第27話 二十五日目
女王蟻の蜜のソーダ割りをクィッと一気に飲み干す。
クィーーーッ!?
朝から気合いの入った掛け声で、一日の調子を占う。
うむ、今日も間違いなく絶好調だ!
そんな最近のルーティンをやっていると、こんな朝早くから来客を告げるチャイムが鳴った。
もしかして苦情か?
最近、毎日のように奇声を発していた自覚はあるので、そろそろ来る頃ではないかと思っていた。
いざ来られると申し訳なく思ってしまう。
ちゃんと謝って、明日からはバケツを被って奇声を上げよう。
俺は申し訳ない顔をして、玄関の扉を開ける。
するとそこには、ホント株式会社副社長の本田愛さんがいた。
……開ける扉を間違えたな。
俺は玄関を閉めようと扉を手前に引くと、愛さんが足を割り込ませて閉めれないよう妨害して来た。
ん?待ちなさい?
いえ、来る家間違ってますよ。
え?俺に用がある?
いえ、こちらには無いので。
何で連絡を拒否するのかって?
そりゃ、もう関わりたくないからですけど。
とにかく話を聞きなさい?
いや、それはちょっと…。
何てやり取りしていると、アパートの他の住人が出て来て、こちらに怪しげな視線を向けて来る。痴情のもつれと思われているかもしれない。これは恥ずかしいな。
これ以上騒がれたら警察を呼ばれそうなので、仕方なく部屋に上げることにした。
水ですが。
愛さんの前に水を差し出して話を聞く。
その前にと渡された名刺を見ると、役職が副社長から社長に変わっていた。
俺が会長の治療を終えてから直ぐに病院に連れて行ったらしい。
会長は最初こそ放心していたが、病院で調査をしている時に正気を取り戻したらしく、その姿はこれまでにないほど活力に満ちていたらしい。
とにかく落ち着かせて検査結果を診て見ると、もう手遅れと言われていた病は何処にも見当たらず、主治医に驚かれたそうだ。
それから会社の方では、会長が持ち直し近々復帰すると宣言すると、叔父である社長が情緒不安定になり倒れたという。
病院に運ばれた叔父は、二日間意識不明となり目を覚ますと、ここ最近の記憶を失っていた。
会社では、過労ではないかと言われたり、元妻が亡くなった心労からではないかと言われているそうだ。
そして、肝心の叔父の息子。愛さんの従兄弟の行方が分からなくなっていた。
探索者のクランを立ち上げて活動しているのは知っていたが、拠点としていた場所に人影は無く、荷物は置いてあるのだが、人だけが居なくなった状態だったという。
数日待ってみても誰も戻って来ず、探索者協会に問い合わせた所、彼等の遺品が届いていると知らされたそうだ。
遺品の確認に行くと、その中に従兄弟の身分証が入っていたようだ。
これで真相は闇の中。と言われて納得する愛さんではない。せめて、何がどうなっているのか少しでも知るため、情報を求めて奔走した。
先ずは遺品の発見者が誰かを探した。
探索者協会に聞いても、守秘義務と言って教えてくれなかったそうだ。
だが、遺品を持ち込んだ探索者を探すと、直ぐに特定が出来た。数日前に大量の装備を持ち込んだ事で、印象に残っていた探索者が多かったのだ。
その探索者は非常に太っており、探索者に相応しくないほど醜い体の持ち主だったそうだ。
そこまで聞いて愛さんはピンと来た。
それはきっと俺だろうと。
……人違いですね、続きをどうぞ。
ああ、誰に聞いたかだけ教えてもらって良いですか?
大丈夫ですよ。怒ってませんよ。
何せ人違いですからね。
それから、俺に話を聞こうと連絡をするが返信は無し。
仕方なく、先に叔父に話を聞くが、本当にこの紛争期間の記憶が全て無くなっており、何も分からなかったそうだ。
そうこうしていると、会社に警察が来た。
どうやら、従兄弟について調べているようだ。
どうして警察が調べるのか尋ねると、どうやら殺人事件の容疑者になっているとの事。しかも、被害者は従兄弟の実の母親だった。
従兄弟は既に亡くなっていると伝え、拠点としていた場所を教えたそうだ。
これら一連の情報を社長である叔父に伝えると、叔父は暫く考え込み、会長が復帰次第辞任すると結論を出した。
先日、会長である父が復帰し、同時に社長が交代する。
新たな社長には、愛さんが無事に就任したと。
で、最後に俺に話を聞きに来たそうだ。
えっと、人違いなんで何も分かりません。
はい、太った人なら幾らでも居ますし、俺じゃないですよ。
え、いない?太った探索者はいない?
バカな!?そんなはずは!!じゃあ俺はどうなるんですか!?
ん?俺だけなんですか?ああ、そうなんですね…。
はい、俺がその人達の遺品を持ち込みました。
俺は諦めて白状した。
彼等に襲われて返り討ちにした事。怪我したまま放置してたら、モンスターに殺されていた事を白状した。
襲われた理由は、愛さんを助けた腹いせだったと伝えておく。
話終えると、愛さんは頭を下げて謝罪した。
俺はどうでも良かったので、終わったら早く帰ってもらえます?と嫌味ったらしく言っておいた。
愛さんはもう一度謝罪して立ち上がると、暇があったら会社に遊びに来てほしいと、会長が会いたがっていたと言い残して部屋から出て行った。
時計を見ると、時刻は昼に差し掛かろうとしていた。
ダンジョン15階
モンスターをひたすら倒しながら進んで行く。
15階に降りて一時間くらいしか経っていないが、既に三度の戦闘をこなしている。
一度に出現するモンスターが多く、戦っている内に次が来たりする。幸い、まだ余裕を持って対処できるレベルのモンスターではあるが、肝心のダンジョン探索が進まなくて困っている。
探索出来るのも、残り二時間くらいだろう。
これでは、時間が足りず碌に調べることも出来ない。
いよいよ泊まりがけで探索しないと、次に進めなくなって来ている。
今後の方針を本格的に決めなくてはならない。
モンスターを倒し、部位を回収して、またモンスターを倒す。その繰り返しで進んで行く。変わりなく進んでいると、一昨日見た物と同じ四角い箱が落ちていた。
宝箱だ。
また宝箱が出た。
一昨日にも出たのに今日も出た。
どうしよう、また厄介なモンスターが出たら。
今の装備高かったんだよね。またダメになったら、流石に落ち込んでしまう。
まあ、だからと言って開けない選択肢は無いんだけどね。
フロアの中央にある宝箱に近付いて蓋を開ける。
すると、ピンと音が鳴り、同時に空間把握に飛来する物体を感知する。
振り向き様に盾で弾き、足元を襲う何かを飛んで避ける。
その飛んで来た物は、方向を変えて追って来るが、大剣で叩き落とした。
着地した俺は、飛んで来た物を見る。
それは、口先の尖った虫のモンスターで、大きさは5cmくらいしかない。盾で弾いた個体も死んでおり、そんなに強いモンスターではないのかもしれない。
俺は宝箱に入ったネックレスを手に取り、ダンジョンから帰った。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 14
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考
《装備》
俊敏の腕輪 不屈の大剣 神鳥の靴 解毒の首輪
《状態》
デブ(各能力増強)
ーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます