第12話 十二日目

 昨日は9階を少し探索してからダンジョンを出た。


 帰りに武器屋に寄ってステータスを確認すると、コンバットナイフ二本と袋を購入して家に帰った。


 そして、今日の午後から9階を攻略して行く。

 午前中は8階で作業をしていたので、少し遅くなってしまった。


 さて、9階から新たに出現するモンスターはゴブリンだ。

 ゴブリンとはあのゴブリンで間違いない。物語やゲームでは、スライムと同列にされる事の多いザコモンスターである。


 昨日、戦った感じでは小学生を相手にしているみたいだった。ただし、その手には錆びたナイフや木の棒が握られており、舐めてかかると怪我では済まないだろうが。


 この階では、ゴブリンが二体以上同時に出現し、痺れ蛾やジャンボフロッグとも現れる事がある。


 今、対峙しているのはゴブリン二体と痺れ蛾である。

 そして、ゴブリンは痺れて動けなくなっていた。


 …痺れ蛾は敵ではないのかもしれんね。


 痺れ蛾を鉄棍で叩き落とすと、倒れているゴブリンに止めを刺す。

 痺れ蛾の羽は売れるし使い道があるので回収する。

 ゴブリンには残念ながら買い取ってくれる部位は無い、だが、手に持つ武器が売れたりするので、一応回収しておく。


 こんな調子で進んで行くと、10階に続く階段を発見した。


 そしていつものように、百体を超えるゴブリンが群れを成していた。


 他の探索者達は、こんなのを良く乗り越えられたなと感心する。俺もやれてはいるが、使える物を全部使ってやっとだ。

 こんなに大変だと知っていたら潜っていなかった。

 世の探索者は化け物だな。


 俺は昨日買った袋を取り出すと、ゴブリンの群れに向かって放り投げた。


 袋が着弾すると中身が辺りに充満する。

 更に二つの袋を投げ入れて、中身が充満するのを待つ。

 少しすると、ゴブリンが一体また一体と倒れて行く。


 うむ、狙い通りだ。


 袋に入っていたのは痺れ蛾の鱗粉だ。

 午前中に8階でやっていた作業は、痺れ蛾を捕まえて鱗粉だけを袋に詰める事だった。


 全てのゴブリンが倒れたのを確認すると、コンバットナイフを手に近付いていく。


 倒れたゴブリンの首を一体一体切り裂いて止めを刺す。

 側から見れば、通報待ったなしの猟奇殺人だろう。

 残念ながら、ここには俺とゴブリンしかいないので助けなんて来ないがな。


 こうして、次々と止めを刺して行くと、一体のゴブリンが叫び声を上げた。

 麻痺が解けて来たのかと思い、もう一つ袋を投げる。

 それでも叫び続けるので、魔法で串刺しにした。


 何がしたかったんだ?


 逃げるでもなく、ただ叫び続けたゴブリンを見て疑問に思う。


 全てのゴブリンを始末して、後は武器を回収するだけとなったとき、あのゴブリンが何故叫んだのか理由が分かった。


 10階に続く階段から、一体のゴブリンが姿を現したのだ。


 そう、あのゴブリンは仲間を呼んだのだ。

 助けてもらうために、同胞を救うために、力の限り叫んだのだ。


 そして現れたのが、一体のゴブリン。

 ただのゴブリンではない。人間の子供くらいの大きさしかないゴブリンと違って、180cmはある大人のゴブリンだ。


 手には大剣が握られており、明らかにこちらを敵視していた。





 強かった。

 ギリギリだった。

 よく勝てたと自分を褒めてやりたいくらいだ。


 胸当てと盾は壊れ、鉄棍は曲がり、魔力が切れかけており、全身傷だらけである。


 倒れている大人のゴブリンは、何箇所かに打撲の跡、目にはコンバットナイフが刺さっており、土の棘で穴だらけになっていた。

 そんな状態でも、暫く生きていたのだから驚きだ。


 大人ゴブリンの手には大剣が握られており、死してなお武器を手離さなかった。

 正に武人である。


 その場に腰を下ろして休憩する。

 鞄から水筒を取り出して水を飲み、一息吐く。


 昨日、ステータスの確認をしていて良かった。

 スキルに頑丈や身体強化が生えているのに気付いていなかったら負けていた。

 全てのスキルを駆使して、何とか戦えたようなものだ。


 力で負けていた。

 素早さでも負けていた。

 体力でも負けていた。

 武器の扱いなんて比べるまでもない。


 そんな相手に勝てたのは、間違いなくスキルのおかげだ。

 どれか一つ欠けていたら勝てなかった。

 役立たずだと思っていたトレースが、一番役に立ったのは意外だった。


 大人ゴブリンの動きをトレースして、先読み出来たのは大きかった。あれが出来なければ、今頃、真っ二つになって転がっていたのは俺だ。


 魔力が回復して来たので、治癒魔法を掛けて立ち上がる。


 まだ少し体が痛むが、動きに支障はない。


 改めて武器を回収して周り、最後に大人ゴブリンの手から大剣を取ろうとすると、スッと手が開いて簡単に取ることが出来た。


 まるで大剣を託されたようだ。


 武器回収の途中で、ガラス玉がゴブリンの群れの所と大人ゴブリンの横に落ちていた。

 二つのガラス玉は一つに重なると黄色の玉となり、俺の手の中に消えて行った。




ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 10

スキル 

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間

装備  俊敏の腕輪 不屈の大剣


ーーー

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