第54話 幕間7 後編(三森巫世)
ダンジョン17階
スケルトンを相手に新たな武器、防具の感触を確かめていた。
桃山は弓矢をしまうと、片手で扱える短剣を持って一体のスケルトンに攻撃を仕掛ける。
付与術により底上げされた能力で素早く接近すると、スケルトンより鉄棍を振り下ろされる。それを潜るように避けると、スケルトンの重心となっている右足関節部を短剣で破壊し、倒れて来る骨の首を斬り飛ばした。
「うん、いい感じ」
確かな感触に笑みが浮かぶ。
付与術のブーストありきではあるが、十分に接近戦でも戦える。
弓使いは接近されると途端に弱くなるので、その対策手段として短剣を選択したのだが、間違いなかったようだ。
「良さそうだな」
「これで少しは、前衛の負担減らせるかな?」
「ああ、十分だ。 三森さんも考えてくれてるみたいだしね」
コボルトとの戦闘で最も負担となるのは、後衛への直接攻撃だった。モンスターに抜けられる前衛の力不足もあるのだが、後衛の防御手段が九重の魔法だけというのは余りにも心許なく、何らかの抵抗する手段が必要だった。
そのために桃山が選んだのが短剣。そして三森が選んだのは、自身の半分はある盾だった。
「ひいっ!」
スケルトンの剣を盾で受けて踏ん張る。
インパクトの瞬間に若干前に出し、当たると同時に衝撃を和らげるように引く。なんて事が出来たらいいのだが、今日初めて持った三森には難しい注文だった。
ひたすらにスケルトンの攻撃を受け続ける。
振り下ろし、横薙ぎ、突き、連撃を必死に受け止めていた。
三森は桃山のように器用ではないし、努力家でもない。
武器を持とうか考えたが、上手く扱える気がしなかった。
盾を使おうと思い付いた日には、自宅で雑誌に持ち手を付けて受ける練習をしたくらいで、ギルドで行われているタンク講習には参加していない。
それでもスケルトンの攻撃を受け続けられるのは、自身の付与術によるところが大きい。所謂、力技だが、それでも確かな成果が出ていた。
「はぁはぁはぁ」
「そこまでです」
神庭がスケルトンに近寄り、一刀で腰を破壊する。
かなりの時間、スケルトンの攻撃に耐えていた三森は息も絶え絶えで、膝を突きそうになっていた。
「やるじゃない巫世! タンクでもいけるんじゃないの?」
「はぁはぁ……いや…ムリっす」
思っていたよりもずっとキツかった。
日野と神庭はあれだけ動き回っても平気そうだったから、自分もいけると思っていた。
それがどうだろう、攻撃を受ける緊張と盾を動かすだけで、体力がガンガン削られていき、結果として5分くらいしか持たなかった。
「慣れたらまだ上手く防げるようになりますよ。あとは体力をつけると良いですね」
神庭は納刀しながら、三森に課題を出す。
うへぇとしながら、盾を選んだのを後悔する三森だった。
「田中さんって、イレギュラーエンカウントしてるのかな?」
休憩を取ると、今度は採掘を行おうと適当な場所へ移動していた。
歩きながらの話題はもっぱら田中だった。
「少なくとも一回はしているだろうな、じゃないと一人で探索なんて不可能だ」
桃山の疑問にリーダーの日野が答える。
イレギュラーエンカウントとは、一度に大量のモンスターに襲われたり、強力なユニークモンスターに遭遇する事である。
突破するのは困難で、多くの探索者がその命を散らしているイレギュラーエンカウントだが、それをクリアしたときの報酬はとても大きい。
強力な武器や防具。
そして新たなスキルを得ることが出来るのだ。
武器や防具は数千万円〜数億円と途方もない価値があり、新たなスキルは今後の探索において心強い力となる。
それを得ていてもおかしくないほど、田中の実力は高かった。
「何回も遭遇してるってこと? それは無理なんじゃない? いくらなんでも生き残れないよ」
否定的な意見を出すのは九重だ。
モンスターの脅威は、探索者ならば誰もが知っている。
