18話 蒼海に伏す
音もなく、虚空に門が開く。
『遅かったのう。蛆風情が儂と主人を待たせるなど随分と偉くなったものじゃ』
この国の海とは違う、夜の海や光もない海底のような黒い青。
この悪魔に会うのは初めてだった。外見は人間と相違がなく、フルフルのように宙に浮いてる訳でもない。背丈はフルーラさんと同じ程度で、長いローブに身を包む、背が高い女性そのままと言った風体だった。
その外見の普通さに反して、身体の内側が冷えるような感覚と、霧のように纏わりつく恐怖感が場を支配している。この感覚をうまくは言い表せないが、死ぬことが怖いといったような、漠然とした恐怖がこの悪魔と共に現れた。
『話には聞いておったが、初めて見る顔じゃのう。随分憔悴しておるが、嫌な事でもあったのかえ?』
『別に。フルーラさんから話聞いてるんでしょ。神殿にいる人間のこと守ってくれりゃいいよ』
悪魔はつまらなそうな顔をして『ふむ』と呟くと、辺りをくるりと見回してから私に視線を戻す。
『その我楽多も儂に守れと言うのか?』
『守れなかったらお前の主人を私が殺してやるからな』
悪魔は一瞬キョトンとして、すぐに元の調子に戻って笑う。
『かっかっ!吠えよるわ!まあ良い、仮にも主人の頼みじゃからのう。言われんでも守ってやろう』
人を小馬鹿にしたような目と態度に、若干の不服さを覚えながらも、私は軽く刀の手入れをして、神殿に背を向ける。
『はて、蛆虫よ。何処か行くところでもあるのかえ?』
『まだ残ってんだよ。やばいのが』
レヴィとイラさんから連絡はない。
まだ戦っているのだろう。すでに殺されているという可能性もあったが、今の私はその可能性を考えられるほど余裕がない。
『ほう、ならば精々奮励すると良い。蛆が何匹死のうが儂には関係はないが、主人の顔見知りとあらば幸運くらいは祈ってやろう』
『偉そうな口きいてないでちゃんと守れよ、クソ悪魔』
『十の柱の一本が来てやったんじゃ。心配なんぞするだけ無駄というものよ』
『……お前は信じてないけど、フルーラさんのことは信頼してるから』
悪魔はケタケタと笑いながら、私にひらひらと手を振る。悪魔というやつは、基本的に人のことを馬鹿にしたがる存在なんだろう。こういう時に関わり合いになりたくないと内心で吐き捨てながら、レヴィたちが戦っている場所へと走り始める。
残された悪魔は退屈そうにひとつ息を吐く。
『六本目、好き勝手に産み増やしてくれおって……この我楽多はまた別か?人間も悪魔も勝手がすぎるのう』
返事を返す者はおらず、悪魔が守るようにと言い付けられていた神殿へ向かう怪物が徐々に迫ってくる。
悪魔はそれを特別気にかけることもなく、虚空を見回すように視線を巡らせ、くつくつと笑った。
『まあ良い、良い。これだけ死に満ちておれば問題はなかろう。儂が使うてやる、感謝するが良い蛆共』
悪魔の指先に、炎のような、煙のような、形容し難い塊が集う。悪魔はそのうちの一つを愛でるように撫でる。
『王の眼下で蠢く蛆が、どこまで何を成せるのかなぞ儂の預かり知った話ではありゃせんよ。なあ王よ、お主は一体何を考えておるんじゃろうなぁ』
撫でていた塊を掴み、悪魔はそれを口へと運び、一口で飲み込んだ。
『……まあ、それこそ儂の知った話ではないな』
数刻前。クリジアを見送り、レヴィとイラはブァレフォールの本体と対峙していた。
『レヴィ、基本的には私の前に出るなよ』
『ええ、イラも無茶しないでね』
二人の前に立つ化物は、崩れたような不定形の身体を無理矢理人の形へと戻していく。それに伴って発生するズルズルという気色の悪い音に、レヴィは顔を顰める。
『どうやって守る?どうしよう。どうすれば良いかな。ああ、神子。神子も人間だもんなあ』
ブァレフォールは虚空を見つめながら、譫言のように言葉を繋ぐ。その言葉に明確な意思があるのか、或いは本当に譫言な類なのか、真意のほどは誰にもわからない。
『貴方を倒して守るのよ』
レヴィが水を放ち、その影に紛れる形でイラがブァレフォールへと駆け始める。しかし、ブァレフォールが水に触れた瞬間、その水が炎と共に爆ぜ、イラ諸共周囲を吹き飛ばす。
『イラ!?』
『心配ない!!』
レヴィの視線の先で、イラは受け身を取って立ち上がる。衣類にダメージはあるが、身体には影響がなさそうなイラの様子を確認したレヴィは胸を撫で下ろす。
『悲しいなぁ。憧れても叶わない。なりたいものには永遠に届かない。俺たちはそうだ。人間もそうだよな。そうだっけ?私たちは、そうだ。悲しい。悲しい?わからないか。ははは!わかんないよなぁ!!』
ブァレフォールは狂笑と共に、レヴィへと駆け始める。崩壊しかけているような風体に反し、その身体は人並み以上の速度で進み、レヴィへと手を伸ばす。
