56話 たかくてとおい、そらのうえ

神都メドゥン。この世界最大の都市にして、神人と呼ばれる者が住まう場所。私のような辺境の村に生まれた人間は一生その都市を直に目の当たりにすることなどはない神聖な地。そのはずである地に今、私は足を付けた。

 

『……なんというか、凄まじいなぁ』

 

家屋一つ、道路一つをとっても私が今まで見てきたものとは作りの精密さも素材の良さも天地ほどの差がある。貧富の差がどうだとかなんだとかの話はいつどんな時も誰かが語るが、ここまでの差があるともはや感嘆しか出てこないようになるらしい。

 

『神人様。これより貴方様が真なる神人かを見定めるための儀がございます』

 

『え、あぁ、うん。そこで勘違いだって帰されるだろうけど……私は何をすればいいんだ?』

 

『メドゥン王とこの神都に座す神人様の御前にて、貴方様の力を示すのです』

 

『あ、ジュジェの他にも神人っているんだな』

 

『……名をお呼びすることは本来無礼に当たりますが、ご説明の為でございます。ジュジェ様の他にもう御一方、神人様はいらっしゃいます』

 

名前を呼ぶのすら無礼扱いになるなら、あの時私は何度極刑になればいいのかわからないほどにジュジェと話したなと、心底真面目でまるで情報をそのまま言動に反映させているだけのような使者を見てさすがに小さく溜息を吐いた。

 

『なら尚の事、私は手違いか何かと言われそうだ……砂臭い田舎娘扱いされるんだろうなぁ……』

 

目の前には豪奢としか言い表せないような王宮が聳え立っている。今からこんな場所で恥をかくのかと重い気分を引き摺りながら、私は使者に連れられて王宮へと足を踏み出す。

 

王宮は外見だけではなく、中身も豪奢そのもので、私は落ち着かない様子を隠すこともなくきょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。しばらく歩いてから玉座の間に入る直前に使者に軽く窘められたのがちょっと恥ずかしかった。

 

玉座には街の人々や王宮内ですれ違った人間よりも一際派手な装飾に飾られた初老の男性。おそらくはあれがメドゥン王だろう。そして、その玉座よりも高い位置に設置された二つの席にもそれぞれ人影があった。

 

『お、きたきた。フフフ!辛気臭い顔した神人候補様だなぁ』

 

玉座よりも重厚感を感じさせるような椅子、その上で胡坐をかきながら私を見てケラケラと笑う少年が一人。年齢はパッと見た印象では私より一回りくらい下だろうか。少年は笑いながらひらひらとこちらに手を振っているが、さすがに振り返したりした何の罪にあたるのかもわからないので静かに目線を逸らす。

 

もう一つの椅子にはこれまた随分と不機嫌そうな様子で深々と腰掛けて座っている少女の姿が見えた。あの姿は知っている。長く癖の強い緑色の髪が特徴的で、私と一度話してくれた神人。あれはジュジェの姿で間違いないだろう。興味も関心もないと言わんばかりにこちらに目線すら向けていないので私には気が付いてなさそうだが。

 

『御足労をいただき感謝する、神の現身よ。これより、誠に恐縮な話ではありますが貴方様が真に神の現身か、神を騙る不届き者かを見極めさせていただきたい』

 

メドゥン王が静かに、しかし確かな圧をもって私へと問う。

 

『ほら、ジュジェ。見てあげなよ、僕らと同じ神様候補だぜ』

 

『うるせえよアヴィド。神人だろうが違かろうがワタシはどうでもいい。こんなクソくだらねえ神様ごっこなんざ……』

 

私がこの場の重圧に戸惑い、泳がせた視線の先で不機嫌そうにこちらを見たジュジェと目が合った。少しの間ジュジェは固まると、驚愕と戸惑いに顔色を変えていく。

 

『……リア?』

 

『あれ?なんだよ知り合い?どうやって知り合ったのさ』

 

『お前にゃ関係ねぇ。なんで、あいつがここにいる……?』

 

ジュジェが私へ何か声をかけようとしたのを遮るように、メドゥン王が『さあ、その大いなる力を我らに授けたまえ』と声を張り上げる。

 

私はびくりと跳ね上がってから、一応事前に使者から説明を受けていた通りに魔法を実演した。掌の上で小さな炎を揺蕩わせる魔法や、水を生み出す魔法。私やルゥモス村の皆が良く使っていたものを簡単に解説も交えながら使っていく。

 

『へぇ!おもしろい!なんでもできちゃうんだ!フフフフ!』

 

『あの時のはこういう……』

 

『それを、どんな者でも扱えるようにできると聞き及んでおりますが、それは誠か?』

 

『えっと、人によって多少の得手不得手はでるんだが……基本的には皆が使える。あくまでこれは技術の類で、学問とかになるから理解さえできればどんな人でも大丈夫なはず、です』

 

一瞬、静寂が流れる。

 

王の顔は表情がうまく読めないが、ジュジェの表情は不安そうに歪んでいて、アヴィドと呼ばれていたもう一人は面白そうだという興味関心に満ちている。そんな三者三葉の感情に見下ろされた私を包む静寂は、王の『素晴らしい!』という喝采と共に切り裂かれた。

 

『試すような真似をした無礼をお許しください神人様。貴方様をこのメドゥンにて、大いなる神の現身として国家一丸となり歓迎させていただきます』

 

『え、いや、私は別にそんな……』

 

『フフフフ、いいんじゃない?僕もいいと思うよ。よろしく新しい神人さん、それ面白そうだし今度教えてよ!』

 

『お、教えるのは構わないが……』

 

『フフ、期待してるよ。ところで、ジュジェは何か言いたそうだけどいいのかい?』

 

『……ッチ。ワタシがもう何言ってもどうせ変わらねえよ。なんでこんなとこ来ちまったんだ、お前』

 

ジュジェは吐き捨てるようにそう言うと、黒い泥のようなものに包まれてそのまま姿を消した。今のは魔法とはまた違うもののようで、やはりジュジェの扱うあの力は本当に特殊で特別な物らしい。

 

『付き合い悪いなぁ。まぁ、なんでもいいけどさ』

 

アヴィドはぽりぽりと頭を掻きながら『また会おうね』と言い残して玉座の間を後にする。私はこの状況に自分の脳の整理が追い付いていないまま、王宮の従者たちに連れられて別の部屋へと連れていかれる。

 

どうやら歓迎の宴か何かをするらしいのだが、私はジュジェの様子も、村のみんなの様子もわからないし、自分がこれからどうなるのかもわからない状況で、ほとんど何の話も頭に入ってこないままにただ時間と人に流されていった。



 





その日の晩、見たこともないような料理に見たこともないような人。全てが本の中でしかみたことがなかった品々で作られた、現実とすら思えないような宴が行われた。

 

露店はルゥモス村の家屋の数倍の数が並び、そのどれもが村では見たことのないものを売っている。人の数も当然ながら段違いで、様々な人が各々楽しそうに街の中をねり歩いていた。私はそんな様子を王宮の一角から眺めるだけで、その中には参加させてもらえなかったのだが。

 

『一応は私を歓迎する宴なんじゃないのか……まあ、いいんだけどさ……』

 

神人は神聖なもの。人間とは基本的には関わり合いが薄いものであるとなんとも言い難い不可解さを感じる説明を受けはしたが、せめてこういう祭り事くらいには参加したかった。


このままではジュジェやアヴィドとも打ち解ける機会があるかもわからないし、こういう行事にいつか村の皆を招いてあげられればと思ったのだが、神人という立場には想像以上に難しいことなのかもしれないと思わず溜息を吐く。

 

『神人様には個別にお食事を御用意しております』

 

『あ、うん。ありがとう……ええっと、お付き人っていうのは君だったんだ』

 

『はい。僭越ながら、私が神人様の御付きを務めさせていただきます。ご用命がございましたらなんなりと』

 

私のことを村まで出迎えに来た神都の使者が深々と頭を下げる。

 

『じゃあできればもう少し気軽に話してほしいんだが……』

 

『それはなりません。神人様と私では、比べるのも烏滸がましいほどに立場が異なりますから』

 

『それを言ったら私は田舎村出身だよ。君はずっと神都にいるんだろう?』

 

『ですが』

 

『じゃあ神人としての命令。これならどうだろう』

 

使者は世紀の大問題にぶち当たったかのような顔をして、しばらく声もないままに悩んでから未だに納得はしきっていない様子の表情で再び口を開く。

 

『……承知いたしました。極力、神人様のご意向に沿えるよう努力いたします』

 

『まずその神人様っていうのやめてほしいんだけど……』

 

『…………申し訳ございません。私も極刑にはなりたくありませんので』

 

『そ、そんなに重罪なのか……じゃあ、二人でいるときだけでも。リアでいいからさ。歳も見た感じ私より少し下くらいだろうし』

 

『……あの、いえ。はい……その、承知いたしました。では、リア様……でご勘弁をいただけますでしょうか……』

 

『ま、まあむず痒い感じはするけど、神人様呼びよりはいいかな……』

 

私と使者はお互いに何とも言えない気まずい沈黙の中、私は目を少し泳がせ、使者は立場的にそうするわけにもいかないからか微妙な表情のまま私を直視している。そのままもうしばらく沈黙が続いた後、さすがに耐えられなくなって私が口を開いた。

 

『ええっと、自己紹介とかしないかい?私のことは……多分知ってるんだろうけど、私はリア・ソレイミャ。ルゥモス村の生まれで、妹はユイ・ソレイミャ。自慢の妹なんだよ』

 

『……そう、ですか』

 

『うん。また今度、村の皆のことも紹介させておくれよ。よければ君の名前も教えてほしいな』

 

『私に名前は、ありません』

 

『えっ!?そんなことないだろう!?まさか自分の名前すら教えちゃダメなのか!?』

 

使者は小さく首を横に振ると、少し歯切れが悪そうに再び話し始める。

 

『私共一族は神人様や国王へお仕えするために育ちます。個を持たない、主の一部であることを教えとするためです。故に、私に名前はありません』

 

『壮絶すぎて私の頭が追い付かない話だ……けど、名前がないってのは不便じゃないか?私も君をなんて呼べばいいかわからないし……』

 

『かみび……リア様の、お好きなようにお呼びいただければ』

 

私はううんと唸り声を漏らしながら、腕を組んで考える。

 

田舎村の病弱な本の虫からすると、神都の話や光景は絵本や物語の中でしか見ないようなものばかりだ。名前がない人間なんて想像がつかないし、だいたいそんな状態で家族はどんな会話をしてどういう顔で食事を囲んだりするのだろう。


人それぞれとか場所だ身分だと言われてしまえばそれまでな気はしたが、なんとなく私個人の感性で凄く嫌な話のような気がした。

 

『……よし!リカリィにしよう!』

 

パッと顔を上げ、使者の、リカリィの方を見る。リカリィは私が突然何を言い出したのかわからない様子で、おそらく珍しい表情のまま固まった後、はっとしたように表情を戻してから口を開いた。

 

『リカリィ、とは……』

 

『君の名前。どこかの言葉で楽しいとか、楽しい日々みたいな意味の言葉だったかな。本の知識だから間違ってたら申し訳ないんだけど……リカリィ、リカリィ・フューでどうだろう。あ、嫌だったら他のを考えてみるよ』

 

『嫌、では……その、はい。それで大丈夫、です』

 

『ほ、本当に?嫌だったら本当に別のを考えたりするから遠慮しなくてもいいんだよ……?』

 

リカリィは顔をふいと逸らし、消え入りそうな声で『いえ』とだけ呟いて、私に一切顔を合わせてくれなくなる。私は怒らせただろうかと不安になっておろおろとしていたが、しばらくしてから小さな声が聞こえてきた。

 

『あの、申し訳ございません。う、嬉しい……です。とても……』

 

耳まで真っ赤にして、小さくそう呟くとリカリィは再び顔を逸らした状態で固まってしまった。私はとりあえず怒らせたわけではなかったことに安堵したのと同時に、こんなになる程に喜んでもらえるとは思っていなかったのでこちらまで少し嬉しくなった。

 

神人を騙るものだと追い返されると思っていた分、この状況はかなり想定外だ。それでも、とりあえずは村に手紙か何かを頼みつつ、しばらく神都にいることになりそうだなと私は覚悟を決めたと同時にため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

歓迎の宴の次の日から、私は神塔という建物の中で神人としての職務をこなすようになった。

 

魔法を神都の人々に教え、私自身もアイデアを出し続け、それを皆が皆それぞれの発想で次々と発展させていく。さすがは神都と言うべきなのか、人の数が純粋に多いからなのかは測りかねるが、村の中で使用していたよりも圧倒的な速度で魔法は技術として発展していった。私の理想、世界中の皆が幸せになれるようにという目標には図らずも最高速度で近づくような結果になったらしい。

 

けれど、私は直接人々に魔法を教えているわけではない。村でやっていたような教師紛いの講習会を開いているわけでもなければ、ユイと二人でやったように誰かと夜が明けるまでいろいろな事を試したりしたわけでもない。ただ技術書を書き上げて王に渡しただけ。発展の様子や技術の活かし方はリカリィから聞いてはいるものの、私としては酷く退屈だった。

 

そんな日々も気が付けば随分と早く過ぎて、ここに来た日のことがそれなりに懐かしい話になった頃。

 

『この状況が嬉しくないとまでは言わないが、私も誰かとこう……いろいろ考えたいんだけどなぁ』

 

『リア様は神人様ですから、人と共にというのは難しいのですよ』

 

『リカリィ以外と私もうしばらく話してないぞ……村にも帰れるのなら帰りたいと何度も伝えてるのに……はぁ、いつになったら顔を出せるんだろうな私……』

 

『…………今は、リア様による魔法の発展が、重要ですから』

 

私は自分の居住用スペースに用意されている立派なんて言葉じゃ言い表せるかわからないような書き物机の上に突っ伏すようにしながら愚痴をこぼす。

 

私の住処、この神塔の中には普段はほぼ私しかいない。神人一人一人にこの巨大な家が与えられており、人はそこに近寄れず、神人はそこから出ることは許可されていない。必然的に一人の時間が異様に増えた。一人には慣れているつもりでいたが、病気が良くなってからはむしろ一人を寂しく感じることの方が多く、このだだっ広いだけの無機質な建造物は私にとっての苦痛の象徴のようになっていた。

 

『わかってる、わかってはいるんだ……。けど、せめて手紙の返事が返ってきてたりしないかな……?』

 

『お返事は……ございません。申し訳ありませんが……』

 

『そっか……いや、いいんだ。リカリィのせいじゃないから』

 

申し訳なさそうに頭を下げるリカリィに、私は心配させないようにと笑顔で返す。

 

神都に来てから、数日に一回の頻度でルゥモス村へ、もっと言えばユイに向けての手紙を書いては届けてもらうことを頼んでいる。あんな別れ際だったし、約束のお土産は持ち帰れていないし、私自身も帰ることができていないので、みんな心配しているだろうし、ユイは特に怒ってるだろうなと思ってのことだ。

 

距離もふまえると毎回確実に手紙が届かないのは理解している。けれど、百を超える手紙を書いて、その全てが届かない事があるのだろうか。もしかしたら、こんな姉の顔などもう見たくないと返事をくれていないのかもしれないが。

 

『本日も国王陛下より技術書を受け取るようにとお話を受けております』

 

『ああ、うん。こないだのだろう?人間そのものに魔法の性質を与えたいって提案。一応色々考えてはみたんだけれど……』

 

『ええっと、興味本位なのですが、どのような手法なのですか?』

 

『人間には魔力の中心になるもの、私は一応これを魂って呼んでるんだけど、まあわかりやすく例えるなら魔力を回す心臓みたいなものだ。これに直接、魔法を刻み込むことができれば、通常の魔法よりも複雑なものや強力なものを情報式や理解の過程をすっ飛ばして使用することができるかもしれない』


私はぺらぺらと自分の考えたことを喋りながら、紙にペンを走らせてメモを書き連ねていく。まだ実際にできるかはわからない話だが、もし実現するなら我ながら役に立ちそうだと思う。


いつもの調子で説明とメモを繰り返している中、ふと顔を上げてリカリィを見ると目を点にして固まっている姿が映り、思わず小さく噴き出す。

 

 『……す、すみません。聞いておいて…….』


『あはは、いいよ。そうだなぁ……本を覚えようと思ったら、本を読まないといけないだろう?けど、最初から本の内容が頭の中に入ってたら、本を読まなくてもその本のことがわかる……みたいな感じかな』


『なる、ほど……?少し、わかった……ような気がします』


リカリィの様子を見て、私は少し笑った後に小さく伸びをする。初めて会った時からは想像もつかないほど、リカリィは色々な表情を見せてくれるようになった。私にとってもはや唯一と言っていい人と話す時間で、その話し相手がリカリィだったのは本当に幸運だったと思う。


『まだ実用的とは言い難いけど、実際にこれができるようになれば勉強をできる環境にない人とかでも魔法をすぐに使えるようになる。少しでも暮らしやすくなってくれると嬉しいな』


言いながら、書き上げた資料をリカリィに渡す。リカリィは少しだけ間を置いてから『私も、リア様と同じ気持ちです』と言葉を返してから礼をして、私の部屋を後にする。


村には約束した通りに帰ることはできていないが、世界が魔法で少しでも暮らしやすくなってくれたのなら、きっといつか村のみんなにも『私なりに頑張ってみてるよ』という想いが届いてくれるだろう。情けない姉で、村でも迷惑ばかりかけた人間だが、少しでも皆の笑顔に貢献できていると思えば、私のこの生活にも命にも意味があると思えそうだ。


──神塔の麓、王宮へと向かう道でリカリィは一人、リアから受け取った資料を眺めながら歩いていた。


『…………私は、私は神人様と、メドゥンの手足……』


ルゥモス村からこの神都メドゥンへ来た新たな神人、リアは神塔に半ば幽閉される事で外界との関わりを完全に断絶されていた。故に、神人リア・ソレイミャはこの一年で世界に起きた変化を認識していない。


魔法という万能技術。そして、その始祖であるリア・ソレイミャを手中に収めた大国メドゥンは魔法の研究開発と共に世界全体への資源の獲得へ向けて動き出した。


火種もなしに家屋を焼き、道具もなしに傷を治す。人間一人が強大な兵器と肩を並べるほどの現象を引き起こせる魔法という技術は、メドゥンという大国による恐怖の象徴となるまでに長い時間はかからなかった。


誰が呼び始めたか"悪魔の術法"。それが今、世界唯一の魔法国家となったメドゥンの持つ力の呼び名であった。

 

『あの方を、あんなにも優しい人を、世界は悪魔と呼ぶ……』

 

リカリィはとぼとぼとした足取りで歩きながら、今まで自身の人生の中で味わうことのなかった感情を必死に整理しようとしていた。

 

『リア様、貴方に会わなければ、私はずっとつまらないままでいられたかもしれません』

 

