郷愁愛戦士

中川葉子

哀しみの果て

 青年の脳はドス黒い闇に包まれた。粘度の高い激昂は長期間にわたり青年の脳を心を苛む。

 事の始まりは青年の村を無碍に扱う王国騎士達の蛮行であった。村民を取るに足らない塵芥の様に扱い、嗤っていた。

 村民の顔には物心がつく以前から希望は消え去り、強大な自然現象を目前にした際より、王国騎士が村に現れた際の方が、絶望的であった。

 青年の親友が王国騎士の“遊び”によって命を落とした際、青年は我を失い、負の感情に全てを奪われ、思考能力が低下した。

 青年が思考できるのは唯一つ。破壊することのみ。村長の家の地下に隠してあった全身鎧を着用し、木こりで使う斧を持ち青年は翔けた。

 王国騎士の鎧を木こりと狩猟を以って得た膂力を使い断ち切る。恐怖の対象は狩りの対象に成り変わった。

 青年の村を担当している騎士達を屠った後、全身に浴びた返り血を気にもせず、王国に向かい守衛を破壊する。

 壊れた青年はその後、幾度となく王国を襲撃し、圧政に不満を持っていた国民をも仲間にし、王国建立時最大の謀反を成し遂げる。

 国民は青年を英雄と崇めたが、ドス黒い感情は全ての破壊を願った。

 一撃。一撃。一撃。一撃。一撃。一撃。一撃。一撃。

 騎士よりも脆弱で鍛錬を積んでいない国民は全て一瞬で破壊し終えた。

 血がこびりつき、固まってしまった毛髪をたなびかせ、青年は凱旋をする。

 だが、壊れてしまった脳は、守るべき村人を破壊対象として見てしまう。

 食べ物をくれた大人。可愛がっていた幼子。元気出せよと毎日言っていたおじさん。何かあると抱きしめてくれたおばさん。

 みな、一瞬で地面に倒れ動かなくなった。

 最愛の人を手にかける際、最愛の人は悲しげな笑顔を浮かべ、青年を抱きしめ頬に口付けをした。優しく、希望の詰まった、悲しげな口付けを。

 青年は一度立ち止まり、困惑し、最愛を貫いた。

 そこから青年は自宅に戻り、数日間苦しむ様な声をあげ続け、正気に戻った。

 青年は家を出て驚いたのだ。全く人がいないことに。少ない村民が恐怖の目で自分を見ることに。あの頃の王国騎士を見る目で。

 だが、村長は青年に優しくこう言った。


「お前は高熱が出てな。寝ておった。その時王国騎士どもが村に来て、私達の言動に腹を立て皆殺しにしたんじゃよ。

 その後、王国に大軍が押し寄せ、国は滅びた。お前は何も病むことはなくなった。また木こりや狩りをして生きていこう。

 動物の血がついているぞ。川で洗ってきなさい」


 と。

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郷愁愛戦士 中川葉子 @tyusensiva

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