その伸ばした手は、レヴィへ触れる前に宙を舞った。
『私を放って神子に触れられるなど、随分な思い上がりだな』
『そうかもなぁ。知ってる、知ってる。知ってる匂いだ。懐かしい。何が?何?』
ブァレフォールの瞳だけが、イラを睨みつける。その顔の一部からは怒りが滲み、また他の一部からは慈しむような表情が浮かぶ。
イラは、それらに意味と呼べるほど明確なものはないと考えていたが、それを差し引いても有り余る不気味さに、背筋を悪寒が走るのを感じる。
『同じだったはずだろ。僕らは』
ブァレフォールの腕が直りながら、変化する。無数の縄鏢のように変化した片腕が、イラへと降り注ぐ。
イラは雨のように降り注ぐ攻撃を、斬り、往なしを繰り返して凌いでいく。
『残念だが、私に形を変えるような芸当が出来たことはない』
『人間だもんなあ』
ブァレフォールがグニャリと笑い、腕が直る。それとほぼ同時に、イラの突剣がブァレフォールの眉間を貫いた。
『お前とは違ってな』
ブァレフォールの頭が炎と共に爆ぜる。その頭は跡形もなく消し飛んだが、胸元に開いた巨大な眼はイラを見続けている。頭がないままに、ブァレフォールの声が響く。
『ボクたちは同じだった。王様、お前が、返せ』
『気味の悪い奴だな……レヴィ!!』
イラの掛け声に合わせて、レヴィが水の塊をブァレフォールへと叩きつける。ブァレフォールは吹き飛び、建物へと突っ込んだ。
『ダメージがあるのかどうかもわからんな』
『イラは大丈夫なの?』
『擦り傷のようなものだ。気にするな』
先程、貫かれていた腕をレヴィに見せながら、イラは笑う。傷は殆ど塞がっており、流血もなくなっていることを確認して、レヴィは改めてほっとため息を吐いた。
レヴィはイラが特殊な種族の血を引いており、並の人間よりも丈夫なことは重々承知しているが、それと同時に彼女が強がりで無茶をしがちな性格なことも知っていた。それ故に、自身の護人ではなく、友人や家族としてイラのことを心配していた。
『あんまり無茶しちゃダメよ』
『急に親のようなことを言うな……というかレヴィに言われたくはないが』
『人が心配してあげてるのに!』
レヴィの声を背に受けながら、イラは『ありがとう神子様よ』と手をひらひらとさせながら返す。レヴィはその様子に若干の不服さがあることを顔で訴えるが、イラはそれを見てもいないので早々に諦めた
そんな二人の視線の先の瓦礫の山が蠢き、触手のようなものに持ち上げられる。
『本当に気味の悪い奴だ』
『イラ、虫とか苦手だものね』
『そういう意味合いじゃない』
ブァレフォールが持ち上げた瓦礫を二人に向かって投げ飛ばし、レヴィがそれを水で弾く。
『あれは何回殺せば死ぬのかしらね』
『わからない。千切れた分が減ってくれていると良いんだが』
ブァレフォールは元の人型に近い形へと戻り、虚な様子でふらふらとその場で揺れている。その表情からも、立ち振る舞いからも、相変わらず何も計り知ることはできず、ただ不気味な異質がそこに在る。
レヴィは一つ息を吐いて、ブァレフォールへと向き直る。
『なんにせよ、これ以上好き勝手されたら私も穏やかじゃないわ』
『今日のレヴィは穏やかだったことの方が少ないと思うが……』
『生真面目に要らないこと言うのやめてもらえるかしら?』
『レヴィが怒り狂ってないかを心配しているんだ』
レヴィは心当たりがあるからか、若干気まずそうな様子で不服そうに頬を膨らませ、それを見てイラは微笑む。状況は決して芳しくないが、二人はいつも通りの様子を維持していた。
『わたしは、知りたいだけなんだよ。白い鳥、人間。嗚呼、形が欲しい。人間の形。俺たちは違う。こんなにも。なんでだろうなぁ』
ブァレフォールが腕を薙ぐ。それと同時に振るわれた腕が伸び、鉄の鞭のように変化する。触れたもの全てを抉りながら迫るそれを、イラがレヴィを抱えて避ける。
『羨ましい、羨ましいぜ。人間。なりたいな』
振り抜かれた鞭のような腕が裂け、無数の小さな手に変化し、その全てがレヴィとイラを追って伸び続ける。
『少なくとも人間のそれじゃないわね!!』
レヴィが叫び、水の散弾を放つ。狙いすまされた攻撃ではないものの、散らされた水滴はブァレフォールの伸びる手をほとんど射抜き、吹き飛ばした。
ブァレフォールは特段リアクションをすることもなく、吹き飛んだ腕を元の形へと直しながら二人へと距離を詰める。
『守りながら逃げる?戦う?無茶すんなよ。無理だよ』
ブァレフォールが地面に触れ、地面が脈を打つようにうねる。イラはそれに足を取られ、バランスを崩し、ブァレフォールの手がそこに迫る。
『守られるだけじゃないのよ!!』
