リアルチートと天才ゲームプレイヤーが行くVRMMO配信録

@Ciel1024

第1話プロローグ 捨てる神あれば拾う神あり

平日の10時、学生は授業を社会人は汗水垂らして働いている時間、1人の男が公園のベンチに座っていた。


「会社が倒産とか人生オワタ\(^o^)/」


20歳男、ただいま無職、最終学歴、高卒


ついでに童貞


「我ながら救えないステータス。てか、倒産するならもっと早く社員に通達しとけよ! って思うけど労働基準法? ナニソレオイシイノ? って感じのブラック企業だったからなあ。それも当然か。はあ〜これからどうしよ」


高校時代、両親が蒸発。何とか卒業は出来たが大学には当然進学出来ず、就職活動をしたが、高卒で身寄りなしの人間を雇ってくれる所などそうそうあるはずもなく、やっとの思いで内定を勝ち取った所は案の定ブラック企業。サービス残業当たり前、土日も当然のように出勤、それでいて月給は手取り15万もない。そんな会社でも、他に行くところが無い僕は2年間働いたが、突然今日、倒産したからもう来なくていいよ。と言われてしまった。


「とりあえずバイト探すか」


自分の状況を改めて把握した僕がそう切り替えて動き出そうとした時、携帯が鳴った。


誰からかかってきたのかと確認すると高校時代にお世話になった1つ上の先輩だった。


「もしもし、東雲です」


電話に出てそう言うと、


「驚いた、電話に出るとは」


開口一番そんな言葉が飛び出してきた。


「出ないと思って電話かけてきたんですか、先輩?」


「出たら良いなとは思ってかけたけど、出るとは思ってなかった。どうしたの?この時間は仕事中だよね?」


「あ〜、何と言いますか。端的に言いますと、会社が倒産して無職になりました」


「あらら、大変だね」


「軽いっすね、先輩。僕結構やばい状況なんですけど」


「まあ、私にとってはむしろ都合がいいし。とりあえず今から私の大学に来て」


「急にどうしたんすか? いきなり大学に来いなんて」


「詳しい話はあってからするから、早く大学に来て」


「え、ちょっと、もしもし!」


ツーツー


「切れてるし。先輩は変わらないなあ」


いつもマイペースで自由な人だ。僕も何度振り回されてきたことか。とりあえず、言われた通り早く、先輩の大学に行きますか。


先輩との会話で少し気が楽になった僕は大学に向けて足を動かし始めるのだった。


45分ほど歩いて僕は日本の最高学府の一つである東大の赤門にたどり着いた。そう、先輩は東大に通っているのだ。あの人意味わからんぐらい頭いいんだよな。とりあえず、着いたということをメールで送る。すると、中にあるカフェにいるからそこに来てと返ってきた。地図を見ながらカフェを探したどり着くと、コーヒーを片手に本を読んでいる、クールな印象を与える美人がいた。その人の向かいの席に座り、


「お待たせしました、先輩」


そう声を掛けると、先輩は顔を上げて


「遅い」


一言そう言った。


「すみません。歩いてきたもんで」


「電車使えば良かったのに」


「いや、今無職なんで、出来るだけ節約しないと」


「私が呼び出してるんだからそれぐらい払う。まあ、もういいや。早速本題に入るね」


挨拶もそこそこにすぐに本題に入るようだ。どんな話をされるのだろうと少し緊張しながら、


「はい、お願いします」


そう返す。


「ん、じゃ、冬雪ふゆき、FWOっていうゲーム知ってる?」


FWOはFreeWorldOnlineの略で三日後に正式サービス開始のフルダイブ型のVRMMOだ。名前の通り、コンセプトは自由。多種多様のスキルに種族、戦闘をするも良し、生産をするも良し、農業をするも良しと遊び方はプレイヤー次第。βテストで余りにも綺麗なグラフィックと人間としか思えないような高性能のAIなど今までのゲームと一線を画する様子が伝わり、今話題沸騰中のゲームだ。