その群れを、ボスモンスターよりも強力なモンスターを一人で倒せるとは思えなかった。
「なにも10階以降で遭遇したとは限りませんよ。 田中さんは1階から一人で潜っていたと言ってましたし、8階より下なら、十分に可能性はあります」
ダンジョン8階は痺れ蛾が出現する階だ。
そこまでにモンスターの群れを相手にするならば、イレギュラーエンカウントをクリア出来ると神庭は判断した。
「うーん、次会った時にでも聞いてみましょう。 あっ宝箱」
三森が指差す先には、四角く大きな宝箱が置いてあった。
通り過ぎようとしたフロアの、ど真ん中に置かれており、まるでたった今出現したかのような気さえしてくる。
「……罠かな?」
「罠っぽいな」
「どうする?やめとく?」
「それは勿体ないですね」
「もったいないです!開けましょう!今すぐ開けましょう!」
最後に意気込んでいるのが三森だ。
宝箱、それはすなわち金の詰まった箱。
初期投資がまだ回収できていない身としては、是非ゲットしておきたい代物だ。
「巫世ちゃん落ち着いて。どうどう、宝箱は逃げないから大丈夫だよー」
「九重、何か魔法のトラップはあるか?」
「何かありそう。 でも解除は無理、どんな罠が設置されているかも分かんない」
宝箱にトラップがある上に解除は不可能。
以前、宝箱の転移トラップに引っ掛かり、メンバーがバラバラにされたのを思い出す。
あれは無知故に起こった事故だった。
だから全員で罠対策の講習を受けて、どのような罠があるのか勉強をした。しかし、そのどれもが一朝一夕では罠解除の技能を習得できるものではなかったのだ。
せいぜい転移のような魔法トラップに、魔力に敏感な九重が反応するくらいだ。
つまりは、安全を優先して宝を諦めるか、リスクを承知で宝を手に入れるかの二択になっていた。
「トウヤ、どうするの?」
この決断をするのは、パーティのリーダーである日野の仕事だ。
パーティの安全を取るか、危険を引き換えに宝を得るかを判断しなければならない。
「……今は止めておこう。 宝箱を開けるのは、罠解除を学んでからでも遅くはないはずだ」
利益よりも安全を優先した日野を誰も責めない。
若干一名は涙を流しているが、日野の判断に異論はない。
だが、何も罠とは宝箱だけにあるものではない。
その周辺にもあるものだ。
これは、講習では少し触れる程度の説明しかされておらず、印象に残っていなかったのだ。
そして、三森が名残惜しそうに一歩近づくと、そのトラップは発動する。
場面が切り替わる。
そう表現するのが適切なほど、先程までいた場所から変わっていた。
出入り口は無くなり、大きなフロアに立っていた。
変わっていないのは中央に位置する宝箱くらいだ。
「なに!?」
「どうしたの!?どうしたの!?」
「落ち着け! なにかいる!」
パニックに陥った九重と三森を一喝すると、前方から何かが歩いて来るのが見えた。
それは、四本腕のスケルトン。
通常のスケルトンよりも一回り大きく、四本の腕にはそれぞれ剣を持っており、騎士のような鎧を身に付けている。
これまでのスケルトンならば、動くたびにカタカタと音が鳴っていたが、四本腕のスケルトンにはそれがない。
誰もが無言のまま、そのスケルトンの動きを注視していた。
「……グレータースケルトン」
神庭がその内スケルトンを見てそう呟く。
明らかにユニークモンスター。
生き残れる可能性が極めて低いイレギュラーエンカウントだ。
「来るぞ!」
日野の掛け声に反応して一斉に構える。
「攻撃力上昇!防御力上昇!素早さ上昇!精神安定!ーーきゃ!?」
三森が付与術を掛けて能力を上昇させていると、グレータースケルトンは一足で距離を詰め、二本の剣を横薙ぎにし前衛の二人を弾き飛ばした。
付与術を中断させられたが、最低限のバフは掛かっており、日野も神庭もグレータースケルトンの攻撃を防御していた。
それでも、弾き飛ばされた衝撃を逃すことは出来ず、地面に転がり受け身を取って立ち上がる。
