第42話 三十九日目
昨日は夜遅くまで大変だった。
急に肩が重くなったりもしたが、治癒魔法を全力でかけるとそれも無くなった。
朝早くの新幹線でアパートに戻ると、ポストの中身を確認する。
中には3枚のチラシと履歴書を送っていた会社からの返信が入っていた。
期待せずに開封して中身を確認すると、書類選考通過の通知。次の面接日時も記載されており、場所はダンジョン近くの本社となっている。
おっしゃ!!
ホント株式会社以来の合格にガッツポーズをして涙を流す。
正社員になれると決まったわけではないが、この達成感は涙無しでは語れない。
大家さんが迷惑そうに水を掛けて来るが気にしない。
むしろ熱くなった頭を冷やす良い効果を与えてくれた。
俺は大家さんにお礼を言って自室に帰った。
収納空間からキャリーバッグを取り出し、荷物や洗濯物を片していく。数日泊まるつもりで用意したのだが、無駄になってしまった。
まあ、母が無事だった事を思えば、これで良かったのだろう。
荷物を出し終えて、ダンジョンに向かう準備を行う。
帰って来たばかりで休んでも良いのだが、どうも体が疼いて仕方ないのだ。
という訳でダンジョンに向かうが、その前に寄る場所がある。
それは武器屋で、先日手に入れた鎧の調整は可能か確認してもらいたいのだ。足は神鳥の靴があるから良いとしても、上半身の鎧と兜は是非使いたい。
何故かというと、これから魔法を使うモンスターが出現するらしいので、その対策がしたいのと、単純にカッコいいからだ。
白を基調に青いラインで模様が描かれており、海外のファンタジー映画で出て来そうなデザインをしているのだ。
これは是非装備したい。
俺の厨二心がこの鎧を欲している。
えっ五百万円?
調整にそれだけ掛かるんですか?
上半身だけでも良いんですけど、どうにかなりません?
それでも五百万円…。
…また来ます。
ダンジョン21階
ところ変わってダンジョンである。
21階からのダンジョンは、これまでの洞窟のような地形ではなく、森に変わっていた。
木々が力強く伸びており、草が鬱蒼と生い茂り緑の濃い匂いがして、息を大きく吸い込み吐き出すと、体から余分なものが抜けていく気さえする。
自然の中に身を置くと力が漲って来ると言うが、正にその通りだと実感する。
21階からのフィールドは森となるが、道が無いわけではない。先達の探索者が通った道が踏み固められ、進むべき道を示してくれている。
ただし、その道は一本道ではなく、幾つもの分かれ道が用意されており、そう簡単に次の階に進む事は出来ない。
そして、何よりも道を作るのは探索者だけではない。
この階に生息するモンスターもまた、道を作るのだ。
二足歩行の豚のモンスター、オークが俺の前を通り過ぎて行く。
オークは二体いるのだが、こちらをチラリと見るだけで通り過ぎて行った。
これはどういう事だろうか?
この苛ついた感情をどうしたらいいのだろう?
俺は構わずに、背後から大剣で頭を刎ね飛ばす。
もう一体が驚いているが、敵がいるのに何故素通りしたんだと言ってやりたい。
棍棒を振り回して攻撃して来るが、その動きは鈍重で遅く、威力はあってもまず当たることはない。
残りも首を刎ねて倒した。
数が多ければ受ける攻撃もあり危険だろうが、少なければ避けるのは容易くカウンターも合わせやすい。
相性もあるだろうが、オークよりもコボルトの方がまだ厄介だ。
オークを逆さに吊るして血抜きを行う。
足に紐を括り付けて、木の上に吊るすのは苦労したが何とかやり切った。
オークはその体自体が売れる。
これまでのモンスターとは違い、食用として使えるからだ。味は豚そのものだが、地上の豚と比べると、決して美味しいとは言えない。
しかし、ギルドが格安で販売しているので、売れ行きは好調のようである。
オークの買取価格は100g5円。
オークは血抜きした後は大体150kg〜200kgあるので、一体七千五百円〜一万円となっている。
100kg以上もある巨体を運んでその値段では割に合わないが、それでもやる者はいる。というか多い。
オークを専門に狩るチームがおり、戦い、処理、運搬を分担して作業を行い、安定した収入源を確保している。
そうでない探索者もオークを狩る傍ら、薬草などのポーションの材料となる素材を採取して割と安全に稼いでいた。
オークが素通りする。
背後から強襲して倒す。
これを何度か繰り返していると、オークを専門に狩る人達と遭遇した。
大量のオークが並べられており、頑丈そうな台車に二、三体のオークを積んで運んでいた。運んでいる人は一人だが、軽々と引いている。きっとパワー系のスキルの持ち主だろう。
それと、もう一つ気付いた事がある。
こんなに大量のオークの亡骸が横たわっているのに、まったく臭わないのだ。
これほどのモノが並べられていて、血の臭いがしないのには違和感がある。
だが、その答えは直ぐに分かった。
オークの血抜きを、魔道具と思われる道具を使って行っていた。
それは一見ただの大きなビニール袋のようだが、亡骸をビニールに包んで魔力を流すと、ビニールが亡骸の血を吸い上げるそして拳大の塊となって地面に落ちたのだ。
凄い!
便利な道具もあるもんだ。
俺は人の技術というものに感動して拍手を送った。
すると、彼等はこちらを指差して驚いていた。
何だ?
ん、背後にオーク?
むっ!?
…何もいない。
え?新種のオーク?
誰が?
…。
俺のことか……。
…ふう。
コイツらヤッちゃっていいかな?
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 16
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破
《装備》
俊敏の腕輪 不屈の大剣 神鳥の靴
《状態》
デブ(各能力増強)
ーーー
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