか、よかったら呼んでくれ、出来たら女性と近い席でよろしく。


 千里には目標があったようで、来年から保育士の専門学校に行くそうだ。だから、探索者も今年一杯で辞めるらしい。

 瑠璃は同じパーティの浅野武と婚約しているらしく、近いうちに入籍して、来年に挙式をするそうだ。式場もすでに決まっており、少し離れた海沿いにある会場を予約しているそうだ。


 そりゃめでたいと、是非式には呼んでくれと頼んでおく。

 瑠璃の苦笑いが気になるが、了承してくれたのでよしとしよう。


 私には何かないの?


 瑠璃の隣に座る千里が不満そうにしている。


 いや、なにも言うことは……えっと、頑張れよ。


 夢に向かって努力するのに、頑張れというのもおかしな気もするが、それしか言葉は思い浮かばなかった。

 俺の語彙力はこんなものだ。諦めろ。


 そんな俺の言葉に千里は、


「ありがと」


 人を惹きつけるような、とても良い笑顔で応えた。


 千里には笑顔が良く似合うんだなと思った。




 ダンジョン23階


 地属性魔法を使いモンスターを倒して進む。

 オークを何本もの土の杭で串刺しにし、砂埃を操ってサイレントコンドルを捕らえ地面に落とし、剣で止めを刺して命を終わらせる。


 出発がいつもより遅れてしまい、キャンプする川沿いにたどり着いたのは日も傾きかけた頃だった。

 かなり急いで来たおかげで、何とか到着した。

 水は準備しているが、飲み水としても使えるほどに澄んだ川が流れているなら、そちらを活用したい。



 武器屋で新たに購入した剣を地面に置くと、汗を流そうと川にダイブする。すでに恒例となっている一連の動作は割愛するとして、購入した剣について話そう。


 双剣を変更できないか武器屋の店主に確認したところ、使ってないなら良いぞと快く応じてくれた。

 俺は、うん、大丈夫、当たってないから、新品と変わらないと言って双剣を差し出した。

 店主はジーッと双剣を眺めて、まあ良いだろうと許してくれた。


 それで、代わりは何が良いんだと尋ねて来たので、刀身の長い双剣はないかと答えると、双剣はどれも同じ長さだと説明された。


 双剣は小回りの利いた武器であり、敵に接近して手数で押す武器なのだそうだ。片手で扱える重量という制限のある武器の双剣に、重量の増す長さというのは求めるべきではないらしい。

 探索者の身体能力であれば少々重くても扱えるだろうが、それなら大人しく、槍や戦斧などの長物を扱った方が良いと言われてしまった。


 どうしても長い双剣が良いと言うなら、数億円するダンジョン産の双剣を購入したらどうだと勧められる。

 何でもその双剣に魔力を流すと、刀身が自由自在に出現して、長さの調整も魔力量で決まるそうだ。


 それは凄いなと感心して、そんな金あるかと切って捨てた。

 最近は確かに稼いではいるが、億単位で金を使えるほど収入があるわけではない。だから、双剣と変わらないくらいの値段でお願いしたいのだ。


 すると、じゃあ細身の長剣でも使えと投げやりに言われてしまった。


 いいアイデアですやん。

 店主の言葉の通りに長剣二本と変更する。


 店主は、まさか本当に長剣二本を使うと思っていなかったのか口を開けて驚いていた。


 こうして新たに購入した長剣二本だが、今は振り回すことしか出来ないので、練習が必要だ。

 今回の探索では出番は無さそうなので、収納空間に入れてある。



 水浴びを終えると、サクッと装備を整える。

 次にテントを収納空間から取り出して組み立てていく。

 チクチクと魔法陣を刺繍して作った力作である。

 これでモンスターを除けれるか不明だが、参考にしたテントの効果はモンスター除けと耐久力上昇、テント内冷暖房設置という二千万円もするテントだったので結構期待している。


 テントの組み立てが終わり、四隅に杭を打って設置は完了である。


 そして、唐突にグリーンスライムの触手がテントを破壊した。


 ……は?


