第25話 二十三日目
昨日に引き続き、愛さんから着信が入っている。
しつこいな、一回くらい取るべきか?
…嫌だな。またあの会社に行くはめになれば、俺は気を病むに違いない。
現状維持で確定だ。
着信はもう一件入っている。
田舎の母ちゃんからだ。
昨日、何となく思い出したからか、電話が掛かって来てしまった。
もしもし。母ちゃん?
うんオレオレ。違う違う!オレオレ詐欺じゃないって!ハルトだって!
うん、で、どしたん電話してきて?
ん?声が聞きたかった?何言ってんの、先月会ったやん。
今度?うーん。まだ忙しいから、いつ帰れるか分からんね。
うん、うん、時間出来たら帰るけん待っといて。
ああ、荷物送るから、何か欲しいのあったらLIN○しといて。
うん、じゃあね。
今の会話で分かると思うが、親には仕事を辞めたことを言っていない。心配を掛けたくないとかそういうのではなく、仕事を辞めたら田舎に帰ると約束して上京したので、無職になったのを知られたくはないのだ。
しかも、俺の今の体型はやばいことになっている。
田舎に帰ったら絶対馬鹿にされる。
せめて、痩せるまでは帰らない。
俺は固く誓った。
ダンジョン14階
今日は早目に切り上げて帰るつもりだ。
実家に送る物を買いに行かなければならないのだ。
だから、今回の探索はブラブラして帰るつもりでいた。
なのに、宝箱を発見してしまった。
先に言っておくが、開けないという選択肢は無い。
それでも、昨日のハーレムパーティが宝箱を発見して転移トラップを引いているのを見て、腰が引けている。
もしも、同じような罠が発動すれば、早目に帰ることは出来ないかもしれない。また、以前、俺が引いたようなモンスタートラップが発動すれば、大量のモンスターを相手にしなければならず、とても厄介だ。
くっ何で今日に限って。
俺は宝箱に近付くと、ゆっくり開けた。
すると中には一足のブーツが入っていた。
脛まで隠すような長い黒いブーツで、とても軽い作りをしている。サイズは問題無く入りそうだが、とりあえず試着するのは後にしよう。
ふう、と息を吐き出す。
ブーツを取った瞬間、背後から強烈な圧力を感じたのだ。
確かに罠は発動した。
モンスター系のトラップだ。
ただ、前と違い数の暴力ではなく、一体の強力なモンスターが用意されていた。
見上げるほどに大きな大きなポイズンスライム。
薄らな紫色は深く濃い物に変色しており、毒々しさが増している。その姿から受ける印象はそれだけでなく、核の位置が分からず、とても厄介な存在だと理解する。
そして動く度に下にある岩を砕き、その体がとてつもなく頑丈で重いと分かった。
そして体から幾つも伸びる触手。
うねうねと動き、一度しなると一気に襲い掛かって来た。
次々襲い来る触手をバックステップで避け、最後の二本を大剣で切り落とす。
巨大なポイズンスライムは一度跳ねると、一気に跳び上がり標的を押し潰さんと頭上から落下する。
身体強化を施して一気に加速して避けるが、落下した振動で少しの間動けなくなる。そこに、毒の雨が襲う。
ただの毒なら問題無いが、何か嫌な予感がして地属性魔法を使い、足場を飛ばして毒が降り注ぐ範囲から逃れる。
すると、毒が降り注いだ場所は煙を上げて溶けていき、強烈な毒を発生させた。
強力な酸。
毒だけでなく、危険な酸まで飛ばして来るのは反則ではないだろうか。
俺は嫌になる気持ちを押し殺して、大剣を構え直した。
うん。
めっちゃ疲れた。
単体相手だったら大人ゴブリン以来の苦戦だったね。
斬っても斬っても再生するし、魔法で貫いてもダメージにならない。
モンスターの能力も無限ではないはずと、ひたすらに斬り続けて小さくしても、また別の所で復活している。
諦めて逃げようとしても、何故か出入り口が無くなっていた。またこのパターンかと腹が立った。
もう核を潰すしかないと覚悟を決めて、巨大なポイズンスライムの中に飛び込んで、体が溶かされながら核を探し出した。
治癒魔法を使いながら動けたら良かったのだが、身体強化と治癒魔法の同時使用は出来ず、酸により受けたダメージは凄まじかった。
俊敏の腕輪と不屈の大剣を除いた装備は溶かされ、速攻で全裸になった。太った体は溶け出し、痛みを我慢してポイズンスライムの体内を泳ぐ。
ポイズンスライムも狙いが分かっているのか、体内を激しく回転させ、核に近付けまいと抵抗する。
時間の経過で肉が溶け、太っていた体がみるみる削れて行く。更に内臓にダメージを負い、毛が無くなり、視力が低下した。
痛みで意識が朦朧とし出した時、俺は一つ忘れていた事に気が付いた。
トレースやったら核の場所分かりますやん。
俺は急いでトレースして核の場所を探す。
すると、核は常に移動しており、俺から一番遠い場所にある事が分かった。
身体強化を全力で発動して、力任せに振り抜きポイズンスライムを弾き飛ばす。
分裂したポイズンスライムの一つ。核の場所に走り大剣で斬り裂いた。
ポイズンスライムは一度震えると、そのまま溶けて姿を消した。
戦い終えた俺は、ポーションを飲みながら治癒魔法を使用する。以前自分の体をトレースしているので、元に戻るようにイメージしながら使用した。そのおかげで、元の太った体に戻る事が出来た。
…ここでも失敗した。
もっと、以前のスリムな体を想像して使えばよかった。
まあいい、無事に帰れるのだから、それで十分だ。
今回は自分の機転の利かなさで命を落とし掛けた。これ以上、我儘は言うまい。
俺は紫色の大きなスライム玉を収納空間に入れ、近くに落ちていたガラス玉を手に取り、消えて行くのを見届けた。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 14
スキル 地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈
魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り
並列思考
装備 俊敏の腕輪 不屈の大剣 神鳥の靴
状態 デブ(各能力増強)
ーーー
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