第41話 休日3(豊中栞)

 豊中栞とよなかしおりが看護師を目指したのは、看護師だった母の姿に憧れてだった。


 栞はごく普通の家庭に生まれた女性だ。

 公務員の父と看護師の母に愛情を注がれて育った。

 生意気な妹もいるが、共に別け隔てなく愛してくれたと思っている。


 看護師として働くようになってはや三年だが、未だに四苦八苦している状態だ。後輩にも迷惑をかけて、いろいろとフォローしてもらっている。先輩として申し訳ないですと頭が上がらない。


 別に後輩と仲が悪いわけではなく、休みの日に一緒に遊びに行くくらいには仲が良い。


 栞の本日の勤務は夜勤となっており、16時30分から翌日の9時までとなっている。


 出勤時間も迫り、肩上ボブの髪を梳(と)かして薄化粧を行い出勤する。準備を十分足らずで終わらせると、さっさと家を出た。

 夏の熱い日差しが容赦なく照らして来る。

 日傘をして辛うじて維持しているが、この日差しを直接浴びたら十分で汗ダラダラになって、化粧が流れ落ちる自信がある。


 おのれ太陽め、少しは手加減しろ。


 勤務先である、きさらぎ総合病院に到着するとナース服に着替える。きさらぎ総合病院ではツーピースのタイプを採用しており、白のジャケットと黒のパンツとなっている。


「先輩お疲れ様です」


 挨拶をして来たのは、よく出来た後輩の渡部綾乃わたべあやのだ。腰まであるロングヘアだが、今は団子にして上で纏めている。

 見た目で分かる出来る女感に、少しだけ嫉妬していたりする。


「お疲れ綾乃、今日もよろしくね」


 言葉の裏には今日もフォローよろしくね。というのも混ざっているが綾乃の知る所ではない。


 日勤の看護師から申し送りを受けると、業務を熟していく。


 栞と綾乃は小児科の担当に回されている。

 去年に欠員が出て、こちらに回されたのだ。

 子供が好きな栞と綾乃に不満はなく、子供達が元気になっていく姿を見るのは嬉しかった。そして、その逆もまたあり、助からない子との別れは無力感を与えた。


「しおりちゃん、こんにちは」


「こんにちは、舞子ちゃん今日は調子良さそうだね」


 栞はしゃがんで、まだ七歳の舞子に目線を合わせてニッコリと微笑む。栞の笑顔を見た舞子もまた笑顔で「うん」と元気よく返した。


「舞子ちゃん手を出して」


「?」


 舞子は不思議そうだが、言われた通りに手を出した。

 その手の上には、パンダの顔が上を向き、体がその周囲を覆っている何とも奇怪なキーホルダーが乗せられていた。


「あっベタパンダ!いいの!?」


「うん、舞子ちゃんのために持って来た物だからね。壊しちゃダメだよ」


 この奇怪なキャラクターはベタパンダという名前で、女の子から何故か支持されていた。舞子もまたその一人だ。


「ありがと!やったー!」


「走っちゃダメだよ」


 去って行く舞子を見送り、スッと立ち上がる。


「先輩、大丈夫ですか?」


「…うん。さあ次行こう」


 舞子は先天的に心臓の病を患っており、その症状は重く助かる見込みは薄いと言われている。

 見込みが薄い、それはつまり…。


 こういう子はなにも舞子だけではない、大勢とは言わないが他にもいるのだ。

 少しでも楽しく、少しでも穏やかに、少しでも長く生きてくれるよう願い、最大限の治療を行うのだ。




「もう辞めちゃったんだけど、同期に見えるって子がいたのよ」


 この話を聞いたのは就職して直ぐのことだった。

 深夜に仕事も一通り終わり、ステーションで待機しているとき、眠気覚ましに先輩が話してくれた。


「この病院の中には、沢山の死者の魂が彷徨ってるって言うの。あの子は見えるし話せたらしいから、お願いして成仏してもらっていたらしいんだけど、子供の霊はそうはいかないんだって。ずっとお母さんお父さんを探しているらしいの」