「ええ、さすがに知っています。今テレビやネットでもそればっかですもんね」


ブラック企業で自分の時間がなかなか取れない中でもさすがにあそこまで話題になっていたので僕の耳にも少しは情報が入ってきていた。


「ん、そう。私はそれを手に入れることができた。2つ分」


「え、2つも? どこも品切れで抽選倍率10倍以上って聞いてたんですけど」


「そう、一つは普通に抽選で当てた。もう一つはこの前ゲームの大会で優勝した景品」


簡単に言うが10倍以上の抽選を当てるなんて簡単じゃ無いし、大会で優勝なんてもっと難しいのだが。この如月天音あまねという女性は頭が良く容姿端麗な上に、ゲームの腕がとんでもなく良いのだ。


「さすがっすね。それでそれがどうしたんですか?」


いきなりゲームの話が始まり、いまいち話の内容が見えてこないためそう尋ねると、


「だから、冬雪には私と一緒にこのゲームをしてもらう」


そんな言葉が返ってきた。


「いや、さっきも電話で言いましたけど今僕無職なんですよ。貯金にも余裕があるわけでも無いのでゲームをする余裕なんて無いんですけど」


「お金に関しては問題ない。今私はゲーム配信をしてる。チャンネルはこれ」


そう言って先輩はスマホを見せてくる。


「えっと何々、ciel/シエルチャンネル登録者112万人!?え、なんでこんなチャンネル登録者いるんすか!?」


「普通にゲームプレイしてたらいつのまにか増えてた。それでこの登録者の数を見たら分かると思うけど今私はゲーム配信で相当稼いでる。それこそ、そこら辺のサラリーマンとは比べ物にならないぐらい」


「えっと、この数字なら、そうなんでしょうね」


「そう、だから冬雪には私と一緒にFWOの配信をしてもらう。収益は半々で。だからお金の心配はしなくて良い」


とても旨い話だろう。それこそ今無職の僕が飛びつきたくなるほどには。しかし、


「とても、有難い話なんですけど、遠慮させていただきます。先輩の厚意に甘えるわけにはいきません」


実際これは、先輩の優しさだろう、職を失った僕を助ける為の。


「冬雪なら、そう言うと思ってた。私が大学の費用肩代わりしてあげるって言った時も同じ理由で断ったよね」


実は高校時代、両親が蒸発したことを伝え、大学に行かずに就職するという話をした時、先輩から大学の学費を払ってあげるという話をされていた。もちろん、そんなことは申し訳なくて断ったのだが、


「ええ、ですからこの話を受けることは出来ません」


そう断りの返事をすると、


「でもね、これは大学の時の話とは違う」


今までよりも強い口調でそう言って話し始めた。


「大学の時は、確かに私の冬雪に対する優しさから出た話だったけど、今回の話は冬雪が無職になったことは関係ない。タイミングがたまたま重なっただけで、働いていても仕事を辞めて私と一緒に配信してもらうつもりだった」


「え、そうなんですか? どうしてそこまでして僕を?」


予想もしていなかった返しに驚いてそう尋ねると、


「まず、FWOはMMOだから今までみたいに1人でプレイしてトッププレイヤーになるのは難しい。だから仲間が欲しかったっていうのが1つ。もう1つ、まあこれがほとんどを占める理由なんだけど私が冬雪と一緒にゲームをしたいってこと。実は配信自体は私が高校3年生の時から始めてたんだけどその頃はまだ登録者も少なくて、収益も少なかったから冬雪に私と一緒に配信してって言い出せなかったから、就職するのも止めなかった。でも、今は自信を持って言える」


そこまで言って、一度コーヒーを飲んだ後先輩は、


「私と一緒に来て、冬雪」


普段あまり喋らない先輩からの熱い言葉に僕は


「僕で良いんですか」


と確認すると、


「逆に、冬雪しか考えられない」


そう返された。そこまで言われた僕は


「それじゃあ、分かりました。やります」


そう宣言するのだった。

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