第50話 四十六日目
本日は、以前履歴書を送っていた企業の面接がある日だ。
朝から気合いの一杯を頂きクィー‼︎とする。
今日はなんだかいける気がする。
カーテンを開けば、窓の向こう側は土砂降りの大雨。まるで、今日行われる面接が成功して正社員になるのを予言しているかのようだ。
まだ時間は早いが、昨日から準備していたスーツを手に取り着用していく。
着用して…。
着用……。
入らない、スーツが入らない!
これはどういう事だろう、まるまると太ってから作り直した物だというのに、まるで肉が収まらないのだ。
これは何かおかしいと思い、体重計を取り出すとその上に乗る。実に一月ぶりの体重測定だが、あれだけダンジョンで動き回っているのだ、痩せていないはずがない。
そして体重計に並んだ数字は……132kg。
俺は体重計を破壊した。
嘘だろおい!あれだけ動いてんだぞ!食事だって普通より少しだけ多いくらいだ。あの運動量を考えるならば、まだ足りないはずだ。
まさか俺の体は、脂肪を燃焼しないとでも言うのか…。
余りにも酷い現実に膝から崩れ落ちそうになる。
それを、倒れたらダメだと奮い立たせて何とか踏ん張った。
これから面接があるのだ。
こんな所で挫けている場合ではない!
俺は発狂しそうになる気持ち抑えて正気を保つと、貸衣装屋へと急いだ。
どちくしょおおぉぉーーー!!!
ガーディアンホールディングス(以下ガーディアンHD)
ダンジョンから比較的近い位置に本社を構えており、降りた駅のホームからでも、そのビルが見える。
会社の規模としてはホント株式会社よりも大きく、地域密着型と言えばそうだが、探索者を相手に商品を卸している。
その商品とは、俺もよく行く武器屋に置いてある武器や鎧だ。
以前使っていた鉄棍もそうだが、今も使用している胸当てや盾、ヘルメットもガーディアンHD製だ。
つまり俺は、この会社のお得意様だ。
これまでに購入した金額はウン百万円に達する。
そこら辺をアピールしたら入社させてくれないかな?くれないだろうなー。そんなに緩かったら、会社として終わるだろうしな。
駅を出てガーディアンHDに向かう、振り返るとその道はダンジョンに向かう道へと変わる。
昨日、ダンジョン探索を終えてギルドに入ると、少しだけ騒がしかった。
人が集まっており、その中心にはハーレムパーティがいた。
買取の窓口にいる受付に何があったのか尋ねると、なんでもハーレムパーティは凄く強いモンスターを倒したようだ。
へぇ〜凄いなぁと感心して見ていると、ハーレムパーティがこちらに気付いて挨拶して来た。
おう、なんか凄いモンスター倒したんだってな、おめでとう。流石はハーレ…じゃなくて俺が見込んだパーティだ。
ん?なんだって?周りが五月蝿くて聞こえない。
イレギュ?レギュラーコーヒーは幾らですか?
そんなのコンビニかカフェに行け、コンビニだったら大体100円だ。
何、違う?
あっちょっと!?
ハーレムパーティと話しているとTV局のスタッフか分からないが、カメラマンとマイクをもった綺麗なインタビュアーがハーレムパーティにインタビューを始めてしまった。
結局何が聞きたいのか分からなかったが、まあ大した事ではないだろう。
あいつらも大変だなと思いながら、俺はその場を離れた。
そして、次に来たのが買取所。
今回の探索で得た資材の売却と、宝箱から出た呪われた装飾品を鑑定してもらうのが目的だ。
首に掛かった状態で鑑定してもらったのだが、何故かオバチャンも立ち会っていた。
なんでいんだよと嫌味ったらしく言うと、今回はタダで良いよと言われたので、どうぞよろしくお願いします!と返しておいた。
何だよ、話の分かるババアじゃないか。
なんて事を思っていると腹に掌底を打ち込まれた。
どうやら口に出ていたようだ。
衝撃が体を貫き、一撃で恐ろしいまでのダメージを負う。どうやら俺の見立ては間違いなかったようだ。
このオバチャン、マジで強い。
逆らわない方が良いだろう。
ーーー
守護の首飾り(呪)
装備者の体力を少量回復させる効果を持つ。
死に至るダメージを負うと、一度だけ全快の状態で復活する。これを使用すると守護の首飾りは壊れる。呪を解除しても壊れる。
呪われているので、売却は不可。
ーーー
鑑定の結果、かなり優秀な装飾品なのが分かる。しかし、呪われているせいで売却出来ないのだ。
仮に呪われていなかったら幾らで売れたか尋ねると、三千万円と小声で言われ、掌底のダメージと合わさって、俺は椅子から立ち上がる事が出来なかった。
昨日の出来事を思い出していると、ガーディアンHDに到着する。
窓口で面接を受けに来た旨を伝えると、えっお前が?来る所間違ってないみたいな顔をされる。だが、そんなのはもう慣れっこだ。お前ら如きに俺の価値は測れん。俺の凄さを知って泣いて後悔するがいいわ。
捨て台詞を目だけで語り、エレベーターに乗って10階まで上がる。
エレベーターの扉が開くと、そこには三十人以上の男女が並んで座っていた。
あ、はい、最後尾?