「何ですかそれ?七不思議みたいなやつですか?」


「違うわよ、私が直接聞いたの。 それでね、その彷徨っている霊の両親に連絡をとって来てもらったんだけど、その子ね、両親が来た瞬間にもう成仏出来ましたって言って、相手を怒らせちゃったのよ」


「それは怒りますね。呼び出された方からしたら、亡くなった子供に逢えるかもしれないって思いますもんね」


「そうなのよ。でもねあの子『ご両親が迎えに来てくれたおかげで、あの子も成仏する事が出来ました』て言っちゃってね、火に油を注いで大変だったのよ」


「そんな事あったんですね」


 この話は、きさらぎ総合病院では有名な話らしく、当時働いていた人は皆知っていた。

 最初は病院側も静観していたのだが、これが繰り返され苦情が大量に寄せられる結果となり、件の看護師に厳重注意したようだ。

 それが切っ掛けか、その看護師は病院にいづらくなり辞めてしまったそうだ。




「…ぱい…せんぱい…先輩起きて下さい!」


 休憩時間、仮眠をとっていた栞を綾乃が焦った様子で起こしている。

 後輩が珍しく焦っているなと、寝ぼけ眼で寝台から起き上がる。


「どしたの?何かあった?」


「何か変なんです。戻って来て下さい」


 必死の様子に、なにか大変なことになっているのだろうと、どっこいしょと立ち上がる。


 休憩室から出ると、その変化は一目で分かった。


 散らかっているのだ。

 棚に直していたカルテが下に落ちており、椅子が乱雑に置かれている。監視カメラのモニターは真っ暗になっており、何も映していない。

 また、時折照明が明滅しており、その異常性を示していた。


「綾乃、他の人達は?」


「応援を呼びに行ったんですけど、まだ戻って来ていません」


「と、とにかく病室を確認しよう。患者さんが第一よ」


 綾乃は栞の言葉にマジっすかと驚いている。

 この場合は、誰か戻って来るまで待つべきではないかと思ったのだ。


 栞は念のためにライトを持って行こうと、散らかったカルテを避けて道具置き場に向かう。


 その途中に椅子が置いてある。

 近くを通ったとき、誰も座っていない椅子が独(ひと)りでに回転し始めた。


「ひっ!」


 驚いて尻餅をつく。

 恐怖で表情が引き攣り、体が震えて動かなくなる。

 これまで三年間勤めてきて、心霊現象に遭遇したことは無い。同僚に亡くなった人を見たと言う人もいたが、怖いねと言うだけで信じておらず、あっても大した事ないだろうと思っていた。