グレータースケルトンは前衛を排除したことで、後衛の桃山、九重、三森に向かうかと思ったが、三名には目もくれず起き上がった二人に意識が向いていた。
だが、それは見逃すという事ではない。
グレータースケルトンの影が伸びると、そこから三体のスケルトンが這い上がって来た。
カタカタと五月蝿いスケルトンは、後衛の三人を標的に定めると、影から武器を引き抜き襲い掛かる。
日野は格上のモンスターであるグレータースケルトンを前に、落ち着いていた。
三森の付与術による効果なのだろう。
隣を見れば、神庭も同じように落ち着いており、何をするべきか考えていた。
「ーー行こう」
「ええ」
同時に駆け出す日野と神庭。
それを正面から迎え討つグレータースケルトン。
始まる剣戟は火花を散らしながら、段々と激しく苛烈に勢いを増していく。
息をする間もないほどの激しく繰り返される連撃。
人が二人と四本の剣を操る化け物が、互いの技量を確かめるように打ち鳴らしていく。
最初は人も化け物も足を止めた剣戟を行っていた。だが、人であり数に有利な日野と神庭は足を使い、左右に動きながら攻め立てる。
それを煩わしいと思ったのか、グレータースケルトンは体を回転させると同時に剣を振り回し、二人を強制的に引かせた。
「ふうっ……強過ぎない?」
「付与術で強化されてなければ、持ちませんでしたね」
改めて付与術の偉大さを実感する。
ここで、三森巫世という付与術師を仲間に加えていなかったらと思うとゾッとする。きっと何も出来ないまま、グレータースケルトンに殺されていただろうから。
グレータースケルトンは再び構える。
今度はあちらから仕掛けて来るようだ。
「……トウヤさん」
「なに?」
「三十秒稼ぎます。その間に準備をして下さい」
「……危なくなったら加勢する」
パーティのリーダーである日野は動きを止めると、精神を集中させる。
神庭は前に出て、一人でグレータースケルトンを相手にするために対峙する。
グレータースケルトンは神庭を見下ろし威圧するが、その程度では神庭は揺るがない。
距離は剣の届く間合いに入っているが、まだ動かない。
ジリジリと更に距離を詰める。
そして唐突に始まる剣戟。
先程よりも激しく散る火花は、剣速が一段も二段も上がっている。互いに様子見をやめたのだ。
日野率いるパーティの中で最も強いのは、剣技のスキルを持つ神庭だ。
剣による攻守のバランスが良く、本人のセンスと前衛としてモンスターと戦い続けた経験が、その力を育んでいた。
そこに、三森の付与術が加わった事で、格上のモンスターであるグレータースケルトンの剣を受けきれている。
もしも、ここで攻撃に転じようものなら、一瞬で切り刻まれるだろうが、受けに徹した神庭は鉄壁の防御力を誇る。
受け、流し、半歩横に移動し、逸らし、繰り返し防いでいく。体に切り傷が増えていくが、深くに刃が届くことはなく確かな実力を持って持ち堪えていた。
だが、それでも三十秒は果てしなく長く思える時間だった。
それでもやり切った神庭は流石と言えるだろう。
「ーー任せます!」
神庭は後ろに控える日野に言うと、入れ替わるように後方に飛んだ。
前に出る日野は、ありったけの力を込めてグレータースケルトンに迫る。
日野のスキルは力溜めという、止まって精神を集中させる事で発動するスキルだ。
その効果は長ければ長いほど、集中すれば集中するほど高い効果を発揮する。
戦闘中に何もせずにじっと待つ。
まるで自殺行為のようなスキルだが、その威力は高く、仲間達のサポートがあれば、そのスキルは必殺の一撃へと昇華する。
神庭と入れ替わる日野。
剣の腕前で日野を上回る神庭でも、防御に徹するしかなかった相手に無防備に迫っては返り討ちに遭うだけだ。
だが、それでも立ち向かう。
それは無謀ではなく、仲間を信頼しているからだ。
二本の矢がグレータースケルトンに向かい、土の槍がそれを追う。
