第6話 〝魔法〟を〝科学〟で進化せよ
この城塞都市を囲うように覆う壁は、高く厚い――魔物の侵入を防ぐためであることが、分かりやすく伝わってくるほどに。
が、猫メイド・アビィが伝えてきた〝魔王軍の最高戦力〟とやらは、そんな人間側の努力を
「あ、ああ……〝雷龍〟が……まさか〝雷龍〟が来るなんて……」
「も、もう終わりだ……どうしようもねぇ……」
「に、逃げるしか……えっ、〝雷龍〟だけでなく、都市の外も魔物に囲まれて逃げられない? フフッ、敵多すぎて終わったわ★」
(フム、何やら民衆は絶望している模様。大変であるな)
同情はするが、早々にロジカルを投げ捨てて諦める姿は、受け入れがたい。
が、〝雷龍〟とやらの
防衛のための城壁もあっさりと飛び越され、今まさに危難に直面する国に――その最高支配権を持つエメリナ姫とて、
「そ、そんな……まさか〝雷龍〟が、本当に魔王に
「フム。……エメリナ姫、つかぬコトを尋ねるが……あの雷龍とかいうのだけでなく、空を飛ぶ魔物などは存在するのでは? であれば対空の手段もあると推察するが、にも関わらず、それほど危機感を抱くのは
「は、はい、仰る通り……むしろ空から襲い来る魔物など、〝魔法〟の前では格好の獲物……のはずなのです、が。その……対空に無敵を誇る〝魔法〟というのが」
何か問題あるのだろう、
「〝
「フム。なるほど、雷龍……には、効果が薄そうであるな。ロジカルだ。が、それならそれで、地上から効果のある魔法を放っては?」
「っ。そ、それは……どれほど威力を高めても、着弾までには大いに威力が
「フム。……なるほど、ならば……」
エメリナ姫から概要を聞き、条件を揃え――私が天才的頭脳をフル回転させている、その間に。
魔王軍の最高戦力たる〝雷龍〟が、その大口から牙を剥きだし、
『オオオ……愚かなる人間共よ……その最たる存在、無意味な抵抗を続けるマジカリア国の姫よ……魔王軍の幹部を葬った報い、今こそ与えてくれよう……!』
「………へっ!? 幹部……? そ、そのような覚えはありませんが!?」
『
「そ、それはっ! ……え、そんなこと、ありましたっけ……?」
『おのれ、あくまでもしらばっくれるか――! 奴は、奴は魔王様の……遠縁の親戚の子息として魔王軍に入り、特に実力は高くないが魔王様の血縁ということで幹部となり、それを鼻にかけて威張り散らし、魔王軍では引くほど嫌われていたが……!』
「良く存じませんが、むしろ葬られて良かったのでは?」
『されど魔王軍の最高戦力たる我にしてみれば、責任問題――
「そ、そうなのですか。大変ですね」
エメリナ姫は同情しているようだが、〝雷龍〟がそれで治まるはずもなく。
凶悪な牙を剥きだしに、
『これは、魔王軍を束ねる我の――いわば中間管理職の怒りと知れ――!!
そして高待遇なら安定した収入を得られそうだなとホイホイ魔王軍に勧誘され、契約により従属せざるを得なくなった事への八つ当たりと知れ―――!!』
「な、なんと身勝手なっ……ならばわたくしとて、この国の最高責任者! その責務を背負う者として、決して
『な、なにィッ!? 最高責任者、つまり企業のトップ……クッ、この雷龍の
(なんかブラック企業と経営者のぶつかり合いみたいな、俗っぽい感じになってきたな。まあ魔王軍はもちろん、こちらの国もロジカルに怪しく感じるが)
なんだかな、と私が考えつつ――されど〝雷龍〟の圧倒的な破壊力は、冗談では済まない。何せ飛翔しながら、国の至る所へ雷を落とせる、生ける天災の如き威容。
「あ、ああっ……国が、民がっ……わたくしは、どうすればっ……っ、ど、どうにか一撃、最大の魔力を籠めて、〝雷龍〟に一矢報いて……!」
不退転の意志を見せれど、どうしようもない現状に、焦燥するエメリナ姫へと――私は、冷静に告げる。
「エメリナ姫。……一撃で落とせる相手でないコトは、
「なっ……ルーク様、そんなっ……では、諦めろと言うのですか――!?」
「諦める? ……フッ、ハハハッ……そのような言葉、科学者たる私は知らぬな! 成功とは無数の困難の上にあるモノ――失敗すら、諦める理由にはなるまいて! そも、これほどの条件が揃えば、あの程度は困難にすら成り得ぬ!」
「!? る……ルーク様……?」
一歩、前に進み出て。
私は、私にとって最高の戦闘服を―――白衣を羽織り、そして。
ロジカルを加速させる、眼鏡を装着しながら、叫ぶ―――!
「今、〝魔法〟を〝科学〟で進化させ―――
新たなる可能性を、見せてくれる―――!」
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