 テントを破壊したグリーンスライムは一匹だけでなく、周囲から次々と集まって来たかと思うと、まるで親の仇のように壊れたテントを捌き倒してボロボロのビリビリに引き裂き、最後は消化して跡形もなく無くなってしまった。


 多くのグリーンスライムは、まるで仕事が終わったと言わんばかりに、先程までの獰猛さは消え失せ、元の場所に戻って行く。


 何が起こったのか、いまいち理解出来なかった俺は、腹を掻いてふむと頷き収納空間から大剣を取り出した。


「リミットブレイク」




 まるで前回の焼き直しのような状況に、虚脱感が襲う。

 そのまま横になり、ダンジョン内にある星を眺めて、消費した魔力の回復に努める。


 俺が何をしたって言うんじゃい。

 テントの魔法陣を参考にしただけじゃん。

 商売してないからセーフでしょ。


 夜鍋までして作った力作のテントを破壊されて、すっかりやる気が失せてしまった俺は、明日もう帰ろうかなと考える。

 寝具は無事なのだが、テントが無いと前回のように就寝してるときに襲われる心配もある。一応、ホント株式会社印のモンスター除けはあるので大丈夫だとは思うのだが、少しだけ不安なのだ。


 こんな時に一人での探索は不便だなと思う、仲間がいれば交代で見張が出来てゆっくりと休める。探索の効率も上がるだろうし、ワイワイして楽しいかもしれない。

 人付き合いの煩わしさはあるかも知れないが、それを差し引いても仲間がいるという心強さは相当なものだろう。


 誰か仲間に入れてくれないかなと考える。


 まず思い浮かんだのはハーレムパーティだ。

 あいつらには以前誘ってもらったこともあるが、俺が先に行っているというのもあって断ってしまった。それに、あのパーティはアレで完成しているようにも見えるので、俺が入れば余計な混乱を生むかもしれない。だからあのパーティには入れない。


 次に思い浮かんだのは東風率いるパーティだ。

 あのパーティの戦闘は見たことないが、彼らの立ち振る舞いからレベルの高さが窺える。彼らには目標があり、それに向かって行ける強さもある。一応のゴールは30階突破のようだが、その後はどうするか決めていないようだ。

 千里は今年一杯で離脱が確定しており、瑠璃も結婚したらどうするか分からないと言っていた。


 一回、パーティ入れてくれないか頼んでみようかな。


 戦力低下が確定しているなら、その増員は必要だろうし、彼らと酒を酌み交わして分かったがハーレムパーティ同様に良い奴らだ。千里とは最初に諍いはあったが、今日見た感じ、改善されてるような気がする。たぶん。


 うん、今度会ったら打診してみよう。


 俺はそう決めて起き上がると、夕飯を摂って就寝した。




 ダンジョン25階


 トレントの枝による攻撃を避けつつ、インプを狙って土の弾丸を撃つ。インプが水の魔法を放ち、土の弾丸と相殺する。

 舌打ちをして、大剣でトレントの枝を斬り裂きバックステップで距離を取ると、魔力を多めに消費して砂を操る。

 砂はトレントをすり抜け、インプを捕らえようと動くが、それに気付いたインプは空高くに上がり逃げてしまう。


 空に上がったインプは、こちらを見て指差して笑っている。まるで悪戯が成功した子供のようだ。

 だがそんなインプは、横から高速で接近して来たサイレントコンドルに掴まれてどこかに行ってしまった。


 最後に見たインプの表情は、えっ?と可愛らしく驚いていた。


 残ったトレントを始末した俺は、枝に実っていたランダム果実を摘む。


 うん、これはメロンだな。美味い!


 ランダム果実の味に満足しつつ探索を進める。

 昨日はテントを破壊されて探索を止めようかとも思ったが、準備をしている以上、やるべきだなと続行を決断したのだ。それに、東風達にパーティ加入を打診するなら、可能な限り深く潜っていた方が印象も良いだろうという打算もある。


 仲間に加えてくれない可能性も大いにあるが、やっておくに越したことはない。


 今日の寝床を求めて探索するが、そう簡単には見つからない。他の探索者も見かけないし、今進んでいる方向ではないのかもしれない。

 一応、地図は描いているが、どの道をどちらに曲がったとか、別れ道をどちらに進んだとか簡単な物なので、他人が見れば分からないだろう。


 そろそろ今日の寝床も探さないといけないのだが、相変わらず木と道しかない。

 この前は夜間襲われてしまったので、今回は何かしら良い場所を見つけて休みたい。幾ら一晩中戦っても大丈夫な体力があるとはいえ、疲労の蓄積でミスしては命取りになってしまう。だから、少しでもゆっくりと休みたいのだ。


