第10話 十日目

 えっなに?何で踊っているのかだって?

 えっ違う?気持ち悪い踊りを止めろ?


 うっさいわ!喜びの表現は人それぞれだろうがい!


 ああ、すまない、少し取り乱していた。


 ちょっと良い事があってね。


 え、何があったんだって?

 知りたいの?


 まあ良いだろう、教えてあげるよ。


ーー


 昨日手に入れた腕輪を二百万円で買い取ると言われた。

 腕輪は素早さを一割アップしてくれる効果があり、結構貴重な物なようだ。


 直ぐに売っても良かったが、まだダンジョン探索続けるつもりなので、暫くは使うつもりだ。壊れない限り価値は下がらない物らしいので、気にせず使い続ける事ができる。



 ダンジョン7階に来ている。


 この階で現れるモンスターは、ダンゴムシとジャンボフロッグの二種のみである。

 掃除屋のダンゴムシはいいとして、ジャンボフロッグは読んで字の如く大きな蛙だ。

 ただ、その大きさが赤ん坊を飲み込めるくらいに大きく、舌による攻撃はボクサーのストレート並みに強い。


 そんなジャンボフロッグが四匹同時に現れる。

 俺はすかさず魔法を使い、土の棘で串刺しにした。


 いきなり四匹は不味い、せめて最初は一匹だけにしてほしかった。対策が練れていないのだ。


 そんな願いが届いたのか、次は一匹だけ現れた。

 伸ばされる舌を避ける。次の舌攻撃は盾で受けてみる。


 …あんまり強くないな。


 スッと近付くと、ジャンボフロッグを鉄棍で潰した。


 これなら簡単にいけそうだと、ハナホジモードで進んで行く。


 ジャンボフロッグの採取部分は足に付いている吸盤だ。

 特に左足の吸盤が強力なようで、一個150円で買い取ってくれる。


 現れるジャンボフロッグを倒して行き、8階に続く階段にたどり着いた。


 そして当然のようにいるジャンボフロッグの群れ。


 いい加減にしてくれませんかね?

 こんなに出るなんて聞いてないよ。

 また黙りですか、そうですか、それなら此方にも考えがあります。


 この状況を予見していた俺は、鞄から携行缶を取り出すと、中身をジャンボフロッグに向けて掛けまくる。


 そしてライターに火を着けると、それをジャンボフロッグに向かって投げた。


 盛大に燃え上がる沢山のジャンボフロッグ。

 まるでキャンプファイヤーのようだ。

 臭いがちょっときついがな。


 そう、携行缶に入っていた物はガソリンだ。


 幾らモンスターでも火には勝てまい。

 焼かれると採取部位も無くなってしまうが、こっちには二百万もする腕輪があるのだ。ちまちま小銭を稼ぐつもりはない!また宝箱を見つけて、高額物資を手に入れるんだ。


 よく燃えているジャンボフロッグを見ていると、何匹かこちらに襲い掛かって来る。

 負傷して動きが出鱈目な蛙など脅威ではなく、どれも一撃で倒して行く。


 やがて火は消え、残ったのはジャンボフロッグだった燃え滓のみであった。


 やり過ぎた。

 幾ら何でも残酷だった。

 俺は心の中でちょっぴり反省した。


 ジャンボフロッグだった物に謝罪をして、次の階に向かおうと歩き出す。


 すると、上から何かが降って来るのが分かった。

 ベチャベチャと次々と下に落ちて来たそれは、オタマジャクシから蛙に成ろうとする中間のような存在だった。


 しかもその数が半端なく、百を軽く超えて二百匹はいそうだった。


 これはアレだ。

 火の熱に当てられて、天井から落ちて来たんだ。


 そして、落下して来たジャンボフロッグの幼生に囲まれた俺は、戦闘を余儀なくされた。


 幾ら幼生体でも舌の強さは健在なようで、当たるとかなり痛い。しかも、幼生体なせいか攻撃する位置が低く、ローキックされているかのように足を狙って来る。



 全部倒すのに苦労した。

 ズルなんてするからバチが当たったんだ。

 また神社を参拝しよう。


 ジャンボフロッグの幼生体の粘液で汚れた地面は滑り易くなっており、何度も転んでしまった。

 倒した時に飛び散る粘膜も最悪だった。

 距離が近いせいか、粘膜が手に掛かってしまい、持つ武器が滑って何度も落としてしまう。


 嫌になって魔法を連発して倒したが、魔力切れの兆候が見えて十匹しか倒せなかった。


 仕方なく地道に鉄棍で倒して行く。

 目立った怪我は無いが、とにかく全身粘膜まみれだ。

 しかも生臭い。


 こんなんじゃ電車になんて乗れない。

 ダンジョンから出たらシャワーを借りよう、服も予備を持って来ているから助かった。


 一応、足の生えている個体の左吸盤を回収して行くが、買い取ってくれるかは分からない。

 ここまでやったのに、タダ働きは嫌だ。そんな気持ちで疲れた体を引き摺って部位を採取して行く。


 途中で粘膜に足を取られて転んでしまうが、転んだ先にガラス玉があったのかは分からない。何せ、手を突いた先も粘膜だらけだったからな。


 全部、作業を終えて帰ると買取所に向かう。

 残念ながら幼生体の部位は買取対象外なそうな。


 鼻を摘んで話すお姉さんに必死にお願いするが、汚物を見るような目で見られて、取り合ってくれそうになかった。


 俺はシャワーを浴びずに家に帰った。




ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 9

スキル 

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化

装備  俊敏の腕輪


ーーー

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