レヴィがブァレフォールへ水を放つ。その水にブァレフォールが触れた瞬間、水が激しい光を放ち、雷へと変化する。
レヴィは咄嗟に手を引いたが、雷光が僅かにレヴィの肌を焼いた。
『痛ぅ……!!』
ブァレフォールは再びレヴィへ手を伸ばす。イラはレヴィを半ば放り投げるようにしてその手から逃し、レヴィとブァレフォールの間へと割り込む。
『憧れは遠いよなあ』
ブァレフォールの手が、イラを掴んだ。
ぐしゃりと嫌な音が響く。
『イ……』
『神子に触れられると、思うな!!!』
ブァレフォールに触れられた腕を振り払い、イラはブァレフォールに刺突の雨を浴びせる。刺突に遅れて爆炎が咲き、ブァレフォールの身体はバラバラに吹き飛んだ。
『イラ!!大丈夫!?今触られ……!!』
イラが触れられた左腕は、人間の腕の材質を保ってはいるものの、歪に歪み、まともに動かせるような状態ではないものに変形していた。
衣類を捻じ曲がった骨が突き破り、裂けた肉が袖口だった部位から千切れ溢れている。腕の先には掌が辛うじてぶら下がっており、指は生物の一部とは到底思えないほどに無機質に脱力していた。
元の形に戻ることはあり得ないのではないか、そうとしか考えられないほどに凄惨なそれを、イラは然程気にした様子も見せずに、片手と口で器用にベルトを腕へ巻き、止血を済ませる。
『イラ………その腕…………!』
『即死ではなかったのは運が良かった。魔法の影響が薄い体質というのも悪くない』
レヴィは絶句したまま、子供の作った粘土細工のようになったイラの腕を凝視していた。イラはレヴィに『今はあまり気にするな』と声をかけながら、残った右腕で剣を構え、周囲を見る。
『るでん生なきて?』
ブァレフォールは形を直しながら、滅茶苦茶な状態の身体でイラを見て音を出す。
『ぎぁ、あー……崩れると面倒なんだ。わからなくなる。そうだ、わからないな。死んでない?なんで生きてるんだろう』
『……余程自分の魔法に自信があったと見えるな、化物』
『そうだよ。おかしいな。死んでない。神子なら死んだ?君がおかしい。同じだ、化物?人間だろ。変だ』
ブァレフォールは修復された自身の身体を確かめるように見て、人間が凝りをほぐすような仕草をしながら、誰かに相談をするような独り言をぼやき続ける。
『まあいいか。何度か殺せば死ぬだろ?死ぬよな。人間だからな。殺してやるさ。なんで殺すんだっけ?邪魔だから?白い鳥を知りたいんだってさ。そうだっけ?わかんないって』
ブァレフォールがぐにゃりと、顔を歪めて嗤う。
『嗚呼、憧れは遠い。守れないぜ。繰り返すんだよ、人間は』
ブァレフォールの腕が、無数の刃へと変化する。歪だが、相手を叩き潰し、裂き砕くことだけを考えられた刃の鎚。それがレヴィとイラの二人に向けて振り下ろされる。
『っ……!イラ!!私から離れないで!!』
レヴィが水で盾を作る。何層にも水の膜を張られた盾は、刃の鎚を受け流すには十分すぎるほどのものだった。
しかし、水の盾に触れる直前、刃の鎚は解け、四方八方から降り注ぐ凶刃へと姿を変えた。
『あっ……!?』
『レヴィ!!!』
イラは剣を放り投げ、レヴィを片腕で掴んで引き摺るようにして走り出す。刃の群れは二人へ降り注ぎ、イラの速力を超えて追ってきている。
イラは一つ舌打ちをすると、レヴィを自身の前方に見えていた船の方、海へと向かって放り投げる。
勢いよく放り出され、海へと飛ぶレヴィの視線の先には、刃の群れへと飲み込まれる直前のイラの姿が映る。
『イラ!?待って!!走って!!』
『レヴィ、君は国を守れ』
レヴィの視界が水に沈む。直前に映った親友の姿は、鮮血と共に刃へと飲まれる姿だった。
ドボンっと、音を少し遅れて認識する。
水に落ちるなんて感覚はいつ以来だろうか。
幼い頃、自分に血の繋がった家族という存在はなかった。神子の力があることがわかった時点で神殿で育てられたのが理由だった。
本当の親というのは探せばいるのかもしれないが、離れた頃に物心もついていなかったので、さほど興味関心もなかった。
代わりにいた家族は、神殿のみんなとイラだった。その中でも、私を神子様としてではなく、レヴィとして見てくれていたのはイラだけだった。そういう意味では、本当に家族のような存在だったのはイラくらいかもしれない。
そんな彼女が、私を庇って刃に飲まれた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう)
焦りと恐怖心で思考が埋まる。幼い頃から大好きだった水が、海が今は鬱陶しいように感じる。踠く手足は水を掻くだけで終わり、空気を吸おうと開く口は泡を吹き水を飲む。
──大海の神子が海で溺れてどうするの?