 それを、いざ目撃すると恐怖で何も出来ない。


 少しの間、回転していた椅子はゆっくりと止まり、何事もなかったかのよう鎮座している。


「先輩!こっち、早く!」


 いつの間にかステーションから出ていた綾乃は、出入口から栞を呼ぶ。その手にはライトが握られており、栞が動けない間に回収していたのだろう。


 栞は涙目で立ち上がると、震える体に鞭を打ち綾乃の元に急いで駆け寄った。


「あれ、あれ、あれなんなの!?」


「分かりませんよあんなの!」


 栞の問いかけに思わず大きな声で返してしまう。

 普段はしっかりしている綾乃も、このような状況で余裕が無くなっていた。


「そ、そうだよね。とにかく病室を回ろう」


「…先輩」


「な、なに?」


「手、繋ぎましょう」


 そう言って差し出した綾乃の手は震えていた。

 それを見て、綾乃も怖いのだと気付く。

 こんな綾乃を見た事がなかった栞は、先輩である自分がしっかりしなければと奮い立たせる。


 栞は綾乃の手を握りしめると、力強く頷いて行こうと口にする。



 深夜の病院は消灯しており、必要最低限の照明しか使用されていない。

 その点灯している照明も、明滅している箇所や完全に消灯してしまっている所がある。おかげで、深夜でもいつもは見通せる廊下も、途中から先が見えなくなっていた。


 手を繋ぎ、栞と綾乃は進んで行く。

 ライトで先を照らしているが、妙に足元が見づらい。


 病室の扉を少しだけ開き、中を確認するとベッドで寝ている患者の姿が見える。その隣には、付き添いであろう男性が起きており、こちらに会釈で対応してくれる。


 異常ないですかと小声で尋ねると、男性は頷いて返してくれた。患者の事を気遣ったのだろう、静かに対応してくれた。

 栞も大丈夫だと判断して病室を出る。


 病室を出ると握る手の震えが増していた。

 栞ではない、綾乃が何かに気付いて震えているのだ。


「どうしたの?」


「…先輩、この病室の子のこと知ってますか?」


「カナタくんでしょ…えっ?」


 思い出した。

 カナタくんが入院しているのは交通事故に遭ったからだ。その時に一緒にいた父親が庇ったおかげで、命に別条はなく足の骨を折るくらいで済んでいた。

 しかし、その事故の影響で父親は助からなかった。


 じゃあ、今のは…?