桃山と九重、三森は見事にスケルトンを倒し、手助けする機会を窺っていたのだ。
グレータースケルトンは飛来する矢を切り落とし、土の槍を防御する。
高い魔法防御力を持つグレータースケルトンでも、まともに食らえば衝撃は吸収出来ずに、体勢を崩すだろう。
それは、正面から迫る男に無防備な姿をさらす事になり、自身を殺せる一撃を受けることを意味していた。
だからこそ、矢と魔法を退ける必要があった。
それは日野の接近を許してもである。
「チャージアタック!」
必殺の一撃は、グレータースケルトンの頭部に振り下ろされる。
二本の剣をクロスさせ防ごうとするが、少しの抵抗のあと砕け散り、その一撃は頭部に到達する。
そして飛び散る白い骨。
頭部は砕け散り、白い骨の体は力を失い地面に落ちる。
これで終われば良かった。
だが、グレータースケルトンはそこに存在している。
倒したのは、新たに召喚されたスケルトンだった。
「ーーそんな!?」
一閃が日野を斬り裂く。
更にグレータースケルトンは突き放ち、その命を刈り取りにきた。
負傷しながらも剣を動かし、急所を狙った一撃を防ぐが、後方に弾き飛ばされ地面に転がる。
「トウヤさん!」
「トウヤ!?」
仲間達が日野に駆け寄ろうとするが、それを許すモンスターではない。
新たに三体のスケルトンを召喚すると、再び後衛の三人に向かわせる。
そしてグレータースケルトンは、残った神庭へと向かい合う。
九重が持つ一角獣の杖には特殊能力が付いている。
それは日に三回、魔力の消費を抑え、魔法の威力を一段階上げるというものだ。
これは強力な効果であり、使う者によって一度に多くのモンスターを倒すことが出来る。
残念ながら九重はそのような魔法習得していない。
それでも、強力な魔法の一つや二つは持っていた。
イメージするのは固く硬い巨大な石の槍。
着弾と同時に爆発するような効果は出せないが、代わりとなるイメージを更に上書きする。
魔力消費軽減の効果が付いているが、それでも補助しきれないほどの魔力を消費する。
「ロックジャベリン!」
巨大な一本槍が形作られると、呪文と共に打ち出された。
危険が迫っている。
そう理解したグレータースケルトンは、眷属であるスケルトンを呼び戻すと、盾として配置する。
それでも足りないと、失った剣を影から取り出す。
標的にしていた存在からは、意識がそれてしまい逃してしまうが、この閉じられた世界の中ではどこにも行けぬと危機に意識を戻した。
迫るのは大きな石の槍。
魔法防御に長けたスケルトンでも、これに当たれば粉々に砕け散るだろう。
ならばとグレータースケルトンはスキルを使用する。
防御力を向上させるスキル、鉄壁を使用してその攻撃に備える。
石の槍はスケルトンをものともせずに突き進み、殆ど威力を軽減出来てない状態でグレータースケルトンに到達する。
四本の剣と石の槍が衝突する。
踏ん張るが、勢いを抑える事が出来ずに引き摺られていく。それでも必死に耐えた成果は直ぐに現れる。
石の槍に亀裂が入り崩壊しそうになっているのだ。
しかし、それが間違いだと気付く。
亀裂は一気に広がり、石の槍が形を保てなくなると、石の散弾となってグレータースケルトンを飲み込んでいく。
何百、何千という石の弾丸を受けて、鎧に亀裂が入り、剥き出しとなっていた頭部にもヒビが入ってしまう。
この時、グレータースケルトンは初めてダメージを負った。
空洞の何も無い目に、憎しみの火が宿る。
「ごめん巫世、魔力使い過ぎて動けない」
「なんですと!?マジックポーションは無いんですか?」
「この前使っちゃって、もう無いの。 それで、これ使って、私はもう戦力になれないから」
三森が九重から渡されたのは、一角獣の杖だ。
魔力の無い九重が持つよりも、まだ余裕のある三森が持った方がいいと判断したのだ。
「巫世ちゃん加奈ちゃん……あのスケルトンこっち向かって来てる!」
