第4話 元の世界への帰り方

 荘厳な王城の、巨大な城門を抜けて――私の乗ってきたマシンは、広い中庭のど真ん中に安置された。


「フム……エメリナ姫、心尽くし、痛み入る。森の中に放置するコトにならず、しかもここでなら、落ち着いて調整もできるはずだ」


「いいえ、ルーク様はわたくしの命の恩人、この程度は王女として当然ですっ。それにルーク様は、わたくしを助けたせいで、が尽きて、帰れなくなってしまったのですから……このわたくしが責任を取り、終身お世話させて頂く覚悟です!」


「フム、心遣いはありがたいが、エネルギーが確保できれば帰還の目途めどは立つので不要だ」


「まあまあ、まあまあまあまあ、そうお急ぎにならず、ゆっくりとする方針でよろしいではありませんか♡」


「いや、早く妻に会いたいので断る」


「チッ!」


 高貴なる姫が舌打ちした気はするが、文化が違うのでそういうジョークなのかもしれない。と、私はれかけた話を本題へと戻した。


「で、エメリナ姫………ガソリンなどご存知だろうか?」


「がそりん。……うーん、そうですね、国中を調べれば……何人かはかと思いますが」


「いや人名ではなく。フム、まあこれは予測の範疇、文化形態も違うからな……ではモノさえあれば、マシン内の設備だけでも加工できるゆえ、油田など……それが通じれば、話も早いのだが」


「ゆでん………も、申し訳ございません。とんと、聞いたこともなく……お城の学者に聞けば、何か分かるやもしれませんが。……あっ、厨房にオリーブオイルならありますが、いかがでしょう?」


「食用はダメなんで、原油ください」


「げんゆ……う、うう~ん……い、一応、調べてみますねっ」


 そうは言ってくれるものの、エメリナ姫が全くピンときていないのは伝わってくる。とはいえ、文化形成が違うのだから仕方ない


(ウウム。考えてみれば、当然か……人間が本来、出来ないコトを可能にしたくて、研究してきたのが〝科学〟……しかし〝魔法〟というものが存在するなら、真っ先にエネルギーとして利用を考えるのはそちらだろう。石油など、たとえ目にしたコトがあったとて、何なら毒の沼くらいの認識しか無いかもしれん)


 むう、と腕組みしながら考え、私は呟いた。


「フーム……エネルギー問題、軽く解決できれば良かったが……少々厄介かもしれんな。ウウム、何か代替できるエネルギーでもあれば良いのだが……」


「えっ、そうなのですか!? ヨッシャ!! でなく、そんなっ、大変ですっ……ひとまず長期滞在の準備を整えましょう!」


〝大変〟という言葉とは裏腹に、めっちゃ笑顔なのだが、何だろう、深刻にならないよう気をつかってくれているのかな。さすが一国の王女だな。


 と、エメリナ姫がウキウキとしている気がしなくもない足取りで、中庭と城内を繋ぐ扉へ走ろうとした時――ハッ、と私は反射的に、彼女の右手を掴んだ。


「え―――ふええっ!? る、ルーク様、なにをっ……いけませんっ、こんな見晴らしの良い所でそんな、誰かが見ているやもしれませんっ! さようなら倫理観、こんにちは既成事実! 今がまさに勝負の時! くっ、殺せぇ!」


「エメリナ姫、突然ですまないが……その指輪に飾られている宝石は、一体?」


「ああ、天才というのは閃きがほとばしる御方と聞きますが、情動もまさに嵐の如し……さながらわたくしは、今まさに散らされる花でしょうか……満更でもありません。くっ、ころせぇ~ぃ……」


「エメリナ姫、何やらロジカルでないコトを呟いていないで、聞いてくれエメリナ姫。その宝石は、一体なんなのだろうか?」


「………ふえっ? ええと、この指輪のこと、でしょうか……コレは、魔法銀という、多量の魔力を含む金属ですが……」


「魔力を。……フム、フム……フーム!」


 思えば〝魔法〟――その発動要因となる〝魔力〟とは、不思議な多様性を持つものだ。


〝炎〟を発生させることが出来れば、〝水〟を出すこともでき、〝風〟さえ吹かせていた。

 あまりにも柔軟でいて、変化の性質に富んでいる。


 私に〝魔法〟は使えない――が、魔力を含んだ金属・鉱石であれば――!?



「元の世界に、帰還できるかもしれない―――

 その魔法銀に含まれる魔力を、エネルギーに変換して―――!」


「えっ。…………。ああーっしまったぁーっ! 不注意でうっかり指輪を投げ捨ててしまいました! これではルーク様が帰れません……よよよ……」


「いや、さすがに指輪の装飾ほどの大きさでは、エネルギーは全く足りないと思う」


「先に言ってくださいよそういうの! アレ国宝級に貴重なんですよ! ああーっわたくしのバカぁーっ! くっころー!」



 そもそもなぜ投げ捨ててしまったのか全くロジカルではないが、エメリナ姫は不思議な鳴き声を上げつつ、どうにか見つけたらしく戻ってきた。


 さて改めて、姫に尋ねるべきことは、だ。


「それで、エメリナ姫……その魔法銀がれる鉱脈などは、どこかに無いだろうか? 貴重という話だが、値は張るのだろうな……フーム、こちらの世界の技術提供などで、どうにか手を打って――」


「えっ。……う、うう~ん、鉱脈、あるにはあるのですが……その」


 少しだけ言いにくそうにして、エメリナ姫が、口走ったのは。


「今まさに、この国に侵攻を仕掛けてきている……魔王の城の、地下深くにありまして……」


「フム。……なるほど、ロジカルに考えれば、つまり」


 簡潔に思考を走らせ、私が出した結論は。



「結論―――魔王とやらを倒さねば、魔法銀は手に入らない、と」


「そ。……そういうことに、なりますね……」



 なるほど、と私は冷静に頷き、一方エメリナ姫はどんよりと暗い表情をしていた。

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