 どこかないかなと探していると、大きめの洞窟を発見した。


 洞窟内を調べると、24階の祠で見たような大きな木の絵が描かれており、何やら読めない文字が書かれていた。


 これは何だろうなと見ていると、入り口の方から気配がして、咄嗟に隠れてしまう。

 そして、洞窟に入って来たのは二体のオークで、何やら絵の前に大量の果実を置くと去って行った。


 御供物?


 そんな疑問は残るが、ここは寝床に丁度良さそうなので今日の野営地としよう。

 モンスター除けを使用して、ぐっすりと就寝した。



 その日は、何やら大きな木の前に立っている夢を見た。



 ダンジョン26階


 昨日の洞窟から一時間ほど進んだ先で、26階に続く階段を発見することができた。

 やっと折り返しだと意気込んで進んだのだが、モンスターが思いのほか多くて、そこから上手く進めないでいた。


 使っている武器がいつもと違うのもあり、前回は一撃で真っ二つに出来ていたトレントが何度も斬り付けないと倒せなくなっている。

 その上、モンスターの出現率が前の階の倍に跳ね上がっており、倒した直後にエンカウントしたりと連戦する事も多くなっていた。


 これもモンスターを倒すのが遅いせいだ。

 こんな状況に陥って、改めて実感する。

 不屈の大剣や暴君の戦斧が、どれだけ優れた武器なのかを。



 戦闘を地属性魔法をメインに切り替える。

 土の杭と弾丸でオークとインプを葬ると、土の刃でトレントの枝を細切れにして、大剣でトレントの本体を叩き折る。

 サイレントコンドルは他のモンスターがやられたのを見て、何処かに去って行ってしまった。


 これはまずい。

 一戦一戦の魔力消費量が多くて、ここらで引き返さないと魔力が持たない。

 マジックポーションが有るにはあるが、一日一回しか使えないアイテムはまだ取っておきたい。使い所を誤れば、メイン武器のない俺ではこの階を生き残れない。


 俺は探索を断念して来た道を引き返していると、道端に宝箱が置いてあった。


 うむ。完全に罠である。

 俺は罠だと分かってはいるが、そんなの関係ないと宝箱を開けた。





 明るかった世界が反転する。


 まだ昼の時間帯のはずなのだが、暗く夜になっていた。

 星空と二つある月だけが世界を照らしている。


 そして突然降り注ぐ大量の氷の矢。


 魔鏡の鎧に盾を出現させて防ぐが、勢いが強く押されるように後退してしまう。


 氷の矢による攻撃が止み、上空を見上げると、こちらを見下ろす羽根の生えた悪魔、デーモンの姿があった。


 デーモンが手を翳すと風の刃が発生し、空を切り裂いて襲い掛かる。風の刃は鎧に触れると途端に霧散して、そよ風へと姿を変える。


 その様子を見ていたデーモンは首を傾げて訝しんでいる。

 直撃したはずの魔法が、想定していた効果を発揮していないからだ。

 どうなっているのか確かめるように、次々と魔法を放ってくる。

 氷の矢に風の刃、石の矢に火の矢で物量を持って圧倒しようとするが、どれも鎧と接触すると霧散する。

 ただ、魔法が触れたときの衝撃はあり、体がふらついてしまうが。


 それをダメージが通ったと思ったのか、デーモンの前に魔法陣が展開され、大きな魔力が動くのを感じ取る。

