第55話 五十三日目
ふざけんなボケェ!
何がアイツはスゲーだ。何が会社を背負って立つだ。
パワハラ野郎を野放しにしている会社なんかで、働く気なんてこれっぽっちも無いわ!
俺はガーディアンHDに行くと、後藤田部長に退職届をぶつけてきたのだ。すると、後藤田部長が給料は払わんとか言い出したが、労基に通報しますと言えば黙って悔しそうにしていた。
もの凄くスッキリした。
ガーディアンHDでやった仕事は防具の耐久テストくらいだが、それが軽く命の危機だったりする。
オークはダンジョン21階で探索者に軽く狩られているが、強靭な肉体から繰り出される攻撃は、まともに食らえば死んでもおかしくないレベルの威力なのだ。
それを商品の耐久テストのためとはいえ、人に持たせるなんて正気の沙汰ではない。明らかにイカれている。給料だけでは足りない、慰謝料をもらってもいいくらいだ。
それを給料も払わんとか言っていたのだ。
なめとんのか!?
とりあえず労働基準監督署に通報しておこう。
それとあれだ。これまで使っていたガーディアンHD印の装備を全て売り払おう。
そして、五百万円を支払う覚悟で武器屋に来ていた。
はぁ、はぁ、はぁ…。
あっ大丈夫です。ちょっと息苦しくなっちゃって……。
無理はしてないです。はい。
鎧を、俺の鎧をよろしくお願オェ!
うっぷ…今日は冷やかしじゃないです。大丈夫です。
よろしく…お、お願いしますウッ!
俺は五百万円支払い、魔鏡の鎧の調整をお願いするのだが、まさかここまで精神を削られるとは思わなかった。
調整は明日には終わるようで、完了したら連絡してくれるようだ。
そのあと、武器屋の店員にトイレに連れて行ってもらった。
ダンジョン11階
今日はどうしようかと悩んだが、武人コボルトから得た武器、暴君の戦斧を試してみようと思う。
収納空間から取り出した戦斧の長さは2.5mはあり、槍の穂先に大きな斧が付いている。重量もあり振り回すには、しっかりと踏ん張っていないと体勢を崩しそうになる。
イメージするのは武人コボルトの動き。戦斧による強力な攻撃と、超近接での格闘が主体だ。それに加えて、投げや関節技も極めていた。今考えると、まるで対人のために用意されたようなモンスターだった。
投げや関節がモンスターに効くとは思えないので、戦斧の振り方と格闘の動きを真似していく。
武人コボルトの動きをなぞる。
戦斧を振り下ろし、薙ぎ、払い、突く。
動きの合間に蹴りを加え、接近すると掴み引き寄せて膝で蹴り上げる。戦斧の持ち手で殴打し、怯んだ隙に距離を取る。
イメージをさらに強くして、また戦斧を振り下ろす。
繰り返し繰り返し、動きを真似して自分の物にしていく。
その際、どうしても関節技や投げ技が加わってしまうが、それはもう仕方ない。そういう動きも込みで、武人コボルトの武なのだから。
出来るだけ人が近寄らない場所を選んでいるが、偶に探索者が通りこちらを見ている。まあ、気にしても仕方ない。
俺が武器の取り扱いを練習出来るのはダンジョンしかなく、人目を気にしていては戦斧の扱いは上達しない。
使い慣れた不屈の大剣を使い続ければ良いのだが、先日のように無用なトラブルを招くこともある。
暴君の戦斧も似たような物かもしれないが、装飾だけ見れば不屈の大剣よりは目立たないので幾分マシなはずだ。
それでもダメなら諦めよう。
諦めて争いに身を投じよう。
それが自分の身を守る術なのだから仕方ない。
少し離れた所から笑い声が聞こえて来る。
どうやら若い子が、どこかを指差して笑っているようだ。
それがどこかは分からないが、俺は誤って石を跳ね飛ばしてしまい、どこかで馬鹿笑いしている小僧の足元に着弾してしまった。
ああ、すまんね、外してしまった。
もう少し上を狙うつもりだったんだ。
どうしたんだい、そんなに怯えたりして?
大丈夫、怖くないよ。何があったかお兄さんに言ってみな?
ジリジリと距離を詰めて、若者達の相談に乗ってあげようとしたのだが、怯えた表情の若者たちは走り去ってしまった。
若者達の後ろ姿を見ていると、ビックアントが飛び掛かりそうだったので、土の棘で始末しておく。
先達としてサポートしてやらないとな。
満足げに頷くと、俺は戦斧の練習に戻った。
ダンジョンでの練習を終えて帰路に就くと、愛さんから着信が入った。
そう言えば、昨日も着信入ってたなと思い出して電話を取る。
その愛さんからの用件は、明日会社に来てほしいとのことだった。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 17
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体
《装備》
俊敏の腕輪 暴君の戦斧 神鳥の靴 守護の首飾り
《状態》
デブ(各能力増強)
ーーー
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