顔をあげた少女の眼には、確かな決意が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神人。それはこの世界において、生まれつきに異能の力を持って生まれた者を指す言葉。その名を冠す者は超常の力を用い、世界や人間の道理を捻じ曲げ、奇跡を起こす。


大国メドゥンは初めての異能者であったアヴィド・ゼーゲンを神人と呼び、神聖視することで絶対の信仰と畏怖をこの言葉に付与した。その後に生まれた異能、ジュジェ・ブランセチアも同様に神人とし、信仰で塗り固めることで他国や個人に異能の力が渡ることを防ぎ、同時に絶大かつ絶対の力を保有することに成功した。

 

そんな世界唯一の力を所有することに成功したメドゥンにとって、リア・ソレイミャの生み出した万人に奇跡を与える技術、魔法は脅威としか言い表せないものであった。メドゥンが積み上げてきた技術や文化を悠々と越え、築き上げた神人の威光をかき消す極光。それが魔法という技術であり、それを作り出した者への恐怖の形であった。

 

『だからこそ、リア・ソレイミャは神様の立場を与えられたのさ。フフフ!君もそれは聞いてるはずだけどね、飼い犬ちゃん』

 

『アヴィド・ゼーゲン……!?なぜ、ここに……!!』


『神都軍のお人形さんたちはお仕事。僕は……そうだなぁ、いつまでも誰かの何かでしかない誰かさんが誰なのか見たくてさ』

 

リカリィは今日、一人きりで砂漠を進む神都軍の前に立っていた。この軍の目的をリカリィは知っている。自らが仕える神人、リア・ソレイミャの人間としての証であり、第二第三の魔法を普及する神人を脅かす者の温床。彼女の故郷であるルゥモス村の殲滅作戦を告げられた。それを止めるために、初めて自らの意思で神都へ背いた。

 

『にしても、神人って枠の僕にそんな口をきくんだ。えらくなったね犬っころ』

 

『……無礼や罰は承知の上で来ました。引き返していただけませんか』

 

神都兵は神人の従者であるリカリィがここにいることに多少ではあるものの明らかに動揺していたが、そんな中でアヴィドだけはニヤニヤとした笑みを浮かべたまま軍隊の先頭に立っている。

 

見た目は少年に近しいが、対峙するだけで生命としての格が違うのだと痛感させられるような重圧。その重苦しく、得体の知れない圧力がリカリィにのしかかっていた。

 

『フフ、引き返してもいいかもしれないんだけどさぁ。僕はあの新しい人形に大して興味ないっていうか、ちょっと気に入らないくらいだしね』

 

『貴方様の権限ならば、ここで引き返しても咎められることはないでしょう』

 

『当然。この僕を咎めようとか、ふざけんなよって話だし。けど、まあ、そうだね……』

 

アヴィドがリカリィへゆっくりと手を向ける。

 

その刹那、灼けた砂漠の砂も、灼熱の陽光も、目の前の全てを呑み込む熾炎が噴き出す。

 

『っ!!』

 

リカリィはその場から咄嗟に飛び退き、着地のことも考えずに転がる。アヴィドの放った炎は数秒前までリカリィが立っていた場所を言葉通りに跡形もなく焼き尽くしていた。

 

『俄然進みたくなったよ。フフフフ!面白いぜ君!!飼い犬だ傀儡だより断然面白い!!欲しいものがあるんだろう?どこまで手ぇ伸ばしてられるかな!』

 

『私の人生で、神人へ刃を向けることになるとは思いませんでした……!』

 

アヴィドは渦巻く熾炎と共に狂笑し、リカリィは邪悪な太陽と神都軍に一人剣を構えて立ち向かう。砂漠に炎が舞い、干戈が響く。たった一人の人間と神の現身、世界の具現とも言うべく軍隊との戦いは、そう長くは続かなかった。

 

リカリィの魔法はアヴィドに焼かれ、振るう剣は神都軍に防がれる。初めから勝てるわけもないと、何よりもリカリィ本人が理解していた戦いだった。それでも、彼女は自分に優しさを与えてくれた優しい人を助けたかった。

 

砂塵さえも舞うことをやめた頃、到底一人の人間の抵抗によるものとは思えないほどの爪痕の中、一人の少女が倒れ伏していた。

 

『あーあ、終わっちゃったか。よかったんだけどなぁ、この子』

 

アヴィドはぽりぽりと頭を掻いてから残念そうに息を吐く。そのまま眼下に倒れ伏した少女を一瞥すると、数人が欠けた神都軍へ『さっさと行こう』と声をかけ、少女に背を向けて歩みだす。

 

その歩みが、最初の一歩で止まる。

 

『……身体半分灼け飛んでるのに、まだ手を伸ばすのかい?飼い犬ちゃん』

 

自らの足を、半死半生の状態で掴んだ少女へとアヴィドが問いかける。

 

『ィ、だ……』

 