 これはと思い、盾を頭上に回して受けの体勢を取ると、一瞬の輝きと共に落雷が俺を直撃する。


 駆け抜ける衝撃と体を高温で焼かれる痛みで、体が硬直する。たとえ高い魔法耐性のある魔鏡の鎧でも、落雷クラスの魔法ともなると、ダメージは通るようだ。


 動きの悪くなった首を上に向けると、次を放とうとするデーモンの姿があった。


 これはまずいと急いで治癒魔法を使い回復させ、俺は走り出す。

 雷は高い所に当たるはずだ。

 魔法がそれに該当するかは分からないが、少しでも的を外すために森の中を疾走する。


 落雷が近くの木を焼く。

 それが何度か続き、落雷では倒せないと思ったのか魔力の動きが変わった。


 俺は逃げる脚を止めて、土の弾丸をスナイパーライフルのようにイメージしてデーモンに向かって撃つ。

 こっちだってやられてばかりではない、FPSで鍛えたスナイパーの腕前を見せてやる。


 そう意気込んで放った弾丸は、デーモンの腹に命中する。

 だが、その弾丸はデーモンを貫くことはなく、軽く衝撃を与えただけで、土の弾丸はデーモンの体表で止まっていた。

 魔法耐性があるのは何も鎧だけではなく、モンスターも同じようだ。


 まるで何でもないかのように腹を叩いて砂埃を払うと、今度は魔法陣を二つ展開すると、デーモンが大量の魔力を消費して炎の蛇を作り出した。


 その蛇はまるで意志を持っているかのように動き、俺に向かって飛翔する。


 これはヤバいと必死の思いで逃げるが、炎の蛇は森を焼きながら俺を追って来る。木に燃え移った火は瞬く間に広がり、広範囲の森を焼いて行く。

 このままでは、蛇に焼かれなくても、森に焼かれて死ぬ可能性が出て来た。


 俺はクソッと悪態を吐くと、魔鏡の鎧に盾を出して炎の蛇と対峙する。

 一か八かだった。

 これまで試した事はないので、これがぶっつけ本番だ。


 魔鏡の鎧の特殊効果、反射リフレクトを試すのは。


 空間把握と見切り、魔力操作に意識をおき、並列思考で炎の蛇に集中する。

 失敗しても魔鏡の鎧があるから大丈夫。そう信じて、炎の蛇を待ち構えた。


 接触する瞬間、魔鏡の鎧に魔力を流し反射を発動する。


 炎の勢いが強く、少しばかり炙られたが、治癒魔法を使って瞬時に回復する。

 肝心の炎の蛇はというと、反転して空中にいるデーモンを飲み込まんと大口を開けていた。


 自分の放った魔法にやられろ。

 俺は上手くいったと笑みを浮かべる。

 あれほどの魔法ならば、いくらデーモンといえども無傷では済まないだろう。


 そう思っていた。

 だが、突如として炎の蛇が動きを止め、少し震えると徐々に凍りついて行き、最後は内側から虎の氷像が飛び出して砕いてしまった。


 氷像の虎が地面に降り立ち、こちらに狙いを定める。



 ……次はコレですか?


 再び、追いかけっこが始まるのだった。






 大剣が腹に刺さり地に落ちたデーモンが横で絶命している。


 俺も魔力を使い過ぎたのと、地面に落下した衝撃で体がボロボロだ。



 あの後も、様々な魔法を繰り出して来るデーモンから逃げ回った。全ての魔法を反射できたのなら大して脅威じゃなかったのだが、反射を使用すると魔力をごっそりと持っていかれるので多用出来なかった。


