第13話刀を手に入れる

「ええ、もちろん。今優秀な鍛治師を連れてくるわ。中に入って待っててちょうだい」




そう言って奥に消えるリリアン。言われた通り中に入り置いてあった椅子に座る。




「それにしてもシエルさん、他のプレイヤーが並んでる中特別扱いを受けるのはちょっと申し訳ない感じがしますね」




「ん、ちょっとその気持ちも分かる。でもリリアンの立場から考えると、私たちは最優先にすべき顧客だから」




そう、先輩の言う通りなのだ。おそらく今北エリアで満足に戦えているのは僕たちのところだけだ。そんな僕たちを優先するのは商売人としては不思議なことでは無い。まあ、他の客から不満が溜まりすぎると良くないのだが、そこら辺は彼女の事だ。うまくやるだろう。




そんな風に待っている間先輩と雑談をしていると、リリアンが人を連れて戻って来た。




「お待たせ。そしてこちらがうちの優秀な鍛治師よ」




そう言って傍のドワーフの女の子を紹介する。




「いやー、初めまして、私はアンナ。君がネージュくんだよね? 会えて嬉しいなぁ」




人懐っこい笑顔を浮かべる元気な女の子だ。リアルだと鍛治をするのは基本的に男だ。というのも鍛治というのは想像以上に力も体力もいるからだ。しかし、ここはゲームの世界。女性でも問題なく鍛治師をすることができるだろう。




「初めまして、ネージュです。よろしくお願いします」




「かたいなあ、敬語なんてなしなし。もっとラフにいこうよー」 




「それじゃ、これからよろしくね、アンナ」




「うん、よろしく。それじゃ早速今君が使っている刀見せてくれる?」




刀を見せるよう言われたので鞘から刀を抜いてアンナに渡す。




「おおーさすがだね」




何故か褒められる。




「えっと何が?」




「いや、刀を抜くのがスムーズだったから。なかなか初心者には難しいんだよねえ」




なるほど、そういうことか。確かにこのゲームはリアルにできているため刀に触れたことがなければスムーズに鞘から抜くのは難しいかもしれない。




「それじゃ、お預かりするねえ。ふむふむ、これはなかなか。ねえ、ネージュくんこの刀で50体ぐらいは敵を倒してるよね?」




突然そんな質問をする。彼女も配信を見ていたのだろうか。




「うん。それがどうかした?」




「うん、まだ始まったばかりだから詳細までは分かって無いんだけど今までのプレイヤーが持ってきた刀は50体も倒したらもう耐久値がボロボロだったんだけど、ネージュくんのは8割以上残ってるんだよ」




なるほど普通のゲームだとそれはあまりにも不自然だが、このゲームはかなりリアルにできている。だとするならば、




「多分、その人たちは刃をしっかり立てずに、ただ力任せに振り回してたんじゃないかな?」




「なるほど、確かに刀は刃を立てないと劣化が早くなるって聞いたことがある。ゲームだからって見逃してたけど、ここまでリアルなゲームだもんね。その可能性は高いね」




このゲームにゲームの常識を持ち込むのはあまり良くないだろう。限りなく現実に近い世界といったところだ。




「あ、それはそうと新しい刀だよね? 刀はベータ時代はなかったからあまり揃っては無いんだけど、今1番良いのはこれかな?」




そう言って僕に刀を渡してくる。刀の情報を読み取る。




[鋼鉄の刀]


・腕のいい鍛治師が作った鋼鉄の刀。同じ素材で作られた他の鍛治師の刀と比べても性能は段違い。


製作者:アンナ




なるほど、リリアンが優秀と評価するわけだ。説明文にも書いてあるがなかなかいい刀だ。実際に刀を持ってみると初心者の刀に比べると大分重いが問題なく振るえる範囲だ。




「いい刀だね。いつか僕のためだけの一振りを作ってもらいたいぐらいだよ」




もっと成長したらゲーム内でも名刀といえるレベルの刀を作ってくれるかもしれない。そんな期待が持てる人だ。




「そんなに評価してくれるとは嬉しいねえ。うん、私がもっといい鍛治師になったその時はネージュくんのためだけの刀を作るよ。約束する」




「それは、その時が楽しみだ。それじゃこの刀を購入させていただくよ」




将来の約束をして、刀を購入しようとすると、




「あ、じゃあ、経理担当を連れてくるね」




そういって奥に消える。しばらくすると、法被に眼鏡をかけ、そろばんを持ったいかにも商売人といった風貌の男性を連れてきた。




「初めまして、俺はリリアン商会の経理を担当しているデールだ。よろしく頼む」




「こちらこそ初めまして、ネージュです」




自己紹介もそこそこに早速商談に入る。




「それで、その刀を購入だな。支払い方法は素材でいいんだよな?」




「ええ、それでお願いします。どのくらい渡せばいいですかね?」




相場がわからないため相手に一任する。本来は良くないがこの商会なら信頼できるだろう。




「そうだなぁ。北エリアの素材は今どこのところも喉から手が出るほど欲しがっているがうちのアンナの武器を安売りするわけにもいかねえからウルフ20匹! と言いたいところだがあんたとは仲良くした方が良さそうだ。ウルフ10匹でいいぞ」




どうやら、大分まけてくれたみたいだ。




「いいのか? それじゃ助かる」




ウルフ10匹分の素材を渡す。これで商談成立だ。




「へい、毎度あり。今から北のボスに行くんだろ。素材は是非こちらリリアン商会に」




さすが最後まで商魂逞しいな。そうして刀を買った僕たちはボスと戦うために再び北エリアに向かうのだった。


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