桃山に言われてグレータースケルトンの方を見ると、確かにこちらに向かって来ていた。
あの魔法の成果か、標的を日野達から後衛組に変えたのだろう。
「あちゃ〜ヘイト稼いじゃったみたいね。 …よし!悠美、私をおんぶして逃げてちょうだい!出来るだけ時間を稼ぐわよ!」
「分かったわ!」
「あの、私は?」
「巫世は悠美に付与術掛けたら、トウヤの所に行って。もう、あの二人しかアイツを倒せないわ!」
三森は、はいと返事をすると桃山に付与術を掛ける。
そして九重は桃山に背負われると、頼んだわよーと言って離れて行った。
それを見ていたグレータースケルトンは九重を追って動き出す。眷属であるスケルトンを三体召喚すると、四体となって追いかけ始めた。
その姿は滑稽であるが、本人達は大真面目であり、捕まれば間違いなく殺されるので必死である。
時折、グレータースケルトンから剣を投擲されるが、上手く躱している。
「ぐっ、大丈夫だ。もう少しで立てる」
「トウヤさん、もう一本ポーションを飲んで下さい。 今のままでは戦えませんよ」
「すまない、助かる」
日野は神庭に差し出されたポーションを受け取ると、それを一気に飲み干した。
既に自分の分は飲んでおり、徐々に回復はしてきてはいるのだが、動けるようになるまでに時間が掛かる。それでは、追いかけられている桃山に限界が来るだろう。
ジグザグに動いてスケルトンの追撃を避けているが、距離は縮まってきている。
焦る気持ちを抑えて、回復に努める。
恐らく、日野達の準備が整い次第、桃山はグレータースケルトンを引き連れて向かって来るはずだ。
それまでに、一度だけでも剣を振れるまでになっておく必要があるのだ。
「大丈夫ですか!? 私の分も使って下さい!」
三森は合流すると、持っているポーションを取り出して日野に手渡す。そしてもう一つ取り出すと、神庭にも渡した。
日野の方が重傷ではあるが、神庭も傷を負っているのだ。
浅いが全身に傷を負っている上に、腕に負荷をかけ過ぎたのか痛めているようだ。
神庭も自覚していたのか、頷いてポーションを飲みほす。
「巫世さんありがとうございます。 トウヤさん立てますか?」
「ああ、大丈夫だ。 ……また力溜めをするけど、頼めるか?」
「ええ、巫世さん付与術をお願いします」
「はい!」
今度は邪魔されずに付与術を施すことが出来る。
先程は咄嗟だったので、十分に効果を発揮出来たとはいえなかった。
そして、今度は一角獣の杖も持っている。
魔法の力を一段階上昇する効果を使用して、付与術を発動する。
「攻撃力上昇、防御力上昇、素早さ上昇、精神安定、俊敏上昇……」
三森の付与術を受けながら、神庭がグレータースケルトンの情報をまとめていく。
「見て分かると思いますが、あのグレータースケルトンは眷属を召喚しています。一度に召喚出来る数には限りがあるようで、三体までと考えていいでしょう。 影から剣を取り出していますので、武器の召喚、若しくは影に大量の武器を用意しているかのどちらかです。この際、それはどちらも変わらないのですが、武器を壊しても効果は薄いと覚えておいて下さい。 先程の失敗は、スケルトンの召喚を想定していなかった事にあります。ですので、次はスケルトンを倒さずにグレータースケルトンを倒す必要があります。 私がスケルトン三体を誘導しますので、トウヤさん巫世さん、グレータースケルトンをなんとかして倒して下さい」
「……え?」
「分かった」
まさか付与術しか能のない自分が呼ばれると思っていなかったのか、驚いた表情をする。ましてや作戦らしい作戦は無く、なんとか倒せと言う始末である。
それを了承する日野には自信があるようだが、三森にはそんなものはカケラも無かった。
「大丈夫ですよ巫世さん。 あなたの盾捌きは中々のものでしたよ」
三森の肩に手を置いてふっと笑いかける神庭の顔は、女である三森から見ても美しいなと思った。
いや、て、え、盾で防御しろってことですか!?
