第20話 十九日目

 朝からダンジョン13階を探索するため家を出たのだが、何故か高級外車の中にいる。

 向かいの席にいるのは本田愛さん。

 ホント株式会社の副社長である。


 アパートを出たところですげー車停まってんなとは思ったが、まさか自分が出待ちされているとは思わなかった。

 まるで有名俳優のようだ。

 レッドカーペットはどこだ?

 主演映画のタイトルを教えて下さい。


 まあ冗談はそれくらいにして、愛さんに何故こんな強硬手段を取ったのか尋ねる。すると、時間が無いと一言。その一言で理解した。


 謝礼にと用意されたのが一千万円。


 目が飛び出るかと思った。


 更に成功報酬で一千万円。


 鼻血が出た。


 何をすれば宜しいですかお嬢様。

 俺はでかい体を縮こまらせ、膝を突いて頭を下げた。


 何でもしますよ、足舐めましょうか?あっ肩揉みますよ。


 なんて言って謙っていると、ゴミを見るような目で、大人しく座ってなさいと言われた。


 暫く車を走らせると、高級住宅街に入り、その中の一軒の前で車は停まった。

 周囲の住宅が高級だからか、目の前の家も特に凄いとは感じずにいられるが、中に入ると、そこは俺の知っている家とは別物だった。


 華美ではないが高価だと分かる装飾品が飾られており、家の雰囲気に合わせて飾られた物だと分かる。


 家の中に上がり、愛さんの後に続いて行くと小学生くらいの女の子が顔を出した。


 ママと言って愛さんに近付く女の子は、明らかにこちらを警戒した目をしていた。


 そんなに不審者に見えるのかと落ち込んだ。


 こちらの気持ちは放置して、愛さんは娘を連れて進んで行く。俺もそれに付いて行き、突き当たりにある部屋の前で足を止めた。


 こちらですと部屋の扉の中に案内される。

 そこにはベッドの上で腹筋している老人がいた。


 ?


 間違えたかな、そう思い部屋を出て愛さんにここじゃないですよと教えて上げる。

 いえ、ここであってます。

 そう愛さんは言うが、死にかけの老人なんてどこにもいない。いるのは筋トレが趣味そうなアグレッシブジジイだけだ。


 愛さんは部屋の中に入ると、怒鳴って老人を叱り付けていた。

 娘さんは慣れているのか、何でもないように眺めている。


 改めて部屋に通されると、先程腹筋していた老人が点滴を取り付けて寝転がっている。その体は布団を被っていても分かるほどに非常に逞しく、今でも乳酸を欲しているのが分かる。


 この人のどこに病があるのか尋ねると、心臓の病と白血病のダブルパンチで死にかけているそうだ。


 いや、嘘はやめましょうよ、病気もこの人から逃げ出すでしょ?なんて言うと、ワシは嘘が嫌いだと激昂された。


 まあいいやと思い、布団をぺっと剥ぎ取って老人の体に手を当てる。布団を剥いだときに、顔を赤らめるのは止めてもらいたいものだ。


 治癒魔法を少しずつ出力を上げて掛けていく。

 魔法が老人の体を通っていくのが分かる。そして何か引っ掛かりのような、確かな抵抗にあい中々治療が進まない。

 更に出力を上げるが、それでも邪魔された感じがして上手くいかない。

 一度取りやめて方法を変える。

 一旦、体をトレースしてその体の異常を調べていく。

 すると、血液の中に異常と分かるモノが流れ、心臓の細胞が一部肥大化していた。

 どうすれば良いか分からない。

 だから自分の体を調べる。

 正常な体を知らなければ、どう治して良いのかが分からないからだ。まあ、今の俺の体が正常かどうか解らんがな。


 ただ、この老人の体を調べて分かったのは、本当に末期の患者だ。どうして腹筋が出来たのか分からないほどの末期具合だ。


 急いで治療しなければ、数時間後にはあの世に行っているかもしれない。


 だから、なりふり構わずフルパワーで治癒魔法を使用する。


 ムオーッと老人が恍惚とした声を上げて絶叫する。

 おい、暴れんな、治療中だ!


 不要なモノを排除して、異常箇所を治療する。

 モデルが俺の臓器になってしまうので、どこまで正常に動くか分からないが、やらないよりはマシだろう。

 あとは、体力が回復するように魔法を使用してやれば治療は完了だ。


 治療が終わると、老人の体から不吉な黒い霧が上がり、何かに纏わりつきそうだったので、身体強化した拳で打ち抜いて霧散させた。


 無事に治療は完了した…と思う。

 老人は目を見開いたまま、放心して天井を見ている。


 うむ。


 俺は愛さんに終わりましたと言い、治療は成功したと告げる。


 愛さんは驚いた顔をして、いやいやお父さんがこんな顔してるのに成功なんてないでしょ!?と怒っている。


 騙されなかったか。

 だから正直に、治療はこれ以上は無理で、これで治ってないなら俺には何も出来ないと告げた。

 だから正確な状態が知りたいなら、病院で検査してくれと言っておいた。


 俺は愛さんのお宅を出てダンジョンに向かう。

 どうやら、帰りはご勝手にどうぞということらしい。


 いつもの三倍の時間を掛けて、ダンジョンに向かった。






 俺の邪魔すんじゃねー!!


 ロックウルフをすれ違い様に切り捨てる。

 体が多少硬い程度では、大剣は防げない。


 金も寄越さねーくせに偉そうなこと言ってんじゃねーよ!


 連携を取った攻撃を繰り出すロックウルフだが、動き出しから土の棘の餌食となり二匹同時に退治される。


 潰れろや糞会社が!!


 魔法で砂を頭上に持ち上げると、ロックウルフに纏わり付かせて動きを阻害する。動きの遅くなったロックウルフなど怖くはなく、ゆっくりと近付いて大剣で止めを刺した。


 ダンジョン13階、新たに出現するロックウルフは頑丈な体と牙、爪が武器だ。だが、それ以上に厄介な武器はその連携にある。

 どういう合図を行っているのか分からないが、息を合わせたように前後、左右、前後、タイミングをずらした攻撃など、一人では対処に苦労する攻撃を仕掛けて来る。


 俺も魔法と剣が使えなかったら危なかったな。


 そう感想をもってロックウルフの厄介さを称賛する。


 ロックウルフの採取部位は牙と爪で、一個500円で買い取ってくれる。既に30個手に入れているので、一万五千円は確定だ。


 俺はホクホク顔で探索を続けていると、また先日見たハーレムパーティがいた。


 ただ、今日は様子が違っており緊張感を持ってモンスターと対峙している。


 前衛は男の子一人と女の子一人。

 後衛は魔法使い一人と弓使い一人。

 そして何もやってない子が一人いる。


 対するモンスターはロックウルフ五匹とゴブリン三体。


 どんな戦い方をするのかなと見ていると、上手く連携を取れており、終始危なげなくモンスターを圧倒していた。

 勉強になるなと思うほど見事な連携だった…と思う。

 俺は連携をとった事も、他に見た事もないので、なんとも言えないのだ。


 ただ、何もしていないと思っていた子は終始何かしら魔法を使っていた。それが何か分からなかったが、役立たずではなさそうだ。


 ハーレムパーティの戦闘を見終わると、俺はダンジョンを出て帰路についた。






 帰って口座を確認すると二千万円振り込まれていた。



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 11

スキル 

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り

装備  俊敏の腕輪 不屈の大剣

状態  デブ(各能力増強)


ーーー

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