第21話 二十日目
昨日から一睡もしてない。
スマホに写る残高画面を見て一晩中小躍りしていた。
額面には二千一万五千円の文字。
もしもこの収入がなければ、明日からもやし生活を考えていた。それが回避出来たのはもの凄く嬉しい。
ん?自分の体見てみろ?霜食ってろだって?
ふん、まったくその通りだな。
だから俺は今日、焼肉を食うと決意した。
デブがなんだ!健康であればそれで良いだろうがい!例えこれ以上太ったとしても、俺は焼肉を食うと決めたのだ!!
カルビにロース、牛タンにホルモン、ビール片手に食いまくる。その絵面が醜い豚だったとしても、腹を満たせれば俺は満足なのだ。
垂れる涎を拭って、更に美味しく焼肉を堪能するためにダンジョンで体を動かすことにした。
ダンジョン13階
最近気付いた事がある。
ダンジョンはエクササイズ場所としては最適なのではないのかと。
太ったお前が何言ってんねんと言葉が飛んで来そうだが、まあ聞いてほしい。
元来、運動とは辛いモノだ。
趣味がスポーツや筋トレなんて人は、それを日課にして日常の一つに組み込み、やらないと落ち着かない体にしているからだ。
だから辛いとは思わない。
思っても止めようとしない。
何故なら
ならば普段から運動をしない人は、どうやったら日頃から体を動かすのか。
それは報酬を与えたら良いのではないか。
ダンジョンでは、モンスターを倒せばお金を貰える。モンスターの一部を持って帰る必要はあるが、それでも確かにお金をくれるのだ。
報酬はそれだけではなく、レベルアップという恩恵にスキルという特殊能力を貰える。
強くもなれるし、理想の体を手に入れる。
良いこと尽くめではないだろうか。
それを隣にいる初対面のおじさんパーティに熱弁すると、馬鹿じゃねーのかと鼻で笑われた。
命のリスクを賭けないで出来るなら話は別だが、一歩間違えれば低階層でも死ぬダンジョンに、誰が好き好んで来るかと、グウの音も出ないほど論破された。
去っていくおじさんパーティを見送る。
人生の先輩はよく考えているようだ。
俺は気を取り直して行動を開始する。
今日の目標は、14階に続く階段を見つけることだ。
ロックウルフ、ロックワーム、ビックアント、ゴブリンの混成が現れた。
多様なモンスターが集まると、いつかの痺れ蛾のように、同士打ちしてくんないかなと懐かしんで期待してしまう。
そんなうまい話はなく、四体纏めて襲い掛かって来た。
今回は大剣だけで行こう。
最初に近付いて来たロックウルフを突き倒す。
次にビックアントの頭を突きで潰し、ゴブリンの体を突き殺した。
最後に残ったロックワームは必死に擬態しているが、ゆっくりと近付いて突き潰した。
終わってみれば全て突きで倒していた。
突きは速く、シンプルで威力が乗るから使いやすい。
他の剣技も試してみようと、別のモンスターを探す。
好戦的になっていたのが悪かったのか、ただ単に運が悪いのかは分からないが、俺はもう少し慎重に進むべきだった。
どこからか、少しだけ甘い香りが漂って来る。
何の匂いか分からないが、
何かのトラップかと周囲を警戒して進むと、大きなフロアにたどり着いた。
そこでは、あの甘い匂いも薄まっており、特に不快に思うような事も無かった。だが、突然、何か多くの気配が近付いて来るのを感じ取った。
このフロアの侵入口は全部で四箇所、そのどれもから大量の気配、モンスターが近付くのを感じ取っていた。
そして姿を現したのは大量のロックウルフ。
悍ましいほどの数が大群となって、俺に向かって来る。
大量の土の棘が先頭のロックウルフ達を突き刺し、その進行速度を削ぐ。
ビックアントの時は、わざわざ土の棘を破壊して進んできたが、今回は後方から飛び上がったロックウルフが、土の棘に飛び込んで絶命していた。
それでも飛び越えて来る個体はおり、近付いたモンスターを大剣を振って首を飛ばす。
更に超えて来たロックウルフ二匹をまとめて袈裟斬りにする。
無数の土の弾丸を地面に設置する。
最初の土の棘はようやく破壊され、大量のロックウルフが迫って来る。
俺は独楽のように回転し、大剣でロックウルフを斬りまくる。
そこそこの数斬った所で、目が回って動きを止めてしまった。フラフラした隙だらけの俺に、容赦なく襲い掛かるロックウルフ達。それを、先程設置した弾丸を発射させて始末する。
頭を振って三半規管を回復させた俺は、再び大剣と地属性魔法でロックウルフを殲滅していく。
一体なんだったのだろうか?
沢山のロックウルフの屍の上で、俺は考える。
攻めて来たロックウルフの数は五百を超えており、フロア一帯が濃い血の臭いに支配されている。
この数のロックウルフに襲われれば一溜りもないと思っていたが、冷静に当然のようにロックウルフを殺し尽くしていた。
大群のビックアントに襲われた時は、死を覚悟をしたので、一発逆転を狙って行動し危機を脱したが、今回はそんな危機的状況に陥ることもなかった。
ただ、淡々と作業を繰り返した感覚だ。
モンスターの様子もおかしく、普通でなかったのも大きいだろう。
元来、ロックウルフは他の個体と連携を取り攻撃を仕掛けて来るモンスターだが、このフロアにいるロックウルフ達は一匹として連携を取らなかった。最大の武器を放棄していたのだ。
そのせいで数の暴力を活かせず、かすり傷一つも負わせることが出来ずに全滅した。
何かに操られていたのだろうか?
なら何に?
ビックアントで言うところの女王蟻みたいなのがいるのか?
辺りを見るが、それらしいのはいない。
いや、統率者がいるなら弱くなる説明が付かない。
…。
考えても仕方ないか。
俺は思考を放棄して作業の準備をする。
何せこの数のロックウルフから素材を取らなければならないのだ。
時間が惜しいとさっさと作業を開始した。
焼肉うめ〜。
スーパーで半額表示された肉を買い、ホットプレートで焼いていく。ビールをクイッと飲んで、焼いた肉にタレを付けて口に運ぶ。
久しぶりの焼肉だ。
会社勤め以来の焼肉だ。
あの時は、同僚と会社の愚痴ばかり言いながら飲んだものだ。
ふふ。
今は一人だ。
…。
俺は今日で焼肉は最後にしようと決めた。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 12
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り
《装備》
俊敏の腕輪 不屈の大剣
《状態》
デブ(各能力増強)
ーーー
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