どうやら作戦は三森の盾に掛かっているようだった。
そりゃ無理ってもんじゃないですかね、と文句を言おうとするが、神庭と日野の真剣な表情に言葉が引っ込んだ。
「トウヤさん……」
「大丈夫、やるべきことをやるだけだ。スケルトンを頼む」
「…はい」
スケルトンに立ち向かう神庭の後ろ姿は、悲しんでいるように見えた。
グレータースケルトンの追撃から逃げていた桃山の体力は、限界を迎えようとしている。
いくら九重の体重が軽いとはいえ、人一人を背負って長時間走れるものではない。それは、付与術で強化されていても同じだ。
「悠美!準備出来たみたいよ!」
「はぁはぁ、分かっ…た、はぁはぁ、戻るよ」
背中から元気な九重の声が聞こえて来る。
そろそろ足が限界だから降りてくれないだろうか。
そんなことをすれば、魔力不足で動けない九重はモンスターの餌食となってしまうのでやらないが、せめて動くのは控えてほしい。
「スケルトン来てるわよ!」
最後の力を持って振り絞って、足を必死に動かす。
走る速さが遅くなる。
だが、それを察した神庭が駆けつけてくれる。
「そのまま走って!トウヤさんが待っています!」
すれ違う神庭は剣を引き抜き、スケルトンに踊り掛かる。
その剣筋は、これまでと違い鋭さはなく、スケルトンを吹き飛ばすだけに止まった。
グレータースケルトンと一度だけ剣を交えるが、それも一瞬で直ぐに離れてしまう。
その攻撃だけで標的を変えるモンスターではなく、グレータースケルトンは再び九重を追って行く。
「もう少しよ!頑張って悠美!」
桃山が向かう先には、三森が盾を構え、日野が静かに集中していた。
走り走り走り抜いた桃山は、日野の横を通り過ぎると体力が尽きて倒れてしまった。
「はあはあはあっ!!」
荒い息を吐きながらも背後を振り返ると、グレータースケルトンの剣を受け止める三森の姿が映った。
グレータースケルトンの剣が盾を強く叩く。
それは一度ではなく、何度も何度も一本だけでなく二本三本と同時に振るわれる。
「ひぃ!!」
一撃一撃の威力が半端ではなく、三森の体が右に左に揺らされる。しまいには足が浮き、飛ばされそうにもなる。
自身に掛けた付与術の効果のおかげで何とか保っているが、既に手が痺れて盾を握れなくなって来ている。
日野はまだ集中しており、時間にして一分以上は行っている。
まだ終わりませんか日野さん!?
グレータースケルトンの攻撃を受け始めてまだ十秒程度だが、いつ防御をミスしてもおかしくはない。
祈るように盾を動かし必死に耐える。
その祈りが届いたのか、日野の準備が完了する。
「行くぞ!」
その掛け声と同時に、グレータースケルトンの突きが三森を襲い、盾で受けとめたが衝撃で弾き飛ばされる。
三森は飛ばされながら日野を見た。
それで、これじゃダメだなと悟る。
仮令(たとえ)グレータースケルトンを倒せたとしても、日野は剣で貫かれて死ぬだろう。
それが分かったのは、日野の覚悟の表情がいつもと違っていたからだ。
桃山が矢を放とうとしているが、その援護は間に合わない。
何かないかと考えて、グレータースケルトンに向かって手を伸ばす。
考えがあったわけではない、ただやれると思ったのだ。
三森の手から黒い靄が溢れ、グレータースケルトンに向かって飛んで行く。
その黒い靄に気付いたのは、グレータースケルトンのみ。それを発した三森自身でさえ気付いていなかった。
グレータースケルトンはそれを避けようと剣を振るが、その黒い霧は剣を通過してグレータースケルトンを包み込んだ。
凶悪なモンスターであるグレータースケルトンの動きが止まる。
正確には、ゆっくりと動いているのだが、今にも止まりそうなほど遅い。
そして日野の必殺の一撃が振り下ろされる。
「チャージアタック!!」
これまでにない威力の一撃が、グレータースケルトンの頭部を破壊し、鎧を斬り裂き、その亡き者を無へと返す。
