第19話 十八日目

 今、ホント株式会社の前に来ている。

 一昨日ぶりの会社だ。

 自動ドアを通って受付の前に行くと、訝しげな顔をされた。

 この受付嬢は前回来た時にも対応してくれた人だ。

 きっと俺の事を覚えていて、何故来たのか理由に見当が付かないのだろう。それに、前回と違ってスーツではなく私服で来ている。とても会社に足を運ぶような服装ではない。

 もしかしたら、何か仕返しに来たと思われているかもしれないな。


 受付嬢は机の下に手を置いているが、もしかしたらそこに警報器のボタンがあって、何かあれば警備員が駆けつけて来るのかもしれない。


 そんな事になったら厄介だと、さっさと懐から副社長の名刺を取り出して…警報を鳴らされた。


 おい!いくら何でも早過ぎだろ!?

 そんなに俺が怪しいか!?

 どこにでもいる一般ピーポーだろがい!!


 どこからか集まって来た警備員に取り押さえられる俺。

 受付嬢がどこかに電話している。

 まさか警察じゃないだろうな?


 焦った俺は大声で副社長に呼ばれて来たのだと叫んだ。

 証拠の名刺も持っていると言うと、それを確認した警備員が受付嬢に渡している。


 どうやら本物だと分かったらしく、俺は警備員から解放された。


 受付嬢はまた何処かに連絡を入れると、こちらですとエレベーターに案内された。降りて来たエレベーターには別の人物が乗っており、そこで引き継ぐようだ。


 あの受付嬢、結局謝罪の一つも無かったな。


 エレベーターに乗ると、4階まで上がり副社長が待つフロアに向かう。

 途中で面接官のハゲと会って何か言っていたが、五月蝿いハゲだと思いスルーした。


 案内された先には、先日ダンジョンで会った女性が待っていた。


 椅子を勧められ、コーヒーとお菓子が用意された。

 あっ砂糖はいいです。ミルクだけ下さい。

 お菓子はチョコクッキーだけでいいです。


 ボリボリと食べるとコーヒーで一気に流し込む。

 うんま。いいお菓子とコーヒー豆使ってるわ。


 満足した俺は、立ち上がって部屋から出て行く。


 すると、女性から呼び止められた。


 お礼?

 あっ、そうだった。


 コーヒーとお菓子で満足してしまった俺は、副社長の女性から何か貰えるのを完全に忘れていた。


 えっ、はいはい。お礼する前に話を聞いてほしいと。

 ふむ。

 ふむふむ。

 ふむふむふむ。

 ふむふむふむグ〜。


 ……。


 はっ!蜜が奪われた!?


 あっすいません。いえいえ寝てませんよ、ちゃんと聞いてました。



 副社長の話では、今、ホント株式会社では親族内での内部紛争が起こっているらしい。

 副社長の父、現会長が病に倒れて生死を彷徨っている。

 そこで誰が後を継ぐのかという話になった。

 現在の社長は会長の弟であり、副社長の叔父に当たる人物だ。順当に行けば繰り上がるだけだが、ここで待ったを掛けたのは社長の叔父だった。

 次の社長は、自分の息子にさせると言い出したのだ。

 いやいや、それはないだろうと言ったのが副社長の愛さん。

 そもそも社長の息子は、反社会勢力と繋がりがあった過去があり、会社から追い出された人物だ。

 そんな男を会社に戻すどころか、会社の顔である社長に就けるなど正気の沙汰じゃないと訴えたが、あれは何かの間違いだったと取り合ってくれないらしい。


 へー大変ですね〜と他人事のように聞いていたら、どうやらダンジョンで起こった先日の一件も、社長一派が絡んでるようだ。


 副社長の趣味はダンジョン探索のようで、会社の仲間と潜っていたら突然眠気に襲われたそうな。

 そして気が付いたら、目の前に太った男がギトギトした顔を近付けていたらしい。


 それは災難ですねと同情すると、本当にインパクトの強い顔だったと返答された。


 …ん?


 それから会社に戻り、一緒に潜っていたはずの者を呼び出すが、一向に姿を現さなかった。それで昨日、家を訪ねると、そこはもぬけの殻だったそうな。どうやら夜逃げしたみたいだ。


 これは明らかに社長の力が働いたのだろうと考えた愛さんは、本格的に何かしらの対策を講じなければならない。

 そして、それ以上にこの争いを止める手立てはないかと考えた。


 そこで考えたのは二つ、社長の息子を消す事。

 やられたのだから、やり返しても文句はあるまいと言うのが愛さんの談。

 だが、本心としては手を汚したくはないので、もう一つの方法に賭けてみたいと思ったのだ。


 そのもう一つの方法は、病に臥せった会長を治療する事。

 病院の先生がもう助からないと言っているそうだが、愛さんは回復する可能性を見出したらしい。


 おお、それは凄いですねと同意し、話なげーなと思いながら鞄を持って帰る準備をする。


 何でも、治癒魔法の使い手には怪我だけでなく病を治す力を持った者がいるそうだ。

 治癒魔法の使い手は極端に少なく、魔法関連のスキルの中でもレア中のレアなのだそうな。


 へーそうなんですねー。


「君、治癒魔法の使い手だろ?」


 えっ?そうですけど。


 ズバリみたいな感じで言われたが、別に隠すような事でもないので素直に認める。


 まさか認めると思っていなかったのか、拍子抜けしたような顔をしている。

 で、それでどうするんですか?と尋ねると、明日、一緒に来てほしいとのことだった。


 俺は笑顔で、


「いやです」


 と答えた。





 ダンジョン12階に来ている。

 これから13階に続く階段を探すつもりだ。


 え?何で断ったのかだって?

 お前、あれだよあれ、あの会社って俺をめちゃくちゃ貶してんじゃん。何でわざわざ嫌な思いしかしてない会社の為に動かにゃならんのだ。


 結局、お礼も貰ってないしな。


 土の弾丸がビックアントの頭部を貫く、それでもまだ生きており、こちらに向かって来る。更に二発三発と撃ち込むとその動きを止めた。


 今度は散弾銃のように無数の弾を発射する。

 するとビックアントの体が弾け飛び、頭が爆散したように原形を留めていなかった。


 離れた位置にいるゴブリンを、スナイパーライフルのように加工した弾で撃ち抜く。ぐらりと揺れるが踏み留まり、こちらに気付いたのか走って向かって来る。

 土の棘で貫き止めを刺すと、スナイパーライフルが当たった箇所はどうなっているのか見てみる。

 そこは青痣のようにはなっているが、致命傷になるような傷ではなかった。


 それから何度か試してみると、地属性魔法の魔法は大地から離れると極端に弱くなるらしい。

 弾丸や散弾はまだ使い手が近くにいるから威力は落ちづらいが、スナイパーライフルのような長距離武器には向かないようだ。


 そんな風に実験しながら進んでいると、また昨日見たハーレムパーティがいた。

 今日は男一人に女四人。

 昨日より女が一人増えていた。


 それぞれがタイプの違う女の子達。男は平凡そうなのに何処に惹かれたんだ?


 見ていても不快なので、足早に過ぎ去る。


 そうしていると13階に続く階段を見つけた。

 ロックワーム百匹とかいるのかなと警戒したが、特に何もなかった。



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 11

スキル

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り

装備  俊敏の腕輪 不屈の大剣

状態  デブ(各能力増強)


ーーー

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