第16話ボス戦③
「ウィンドアロー」
先制攻撃と言わんばかりに先輩の魔法がボスの元に飛んでいく。しかし赤いオーラを纏ったボスは先ほどまでとは比べものにならないスピードで魔法をかわし、そのまま僕たちのもとに突っ込んでくる。予想よりもスピードが上がっていて驚いたが横に転がって何とか回避する。
すぐに体勢を建て直し攻撃に転じようとするが、なんとボスが魔法を発動させた。ウィンドアローのような風の矢が足元めがけて飛んでくる。ウィンドアローと違うのは矢の数だ。プレイヤーが使えるウィンドアローでは一本なのに対し、三本も飛ばしてきた。
「っち! 魔法まで使えんのかよ」
どうやら強化は単純なスピードやパワーがアップしただけではないようだ。矢の速度はウィンドアローと大差ないが三本同時で飛んできたため、かわすのに必死で攻撃に転じる事ができない。厄介だな。これまではパワーやスピードこそ普通のウルフよりも優れていたが攻撃パターンは変わっていなかったため何かあったら距離を取っていれば良かったのだが相手が魔法という攻撃手段を手に入れた以上うかつに距離を取ることは出来なくなった。
距離を取られるのは悪手と判断した僕は地面を蹴ってボスに接近し、刀を振るう。強化前なら恐らく当たっていたその攻撃は素早く反応されかわされてしまう。しかしそのタイミングを狙っていた先輩が魔法を放つ。
「ファイヤボール」
今度こそ命中するかと思われたその魔法はすんでのところでかわされてしまう。完璧なタイミングで放たれた魔法すらボスの異次元の反応でかわされてしまったため、これは普通の方法では先輩の魔法は当たる事はないと判断した僕は敢えて先輩の射線を遮るように位置をとりボスと接近戦を再開する。強化前と違って僕の攻撃がどんどん当たる事はないし、たとえ当たったとしても、防御力も大きく向上しているようで大したダメージは与えられないが問題ない。
普通魔法は真っ直ぐにしか飛ばないため射線を遮ぎるのはもってのほかなのだが、生憎先輩はマニュアルで自由に曲げることができるというありえないプレイヤーだ。僕の意図を言葉もなしに素早く理解した先輩は僕の体で遮られてボスから見ることが出来ない位置で魔法を発動する。
「ウィンドアロー」
突然視界に入ってきた魔法に反応する事ができなかったボスはもろに魔法を食らう。案の定大したダメージにはなっていないがそこで生まれた一瞬の隙を見逃さずに攻撃を与える。
——雲耀
しっかり首を狙っため死点討ちのバフが乗った攻撃は強化前に比べては少ないがそれでも無視できないダメージを与えることに成功する。更に追撃を与えようとするが寸前のところで防がれてしまった。
今度はこちらの番だと言わんばかりに飛びかかってくるボス。図体が大きいためどうしても大きく回避しなければならないため連続で攻撃するのが難しい。ステータスに差がありすぎる以上一撃でもまともにもらったら即お陀仏だ。
まあ、だからといって対処方がないわけではない。僕はインベントリから初心者の刀を取り出す。とは言っても二刀流をするわけではない。
こちらに再び飛びかかってくるボスの足を狙って初心者の刀を投擲する。
「攻撃がワンパターンなんだよ!」
もちろんろくなダメージは入らないが空中で足に攻撃されたボスは体勢を崩す。その隙を逃さず僕は斬撃を、先輩は魔法を喰らわせる。
度重なる攻撃でボスの体力は4分の1を下回る。接近戦は不利だと判断したボスは僕から距離を取ろうとするが、そう簡単に許しはしない。爪の一撃を前へ踏み込んでかわし、相手の大腿筋の辺りを狙って渾身の蹴りを繰り出す。本来は相手の骨を折るぐらいの威力が出るが人間相手ではないので流石にそこまではいかない。
体力もギリギリで距離を取ることも許されず、満身創痍な姿だが、ボスとしての矜持ゆえか、僕に向けられる殺意は弱まるどころか強くなっている。
「そういうの嫌いじゃないよ」
次が最後の攻防になるだろうと判断した僕は右足を前に出し中段の構えをとる。僕を頭から噛みつこうとしてきた牙を下をくぐるように回避し、地面を強く踏み締めボスを蹴り上げる。
大きくのけぞったボスにとどめを刺すために体勢を戻した僕は何度も攻撃を喰らって傷だらけのボスの首に斬撃を与える。
「終いだ」
一直線に首に打ち据えられた刀はボスの残りの体力を消しとばす。びくりと大きく痙攣したボスはそのまま崩れおちるのだった。
戦闘が終わったのも束の間、ワールドアナウンスが響き渡る。
『ワールドアナウンス、ワールドアナウンス。ただいま北エリアのボスがプレイヤー名、《シエル》、《ネージュ》によって討伐されました』
『【剣術】のスキルレベルが2上昇しました』
『【識別】のスキルレベルが2上昇しました』
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