 恐る恐る扉を開く。


 そこには、ベッドの上で眠るカナタ以外、誰も居なかった。




 二人は無言で辺りを見回しながら進んで行く。

 何かがおかしい、その警戒心が二人が繋ぐ手を強く結び付けていた。


 他の病室を覗くが、特に何も無い。

 目の端に黒い影がチラつくが、そこを見ても何も無く、変な事が起こっているせいで、幻覚でも見ているのだろうと思うようにした。


 何かが動く音がする。

 これは、普段から良く聞く音だ。

 そう、足の不自由な患者が使用する車椅子の音だ。


 暗い照明が点灯している先から、車椅子が向かって来る。

 その車椅子には人が乗っており、動くのは決しておかしな事ではない。


 車椅子に乗っている人物は老人。

 小児科の病棟エリアに、老人は入院していないはずだ。


「ひっ!?」


 その老人がゆっくりと顔を上げる。

 その顔に目はなく、鼻は削がれ、下顎が無くなっていた。

 それなのに、何か喋ろうとカタカタ動いている。


 二人は恐怖のあまり後退ると、老人は霧のようにふっと消えてしまう。


 そこに取り残されたのは、病院に備え付けられている車椅子だけだった。




 既に二人の精神は参っていた。

 それでも、全ての病室を回ろうと足を進める。

 その足は遅く、周囲を警戒しながら、時折背後を振り返りながら病室を確認していく。


「先輩、明かりが点いてます」


 綾乃が指を差した先では、扉の小窓から光が漏れ出ており、照明の灯よりも強く輝いていた。


「あそこって舞子ちゃんの…」


「行きましょう先輩!」


 心臓病を患った舞子は、昔からこの病院に入院している。

 それこそ、栞がきさらぎ総合病院に勤めるよりもずっと前からだ。


 あの子になにかあったら…。


「舞子ちゃん!」


 焦る気持ちを抑えきれず、病室の扉を勢いよく開いた。

 しかし、光が漏れ出ていたのと裏腹に病室の電気は消えており、何事も無かったかのように静かだった。


「…舞子ちゃん?」


 病室の照明を点けると、ベッドの上で静かに寝ている。

 しかし、舞子は眠っているわけではなく、天井を見つめた状態で放心していた。


 声を掛けるが、舞子からの反応はない。

 何かあったのだろうが、何かをされた様子はなく、ただ心ここに在らずといった様子だ。


「誰!?」


 舞子の様子を確かめていると、綾乃が後ろを向いて警戒していた。


「どうしたの?」


「誰かいました!トイレに隠れていたんです!」


 近くにあったトイレ掃除用のブラシを手に取り構えている綾乃。それは汚いよと指摘してあげたいが、緊迫した表情の彼女には何も言えなかった。


「姿は見たの?」


「よく見えませんでしたが、大柄な人物です。エレベーターの方に走って行きました!」


 二人は扉から顔を出してエレベーターを見るが、それらしい姿は見当たらない。

 流石に逃げたのだろうと判断するが、病院に不審者が侵入しているのなら、早急に警備員に連絡しなければならない。最悪、警察を呼ぶ事案だ。

 それに、ここは幼い子が多くいる小児科だ。子供達を守るために、なんとかしなければならない。


 扉の周囲を探っていると、エレベーターが動いているのに気が付いた。

 1階から上がって来ており、2階3階と上り小児科のある5階に到着した。


 エレベーターの到着する音が響く。

 いつもなら、そんなに大きな音がしないはずなのだが、この時は妙に、頭の中に響いた。


 エレベーターの扉がスライドして開くと、中にいたのはよく知る男性職員だった。

 男性職員が現れたことに、栞と綾乃はほっと安堵のため息をつく。これまでの緊張感が僅かながら霧散した。

 このような状況になって、二人だけで行動していたのだ。他の職員は戻って来ず、見捨てられたのかと思っていた。


 エレベーターから現れた男性職員は、何歩か歩くと糸が切れたように倒れる。

 同僚が倒れたことに焦って、急いで駆け寄ろうとするが、彼が倒れた背後には、髪で顔の隠れた女性が立っていた。


 彼女はこの世のものではない。


 一目見て悪寒が走り、それ以上見ていられなかった。


 病室の扉を急いで閉めて、息を潜める。

 点けていた照明は突然消え、室内が暗くなる。

 廊下からはヒタリヒタリと足音が近付いて来ている。


 栞と綾乃は扉の前に座り、両手で口を押さえていた。

 少しでも気を緩めれば、その口から悲鳴が上がり、危険な存在が襲って来るのではないか。どこまでも追いかけて来るのではないか。そう想像して恐怖が心を支配する。


 ヒタリヒタリと更に近付いて来る。


 二人が繋ぐ手は、これまでにないほど固く結ばれており、互いが精神を繋ぎ止める最後の砦となっていた。


 ヒタリヒタリと足音は扉の前で止まった。


 息を呑む。

 その音さえも気取られるのではないかと、その行動を後悔する。

 生者が死者を拒否する反応か、扉の前の存在に強く悪寒が走り、手足が夏とは思えないほどに冷えていた。


 永遠にも感じたその時間は、またヒタリヒタリと音が鳴り出して終わりを迎えた。


 互いに見合い、終わったのだと思い気を緩めた。


 そして目の前に髪で顔が隠れた女性が立っていた。


 悲鳴は出なかった。

 人は極度の恐怖を覚えると、何も出来なくなる。

 気を失うことも叶わず、栞と綾乃は女性から目を離すことが出来なかった。

 体は動かず、目を閉じることも出来ず、息をすることも忘れていた。


 女性は二人に興味を失ったのか、二人の間を通り扉を通り抜けると、またヒタリヒタリと去って行った。





 二人はもう限界だった。

 それでも全ての病室の無事を確認しようとするのは、その使命感からだろう。


 何が起こっているのだろう。

 いつになったら、この異常事態は終わるのだろう。

 この疑問に対する答えが無いのは分かっており、口にすることはない。


「…最後ですね」


「外科の先生のお子様だったよね?」


「マヨリちゃんですね。事故に遭った子です」


 マヨリはカナタと同じ事故の被害者だ。

 信号待ちをしていると、暴走した乗用車に追突され大怪我を負ったのだ。その事故は三人の命を奪い、十人を負傷させた。運転していた犯人は現場から逃走し、現在も捕まっていない。


