第35話 三十四日目

 起きたら昼だった。

 昨日は帰るなり直ぐに寝たのだが、それでも起きたらこの時間だった。もう直ぐ昼食の時間帯だ。何故か昼に起きると、一日無駄にした気分になるのは何故だろうか。


 遅い朝食を摂って、気付の一杯を頂く。


 クィーーー!!


 腹も膨れて、これから探索者協会に向かおうとすると、来客を知らせるチャイムが鳴った。

 誰だと何も考えずに玄関を開けると、そこにはよく知らない男性が立っていた。

 歳は五十代くらいだろうか、一体誰だろうと首を傾げていると、名刺を差し出して挨拶を始めた。


 名刺を見ると、ホント株式会社の文字。

 俺は黙って扉を閉めた。


 またチャイムが鳴らされる。

 玄関の前で何か言っているが相手にするつもりはない。俺はこれから探索者協会、通称ギルドに言って情報を買いに行くのだ。


 そうして準備をして家を出ると、そこには男性だけでなく、社長の愛さんもいた。


 あ、えっと、お久しぶりです。

 はい、これから用事がありまして、時間が…。

 ギルドに行くつもりです。

 えっ送ってくれる?

 いやいや悪いですよ、愛さんも忙しいでしょう。

 大丈夫…話を聞いた方がいい…。

 …じゃあ今日だけ。



 愛さんのというか社長の車に乗せられて、探索者協会に向かう。その車中で聞かされた話は、俺にとってふざけんなと言いたくなるような内容だった。


 何でもホント株式会社の会長が復帰した話が、かなり話題となっているようだ。何せ不治の病を患い、死を待つだけの身だったのに見事復帰して見せたのだ。

 それは話題にもなるだろう。


 ホント株式会社の会長が危険な状態にあるのは、企業家の間では知られていたらしく、ではどうやって治療したのかを皆が知りたがった。

 会長は勿論、社長の愛さんも俺に借りがあるので教えるような事はしなかったが、何処かで俺が関わっていると漏れたらしく、近々コンタクトがあるかもしれないという話だ。


 会長の治療方法を知りたい者の中には、かなりの権力者も混ざっているようで、過激な手段を取る輩もいるかもしれないのだそうだ。


 一応ダミー情報を流しておいたから暫くは大丈夫という事だが、全く安心は出来ない。


 最後に着信拒否を止めろと言われて車を降ろされた。

 何かあれば直ぐに連絡するから、ということらしい。


 去って行く車を見送り、俺はスマホを操作して、愛さんの着信拒否を解除した。




 探索者協会で、会員に登録して得られるメリットを聞いていた。


 う〜ん、悩む。

 話を聞く限り、そんなに良さを感じない。

 高校生達から聞いた話には若干の誤りがあり、情報や競売にはお金を払えば参加出来るらしい。

 最初の探索には指導員が付くなどメリットは大きいのだが、既に19階まで潜っている俺には必要ないのだ。他にも装備の値段が安くなるというのも、一点二十万円以内の物に限られており、それ以上となると値引きが利かなくなる。

 俺が使っているのはそれ以上の物なので、あまりメリットが無いのだ。


 悩んだ結果、登録は見送ることにした。


 登録するのはいつでも出来る。

 欲しかった19階と20階の地図も、一枚一万円で購入した。

 最後に昨日手に入れた素材を売却して武器屋に向かう。


 売却する際、一悶着あり大きなジャイアントスパイダーは買い取ってもらえなかった。



 武器屋で装備を購入した俺は、ダンジョン11階に来ている。

 まだ女王蟻の蜜に余裕はあるが、早めに補充しておきたいと思ったのだ。


 とりあえず適当に徘徊して行く。

 ビックアントに追われた場所や女王蟻を倒した所に来ているが、そこには何もなくビックアントがいるだけだ。

 偶に探索者が採掘しているが、横目で見るだけで通り過ぎる。


 そこで、ビックアントに追われていた人の話を思い出した。採掘していたら、穴を開けてしまいビックアントの大群に遭遇したと言っていた。


 俺は手を壁に合わせると、トレースして調べて行く。

 空洞になっていないか、珍しい鉱石はないか調べるが鉄鉱石や少量の魔鉱石があるくらいだった。


 一箇所だけ空洞があったのだが、そこまでの穴を魔法で開けるとそこには大きな蛹があった。


 俺は刺激せずに穴を閉じて、硬く固くなるように土を何重にも固めて封印した。





ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 15

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫

《装備》 

俊敏の腕輪 不屈の大剣 神鳥の靴

《状態》 

デブ(各能力増強)


ーーー

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