そんなことを言われてもと、私は思考の隅で反論する。いや、言われていることは正しいのだが、それでも私は神子である前に結局一人の人間なのだ。水に落ちれば溺れることだってある。
──大丈夫、貴方は強い神子でしょう。
本当にそうだろうか。結局私は国民も守れず、それどころか家族の一人も守れなかった。あの化物が『憧れは遠い』と言っていたが、その通りかもしれない。誰もを守れる神子にもなれず、家族と日常を過ごす一人の人間にも私はなれなかったのだから。
私なりに努力はしてきた。苦しいものではなかったが、それでも努力はした。国を守る神子様。家族が好きな一人の人間。そんな風になりたいと私は努力していた。
『そんなことない』
口を継いで出た言葉は、音にもならずに泡となり、ゴボゴボという音を立てて消える。
涙が出ているのかもわからない。無力感というのを味わったのは初めてだった。海すらも私を嘲笑っているような気がして、無意識に顔を手で覆う。
──ねえ、神子様。貴方を助けさせてくれると、私に約束してくれないかしら
助けなんて、今更何を。
そう思った直後に、イラの言葉が頭をよぎった。
『君は国を守れ』
彼女はそう言った。なら、私にとっての国とはなんだろう。
生まれ故郷とは少し違う。好きな場所とも、家とも、もちろんこの間我が儘を通して連れて行ってもらえた除け者の巣とも違う。
例えば、廃墟になったこの島々を守り抜いたなら、国を守ったことになるだろうか。私はそうは思えなかった。
私が守りたい国は、私の好きな人たちがいる場所だ。けれど、私だけでは守れない。そういえば、こんな風に誰かに言うのは、初めてだったかもしれない。
いつも、言わずとも助けてくれる人がいた。
いつしか、頼るのではなく守らなければならないと必死になっていた。
だから、きっと本心からこの言葉を口に出したことはなかった。
『……助けてくれる?』
──勿論。先に約束したのは私だもの
嵐が、海中に芽吹く。
ブァレフォールの分体を倒し、フルーラさんの悪魔に神殿を任せた私はレヴィとイラさんの元へと急いでいた。
あの悪魔、名はサミジナというらしい。四本目、憐憫の祈りの願望機。そんな意図はないと知っていながらも、今の私にとってはなんとも皮肉な祈りをあてがわれたものだと心底嫌な気分になった。
こちらを常に見下したような喋り方ではあったが、フルフルよりは話しやすかったし、何より妙な落ち着きと人間味のある悪魔だったこともあり、纏った雰囲気に反して落ち着く奇妙な存在だった。
神殿には国王や、避難した国民が大勢いて、軍も必死で動いているようだった。神子を守らないのかとも思ったが、神子は守る側で、軍や王は国民を守るのに手一杯のようだ。決して悪い人たちではなかった。なんなら立派な国を守る人たちだろう。
ブァレフォールが放った化物、雑兵は想定外に多く、巨大な赤子の他にも雑兵がいたため、結果的には軍があってよかったのだが、どこか釈然としなかった。神子だって人間だろうが、そう思ってしまう。
『……八つ当たりか、これ』
自嘲するように笑って、私は一際強く地面を蹴る。
『なあクリジア、自棄になるなよ』
私についてきているダンタリオンが、珍しく心配そうな顔をして、呟くように言う。
『ならないよ。私は自分が大好きなんだから』
『頼むよ、契約者』
『……うん』
俯いたまま、私は駆ける。
黒煙が上がっている場所、二人がいる場所まではもうそう遠くない。私はこれ以上ないほどに、必死で走った。
走り抜いて、最初に二人と別れた場所で、私の目に飛び込んできたのは、無数の刃を、幾らかの赤い線を地面に描きながら引き摺り、自身の腕に戻していく怪物と、血の海に伏しているイラさんの姿だった。
怪物、ブァレフォールは腕をゆっくりと元の形に戻しながら、倒れているイラさんへ近づいている。私は絶叫しそうな気持ちを抑えて、地面を蹴る。
まだ生きてる。きっと大丈夫。
頭の中はそれだけで、後先なんて全く考えずに走る。ブァレフォールの手がイラさんへ伸びていく。触れられたら息があっても即死だ。これだけはどう足掻いても変えられない。間に合うはずだ、間に合わせなければならない。
『間に合えよ私!!!』
叫びながら、刀を投げる。
ブァレフォールの後頭部へと突き刺さり、一瞬。ほんの一瞬だったがブァレフォールが怯む。今回は、この一瞬で間に合った。