 結果、逃げ回るしかなかったのだが、これじゃいずれ殺されると賭けに出るしかなかった。

 上空にいるデーモンには剣は届かず、魔法に対しても耐性を持っているのでダメージが通らない。ならば、俺が直接上に上がるしかなかった。


 消費した魔力を回復しようと収納空間からマジックポーションを飲み干し、クソマズと悪態を吐いて魔力の回復具合を確かめる。

 体感としては四分の一くらい回復した。

 宝箱から出たマジックポーションでは全快したのだが、市販の物ではこれくらいの効果なのだろう。



 デーモンによる竜巻の魔法をやり過ごすと、俺は勝負を仕掛ける。


 魔力を消費して砂埃を大量に発生させる。

 砂埃はデーモンがいる上空まで届くほどに舞い上がり、視界を塞いだ。

 立っている地面を勢いよく跳ね上げ、俺自身が上空へと上がりデーモンに直接攻撃を仕掛ける。


 デーモンは視界を塞がれたのが嫌だったのか、風の魔法で砂を払うが、そこには既に大剣を構えた俺がいた。


 勢いを落とさずに大剣を振り抜きデーモンを両断せんとするが、デーモンは自身に風の魔法を当てて移動して見せた。

 大剣から逃れるデーモンだが、俺だって軌道くらい変えれる。


 神鳥の靴の特殊能力を使用して、左足で空中を一歩蹴り直角に曲がりデーモンを追いかける。

 デーモンは焦った顔で翼を羽ばたかせ更に上空に逃れるが、右足の一歩で空中を蹴り、ついに追いついた。


 大剣を振り抜きデーモンを斬る。はずだった。


 振り抜いた大剣はデーモンの体を薄く斬るだけに止まり、体の芯まで届かなかったのだ。

 失敗した。

 高い魔法耐性を持っているなら、物理に対しては弱いだろうと思っていた。

 不屈の大剣ならば、その耐性ごと斬り裂けただろうが、今使っているのは、性能の劣る大剣だ。

 俺の腕前がヘタなのもあるが、それでもデーモンには届かない。


 落下する俺を見て、デーモンは勝ち誇った表情を浮かべる。



 ーー舐めるなよ!?



「リミットブレイク」


 空中に残った砂埃を集めて足場を形成する。

 残った魔力はあと僅か、早急に決めなければいけない。


 足場に着地すると、デーモンまでの足場を作り出す。

 瞬時に駆け出し、足場に跳び、デーモンまで加速するように駆けて行く。


 デーモンも魔法を放ち、迎撃を試みるが、そんなものには当たらない。


 加速する俺を捉えられないデーモンは逃げようとするが、既に俺はデーモンの頭上に到着していた。


 デーモンと目が合う。


 最後にドンッと音を鳴らし勢いを付けて落下すると、大剣を突き出してデーモンを串刺しにする。

 そして、落下速度はそのままにデーモンごと地面に叩きつけられた。


 ガハッと血を吐き出すと、全身に走る痛みがまだ生きている事を教えてくれる。

 少し動かすだけでも強い痛みを感じる。

 折れた腕を無理矢理上げると、収納空間からポーションを取り出して口の中に運ぶ。

 本当なら治癒魔法を使いたいが、魔力が枯渇気味で、一度でも使えば気を失って死ぬ恐れもあり使用出来なかった。


 ポーションを二本三本と飲んで回復させると、起き上がれるようになった。

 まだ体は痛むが、今はデーモンを確認するべきだろう。


 大剣に串刺しにされたデーモンは確かに絶命していた。横に落ちたスキル玉がその証拠だろう。


 俺はホッと一息ついて、大剣をデーモンから引き抜く。

 しかし、デーモンに突き刺さった大剣は半ばで折れており、もう使い物にはならなくなっていた。


 仕事を終えた大剣を収納空間に仕舞うと、スキル玉を手に取り、消えて行くのを見届ける。


 今回の探索は、どれだけ武器に恵まれていたのか実感するものになった。デーモンとの戦いに至っては魔鏡の鎧がなければ、落雷を食らった時点で死んでいたかもしれない。

 これまでの探索は、装備に恵まれていたから生き残れたのだと自覚する。

 もう少し地力を上げないと、これからの探索は厳しいかもしれない。これ以上の強敵が相手だと、勝ち目が無さそうだからだ。

 どうやって鍛えるかは追々考えるとして、今は宝箱からアイテムを取ろう。

 

 痛む体を引き摺り宝箱からアイテムを取り出すと、世界が昼間に戻り、焼かれたはずの森も元に戻っていた。



 背後からモンスターの気配を感じ取る。

 痛む体に鞭を打ち、俺は急いで逃げ出すのだった。



ーーー


デーモン(魔法職)(ユニーク)


インプの上位種。魔法職のデーモンで、上空からの魔法による攻撃を耐えるのは至難の業。魔法耐性と物理耐性を持ち、接近しても倒すのは困難である。

《スキル》

魔力増大 魔力操作 魔法耐性 物理耐性(小)


ーーー

ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 18

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環

《装備》 

俊敏の腕輪 神鳥の靴 守護の首飾り 魔鏡の鎧

《状態》 

デブ(各能力増強)


ーーー

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