第2話キャラクリエイト①
宣言を終えた後、元から周到に用意していた先輩の手によって何故か分からないが僕は先輩の住んでいるマンションの隣の部屋に引っ越しをすることになった。物欲が少なく必要最低限の物しか持っていなかった為、翌日には引っ越しが完全に終了した。
「本体の設定はこれで完了ですかね。それにしてもソフトだけじゃなく、ハードまで先輩に買っていただいて本当に申し訳ないです」
一緒に配信することになるのだからそれぐらいは自分で払うつもりだったのだが。
「別に気にしなくて良い。それより明後日スタートだけど、どういうプレイスタイルにするのか決めた?」
「あはは、それがまだ決まって無くて」
あれから色々調べたのだが、どうもβテスト版では、初期武器として両手剣、片手剣、杖、弓があり、中でも片手剣と杖が人気で弓は不人気だったようだ。
「先輩はβテストもプレイしてたんですよね? どんなスタイルにするんですか?」
先輩と被らず、相性がいい物を選んだ方がいいかもしれない。
「私は近接戦を捨てて、完全に魔法職で行くつもり」
「なるほど、となると僕は近接戦をメインにした方が良さそうですね」
先輩が後衛なら僕は前衛をやるべきだろう。流石に2人でプレイするのにどちらも後衛じゃやりにくいだろう。
「別に好きにすればいい」
「や、そういうわけにも行かないですよ。配信としてもトッププレイヤーになりに行くんでしょ」
型破りなプレイもロマンがあっていいが、トップを狙いに行くとしたらある程度はしっかり考えなければ。
「どんなスタイルでも、私と冬雪なら上に行くなんて簡単」
高校時代からそうだがこの人はいつも自信に満ち溢れている。一見、慢心に感じる発言も全てにおいて結果を出してきたこの人とっては普通の言葉だ。
「えらい自信っすね。ちなみに先輩から僕に対するおすすめとかってありますか?」
「弓」
おおっと。βテストで一番人気がなかった武器を迷わず勧めるとは。
「弓、不人気だったらしいじゃないですか。それに弓だと前衛が居ませんよ」
「弓が不人気だったのはシステムのアシストが他に比べて少なくて当てることのできる人がいなかっただけ。リアルで当てられる冬雪なら問題ない」
確かに僕は幼少の頃から武術を習っていて、弓術も修めている。といって練度は他のものと比べると多少劣るのだが。
「あ、そういうことだったんですか。てっきり他と比べて火力が低いから人気無いんだと思ってました」
「火力は悪くない。手数が少なくなる分一発の威力は両手剣レベル」
「なるほど、なら弓も一考の余地ありですね。これからまた考えてみます」
「ん、正式サービスから新しく追加された武器もあるだろうし実際にログインしてから考えてもいい」
確かに他の武器が追加される可能性は大いにある。
「そうですね」
そんな会話から時が経ち、サービス開始5分前を迎えていた。始まった瞬間ゲームにダイブできるように待機している僕と先輩。
「て、何で僕の部屋にいるんですか先輩。自分の部屋でしてくださいよ」
そう言うと
「何で?」
心底不思議そうに尋ねてくる。
「何でって。先輩は女性なんですからもう少し警戒心を持ってくださいよ。無防備すぎます」
フルダイブ型のゲームが出始めた当初、一人暮らしの若い女性がダイブ中に男に部屋に侵入されて襲われるといった事件が起こったことがある。体の揺れを感じた機械がすぐさま警告を出し、すぐにログアウトして抵抗したため何とか強姦未遂で済んだのだが。それ以来、ゲームをする時は部屋に鍵、それも古いものでは無く新しくてセキュリティの固いものだけで無くチェーンを掛けることを強く推奨している。
「別に冬雪なら何されても良い。むしろ襲ってくれて既成事実が出来た方が好都合」
とんでもないこと言い出したぞこの人。
実は先輩からは高校時代に告白されている。しかし、その時はすでに両親が蒸発した後で大学に行かずに就職することが決まっていたので断ったのだが、先輩はその程度で諦める人では無く、僕を逃すつもりは全く無い、いつか絶対捕まえる。と告白を断った時に宣言されてしまった。そのため、職場で恋愛をしていないかちょくちょく探りを入れてきていたのだが、生憎こちとら生粋のブラック企業。僕に限らず職場で恋愛するなどという余裕と気力を持っている人など1人もいなかった。そんなこんなで先輩は僕に対する好意を隠そうとしない。
「何されてもいいって……」
「そもそも私は昨日も一昨日もほとんどの時間をあなたの部屋で過ごしている。今更何言ってるの?」
確かに! 余りに自然にいたから全く気にしていかったが昼食も夕食も何なら朝食から先輩と一緒に食べていた。僕も全く気にせず2人分のご飯を作っていた。ちなみに先輩は漫画などで良くある何でもできるように見えて料理は壊滅的、なんてことは一切なく料理もそつなくこなすのだが、基本興味あること以外には面倒くさがりなので料理は余りしない人だ。
「確かにそうでしたね」
「ん、だから気にしなくて良い」
それで本当にいいのだろうか。とは思いつつも先輩と過ごすのはとても心地良いので今のままでいいかと思ってしまうのだった。そんな会話をしつつサービス開始を迎えた。
「それじゃ、キャラクリ終わったら中央の噴水に集合ね」
「分かりました」
最後にそんな会話をして僕たちはゲームにダイブするのだった。
目を開けると真っ白な空間にいた。目の前には美しい姿の女性がいた。
「Free World Onlineの世界へようこそ。私は案内用サポートAIのノイエと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしく、ノイちゃん」
「ノイちゃんですか!いきなりあだ名をつけられるとは思っておりませんでした。ですがノイちゃん、うん悪くないですね。どうぞノイちゃんとお呼びください」
なるほど、事前の情報通り今までのはAIとは一線を画するようだ。話もかなり流暢で会話してもAIだとすぐに分かるものではない。人間にしか見えないAIという情報に誤りは無いようだ。
「それではまず、キャラクターの名前と性別を設定してください」
ノイちゃんがそういうとき僕の眼前の空中に半透明のキーボードが出てきた。そこに事前に考えていた名前と性別を打ち込む。
「【ネージュ】で男っと」
ちなみにこのゲームはネカマやネナベは出来ない
「【ネージュ】ですね。被りがないか確認します。……被りがなかったため【ネージュ】で決定します。よろしいですか?」
確認画面が表示されOKを押す。ちなみにネージュというのは僕の名前にもある雪のフランス語だ。英語でスノウとするのも考えたのだが捻りが無さすぎると思いフランス語にしたのだ。
「それではネージュ様、続いてキャラクターの容姿を登録します。現実の身体データを利用しますか?」
「うん、それでお願い」
一応、体型や身長を多少いじることはできるのだがあまり推奨はされていない。現実の身体と差が大きいほど違和感を感じるのだ。
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