ブァレフォールの足を斬り飛ばし、体勢を崩させながら投げて突き刺した刀を抜き取る。足を失い、バランスを崩したブァレフォールを後方へ引き摺り倒しながら、イラさんとブァレフォールの間へと滑り込む。
『イラさん!?無事!?ダンタリオン!!見れる!?』
横目で見たイラさんの状態は、いつもの私なら見向きもせず、死体だろうと放置するほどの状態だった。
身体には幾つもの貫かれた跡が残り、衣類の色的に見え難いがじわりと赤い液体が滲んでいる。全身痛々しいが、中でも左腕は特に悲惨だった。
一言で表現するならグチャグチャで、肩から生えているから腕だと辛うじてわかる。これが単体で転がっていたらなんなのかわからないだろう。
『……生きてる!私たちの魔法にモヤが掛かってるのは龍狩のせいだ!やばいのは変わらないけど…!!』
『よしっ……!!レヴィは!?』
ぱっと見渡した限り、レヴィの姿は見えない。どこかにイラさんが逃したのか、或いは隠れているのだろうか。すでに殺されているということはない。そう信じたい。
レヴィを探そうと目が泳いだ瞬間、ブァレフォールが私へと手を伸ばす。それを斬り飛ばし、ブァレフォールへと蹴りを入れて無理矢理に距離を取らせた。
『あれ?おかしいな。僕を殺したの?人間が。人間なのに。凄いな、いいなぁ。人間』
ブァレフォールはカリカリと頬を掻きながら、焦点の定まらない目で私たちを見ている。焦りや、動揺はないように見えるが、正直アレが何を思い、どう動くのかはさっぱりわからない。
『神子はどこだよ化物』
『神子?あー、知らないよ。何処だろう。いないならどうでも良いかな。知らないんだろ。白い鳥。ああ、知っていてくれればなぁ。なんだろう?くれれば?ははは』
ブァレフォールは笑う。笑っているのだが、顔は動いていない。目の下にできた裂け目から笑い声だけが響いている。
『もう死ぬぜ、それ。死ぬよ。はははは。死ぬよな。人間だから、仕方ないさ。俺を殺せたんだ。人間、人間。いいよなぁ、お前ら』
ぐにゃりと、ブァレフォールの顔が歪む。今度は本当に嗤っている。私の背後を指さしながら、歪な笑い声を響かせている。
『ばけ、も、のが……好き、勝手を……言って、くれる……』
『イラさん!?』
『うわっ!?意識あんの!?寝てなよ!人間って簡単に死ぬんだから!!』
掠れた声に、私とダンタリオンは驚愕の声をあげた。ヒュー、ヒューと隙間風が抜けるような呼吸音を鳴らしながら、イラさんは倒れ伏したまま顔を上げ、私たちを見る。
その姿がどこか両親や兄と重なって嫌だった。
『すま、ない……君たち、を巻き込んだ……当人、がこのザマ、だ……』
自分の周りのものが、遠くへ離れていくような感覚が嫌いだった。
ブァレフォールが地面を引き伸ばすようにして放つ。避けようにもイラさんがいる以上、動くことはできない。私は無理矢理刀の背で地面製の破城槌を受ける。
『マジで黙ってろ石頭!!良いんだよ傭兵なんて使い捨てなんだから!!』
息を吐く間も無く、同じ攻撃が飛んでくる。刀が丈夫なことには感謝するが、私の体はそうもいかない。腕が軋み、数発受けた後にはどこかが砕けたような音が身体に響いた。
ダンタリオンが魔法で防護壁を作ってくれたが、即席のその場凌ぎでしかなく、すぐに砕かれてしまう。
『レヴィを、頼む……親友、なんだ……』
『あんたも助けんだよ!!じゃないと私が無駄死になるだろうが!!』
こんな事を、仕事で言う羽目になるとは思わなかった。そんなものは捨てて、私は悪人で、ひとでなしとしてでも生きてればそれでよかった。
『遠いよなあ、憧れたものは。いつだって遠いんだ、俺たちは』
ブァレフォールが、一瞬の隙に私たちへと詰め寄る。
悪魔の掌が迫っている。斬り飛ばすのは間に合わない。
『お前のアドバイス、役に立ったよオロバス!!』
ブァレフォールの掌と、自分の間に刀を入れる。斬り飛ばす余裕はなかったが、延命措置としてはこれで充分だ。
触れる予定のもの以外に触れた場合、一度手を離さなければ次が出ない。
『ダンタリオン!!!』
私の魔力ももう殆ど残っていない。どの程度の威力が出るのかわからないが『全力で吹き飛ばせ』の意思を込めて叫ぶ。
それとほぼ同時に、目の前の地面がブァレフォール諸共吹き飛んだ。
『……お前、そんな威力の魔法出せたっけ』
『いや、出せないけど……』
