第26話 二十四日目

 今日は朝から段ボールに荷物を詰めている。

 別に引っ越しの準備とかではない、実家に送る物を入れているのだ。

 入れる物は昨日のうちに買っているので、あとはうまい具合に入れて行けば良い。


 これとこれとこれ、えっと母ちゃんからのリクエストはっと。…ラーメンに合うもの?メンマでも入れとけよ。

 少しスペースがあるな…何か入れるか。


 俺は収納空間に手を突っ込んで、丁度良い大きさの物を探す。すると、ポーションの小瓶が幾つか手に収まって出て来た。

 その中に、女王蟻の蜜を入れてある容器が混ざっていた。


 そういえば、ポーションの空き瓶にも入れてたな。


 俺は少しだけ考えて、女王蟻の蜜が入った小瓶を入れて《ナマモノです。早目にお召し上がり下さい》と書いて段ボールの封をした。


 まあ、少しくらい幸せのお裾分けをしてやろう。


 良い親孝行をした。

 この時の俺は、自分の行いに大変満足していた。


 あとで後悔するとも知らずに。





 荷物をコンビニで発送すると、その足でダンジョンに向かう。

 ダンジョンに入る前に、昨日失った装備を補充すべく武器屋に向かった。


 俺は今、お金に余裕がある。

 散財は出来ないが、これまで買っていた物より一段高い装備を買う余裕はある。


 これまでよりお高い防具服を試着する。

 肌触りが全然違う。

 通気性も段違いに良くなっている。


 はい、これにします。


 次に胸当てと盾を見ていく。

 今までは、邪魔にならない大きさで頑丈なら何でも良いやと思って選んでいたので、重量が結構重めだった。

 それが、今回は軽量だが更に頑丈な物を購入する。

 取り回しは問題無く、これまでよりも動きやすくなっている。


 装備にも攻略対象階層が設定されており、今回購入した物は20階〜30階対象の装備になっている。

 値段は全部合わせて二百万円超え。


 震える手でカードを取り出し、会計を行う。


 はい、分かっ…一回で!


 額の大きさに、思わず分割払いしそうになった。

 小市民の俺には、百万単位の買い物はハードルが高すぎた。




 ダンジョン14階


 俺は今、昨日手に入れた神鳥の靴の能力を確かめていた。


 ロックワームに前蹴りを当てると、ブーツから鉤爪が生えて捕らえる。そのまま力を入れると鉤爪も深く食い込み、最後はロックワームをバラバラに分解した。


 神鳥の靴に魔力を込めて跳び上がると、空中を右足で蹴り、更に左足でもう一歩空中を蹴った。

 天井ギリギリまで上がった俺は、天井を手で触れて地上に戻った。


 神鳥の靴の能力は二つ、一つは任意で鉤爪を生やし操る能力。もう一つは、空中を左右一歩ずつ蹴ることが出来る能力だ。

 鉤爪はかなりの力で掴む事が出来、モンスターを倒す事だって可能だ。空中を蹴る方は魔力を消費するが、空中で軌道が変えられるのは大きなメリットだ。ただし、クールタイムが一分間あり、連発は不可能となっている。


 因みに、この能力を買取所で調べてもらうのに十万掛かった。

 高いと思うかもしれないが、神鳥の靴の買取金額は二千万円と言われたので、そんなに高いとは感じなかった。




 俺は神鳥の靴で遊びながら探索を進める。


 モンスターも神鳥の靴の鉤爪で掴んで始末して行く。ただ、倒した後の感触が最悪だったので、モンスターを掴むと足を振って投げるようにしている。



 そうしていると、割と早い時間帯に15階に続く階段を見つけた。




 ダンジョン15階


 まだ時間はあるから、少しだけ探索したら帰るつもりだ。

 この階では、新たなモンスターは出現しない。ゴブリン、ビックアント、ロックワーム、ロックウルフ、ポイズンスライムがこれまでよりも多く出現する。


 大体、一度に出現するモンスターの数は5匹〜10匹で、エンカウント率も高く、連戦を強いられる事があるようだ。


 身体強化を施しモンスターに迫る。

 大剣で一気に薙ぎ払い、少し離れた位置にいるモンスターを土の弾丸と棘で次々と倒していく。

 壁を蹴り、空中を蹴って一気に落下すると、ロックウルフを上から串刺しにする。


 次々に迫るモンスターを冷静に殲滅して行く。


 魔法を使い、身体強化を施した体で大剣を振るい、ブーツで掴んでは投げ捨て、モンスターを倒す。


 そんな風に進んでいると、他の探索者を見つけた。


 ハーレムパーティである。


 ああ、こんにちは。

 じゃ

 ……やめてもらえます?掴むの。

 困ってますよ。

 事情は知ってるから大丈夫?

 いや、困ってるのは俺です。

 何で来なかったのか?

 何も約束した覚えが無いですね。

 ほら、モンスター来ましたよ?

 邪魔になりそうなんで、それじゃ。


 近付くモンスターがハーレムパーティに襲い掛かる。

 前衛の少年と少女の一人が上手く引きつけ牽制しており、モンスターが後衛に向かう事はない。

 後衛から魔法と矢が飛び、モンスターを負傷させていく。弱った箇所を前衛二名が崩していき、危なげなく勝利する。


 先日とは動きがまるで違う。

 メンバーが揃って、上手く連携が取れているとかではなく、単純に個々人の能力が強くなっている。


 その原因は、後衛で何もしてないように見えるあの子だろう。

 何もしていないように見えるが、魔力の線が他のメンバーに伸びて繋がっている。きっとあのパスでメンバーを強化する所謂、バッファーというやつだ。


 このパーティの要はあの少年ではなく、バッファーの少女だな。


 そんな感想を抱いて、俺はその場を後にした。

 



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 14

スキル 地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈

    魔力操作  身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 

    並列思考

装備  俊敏の腕輪 不屈の大剣 神鳥の靴

状態  デブ(各能力増強)


ーーー

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