第24話 二十二日目

 また愛さんから着信が入っていた。

 もう、関わりたくないので無視する。

 もしかしたら昨日の襲撃についての説明かも知れないが、もう興味が無いのだ。


 朝からポストに届いた郵便物を確認していると、先日、履歴書を送った会社からの結果が届いていた。


 結果は、今後のご活躍をお祈りしておりますというやつだった。


 つまり落ちた。


 俺はまた履歴書の作成に掛かった。


 午前中を履歴書作成に費やして、ポストに投函する。

 今回送った企業は、東証のプライム市場に上場している大企業だ。


 この企業に入社出来れば、ホント株式会社など鼻で笑って忘れてやる。




 ダンジョン14階に来ている。

 ここまでかなり急いで来たのだが、思ったよりも時間が掛かっている。10階までと比べて、11階以降は面積が倍になっているのが原因だ。

 基本的に日帰りでダンジョンを探索したいが、もう1階か2階進めば、泊まりがけで探索する必要が出てくる。

 ここらで止めるべきか、進むべきか迷うところではある。


 収入を考えると進むべきだろうが、別にお金には困ってないので、そんなに進む必要性はない。

 そもそも13階でロックウルフを狩れば、一匹でも平均三千円の収入を得ることが出来る。五、六匹狩ればバイトで稼ぐよりもよほど高い収入を得ることが出来るのだ。


 これ以上、進むメリットを感じない。


 ……。


 どうしようかと考えていると、横から飛び出して来たポイズンスライムを大剣で叩き落として核を潰す。

 でろんと溶けて広がるスライム、その横に落ちている紫色のスライム玉を回収する。


 14階で新たに現れるモンスターはポイズンスライムである。殆ど普通のスライムと変わらないのだが、色が薄紫で毒を飛ばして来る。

 毒は避けたからといって油断は出来ない、落ちた毒から上がる煙も体に異常を起こす効果があるからだ。


 多くのポイズンスライムを相手にするならば、毒対策は必ず行わなければ、体中が毒に侵されて死ぬことになる。

 だから、この階以降を探索する探索者は、ガスマスクを装備している事が多い。


 かく言う俺は、何も持ってない。


 毒耐性のスキルがあるのに、態々マスクを装備する必要がないからだ。


 また、ポイズンスライムも唯のスライムと変わらず、体内は酸になっており、下手に手を入れると焼かれてしまう。ちゃんとした酸対策がされた武器でなければ、止めを刺す度に劣化していき使い物にならなくなるだろう。


 その点、不屈の大剣はしっかりと対策されており、問題なくポイズンスライムを狩れるので気にする必要はない。



 俺は特に気負いもせずに進んで行く。

 行き止まりに当たれば引き返し、別の道を進む。

 それを繰り返しながら進み、歌でも歌おうかと思っていると、行き倒れた少女を見つけた。


 ……。


 どこかで見た子だな。


 他の仲間はいないのかな?


 どうして一人なんだろう?


 俺は少女の横を通り過ぎて、先を急いだ。

 すると、いつの間にか少女が背中にしがみついていた。


 キャー!?


 驚いて悲鳴を上げる。

 少女を振り落とそうと体を揺するが、離す気がないのか首に腕を回しヘッドロックを掛けて来た。


「どうして素通りするんですか〜?」


 耳元で囁かれるが、それがなお恐怖を増長させる。

 何だこの子は!?

 どうして振り解けない!

 力が異様に強いなおい!?

 もしかして人間じゃないのか!?

 はっ!妖怪なのか妖怪!?

 なんか用かい?

 ……。

 よし、殺そう。


 冷静さを取り戻した俺は、大剣を握り直して背中を一閃せんと構えを取る。


 その様子に焦った少女は、俺の背中から飛び降りて離れた。


 む、斬りやすい位置に来るとは殊勝である。


 俺はせめて感じる痛みを最小限にしてやろうと、身体強化を……。


 何か少女が手を振って制止してくる。

 謝っているのか、何度も頭を下げていた。

 武器を捨てて完全降伏の姿勢を見せている。


 ……まあいいだろう。

 今回は見逃してやる。二度とするなよ。


 そう言って離れようとするが、少女がいつの間にか正面に回り込んでいた。


 何だ、まだ何か用かい?

 ……。

 やっぱり殺そうかな。


 大剣に手をやり迷っていると、少女はどうして一人で倒れていたのか経緯を説明し始めた。


 朝からダンジョンに潜っていた一行は、運の良いことに宝箱を発見したらしい。

 意気揚々と宝箱を開けたのだが、どうやら罠だったようで、アイテムを取った瞬間に転移トラップが発動したそうだ。


 そして気が付くと一人であの場所にいたのだと。


 どうして倒れていたのか、それは、助けてくれる優しい人がいれば、仲間を探すのを手伝ってくれると思ったんだそうだ。


 他力本願だが、自分一人では14階の探索は無理だと判断した結果らしい。

 まさか、しょっぱなから素通りされるとは思わなかったようだが。



 そこまで聞いた俺は、そうか、じゃあ優しい人が来るまで頑張れと言って。少女から離れようと立ち上がった。


 えっ、なに?冷たい?