唖然としたまま、私たちはおそらく、先ほどの攻撃の発射地点であろう後方を振り返る。
その視線の先には、嵐が佇んでいた。
竜巻が水を巻き上げ、天地を水の柱が貫いている。その水の柱に囲まれ、宙に佇む影が見えた。
『これ、フォカロルの……』
白い嵐、水の都を初めに襲った悲しき白鳥の力。この光景はそうとしか思えない。
巨大な鳥の鉤爪のような腕、腰から生えた一対の巨大な鳥の翼。しかし、その姿は白く美しい髪ではなく、藤色の美しい髪。その身に纏っている衣類は、水の都の神子の服だった。
人影はふわりと、海上から私たちの方へと降り立ち、私たちを見る。近くでその姿を見ると、藤色の髪には所々白い髪が混ざっていて、片方の瞳は綺麗な緑色だが、もう片方はダンタリオンと同じ、奇妙な怪しさを宿した紅い瞳になっている。
『……みんな生きてるわよね?』
『え、ああ。なんとか……イラさんも』
『よかったぁ〜…………』
そう言いながら、へにゃへにゃと嵐の主は地面にへたり込む。その声や様子はレヴィのもので間違いなかったのだが、それならばこの腕や翼はどういうことなのだろう。
『……レヴィ?』
『そう!驚かせたわよね。あ、けどフォカロルも一緒よ』
『一緒……?』
私がぽかんとしたまま首を捻ると、レヴィの口から別人の声が響く。
『貴方にも再会するとは思わなかったわ。部外者さん』
『うわっ!?なに!?どうなってんの!?』
『悪魔の"使い方"ってあるのよ。貴方も契約者なんでしょう?きっと、貴方たちならできると思うわ』
レヴィの顔で、おそらくフォカロルが微笑む。アモンにも何か、似たようなことを言われた。まあ、私もダンタリオンもその意味はわからなかったのだが。
『なんだ、それ。白い鳥?人間?なんだよ』
ブァレフォールが、驚愕の表情を顔に浮かべながら、直りかけの身体を引き摺ってレヴィを見る。
『クリジアさん。悪いのだけれど、イラのことをお願い』
『……応急処置程度しかできないかんね。私もボロボロだし』
レヴィは『ありがとう』と笑って、ブァレフォールへと視線を戻し、手をかざす。
『私たちの国から、出ていけ!!!』
レヴィは声と共に、空気を掴むように手を握り、背負い投げをするような動きをする。その動きに合わせて、暴風がブァレフォールを海へと連れ去るように吹き飛ばした。
レヴィは私たちの方を見て微笑む。
『この力は、きっと貴方の守りたいものを守ってくれる』
声はレヴィのものではなかったが、語りかけるようなその声は、どこか安心する優しい声だった。
吹き飛んだブァレフォールは、海の一部を変化させ、陸地をつくっている様子だった。浮島のようになった肉塊は随分と薄気味が悪い。
フォカロルの声は、私にはどうやら口に出さなくても通じるようで、頭の中で会話ができている。
イラが今の私のこの姿を見たら、身体を乗っ取られたとかそんな風に大慌てするだろうか。それを想像するとクスリと笑えた。
あるいは、ことが落ち着いた後にクリジアさんにそんな芝居をしてみても面白いかもしれない。さっき見たあの人はなんだか浮かない顔をしていたから。
そうやって、変わらない日常を送れるように、私はこの国を守る。
『こんな時に呑気な子ね』
『自分を曲げないのが私の良いところって言われてるの、よ!!』
水の塊に、風を併せて放つ。ブァレフォールは手を前に向け、水の塊へ触れようとするが、風に腕を刻まれ、水へ触れることができずに攻撃が直撃する。
『本当に考えてること全部わかるのね?』
『貴方の中にいる状態だもの。一部になってる、と言った方がわかりやすいのかしら』
『まあ細かい部分はいいわ!貴方の魔法が凄くて、私たちが守りたいものを守れるんだから!!』
言いつつ、いつも水でやっているようなイメージで風の柱を作る。体感して初めて理解できたが、契約者の魔力量という縛りがあるが故に、初めて会った時のフォカロルは"あの程度"だったのだろう。
魔法の出力とでも言うべきだろうか、私自身の持つ大海の魔女に近いものは感じるが、それと同時に遥かに強大で暴力的な力であることがよくわかる。
こんなものを全力で振るえば、人間一人の魔力など一瞬で枯れ果ててしまう。私も大海の魔女の力で、海から魔力を借りられる体質でなければ今頃は魔力欠乏で死んでいる。
『今は遠慮なしにやらせてもらうわよ!!』
