第12話 エメリナ姫の〝幸せ〟とは

 翻訳アプリによる、エメリナ姫の手紙の読み上げが終わり、猫メイド・アビィが心の底から微妙な表情をしつつ口を開いた。


「えーと。……なんか〝存在しない行間〟に気を取られまくって、全く内容が頭に入ってこニャかったんですケド……つまり、どういうことですニャ……?」


「フム。……要するにエメリナ姫は、昨晩の珍事ちんじの果てに思い余った結果、玉砕覚悟の単身で魔王城へ乗り込んでいった、とのコトだ」


「あぁ……ニャるほど……この感じで、良く内容が頭に入ったニャンね?」


「いやまあ、ロジカルでない部分は、良く分からないからスルーしていたし。要点だけを理解したほうが、ロジカルに話が早いゆえに」


「はぁ、ニャるほど……まあルークさまにとって、この行間を理解することが重要と思うンですけどニャ。さて。……すうぅ~~~~……」


 呆れ顔をしていたアビィが、なぜか大きく深呼吸して――直後。


「たっ、たたっ……大変ニャア~~~~!!? エメリナ姫様が一人で魔王城にって、そんニャの死んじゃいますニャア!? つーか何しとんのニャあのアホ姫! 下手したら亡国の危機ニャぞ痴情ちじょうのもつれで!」


「フーム、大変であるな。まあ救出に向かうのは当然だろうし、すぐ準備しよう。アビィ氏、騎士団やら国軍やらの手配は可能か?」


「そら出来ますけどニャ! つーか冷静すぎニャろ当事者のクセに! ……ていうか、うーん、あのニャア……」


 慌てふためいていたアビィが、何やらジト目を向けつつ問いかけてくる。


「ルークさま、アンタ……姫様が自分を慕ってるのも知ってて、そんな人が命の危機ニャのに……何でそんな落ち着いてられますニャ? エメリナ姫様に対して、全然これっぽっちも、気持ちとか無いんですニャ?」


「フム? ……フッ、愚問だな」


「あーハイハイ、愚問ですニャんねー。ホンマ朴念仁ですニャ――」



「そんなもの、に決まっているだろう」



「――――――ニャッ?」


 質問に答えさせておいて、なぜか面食らっている猫メイド・アビィに、私の方こそ首を傾げながら言葉を続ける。


「? いや、当然だろう……エメリナ姫は我が愛する妻と見目も同じ、どころか並行世界の同一人物なのだ。そんな彼女に、何の気持ちも無いなど、それこそ有り得ない。初めて遭遇した瞬間から、気持ちはある。でなければ貴重なエネルギーを使い切ってまで、助けることなどしない。ロジカルに考えて」


「……ニャ、ニャ……?」


「だが、何度も言っているように――私は別の世界の人間であり、この世界からすれば門外漢だ。いずれこの世界から去る私が、愛する妻と並行世界の同一人物だからとて……いや、並行世界の同一人物だからこそ、想いには応えられない。エメリナ姫には……この世界で、きちんと、幸せになって欲しいのだ」


「ニャ。…………」


「というのが、私の考えなのだが……フム? どうした、アビィ氏――」


 何やら呆然としていたアビィに、声をかけようとする、と。



「そっ、そっ―――そーゆーことは本人にちゃんと言えニャアアアーーー!!」



「フム? ……いや昨晩、ロジカルに伝えたつもりだが……」


「言葉ッらずなんニャよ圧倒的にッ! 誰も彼もが少ねーコトバで何でもかんでも理解できると思ってんじゃニャーぞ!? ああもーっさっさと行きますニャンよ!? だったらだったで、はよ姫様お助けせニャならんニャー!!」


「ウーム、私も最初から助けに行くつもりなのだが。……ああ、それならそれで。アビィ氏、足の速い先行隊を組んで、そこに私を組み込んでほしい」


「え、はあ……そりゃわたしも、そうするつもりニャけど――」


「フム。……それで、準備の間に、城の中の優秀な魔法使いに頼んでだな……ヒソヒソ」


「ニャ? ニャニャッ?」


 怪訝な表情で猫耳をピクピクさせるアビィに、耳打ちしてから――私はちょっとした開発をしつつ、改めて準備に移るのだった。

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