第23話とある運営スタッフ
「ちょちょっと、やばいですよ主任!」
「そんなに慌ててどうした? なにかバグでもあったか!?」
「いや、バグではないんですけど、もうすぐ西エリアのボスが倒されてしまいます!」
モニターには5人のプレイヤーがボスを巧みなチームワークで、HPバーを残り3分の1のところまで追いつめる様子が映っていた。
「あ? どうせフィリップのところだろ? 初日で西エリアのボスが倒されるのは想定してたことだろ。お前前回の会議の時話聞いて無かったな、さては」
「あ、いえ話は来てましたよ? アハハ、ちょっとど忘れしちゃってただけですよー、やだなー」
「全く、お前は。次やったら反省文書かせるからな」
「はい、すいませんでした……。それはそうといくらβテスターとはいえ初日で西エリアのボスを倒すとはさすがですね。このまま南と北のボスまで倒されるなんてことがなければいいのですが」
「フィリップはβテスターの中でもトップクラスだったからな。まあ、でも心配すんな。南と北はそんな簡単には倒されねえよ。北エリアの突破には最低でも2週間はかかるだろう」
「あれ、でもβテストでのPvPで優勝したのはフィリップじゃなかったですよね? その人に倒される心配はないんですか?」
たしかフィリップに圧勝したきれいな女性のプレイヤーがいたはずだ。
「ああ、シエルか。確かに彼女は圧倒的だった。でも、彼女はソロだ。個人の実力がずば抜けていても、一人で南と北のボスは倒せねえよ」
そう言って主任は去っていった。
それから約3時間後……
「主任! マジでやばいです!! 北エリアのボスが倒されそうです!」
「はあ!? 北だと!? いったい誰だ!?」
あまりに予想外のことだったからか主任が普段は見られない声を荒げながら走ってこちらに来る。
「シエルとネージュの二人組です!」
「おい、待てシエルはわかるがネージュなんてプレイヤーβテストの時居たか?」
「いえ、今調べましたがネージュというプレイヤーβテスターではありません。それにしてもどうしましょう? もうすぐボスのHP半分切ります!!」
「ま、まあ落ち着け。このボスは半分を切ったら速度と火力が1.5倍になる。さすがにそれでやられるはず…だ」
それからしばらく……
「やられましたね……ボスが」
「やられたな、ボスが」
モニターではネージュというプレイヤーがボスにとどめを刺したところだった。
「いったいどういうことだよ!? フィリップだって5人がかりで西がそこそこギリギリだったんだぞ!?」
「いやあ、凄かったですねえ。普通急に敵のスピードが速くなったら対処できなくてやられるはずなんですけど。むしろ取り巻きが消えた影響でボスに二人掛で攻撃できるようになって削る速度が上がってましたね」
「凄かったじゃねえんだよ! 何のんきに感心なんてしてるんだ! なんでシエルがソロじゃなくなってるんだよ! それにあんな動きできるやつ見たことねえよ。あのネージュってプレイヤー、アーツ使ってなかったぞ」
「つまり、リアルでもあれに近いか全く同じ動きができるってことですよね…。あとなんでアーツ使わなくても火力が出せるようなシステムにしたんですか?」
「ああ、それはゲームが進めば進むほどPvPにおけるアーツの使い方が難しくなるだろ?」
「ああ、決まった動きしかできなくなるからですか」
「そう、そこでアーツに頼らない戦い方が重要になってくるわけだがそれで火力がでなかったら、戦いが地味になるしいい装備をもってるやつが有利すぎる状況が出来上がるだろ? それを抑制するためなんだが……。でもそうはいってもそんな簡単にアーツ並みの火力が出るわけではないはずなんだ。ちゃんとした角度とスピードできれいに攻撃しないと意味がないからある種トッププレイヤー向けのエンドコンテンツみたいなものなんだが……」
まさか初日からシエルというβ最強のプレイヤーとアーツなしで戦う化け物みたいなプレイヤーが組むなんて考えてないんだよおと嘆く主任。
「そういえば、主任。たしか東西南北すべてのエリアのボスが倒された時点で第1回イベントが始まる予定じゃなかったでしたっけ? これ大丈夫ですかね? 彼女らが動いたら南も簡単にクリアしちゃってほかのプレイヤーがまだ準備できないタイミングでイベントが始まっちゃうのでは?」
「おい、そうじゃねえか!? どうするべきだ? ちょっと俺も上に指示を仰いでくるからお前はこの二人をずっと監視しておけ!」
そう言い残して走り去っていく主任。
「はい、わかりましたー。……この人たち配信してるんだ。チャンネル登録しておこ」
戦いに魅せられてすっかりファンになってしまったスタッフなのであった。
なお、次の配信で南エリアのボスを倒しに行かない旨の話をしているのをみて安堵する主任なのであった。
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