風に触れることはできない。つまり、あの怪物にとってこの力は天敵になり得る。少なくとも直接無効化されてしまうことはない。
作り出した風の柱をブァレフォールへ放つ。ブァレフォールは水を鉄塊のように変化させるが、それ諸共風が海に風穴を開けた。
『縺ゅ=縺ゅ=縺√≠縺!!』
何重もの呻き声と共に、損傷し不完全な形のままブァレフォールが叫び、海を不気味な肉塊へと変えていく。
『海そのものを変えるつもり!?レヴィ!』
『させないわよ!!』
ブァレフォールを風で地面から引き剥がし、水の散弾で削る。ズタズタに引き裂かれ、もはや元の形の面影すら残らない化物が、引き千切れそうな腕で肉塊に触れる。
『驍ェ鬲斐r縺吶k縺ェ、驍ェ鬲斐r縺吶k縺ェ!!!』
肉塊から無数の糸のような刃が伸びる。生き物のように蠢くそれは、生理的な嫌悪感を抱かせるものだった。イソギンチャクという生き物の見た目が、案外近かった気がする。
『大丈夫。落ち着いて』
『私は強い神子様、だものね!』
翼で身を包むようにしてから、一拍置いて翼を一気に広げる。吹き荒ぶ暴風が、肉塊諸共刃を切り刻み吹き飛ばす。
私に元々翼なんて生えてはいなかったのだが、不思議と身体の一部のように使えたのがなんだか愉快だった。
ブァレフォールが私へと飛びかかるように跳ね、自身の身体を変化させ巨大な鎚のようになった腕を振り下ろす。反撃の余裕はなく、ギリギリのところで避ける。
『あいつには魔力切れってないのかしら!?』
『多分、ないわね。スレヒトステに、魔力の心臓があるのだけど……』
『契約者は人間のはずでしょう!?』
『人間"だったもの達"よ』
フォカロルのイメージが、私にも流れてくる。どこかの地下、そこに巨大な肉塊のあるイメージ。脈打ちながら呻き声を上げるそれが、人間の集合体であることが理解できた瞬間、胃の中身が迫り上がってくるのを感じる。
『気分が悪くなったでしょう?監獄中の人間を一つに生きたまま固めた魔力炉……それがアレの契約者よ』
『とんでもないことをするのね……』
ブァレフォールは顔を掻き毟るようにしながら、呻き声を上げている。あれほどに感情的な素振りをしている様子は初めて見たし、その分より一層不気味だった。
『つまり、アレ自体を破壊しないといけないってことね』
ブァレフォールが一際強く顔を掻き毟り、顔の一部を引き千切る。その奥から、無数の人間の顔が覗き、その一つ一つが叫ぶ。
『返せ』
『形が欲しい』
『お前のせいだ』
『返せ返せ返せ返せ』
『形を俺たちは僕わたし返せ形オレ嫌だ人間お前がなんでだ返せこんな元に戻せなりたいんだ身体肉形お前の寄越せ許すな殺して返せ人間人間人間人間の形!』
老若男女、無数の声が絶叫した。
内容の意味はわからない。それでも、明確な憎悪と確かな悪意。そしてそれと同じくらい巨大な苦痛を感じる声だった、
『白い、鳥。寄越せ。教えろ』
ブァレフォールの形が一気に崩れ、膨張する。
もはやそれは人間のものではなく、元の形からもかけ離れた異形だった。人の群れ、というよりは塊と言うべきだろうか。膨れ上がり、溶け、崩れ、這いずり、噴き出す人の形をしたなにかが、辛うじてブァレフォールの元の姿についてた、大きな目が開いた胴体をぶら下げている。
『なに、これ……』
悪魔が天災の類に近いということは知っていた。現に目の当たりにしたし、今力を借りているフォカロルも、海に穴を開けるほどの力を持っている。
それでも、目の前のこれは"異形"だった。
『
『そうは言っても、いくらなんでもじゃないかしら……!』
声とも、音ともわからない咆哮をあげながら、私へと肉塊の触腕が振るわれる。一つ一つが大木のようなサイズのそれは、風でも、水でも簡単に往なせるものではなかった。
『こんなのが国に近づいたら大惨事なんてもんじゃないわ!!』
『大丈夫よ、レヴィ。今は空も貴方の庭なのだから』
フォカロルに言われ、ハッとした私は風を使って一気に高度を上げて飛ぶ。触腕は私を追って一直線に伸び、不気味な肉塊の全てが私を睨みつけていることがよくわかる。
速度でなら勝っている。そして、海に風穴を空けられるほどの力があるのなら、アレを一撃で吹き飛ばすことも出来るはずだ。そう考えた矢先に、頭に声が響いてくる。
『悪いけれど、私の風じゃ無理よ』
『じゃあどうすればいいのよあんなの!!』