 マヨリが事故で負った怪我は完全に治ることはなく、一生寝たきりか、良くて半身不随だと診断されている。


「マヨリちゃん大丈夫?」


 病室の扉を開き入室しようとすると、突然声が聞こえてくる。


 …ミツケタ。


「…綾乃、なんか言った?」


「…先輩じゃないんですか?」


 …ヤットミツケタ。


 聞こえて来るのは、男性のものと思われる声音。

 その声は、どこからともなく聞こえて来る。

 周囲を見回してみても何もいない。


 また悪寒に襲われる。

 先程感じた以上の悪寒に二人は立っている事が出来なかった。


 腰を床に落とし、両手で必死に立ち上がろうとするが上手く力が入らない。

 必死な二人を他所に、周囲が段々と暗くなっていく。

 何かが近付いて来るのを感じる。

 見てはいけない、そう本能が訴えかけて来るが、もうそれは無理だ。

 何故なら、その存在はもう背後に立っているのだから。


 ゆっくりと振り返る。

 大柄な男が立っており、顔には昔ホラー映画で観た白い仮面を付けていた。

 それだけならば怖くなかった。

 だが、男の背後には無数の亡霊が立っており、栞と綾乃を見下ろしていたのだ。


 途端に掛かる重圧に、二人は意識を保つことが出来ず意識を手放した。





 黒く暗い世界の中央に、淡く輝く男が立っている。


 男の容姿はよく見えないが、決して悪くはない。


 まるで舞台を観る観客のように、男の立つステージを見ていた。


 これは夢だなと気付くが、何も出来ずにただ舞台を見ていた。


 周囲を見ると、観客は自分だけではなく、他にも大勢の人がいた。その中には後輩の綾乃、患者の舞子、カナタ、マヨリ、他にも多くの子供達がいる。更に多くの大人達も客席に座っていた。


 舞台に立つ男を見ていると、時折戦うように剣を振っているが、その姿は無様なものだった。それでも目が離せない、栞は知らず知らず涙を流していた。


 男が発する光が力を増す。


 男が剣を振る度に纏う光が増していき、その光は客席を照らし出す。


 客席に座っているのは、栞や綾乃、舞子のような生者だけでなく、カナタの父親やエレベーターにいた女性、他にも多くの死者も混ざっていた。


 舞台の男は、自分を抱きしめるように両肩に手をやると一層光輝き、その光は柱となり天に向かって伸びて行った。


 栞は納得した。

 何故、死者が彷徨いこの場所に来たのかを。

 救いを求めていたのだろう、強い光を見つけて寄って来たのだ。


 ミツケタと聞こえたのは、つまりそういう事なのだろうと一人納得した。


 光の柱に沢山の人達が昇って行く。

 その中には、看取った子達もいた。



 その光景を見ながら、只々涙を流していた。




 栞と綾乃が目覚めたのは、朝日が顔を出し始めた時間帯だった。


 二人は長椅子の上で寝かされており、近くには他の同僚も寝かされている。


 それほど時間は経たずに全員が目覚め、何が起こったのか話し合うが、患者を放っているのを思い出して業務に戻って行く。


 それからは大事だった。

 寝たきりだった患者が、ごく当たり前に歩き出していたり、大病が完治していたりと多くの人の病が治っていた。

 他にも、昨夜、強盗が別々に三人も入ったらしく、その全てが床に倒れて気を失っていたそうだ。


 これらの処理は大変だろう。

 だが、それも日勤の人に任せて栞と綾乃は9時に退勤である。


「昨日のなんだったんでしょうね?」


「さあね、深く考えてもきっと分かんないよ」


 昨晩の恐怖と不思議な体験を振り返って話し合う。

 倒れてしまうほどの恐怖を経験したが、どうしてか看護師という仕事を辞める気にはならなかった。


 それは最後に見た光の柱のせいなのかもしれないが、それでも良いと何故か許せた。



 前から大柄な男性がキャリーバッグを引いて歩いて来る。

 二人は片側に寄り、道を譲る。

 男性は眠そうに大きな欠伸をして通り過ぎる。


 男性は二人とすれ違うとき「お疲れ様です」と声を掛けて去って行った。

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