第7話初戦闘

思ったより時間が経っていたので(どう見ても時間が過ぎている要因は明白だが)少し急ぎ目で街を出てフィールドへ向かう。




「どっち側行きますか?」




「北側」




「いきなりですか」




「私とネージュなら問題ない」




「先輩は相変わらずですね」




始まりの街は東西南北にフィールドがあって、モンスターの強さは東→西→南→北の順に強くなる。今は始まったばかりだからほとんどのプレイヤーは東の森で多少自信があるやつが西に行っているぐらいだろう。




「それよりネージュ、呼び方先輩に戻ってる」




「あ、すいません。忘れてました。シエルさんですね」




「ん、」




そんな会話をしながら歩いているとコメントで質問が飛んでくる。




{βテスト時代最強と言われてたシエルちゃんはともかく、始めたばっかのネージュくんがいきなり北で大丈夫なの?}




当然の疑問だろう。そもそもβテスターでもほとんどが西で止まっている。そんな中βテスターでもない者が北に行くのは自殺行為に過ぎない。そんな視聴者の疑問に僕が答えようとしたら先輩が先に返事をした。




「全く問題ない。みんなもよく見ておくといい。ネージュの理不尽なくらいのリアルスキル」




{ゲームめっちゃ上手いシエルちゃんがここまで言うってすごいな}


{めっちゃ期待できる}






「そんなハードルあげられるとやりづらいですけど、まあ頑張ります」




それだけ言い、武器の確認をするために刀を抜く。




[初心者の刀]


・数打ちの刀。切れ味は最低限しかない。初心者が使うには充分。




まあ、説明にもあるように数打ちの刀だ。相棒にはとても出来ないが今振るうだけならさして問題はない。数回素振りをしたあと刀を鞘に収める。




「さすがね」




すると、急に先輩に褒められた。




「え、何がですか?」




何故褒められたのか分からず首を傾げながら尋ねる。




「刀を持ってる姿が堂に入ってる」




「あー、そういうことですか。まあ、普通の人に比べたらそうかもしれませんね」




{素振りの切れヤバすぎ}


{これは期待できる}




そんなことを話しながら進んでいると、オオカミのようなモンスターが現れた。数は…5匹か。




「じゃ、シエルさん行ってきます」




刀を抜いてこちらの様子を伺っているモンスターに歩み寄ろうとしたら、




「ちょっと待って。せっかくなんだから識別のスキルつかったら?」




そのように指摘を受ける。自分のスキルなのにもう忘れてしまっていた。リアルで戦う時はそんなスキルないからな。ついつい忘れてしまう。




「そうでした。じゃ、真ん中のオオカミに【識別】っと」




スキル発動から3秒くらい空いてからモンスターの情報が読み取られる。




種族:ウルフ




え、これだけ? もっとこう弱点とか相手のスキルとかそういうのは?




「シエルさん、種族名しか読み取れないんですけど識別も、もしかして不遇なのでは?」




「識別はレベルが上がったら格段に読み取れる情報が増えるから不遇じゃない。それに最初から北のエリアに来てるからで東ならもっと読み取れるはず」




そうか、ここってどう考えても僕のステータスでは適正ではないのか。それにしても良かった。識別まで不遇となると初期スキルのほぼ全て不遇になるところだった。




「それじゃあ、今度こそ行ってきます」




多少距離があったからか、まだこちらを伺っているウルフたちの方へ足を向ける。




「ん、いってらっしゃい」




{え、ネージュくん1人で5匹相手するの!?}


{さすがにそれは無理w}


{シエルちゃん手伝ってあげた方が}




そんな風に言われていることも知らずに僕は刀を抜いて思考を戦闘用に切り替える。




相手は5匹。1対多の戦いで大事なのは囲まれないことだ。相手の方が数が多い以上囲まれるだけでものすごく不利になる。イメージとしては1対1を5回するイメージだろうか。




まあ、実戦ではそんなにうまくいくことは少ないが。




さて、相手はウルフということで4足歩行の動物だ。4足歩行の動物はその性質上前に進むのは速いが後ろに下がるのは苦手である。そのため、こちらから間合いを詰めると相手はやりづらくなる。




僕は体を前に倒し、地面につく寸前で地面を音がなるほど強く蹴る。初速からいきなり最高速に達した僕は1番近い位置にいたウルフの首に刀を振るう。突然のことに反応できなかったウルフはその命を散らした。




その瞬間他のウルフが僕に向かって襲いかかる。その攻撃をいなしながらカウンターを喰らわせる。全ての攻撃を首に当てるのは理想だが連携して襲われると、それも不可能なので次点は足だ。機動力を奪って仕舞えばあとはただの的だ。




時には刀だけでなく蹴りなども利用しながら1匹ずつウルフを仕留める。戦い開始からわずか30秒足らずで僕は5体のウルフを倒すのだった。






「終わりました」




「ん、お疲れ。さすがの刀捌きだった」




「いえ、まだまだです。やっぱり2年は離れてたので結構腕が錆びついてます」




当時の僕が見たらバカにするであろうレベルの技だったので僕は落ち込みながらも、早く戻すために脳内反省会をする。




{え、これで錆びついてるの? 格上のエリアで5匹相手に1人で30秒程度で沈めておいて? え? は?}


{↑落ち着け。まあ気持ちはわかるが}


{予想より100倍以上ヤバかったw}


{しかも、アーツ使ってなかったよね?}


{リアルでも同じことできるってこと?}


{嘘つけよオイ、ヤバすぎだろw}




コメント欄でものすごく騒がれ、この後この戦闘シーンの切り抜きが話題になることも知らずに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る