第5話 猫耳メイドはツッコミキャラ(重要)

「魔王というのは、今まさに魔物の軍勢を操り、このマジカリア国に侵攻してきている、邪悪な存在です」


 城内の広い部屋、作戦司令室と思しき場所で、エメリナ姫から説明を受ける。


 しかし壁に貼り付けられた大きな地図を見て、私は少しばかり面食らっていた。


「フム。……地図のど真ん中の大きな国土が、マジカリア国だろうか。立派だな」


「は、はいっ! うふふ、ありがとうございますっ♪」


「で……左側、ハッキリ言って真隣まとなりにドンと居座っているのが、魔王の領土と」


「は、はい……長年、近隣きんりんで魔物を暴れまわらせたり、侵攻してきたり、嫌がらせの如き工作を仕掛けてきたり……まさに目の上のたんこぶです……」


「なるほど。……大変であるな」


「はぃ……城の信頼できる側近からは、〝クソみてぇな環境ニャ。とっとと引っ越すべきニャ〟と言われるほどです……」


「側近殿もなかなか尖った性質のご様子。しかし、なるほど……いくら何でも科学的な文化の発展が遅く見えたが、そういう事情があったのか。武力的な対応に追われ、そうなれば頼みとなるのは〝魔法〟……〝魔法〟の力が発展するコトはあれど、例えば内政などはおろそかになりがちに……ウウム、ロジカルではある……」


 フム、と顎に手を添えて考えつつ、私は更に問うた。


「ならば、この国の王などは、どう対応している? 目下の脅威が魔王ならば、排除など考えるのは当然だろうと推察するが」


「! お父様……国王は既に、引退しております……再起不能の、傷を負い」


「フム。……それは、魔王軍との戦いで……?」


「いえ、ギックリ腰です」


「そうであるか。まあでも、ロジカルだな」


 まあ原因がどうあれ再起不能なのは確かだし、ロジカルなら良し、と私は納得した。

 それはともかく、とエメリナ姫に、必要事項を更に尋ねる。


「ならば今現在、この国の最高支配権を有する者は、誰だろう? 対応となるかは分からぬが、相談したいコトが――」


「まあ、うふふっ、それなら目の前におりますわ―――この国の第一王女たるわたくしが、今は諸々もろもろを取り仕切らせて頂いておりますっ! 今はゴタゴタしておりますが、事が落ち着いたならば、わたくしが女王となる予定ですわ」


「フム。この国、大丈夫だろうか?」


「あらっ、そんな……心配してくださるなんて、ルーク様ご自身も無自覚であろう深い愛を感じてしまいますわっ♡」


「何だかロジカルでない発言は聞かなかったコトにするが……では一国の長たる姫に頼むが。この国で最も強力、あるいは優秀な魔法使いを呼んで欲しい」


「まあ、うふふっ、それにも及びませんわ――このわたくしエメリナ、マジカリア国でも歴代最高位の魔力をゆうするともくされ、あらゆる属性の〝魔法〟を使いこなす魔法使いですのよっ!」


「フム。……初見しょけんからして何やら妙な骨に襲われ窮地きゅうちひんし、非ロジカルな発言が目立ち、〝くっ、殺せ〟などと口癖のように発言する人物が、未来の女王で国一番の魔法使いというのは……この国、大丈夫だろうか?」


「あらっ、そんな……細かく心配してくださるなんて、わたくし幸せ者ですわっ♡」


(一言だと伝わらなかったので詳細に理由を補足してみたが、結局どうも伝わらなかった模様。ままならないものだな、全く)


 まあこれも文化の違いなのかな、と割り切ることにして、私は改めて、エメリナ姫に質問を重ねた。


「では、お聞きするが……ここまで、色々と〝魔法〟や、それに伴う文化を拝見させて頂いたが。……その先の研究は、どうなっているのだろう? そも、なぜ〝魔法〟を単発で終わらせるのだ?」


「へ? 単発? ええと、連射はできますが……あっ、研究も、進めておりますよっ。今は学者がこぞって、闇より無限の魔力を抽出する、という――」


「いや、連射とか、力を単純に大きくする、という話ではなく。……フム、なるほど。そも、知らない……いや、そういう発想が無い、ということか」


〝魔法〟を利用し、文化をつちかってきた、というのであれば――単純な力の大小を基とし、そこを拡大するのは普通かもしれない。考え方の一つ一つをとっても。


 されど科学者たる私にしてみれば、少し違う――別世界の者とて、いや別世界の者だからこそ、可能性を広げられるはずだ。


 私が提案を口にしようとした、その直前。



「――――大変ですニャ、姫様っ!」



 なかなか個性の尖った口調と、猫耳と尻尾をつけた、堂に入ったコスプレメイドが部屋に飛び込んできた。


 が、その黒髪の猫耳メイドがコスプレではないことを、エメリナ姫が補足してくる。


「あら、アビィったら、御客人の前で大声なんてはしたない。ルーク様、こちらはわたくしのメイドにして側近、猫獣人のアビィといいます」


「猫獣人。……フム、そうか、この異世界であれば、そういうコトもあるか……彼女が先ほど言っていた、信頼できる側近だろうか?」


「はいっ、御明察ごめいさつですわ、ルーク様っ♪」


「明察というか、語尾で。フム、しかし初めて会った気がしない、というか……どことなく似ている。私が元いた世界で飼っていた黒猫に……」


「あらっ、まさかアビィも、別世界の同一人物であったり?」


「フム、有り得ないとも言い切れないが、どうかな。ちなみにマシンの誤作動は、その黒猫がボタンを踏んづけて起こったのだが」


「うふふっ、猫ちゃんアルアルですわねっ♪」



「―――いやナニ和やかに談笑しとんニャーーー!! 初手、大変だっつったニャろが! 少しは深刻に捉えろニャ!! 良く聞けニャおめーら!」


 憤慨をそのまま取りつくろいもせず口にしてくる、本当に侍従メイドか疑わしくなってきたアビィが、そのまま告げてきた喫緊きっきんの事件とは。



「魔王軍の最高戦力が、この国に侵攻してきたんですニャーーー!!」



 この国の危機を、簡潔に示す叫びだった―――ロジカルに分かりやすくて助かる。


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