はい、よろしくお願いします。
列の最後尾の椅子に座ると、パイプ椅子がギチギチと嫌な音を立てる。
列の先頭を見てみると、一度に四人が入室し十分ほどで出て来ている。順調に行けば、一時間と少しで順番が回って来るだろう。
そして、俺の後にも人は増えており、今日だけで一体何人を面接するつもりなのかも分からない。
ここで競争しなければいけないと思うと、自信が無くなってしまうな。
じっと正面を向いて待機していると、少しずつ列が消費されていく。そして、やっと順番が回って来きた。
一度に四人が入室して集団面接が始まる。
失礼します。
よろしくお願いします。
はい、私の強みは……。
四人での集団面接ということもあり、質問への回答は短く端的にしていくが、どうにも手応えがよくない。
質問が他の人に集中しており、俺が答えてもああそうですかで終わりである。
このまま終わるのだと思っていたのだが、面接官の次の質問で少しだけ興味を持たれた。
「弊社は探索者を相手に武器防具を取り扱っています。貴方達はダンジョンに潜ったことはおありでしょうか?その時にどのような装備をお使いでしたか?どのような点に注意してその装備を選びましたか?」
などのダンジョンに関する質問が飛び、御社の商品を使用していましたと言ったら少しだけ興味を持たれた。
他の人達は10階をクリアしたくらいで止まっており、20階まで行ったのは俺だけだったようだ。
その時にスキルの話を振られ、鉄壁や頑丈は持っていないか尋ねられた。
一応、頑丈は持ってますと言うと、おおーと歓声が上がった。
ん?
これって、もしかして。
俺、なんかやっちゃいました?
最後の最後に最高の手応えを感じて、俺はガーディアンHDを後にした。
それから遅い昼食を摂っていると、電話が掛かって来る。
それは、合格のお知らせだった。
ダンジョン21階
いやっふーーい!!
俺、正社員確定!!
目の前をオークが通るが、気分の良い俺は手を上げて挨拶をする。あっちも何か楽しそうだな、みたいな感じですれ違う。
じゃあな!良い夢見ろよ!
頭が弾けて倒れるオークに別れを告げると、ルンルン気分で襲って来た探索者を返り討ちにする。
見た目は普通の厳つい探索者達だが、挟み討ちで襲い掛かる手法など明らかに手慣れていた。
で、なんで襲って来たの?オークと思ったとかの言い訳は通じないからそのつもりで答えろよ?
んー、またこの大剣か〜。
見る人が見れば、これの価値は一目で分かるんだな。
人がいる所では、武器を変えた方がいいか。
まっ、それも今日で終わりだけどな。
俺は盗賊擬き共の半数を動けなくなるまでボコボコにすると、ポーションを回収してその場を去る。
前回は武器を奪って失敗してしまった。
ならば、半数が無事なら安全に連れて帰れるだろうと考えたのだ。
その日の帰り道、オークが人っぽい何かを咥えていた。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 17
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体
《装備》
俊敏の腕輪 不屈の大剣 神鳥の靴 守護の首飾り
《状態》
デブ(各能力増強)
ーーー
次回『正社員、暇な日に迷宮に潜る』をお届けします。
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