振り下ろした剣は、途中で折れてしまったが、その役割はしっかりと果たしてくれた。
この結末に驚いているのは、グレータースケルトンを倒した日野自身だった。
死ぬつもりだった。
このまま戦っても勝てないのは分かっていた。だから命を賭ける必要があったのだ。
例え体が引き裂かれても、この一撃を決めるつもりだった。それが、急にグレータースケルトンの動きが鈍ったのだ。
何が起こったのか理解できなかった。
「トウヤ!やったのね!?」
嬉しそうな九重が日野に抱きつく。
桃山の背で動けるだけの魔力を回復させていたのだ。おかげで、桃山は未だ立てない様子だ。
確かに倒したのだろう、地面に転がっているスキル玉がそれを物語っている。
「…そうだな、勝った。勝ったんだ。俺達はユニークモンスターに勝ったんだ」
その言葉は自分に言い聞かせるものだった。
自分も生きていて、仲間も無事だ。これ以上の結末はないだろう。だから、自分が感じている奇妙な感覚は無駄なものだと割り切る。
抱きついた九重を下ろすと、スキル玉を拾い掌に消えて行くのを見送る。
仲間達も近くに落ちていたスキル玉を手に取り、新たなスキルを得ていた。
新たなスキルを得たと同時に場面が切り替わり、元いた場所へと戻ることができた。
これで終わったのだとほっと一安心するが、なぜかこの時、一人の太った男の事を思い出していた。
「……田中さんはこんなのを相手にしていたのか?」
これを一人で?
それは、とても信じられるものではなかった。
経験したからこそ分かる、一人でこれをクリアするのは不可能だ。
「トウヤ、宝箱開けましょうよ!」
考えごとを中断させられて、元気な九重に手を引かれて行く。
田中には、次に会った時にでも聞いてみようと思い、今は仲間達と宝箱を開けに行くのだった。
三森巫世はどこにでもいる女子高生だ。
友人に誘われて探索者をやっちゃったり、友人に彼氏が出来て探索者やめちゃったりしているが、新しい仲間と探索者をやってる普通の女子高生だ。
先日、ユニークモンスターを倒したり、ギルドに取材に来ていたTVにインタビューを受けてSNSのアカウントが軽くバズったり、それを見た友人から探索を誘われたりしたが、もう遅いんやでと言って断っちゃったりもしている普通の女子高生だ。
「行って来ます」
家を出て向かうのはダンジョン。
この前、死闘を繰り広げたばかりだが、それでも探索者をやめようとは思わない。
まだ初期投資を回収出来ておらず、せめてそれくらいは稼ぎたい。宝箱から出た剣を売り払えば、それも達成できたのだが、リーダーの日野が使う事になり泣く泣く諦めた。
「おはよう巫世ちゃん」
「三森さんおはよう」
電車の中でパーティメンバーの二人と出会う。
残りの二人もきっとギルドで待っているはずだ。
なんとなく、この人達とは長い付き合いになりそうだなぁと思いながら元気よく挨拶を返した。
「おはようございます!」
ーーー
グレータースケルトン(ユニーク)
四本腕のスケルトン。
鎧を身に纏い、それぞれの腕には武器を持っている。
眷属である下位のスケルトンを召喚することができ、個体によって召喚可能な数に違いがある。
《スキル》
眷属召喚(下位) 武器召喚(下位) 鉄壁
ーーー
ーーー
日野トウヤ(17)
レベル 9
《スキル》
力溜め 底力
《装備》
光翼の剣
ーーー
桃山悠美(17)
レベル 9
《スキル》
必中 危険察知
ーーー
神庭由香(18)
レベル 10
《スキル》
剣技 縮地
ーーー
九重加奈子(17)
レベル 9
《スキル》
地属性魔法 風属性魔法
《装備》
一角獣の杖
ーーー
三森巫世(17)
レベル 7
《スキル》
付与術師 盾術
ーーー
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