『あ?』

 

『わ、だしは……リカリィ・フュー、だ……あの、ひとの、くれだ名前……やさじい、人の……!!』

 

『……フフッ、いいね。覚えておくよ君のこと。さよなら、リカリィちゃん』

 

アヴィドは微笑み、リカリィへと手を向ける。

 

静かに、優しい抱擁のように炎がリカリィを包み、音もなく、何も残すこともなく炎は消えた。




 

──その日、私は地獄を見た。

 

お姉ちゃんが神都に連れ去られてから一年が経っていた。魔法は世界に広まったが、どう考えてもお姉ちゃんが望んだような使われ方をされていない。

 

戦争に魔法を用い、略奪と殺戮の中で狂った成果を山のようにメドゥンは生み出した。所有者を使い捨てにするような魔法を刻み込んだ人工神人。人間から魔力を根こそぎ奪い優れた魔法使いに魔力を与える技術。命も、理念も、何もかもを踏み躙り嘲笑うようなものが増え続けた。

 

その貪欲さと残虐さは留まるところを知らず、飢えた獣のように手当たり次第に技術と発展のために世界を貪った。いつしか世界は、お姉ちゃんを神人ではなく悪魔と呼ぶようになっていた。

 

『なん、なのよ……これ……!!』

 

その日、私は隣の村まで検診があったので村から出ていた。朝に村を出て、日暮れ頃にようやく帰って来た時、そこに私の育った小さくも優しく、温かい村の姿はなかった。

 

家屋は焼け崩れ、美しかったはずのオアシスは血と泥と死体で濁りきっている。そこにあった笑顔を我が物顔で軍人が踏みつけ、思い出も暮らしも、私たちの日常のなにもかもが黒く焼け焦げ燻っている。自然の災害などでは断じてない。これは、人の悪意がもたらしたものだ。

 

『あれ、生き残り?それとも部外者?』

 

愕然としたまま、現実を受け入れることができない状態の私に唐突に声がかかる。少年とも青年ともとれる声色の声に反射的に振り返ると、この光景に似つかわしくないニヤニヤとした笑みを称えた者が立っていた。

 

『……あんたらが、これを?』

 

『そうだね。悪魔の術法、その温床になりかねないここは残しておくわけにはいかなかったってわけさ』

 

悪魔の術法。お姉ちゃんが作った”魔訶不思議な術法”をいつしか誰かがそう呼び始めた。そこに込められた、あの底抜けのお人好しの思いも知らないで。

 

『ああでも、君が助かる道もあるよ。君がリア・ソレイミャと無関係なら、僕も神都軍も君に何かする理由がないんだ』

 

『リア・ソレイミャ……?』

 

『この村はアレが育った村でね。神様には人の繋がりなんてないはずだし、アレがここに戻ることもない。だったら、小さな小さな砂漠の村が、一つ焼け落ち消えるなんてよくある話があっても誰も気にしないってわけさ』

 

へらへらと、軽い調子で青年は話す。その間に私のことを神都の兵士がぐるりと取り囲み、剣を構えていた。ここでリア・ソレイミャと、お姉ちゃんとは関係がないと言えば、もしかしたら本当に助かるのかもしれない。

 

そんな考えを振り払うように、私は周囲の神都兵へ向けて魔法を放ち、叫んだ。

 

『関係ないわけないでしょうが……!私は!リア・ソレイミャの妹よ!!』

 

目の前の青年は一瞬驚いたように目を見開き、その直後に口が裂けたような笑顔で笑いだす。それに応えるようにして、青年の周りから炎が噴き出して渦を巻く。

 

『フッ、フフフフフ!!あの元飼い犬といい、この村といい、君らほんっとに嫌いじゃないぜ!そうだ、欲しいものは、大事なものは!手放しちゃ駄目だよなぁ!!』

 

青年が狂笑と共に腕を振るい、その動きに合わせて私へと熾炎が走る。通り道に灰すらも残さずに進むその炎を見て、私は防ぐことは諦め咄嗟にその場から飛び退いて炎を避けた。

 

『フフッ!リア・ソレイミャとは関係ないって言ったらすぐさま殺してやるつもりだったんだけどさぁ!この村の誰一人としてそんなこと言わなかったよ!』

 

炎を避け、転がった私へ神都軍が追撃をしかけようと寄ってくる。私は形振り構わずに魔法を神都軍へぶつけて吹き飛ばし、ただ一人楽しそうな様子で言葉を重ねる青年を睨みつけた。

 

『言うわけないでしょ!家族なのよ、みんな……!それを、それをよくも……!』

 

