第12話リリアン商会

街に戻った僕たちは先輩の知り合いの商会をやっているプレイヤーの元に向かって行く。所で妙に他のプレイヤーから視線を向けられる気がする。戦いの心得を持つ身として他人の視線には人より敏感だと自負しているが、どうやら悪意や敵意といった類いの視線では無さそうだ。これは……尊敬と畏怖、そして多少の対抗心といったところか。おそらく配信を見ている人たちなのだろう。それにしてもここまで不躾に視線を向けられるというのはいい気がしない。




「シエルさん、ちょっと気配を薄くしましょうか」




視線から逃れるために先輩に提案する。




「ん、私もちょっと不愉快だった」




先輩も嫌がっていたため、2人同時に気配を薄くする。そもそも気配を薄くするとはどういうことか、それは人の認識から外れやすくするということだ。人というのは案外適当に出来ていて脳が必要ないと判断した情報は例え視界に入っていても気づかない事がある。多くの人が道端の石に目を向けないのと同じ事だ。つまり自分という存在を周りの風景に溶け込ませるイメージを持てばいい。たまに特に意識をしていなくても影が薄いと言われる人がいるが、これは無意識にそれを行っているからだろう。




閑話休題




戦闘技術を学んできた僕はともかく何故先輩が気配を薄くする技術を身に付けているのかというと、高校時代に先輩に相談された僕が教えたからだ。当時の先輩はその容姿はさることながら、頭脳や運動能力も人並み外れていたため常に注目を浴びていた。それに辟易していた先輩に相談され僕が教えたというわけだ。本来は少なくとも1年はかかる技術なのだがそこは先輩、わずか3ヶ月である程度ものにしてしまった。さすがに僕には及ばないが。




そんなわけで気配を薄くした僕たちは件のプレイヤーの元にたどり着いたのだった。












サービス開始初日ということで大したものは想像していなかったのだが予想以上にしっかりしている。さすがに大きな建物を持っているということはなかったが、大きめのテントを何個も並べ、真ん中のテントにはリリアン商会という看板がかかっている。おそらくリリアンという名前のプレイヤーが先輩が言っていた人なのだろう。初日でここまで体裁を整えるとはさすがに先輩が優秀だと評価するだけはある。




そんな事を考えながら中に入ろうとしていたら向こうからこちら側に歩いてくる人影が見える。短めの金色に光る髪にスラッとしたスタイル、何より人を率いるカリスマを感じる女性だ。彼女はそのまま僕たちに近づき、優雅に挨拶をした。




「ごきげんよう。そして当商会に足を運んで下さって誠に有り難うございます。私どもリリアン商会はFWO 1の商会だと自負しております。どうぞごゆっくりご覧ください」




確かにFWO 1という言葉は事実だろう。この短時間でここまでするのは余程の能力がないと不可能だ。他のプレイヤーがここまで出来るとは考えられない。




「ベータテストぶりね、リリアン。相変わらずで何より」




先輩が親しげにリリアンさんに話しかける。これには僕も少しだけ驚いた。実は先輩には同性の友人がほとんどいない。もともと口数が少ないというのも有るのだが、多くの場合相手が先輩の容姿や能力に対して劣等感や嫉妬心を抱いてしまうからだ。そんな先輩と仲良くなれる人は余程そんなものを抱かないお人好しか対等に接する事ができるだけの能力がある人だ。そんな様子を見て僕は目の前のリリアンという女性の評価を更に一段階上げる。




「そうね。そちらも元気そうで良かったわ。そしてネージュさんは初めましてですね。私この商会の長をしておりますリリアンと申します。貴方とはいい関係を築きたいと思っております」




「これはこれは、ご丁寧にどうも有り難うございます。ご存知のようですが私はネージュと申します。こちらこそ貴女とは是非いい関係を築きたいと思っています。あとシエルさんと同様に僕にも敬語使わないでいただきたい」




「あらそう? それならラフにさせてもらうわ。貴方も敬語使わなくて結構よ」




「はい、じゃあ何で僕のこと知ってたの?」




少し気になっていたことを尋ねる。




「ああ、それは私あなたたちの配信を見てるもの。それでさっきの貴方の戦闘シーンをみて、ぜひお近づきになりたいと思ったわけよ」




なるほど、道理で僕のことを知っているわけだ。それにしても始まったばかりで忙しいだろうに配信を見る余裕まであるとは驚きだ。




「えっと、じゃ僕が何を求めて来たのかも分かってる感じ?」


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