私はほとんどヤケクソの状態で、駄々をこねる子供のように叫ぶ。あまりこういうことをした経験はない。どうしてこんな時に、昔のことを思い出すのかはわからないが、もう少しわがままが言いたかった、心のどこかでずっとそう思っていたのかもしれない。
そんな私をフォカロルはくすくすと笑う。
『笑ってる場合じゃないのよ!!』
『貴方が風よりももっと昔から一緒にいたものがあるじゃない』
『……あっ』
『忘れないで。貴方はフォカロルじゃない。白い鳥じゃない。大海の神子。そしてレヴィ・アイファズフト』
そうだ。私は大海の神子、レヴィ・アイファズフトだ。
『愛しい子。憎い貴方。これからもそれを忘れないで』
水と風を捻り併せる。
自らの手でソレを生み、それを押し固めるイメージ。海原に風穴を空け、天空を衝き穿つ槍。限界まで魔力を搾り、一度に放てる最大級のものを作り上げる。
海の持つ、最も激しい姿。
全てを奪い、砕き、沈める絶対の力。
嵐をこの手に収める想像。
『
風が全てを薙ぎ払っていく。
海が口を開き、全てを呑み込んでいく。
その槍は爆ぜることもなく、ただ海に穴を開け、激流と暴風が全てを底へ底へと導いていく。
私はブァレフォールが巻き込まれ、呑み込まれて行く姿を見届け、意識を手放した。
私は今、レヴィの中にいる。
意識を失った彼女の身体が海に沈まないよう、微かに残った魔力で身体を浮かす。
『頑張り屋さんすぎるのね。この子は』
異形を乗せ流れ着いた船さえも呑み干した大渦は、まるで何事も無かったかのように口を閉ざし、静かな波が立つ水面には日が沈み顔を出し始めた星々が映っていた。
フォカロルは未だにこの国は憎いという。けれど、望まずとも私と混ざってしまったのだ。本当に運がない。
そう、運がなかったのだ。私たちの不幸はそれだけだった。
『……似ているのかもね。"私たち"は』
意識はあるが、レヴィの肉体は動かない。あれだけの魔力の補充と放出を繰り返しながら戦い続けていればそれは当然だろう。
微かに明るさを残す星空が私たちを労うように、あるいは嘲笑うようにして輝いている。
『ねえ、レヴィ……』
海面が波立つ。
『あ"、あ"が、え"ぁ蠖「繧偵h縺薙○』
ボロボロの、古布のようになった異形が顔を出す。人の手の形を辛うじて成した一部が、鳥類の鉤爪のようになった腕に触れる。
『ありがとう。私を信じてくれて』
『あ、ああ、あ。が、縺ェ繧薙〒……』
私の、フォカロルの腕がブァレフォールを掴む。
レヴィを風に乗せ、あの銀の髪の子がいるであろう、彼女の国の上に戻す。きっと、これで大丈夫だ。
『ごめんね。貴方の考えてた悪戯は一緒にできないみたい』
届かない声を、微笑みと一緒に溢す。
捕らえたブァレフォールは、形自体の修復は進んでいるが、魔法を発動できず私の手から脱しようと踠いている。
私から離れなければ、レヴィに触れられなかったこいつは魔法が使えない。あの小さな双子の悪魔が、ブァレフォールの魔法については教えてくれていた。
『私ももう、魔法なんて使えるほどあの子に余裕がないの』
ブァレフォールを捕らえたまま、私は海へ潜る。
『ごめんね、レヴィ。私のこと忘れてね』
星の微かな光はすぐに届かなくなり、すぐに視界が闇へと変わっていく。
水の重さで身体が潰れ、潰れたそばから直っていく。
『ごめんね、フォカロル。最期まで私のわがままに付き合わせて』
ブァレフォールも同じように潰れ、直りを数回繰り返すが、すぐに顔が崩れ、霧散し始める。
悪魔が死ぬ時は形すら残らない。
崩れて、どこに何も残すことなく消えていく。呪いの最後などそんなものだと"彼"は言っていた。
『な………んで……だ………』
『そうねえ……』
私の身体も、ついに直ることなく崩れ始める。恐怖は不思議となかった。
馬鹿なことをした。愚かな真似をしている。そんなことはわかっている。
──君は間違えたと思っている?メア
そうは思わない。私が、そうすると選んだのだから。
『愛してしまったのよ』
ボロボロと、ブァレフォールの身体が崩れ、深海の闇へ溶けて行く。
ブァレフォールは『ああ』と呟き、私の手から霧散して抜け落ちる。微かに残ったその顔は、笑っていた。
『は、はは…は、
その日、二つの呪いが海に溶けて消えた。
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