『そんなに大事かよ、悪魔の術法を世に広めた正真正銘の悪魔のことがさ!人の皮被っただけの怪物かもしれないぜ!フフフ!』


『何も知らないで、知った口をきくな!!』


怒声と共に雷を放つが、青年の炎に私の雷は簡単に打ち払われる。炎はそのまま相殺されることなく突き進んできて、私の腕を焼き尽くした。


『っあぁ……!』


お姉ちゃんは幸せなんだと思っていた。


あの時は、自分の家族を奪われるような気持ちが強かったけれど、神都で暮らせるのならば村よりもずっと良い暮らしができる。自分をそうやって納得させて、私はお姉ちゃんの邪魔をしないようにしようと、忘れることを選んだ。


その結果が、今だ。


『ふざけないでよ……』


腕を焼かれて怯んだ隙に、神都兵たちが私の身体に武器を突き立てる。身体の中身がいくつも潰れ、赤黒い液体が吹き出した。


『まあ、神人の家族って言っても人間だからね。世界に弄ばれて消えていくのは哀れだけど』


『こんなことの、ためじゃない……』


神都兵に至近距離で魔法を放ち吹き飛ばす。失った血で眩暈がするが、武器を突き立てられた刺し傷を一気に治し、焼けた腕を再生させる。


『おお?何それ?それは死んでおきなよ、人として』


『お姉ちゃんの魔法は!こんなことのために作ったものじゃない!!』


ニヤついた顔の青年に再び雷を放つが、やはり簡単に炎で打ち払われてしまう。魔法を攻撃に使おうなんて、今まで考えたこともなかった。反面目の前のアレは、きっと人を害することに魔法を使い続けてきたのだろう。


拙い攻撃ごと炎が私の身体を焼く。焼け焦げ、灰になった身体を魔法ですぐさま治す。


『フフフ!不死身かよ!神都でも見たことないぜそれ!』


青年が炎を纏わせた腕で私の腹を貫く。


『人が一人いるだけで火種も何もなしに人も物も焼けるし、君みたいに不死身にもなれる。フフフ、本当に"悪魔の技法"なんてよく言ったものだと思うよ』


『どこでも火が起こせるようにしたのは……!暗くて冷たい夜に怯える人がいなくなるように……!!』


炎で加速をつけた蹴りに蹴り飛ばされ、何ヶ所か骨が砕ける。その骨もすぐに治すが、治し続けているだけで何か他にできるわけでもない。


『道具の使い方なんて使うやつ次第さ。嫌なら他人を変えるしかない。アレも本当はわかってたんじゃない?これが人殺しに使えるんだってさ』


『うるさい、うるさい!うるさい!!それ以上、お姉ちゃんの願い事に泥を塗るな!!!』


本当に優しい姉だった。


いつも自分のことは二の次で、誰かのためを思ってばかり動く人だった。お姉ちゃんが神人と呼ばれた時、私はどこかで納得すらしていた。それくらい人のために動く人で、優しくて、凄い姉だった。


だから、だからそんな姉が神人になるのなら、もっと良い世界になるだろうと、お姉ちゃんに全てを勝手に押し付けて、私はお姉ちゃんのことを忘れて生きていた。


どうしてあの時殺されてでも姉の手を握らなかったんだろう。


どうしてあの時這ってでも姉の隣にいてあげられなかったのだろう。


どうして私は、私が幸せになるために唯一の家族だった姉を諦めようなどと思ってしまったのだろう。


『手を伸ばし続ける姿勢は好きだぜ。けど、遅すぎたらしいね、妹ちゃん』


どうして、私はお姉ちゃんの隣にいられないのだろう。


あの日褒めてくれた命魔法、たくさん練習したんだよ。お姉ちゃんにできないことが、私にできるのが嬉しくて、お姉ちゃんが褒めてくれたのが、私がお姉ちゃんを助けてあげられたのが、本当に嬉しかったんだよ。


ごめん、ごめんね。ごめんね、お姉ちゃん。あの時に、私は『神様になんてならなくていいよ』って、言ってあげられなかった。


『ごめんね……お姉ちゃん、ごめんね……一緒に、帰ろ……手、繋い……で……』


生まれ育った砂漠の熱はもう、感じなかった。









世界を自分の目で見たのはいつ以来だろうか。


いや、私は本当は世界なんて一度も見たことがなかったのかもしれない。


ずっと、ずっと与えられたものを、与えられるままにして、私は私から逃げてきた。妹からの献身も、家族からの親愛も、神人としての運命も、生まれながらの病弱も、今までの全てを与えられるまま逃げてきたんだ。


だからこれは、罰だったのだと思う。


『え……?』


『伝えた通りさ。君の故郷も、家族も、友人も、もういなくなってしまったよ』


その日、アヴィドが急に私の元を訪ねてきた。予定も何も聞いていなかったし、そもそもリカリィ以外と会うのは久々だった。そのリカリィも数日前からとんと姿を見せなくなってしまっていたのだが。


