第63話 六十一日目
数日前から夜鍋して、魔法陣を刺繍したテントがついに完成した。
最初はミシンを使ってやっていたのだが、どうしてか手縫いでやりたくなってしまい、こんなに時間が掛かってしまったのだ。
だが、大変満足している。
自分の手で何かを作り上げるというのは、とても楽しいものだ。
収納空間にテントを放り投げると、少しの仮眠を取って昼頃に家を出る。
これから武器のメンテナンスをしに武器屋に向かうつもりだ。
これまで使って来た不屈の大剣や暴君の戦斧は、その日の終わりには拭いたり武器屋で買った油を塗ったりしてはいたが、明日からの探索に備えて一応診てもらおうと思ったのだ。
「耐久値が下がっとるな。三日は預かるぞ」
武器屋の店主は呆れた様子だ。
ついでに、もっと早く持って来いバカタレと叱られてしまった。
待って!?それは困る!明日から泊まりがけで探索するんだ!
壊れても知らんぞって? それはもっと困る。
どうにかなりませんか!?どちらか片方で良いんです!
どうにもならない?
店の物を買え?
……サービスして下さいね。
こうして購入したのは、これまで数多の主人公が使ってきた双剣……ではなく、使い慣れた大剣を購入した。
散々迷ったが、結局はこれである。
そもそも、俺は双剣を使ったことは無いし、大剣や戦斧もモノマネでしかない。最近は使い慣れて自分なりに動いたりしているが、それでも大人ゴブリンや武人コボルトの動きを超えられないでいる。
俺の戦い方に独自の技術は無く、猿真似とスキルによる力押しでしかない。
そんな状態なのに、新しい武器を持った所で足元を掬われるのがオチである。
あっ、一応双剣も下さい。
はい、カードで。
違う、憧れたとかじゃない。
これは飾る用だ。
双剣を腰に携えてギルドに向かう。
ドヤと見せびらかすようにガチャガチャ鳴らして歩くが、誰もこちらを見もしない。
というか、エントランスを抜けた先に人だかりが出来ており、どうにも前に進めない。受付に用事はないが、せめて売店に向かう道くらい空けておいてほしいものだ。
人だかりの中央ではフラッシュが焚かれており、誰かの声が聞こえて来る。何かのお偉いさんか、芸能人でも来ているのだろう。
そんなの関係ないと無理矢理、売店に向かう道をこじあけて進む。無理矢理通ったせいか、接触した人物が迷惑そうにこちらを見てくる。
違うからな、お前らが邪魔なんだからな。
そう言ってやりたいが、相手が女性だったので頭を下げて通り過ぎた。
女性は不味い。下手すれば逮捕案件である。
売店に到着すると、どうして人集りが出来ていたのか理解した。
ダンジョンを題材にした映画の撮影が、今日終わりを迎えたようだ。最後に出演している俳優と女優があそこで挨拶をしていたらしい。
そう案内のポスターが貼られている。
この映画は、ダンジョンから溢れ出したモンスターに襲われるパニック映画で、主演の俳優が仲間達と共に生き抜くといった内容らしい。
うーん。どこかで聞いたような内容だな。
何か思い出せそうだが、どうしてか頭痛がしてしまい思い出せない。
まあ、大した事ではないだろう。
そう割り切って、昨日使ったポーションを補充してダンジョンに向かった。
ダンジョン21階
試し斬りがてらに、オークを狩りに来ている。
双剣を引き抜き、オークを殺さんと連続で剣を振りまくる。
そして棍棒が俺の体を捉えて、横薙ぎに弾き飛ばされる。
ガハッ!?やるなコイツ!
俺はまるで好敵手を見つけたかのような気分になり、気持ちが高揚している。
自分に治癒魔法を掛けながら剣を振りまくる。
並列思考の使用も上達して来ており、治癒魔法を掛けながらの攻撃が可能になっていた。
ふっ!はっ!うりゃ!とおりゃー!!
その全てがオークには届かずに空を切る。
オークは俺が振る度に一歩ずつ下がって、簡単に避けるのだ。まるで、俺の攻撃を全て見切っているみたいだ。
オークの棍棒が走る。
力任せの振り下ろしを半歩移動して避けると、右の剣で突きを放つ。普段の両手と違い力は上手く伝わっていないが、それでも腹には当たり表面を浅く切り裂く。
そして再度、横薙ぎを食らって弾き飛ばされた。
グッ!?ガハッ! 凄い!コイツは強い。
俺はこのオークに勝てるのだろうか?
不安になった俺は、双剣をしまうと、大剣を取り出して瞬殺した。
……やっぱり大剣だわ。
俺は自分に合った武器を改めて実感した。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 17
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体
《装備》
俊敏の腕輪 神鳥の靴 守護の首飾り 魔鏡の鎧
《状態》
デブ(各能力増強)
ーーー
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