 いやいや、こっちも足手まといを連れて歩けるほど余裕は無いからね。

 今日、初めて14階に来たのに無用なものは背負いたくない。


 それを説明するが、少女も必死らしく引き下がらない。


 俺は仕方なく、付いて来るのは良いけど、仲間を探したりとかはしないと言って許可を出した。



 飛びかかって来るロックウルフの頭半分を斬り飛ばし、勢い落とさず続くゴブリンの首を切り落とす。

 時間差で来たロックウルフを盾で殴り飛ばすと、ポイズンスライムが飛ばす毒を避け、ポイズンスライムに接近し核を砕く。

 まだ生きているロックウルフに止めを刺して戦闘は終わる。


 離れた位置で弓を構えた少女がいるが、驚いた顔をしている。


 モンスターの部位を採取すると、探索の続きに戻る。


 何か少女がうるさい。

 ん、なに?強いって?

 当たり前だ。大人がガキに負けてたまるか。

 そうじゃない?て、えっ俺の歳?24だけど。

 なに驚いたんだ?えっ同い年か少し上かと思っていた?

 お前!俺の大人の色気を感じ取れんのか!?

 いや、そうだな、まだ高校生じゃ大人の色気なんて分からんよな。

 すまんすまん。

 ああ、戦闘は手出ししないでくれ。複数人での戦いなんて経験したことないから、事故があるかも知れないからな。


 そんな会話をしながら進んで行く。

 何度かモンスターと戦い、難なく退ける。

 そうしていると、少し離れた場所から誰かが戦っている戦闘音が聞こえてきた。


 そっと戦っている場所を覗くと、そこには二人の少女が必死にモンスターの攻撃に抗っていた。


 俺の後に付いて来ていた少女は、悲鳴のような声を上げて仲間の名前を呼ぶ。


 それがいけなかった。


 少女の声でこちらの存在に気付いたモンスターが、少女に向かって走り出した。

 矢を番え射るが、狙いが甘く簡単に避けられる。

 このままでは距離を詰められ、首元に牙が突き刺さるだろう。


 自分に関係のない戦いには手を出さないつもりだったが、少女との会話は暇潰しにはなったので、少しは手を貸すことにした。


 迫るモンスターを斬り裂き、少女の仲間であろう二人の助勢に向かう。


 正直、見返りの無い行動は好きではない。

 まあ、今回は巻き込まれたと思って諦めるが、今度からは報酬は準備しとけよ。


 そんな感じで、自分に言い訳しながらモンスターを殲滅する。


 少女達は追い詰められていたモンスターが、ものの数秒で倒された事に驚いていた。



 こうして少女は無事に仲間と合流が出来た。


 互いの無事を喜んでいる少女達を残して、俺はその場を後にする。

 俺の役目は終わったのだ。

 彼女達は彼女達で探索するだろう。



 そう思っていたのだが、何故か当たり前のように付いて来る三人の少女達。


 あのまだ何かありますかね?

 えっまだ逸れた仲間がいる?

 そうですか、じゃあ俺はこっち行きますんで。はい、じゃあまた。

 えっと、どうしてこちらに?

 あー行き止まりだった。じゃあ仕方ないですね。はい。

 はい、えっ何で敬語かって?

 いや、人が多いとドヤれない性格なもので。



 またモンスターと戦い進んで行く。

 少女達は後方で見学をしており、感心したように頷いている。

 お前たちは何様なんだ。


 少女達の戦い方も見てみたいと思わないでもないが、先程の立ち回りを見る限り、期待は出来ないだろう。

 そう考えると、後ろで大人しくしてくれる方がありがたいのかもしれない。


 それからまた少しすると、また何処からか戦闘音が聞こえてきた。


 またそっと覗くと、そこには一人の少年と一人の少女が必死にモンスターの攻撃に抗っていた。

 少年は必死に剣を振って牽制しているが、全身から血を流しており、左腕は力が入らないのか垂れ下がっている。明らかに重傷だ。

 少女は目立った傷は無いが、魔力が尽きかけているのか、膝を突いて動かないでいた。


 つまり、大ピンチである。


 少女達は驚いて助けに行くが、三人でモンスターを倒せるかというと、かなり厳しいだろう。


 俺はタダ働きは嫌だとは言ったが、目の前で少年少女が無惨に殺されるのを見て平気なほど冷血漢ではない。


 大剣を手に身体強化を施し、一気に加速する。

 少女達を追い越し、少年達に群がったモンスター達を殲滅せんと大剣を振るう。


 


 俺は今、少年を背負ってダンジョンから脱出するために、10階のポータルを目指して進んでいた。

 前には警戒して進む少女が二人、横には気を失った少女を背負う少女がいる。


 モンスターを殲滅した後、戦っていた少年少女は気を失ってしまったのだ。

 しかも、少年の傷は深刻で毒も受けていた。

 ポーションは無いのかと尋ねるが、少女達は既に使って無いようだ。

 仕方なく、懐からポーションを取り出し少年に飲ませる。

 ただ、ポーションだけでは毒は治らないので、こっそり治癒魔法を使用して治療を施した。


 何故こっそりなのかというと、愛さんの時のように厄介事に巻き込まれたくなかったからだ。


 そんな感じで治療が終わると、もう俺は必要ないなと思い去ろうとするのだが、また少女達に呼び止められた。


 どうやら、気を失っている少年を連れ帰ってほしいそうだ。


 ふざけんな。

 起きるまで待ってろ。

 そこまでしてやるつもりはない。


 と断ったが、門限がと言われて了承してしまった。


 門限なら仕方ないな、手伝ってやるか。

 俺も門限守らずに、母ちゃんに家追い出された事があるから、気持ちは分かるぜ。


 そんな訳で少年少女、ハーレムパーティと一緒にダンジョンから帰還した。




 最後に何かお礼がしたいと言われたが、



「二度と関わんな」



 と言って別れた。



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 13

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 

《装備》 

俊敏の腕輪 不屈の大剣

《状態》 

デブ(各能力増強)


ーーー

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