そんな折に久々に他人に会えた喜びは、一瞬で消えて失せてしまった。


『なに、を……言っているんだ……?』


『信じられないなら君の目で見てみるといいよ。歩く足もある、己を通す力もある、世界を見る目だってあるんだ。ま、もっと早く気がつくべきだったと思うけどさ』


『けど、私はここから出ることは……』


『出られるさ。出ようとしてないだけだよ。人形として死ぬつもりならいつまでもそうしてれば良いと思うけど』


ひらひらと手を振りながら、アヴィドが部屋を後にする。


『そんな顔をするくらいなら、ちゃんと離さず握りしめておけよ。リア・ソレイミャ』


私はしばらくの間呆然とただ立ち尽くし、崩れ落ちるように床に座り込んだ。


世界は良くなると思っていた。魔法はそのために作った技術だから。皆同じ方を向いているものだと思っていた。生まれ育った場所ではそうだったから。


私はずっと、目を閉じていたのではないか。どうしてそれに気がつかなかったのだろうか。


『帰、らなきゃ。そうだ、帰らないと』


よろよろと立ち上がり、おぼつかない足取りで私は外に出る。重く閉ざされていたはずの扉は恐ろしいほどに簡単に開いた。


高い、高い塔を下っていく。


ああ、私はいつの間にか、本当に神様になっていた。眼下に広がる世界を、こんなところから見ることができるはずもなかったんだ。


『世界の火種を消せ』


『神を騙った怪物を討て』


『神人を、王を狂わせた悪魔を殺せ』


皆、怒りに狂い、悲しみに吼えている。


血を浴び、ただ狂気に身を浸して、狂った叫び声をあげている。これが世界か?私の望んだものか?私の作り出した、私の願いの果てにあるものはこんなものだったのか。


『…………ああ、ごめんよ……ジュジェ……君にそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。お礼をちゃんと言いたかった。君のおかげだと、皆で、いつか』


憤怒と憎悪に満ちた表情のまま固まった友の顔を、同じ顔をした人々が掲げている。血が滴っている。そうだ、ジュジェにだって血が流れている。神様じゃない。友人だった。人だ、あの子も、人だった。


神人だからと、君に遠慮をした。友人と呼んでくれたのに。


『お前は、なんなんだ。リア・ソレイミャ。何になりたかった?神様?人間?悪魔?はは、何をしたかったんだ、私は。何を……………………』


ゆっくりと、怒りに満ちた群衆に杖を向ける。王を唆し、世界に火種を蒔いた悪魔を討ち滅ぼさんとする群衆へ。


『帰らなきゃ』


何も感じなかった。何も。


ああ、優しい人では、なかったらしい。







たどり着いた故郷には、何もなかった。


暖かかった皆の笑顔も、小さいながらも賑わっていた優しい団欒も、今までの思い出も、唯一の家族も、何ひとつ。


『ああ……そうか、私は、世界なんて、どうでもよかったんだ。どうでも……』


廃墟となった故郷をふらふらと歩き、自分の家へ、家だった場所まで戻る。


何もない。


『みんな、ただいま。ごめんな』


何もない。


『なあグレイル、神都ではリュウリン肉を飽きるほど食べたよ。けど、味がしなかった。君がくれた、君や、ユイと食べたものが美味しかった』


何もない。


『ただいま、ユイ。ユイと一緒にいられたら、私はそれでよかったんだ。ユイのお姉ちゃん……私は、それでよかったんだ』


もう、何もない。


『大丈夫、大丈夫だ。痛かったよなぁ……苦しかったよなぁ……寂しかったよなぁ………』


一人は寂しかった。寂しかったんだ。誰よりも知っている。ああ、同じ思いなんてさせるつもりじゃなかったんだ。


許してくれ。


『みんな、みんな。大丈夫だから、だいじょうぶ、だから……』


笑って暮らせるようになりたかった。


皆大好きだった。


『わた、私、かみさまになったんだ。はは、だから。そうだよ、笑っちゃうだろう?かみさまだよ……あはは!……だからさ、なんだってできるさ。みんな、みんなを……』


大好きだったんだ。それ以外どうでもよかった。それなりに大変な毎日を、みんな必死に生きてきた。


それでも、みんなで笑いあっていた。その中に私もいて、それでよかった。それでよかったじゃないか。


ああ、魔法こんなもの……





作るんじゃなかった。





『……返してくれ』








その日、世界に光が降りました。


光は空を焼き、大地を焼き、そこにある全てを焼きました。


人々は逃げ惑い、泣き叫びましたが、神様には聞こえません。


神様は願いました。


悪しき魔法は、その生みの親と共に。


二度とこんなものが世界を焼かないように。


それを知る全てが消え去るように。


人々は光の柱の中へと皆消えていきました。


神様はひとり、世界を見続ける目になりました。


願わくばもう二度と、その目に悲劇が映りませんように。二度と、私たち悪しき魔法が、笑顔を奪いませんように。




むかし、むかしのお話です。


これは、誰も知らないお話です。


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